2021/01/14 のログ
■雨見風菜 > 引き続き彼女の葛藤はわからない。
わからないので答えをひねり出すのに時間がかかる彼女を微笑ましく眺めるだけ。
そうして、差し出された紙には。
「豆専門、カウンターと棚、カップ沢山、ナイスシルバー……?」
最初の豆専門についてはあまりにも不明瞭だ。
豆といえば大豆や小豆、ナッツ類にコーヒー豆。
その他にも小さな物という意味もある。
何なら下の……いや、これは全く関係はあるまい。
カウンターと棚、そして沢山のカップはそういう内装と商品なのだろうか。
ナイスシルバー、これは初老男性の店員がいるということだろう。
思い当たる店舗は二件。
「んー……この豆専門って、ミニチュアのこと、でしょうか?
心当たりのうちのひとつなんですが」
彼女の風体からこちらかな、と思って提案した問い。
もう一店舗、コーヒー豆専門店が彼女の求める情報であるとも知らずに。
■Φ(ファイ) > 暫く葛藤した後、ようやく別の問題に気が付き考えこむ。
「ぅ」
ぼーっとした後わからないと首を振る。
そもそも店の名前も知らない。
近くの席で話していた会話を横から聞いただけなのだから。
首をかしげる姿を見て、これは色々むりげーなのでは?と絶望を深くするも
続く言葉に少しだけ期待の灯が胸にともる。
「知らない」
自分一人なら間違いなく一発勝負になる。
入ってみて違う店でしたー!とでもなれば間違いなく
まるで最初からお目当てのお店でしたよみたいな顔をしてお店で注文した後
何事もなかったかのような顔で過ごし店の外に出て二つくらい角を曲がった所で頽れる事だろう。
そうなる自分が安易に想像できる。
なんて見栄っ張りな私達!えぃめん。
とはいえ今の状況なら少なくともそれを回避できる。かもしれない。
幸いにも健康志向さん(以下Kさんと暫定的に呼称する)は心当たりがある様子。
健康志向だからだろうか。それなりに美人さんなのでどこかで関わる事があったのかもしれない。
こうして話しかけてくる辺りきっとコミュ力お化けというやつに違いない。
もし、もしうまくいけば……
トミー君を鞄に仕舞い、小さく深呼吸をする。
「行く」
腹をくくったならもう頼るしかない。
視線に行こうという意図を込めて一瞬だけ見上げた後、Kさんのパーカーの裾をキュッと握る。
■雨見風菜 > 「わかりました、それじゃあ行きましょうか」
パーカーの裾を握られながら、彼女を促しつつまずは最初の心当たりであるミニチュア専門店へ。
場所は現在地からそう遠くなく、すぐに着いた。
店内に入れば、立ち並ぶ棚。
そこに並ぶ、ミニチュアの数々。
入口から見える範囲にはカップは見当たらないが、少し入り込んだコーナーに纏めておいてあるのだ。
そしてカウンターには、初老の男性。
「こちらで、あってます?」
間違っている。
ここにはコーヒー豆は置いていない。
店主に言えば、オーダーメイドでミニチュアのコーヒー豆袋を作ってくれるだろうが。
■Φ(ファイ) > 知らない場所だとつい無意識に視てしまいがちだけれど、
誰かが案内してくれるというだけで精神的に余裕が出来たのかもしれない。
さほど苦心せずに店の前に辿り着くと同時に視線を上げる。
目の前のお店からは愛おしいあの香りはしない。
むしろ樹脂にような香りがわずかに漂ってくる。
嗚呼、ここは外れっぽい。僅かに落胆しながら、立ち止まる事の無いKさんに付き従い扉をくぐる。
扉を開いたらそこは小人の国でした。
少し高くから覗き込むようにじっとミニチュアを見つめる。
精巧で小さな家が可愛らしい。僅かに、ほんの僅かに瞳が煌めく。
これはこれで凄くきれい。建物にはまった色ガラスや金具がキラキラしていて
魔道具を利用したようなものも淡い光を放っていてとても幻想的。
小っちゃくて綺麗な家、良いなぁ可愛いなぁ。
カウンターの向こうのナイスミドルはこちらを伺いながらも作業の手を止めていない。
あれは修理だろうか。無骨な指先が繊細に動き、些細な罅を魔法の様に消していく。
「……」
はっと我に返りふるふると首を振った。
此処のカップでコーヒーを飲むには流石の私も大きすぎる。
Kさんみたいな人にはとても似あっているお店かもしれないけれど。
■雨見風菜 > 「あら、そうでしたか」
軽く一礼し、店を後にする。
こちらの声が聞こえていたのだろうか、彼は特に何も気にせず風菜達を見送った。
「そうなると、もう一つの心当たりはコーヒー店です。
これでも違っていたら、私にはどうにもなりませんね」
そう言いながら、彼女を案内する。
この店から少し離れ、しばらく歩いて到着したコーヒー店。
扉を開ければ、コーヒー豆の香りが鼻に飛び込んでくる。
お洒落な内装に並ぶ棚は、コーヒー豆の入った袋の棚と様々なカップの棚がきっちりと区分けされている。
「こちらではどうです?」
■Φ(ファイ) > 兎を追いかけて穴に飛び込むお話の主人公はこんな気持ちだったのかもしれない。
そう思うとなんだか少しだけ落ち着けた。
このお店は覚えておこうと思う。少し奥まったところにあるけれど
……ここまでどこ通ってきたっけ?まぁいっか。
あるとわかってしまえば探すのは簡単。高い建物から探せば多分。
この探索が終わったら私、コーヒーを飲むんだぁ。
そんな夢見心地は素敵な言葉で遮られる。
「珈琲……」
次のお店はコーヒーショップ……だと……?
これは大当たりなのでは?と高まる期待は今度こそ裏切られることはなかった。
奥まった路地の先にあるそのこじんまりとしたお店は扉を開けるまでもなく
新たな出会いを予感させる。次第に香る香ばしい香りはその勝利を確信させた。
店に入ればまさにそこは桃源郷。自然と指がKさんのパーカーから離れる。
小走りに駆け寄るようにショーウィンドウに誘われるまま張り付く。
「わぁ」
ぴとっとショーウィンドウにくっつきまじまじと並べられたサンプルの珈琲豆を眺める。
嗚呼、良い色。艶々していて薫り高くて色々あるのどれを見ても飽きない。
たっぷり数十秒ほど熱心に豆を眺めた後我に返る。
……つい、夢中になってしまった。
僅かに振り返るとこちらを眺めるKさんの姿が目に入る。
「……珈琲、好き?」
囁くように小さく零してじっと気配を伺う。
Kさんにもお礼しないといけないけれど珈琲嫌いだったらどうしよう。
世間には一定数珈琲を泥水と称する不逞の輩が存在するのです。
■雨見風菜 > コーヒー店に入れば彼女の様子が変わる。
これまでずっとパーカーの裾を掴んでいたのに自分から手を離して棚を見て回る。
どうやら当たりだったようだ、熱心に豆を見ている。
こうも喜ばれると、案内したかいがあるというものだ。
「ええ、どちらかといえば好きです。
とはいえ、豆から挽くには縁がなくて」
はっきり言ってしまえば缶コーヒー派だ。
豆から挽いたコーヒーは自分で言ったように機材も飲む機会もない。
だからこういう専門店は、あまり足を踏み入れない。
ついでに、風菜は紅茶が苦手である。
飲めないことはないのだが、誘われでもしなければあまり飲みたくはない。
■Φ(ファイ) > 珈琲好きに本質的に悪い人はいない。多分。
それがたとえちょっと健康志向が凄い人でも。
そして酷く勿体ない発言……
「分かった」
無言で店の中をくるくる歩き回り、良さそうなものを見繕う。
自分で挽いた珈琲はすごく美味しいのです。ぜひ布教したくなるのが人情というものです。
いやそれ需要ないかもよとかそういう突っ込みが思いつかない辺りコミュ障ここに極まれりだけれど
本人はいたってご機嫌。
此処までの苦労がまるでなかったかのように浮足立っている。
……が、会計時にはやはり少しまごついた。
「……」
カウンターに並べて店長と無言の意思表示。
暫く見つめ合った二人は同時に視線をずらすと其々レジと財布に意識を向けた。
アイコンタクトで通じ合う(と自分では思っている)店長が少しおまけしてくれたので……
「あげる」
いくつかの豆と機材が詰まった紙袋をKさんの足元にそっと置く。
直接渡すのは荷が重いので。
■雨見風菜 > 眺めていれば、ご機嫌に買い物をしている。
会計時に少々まごついたのは、これまでの彼女のふるまいからすれば致し方ないか。
そうして、足元に紙袋。
中を見れば、コーヒー豆と……機材!?
「え、えと……機材までもらうわけには。
お高いのでは……?」
道案内の礼にしては、少々高価ではないだろうか。
とはいえ、彼女の性格を考えれば……いややっぱ高くないだろうか。
流石に二つ返事でもらえるようなものではない。
■Φ(ファイ) > 「?」
首を傾げる。
なんだか躊躇っているような印象を受ける。
何か間違えたかもしれない。
「機材無いと飲めない、よ?」
さっき機材無いって言ってたし…?
豆で食べたら流石に美味しくない。……美味しいのもあるけど。
あ、そっか、高いか安いかのお話ですかそうですか。
「……そんなに高く、無いよ?」
そう。単純な話これを使って一杯しか飲まないなら高い買い物かもしれない。
缶コーヒーそのお金で沢山買えるよ?という人もいる。
けれどこれでコーヒーを引いて飲む楽しみを知ったなら相対的に安くなっていくのです。
……という思いをたった一言に込める。伝わるはずもない。
そもそもそういうコスパの話ではない。けれど悲しいかな。
好きな事に関して語るオタクモードに入っている彼女には伝わらない。
「むしろお得」
何故か誇らしげにサムズアップまでしてみせる。
違うそうじゃない。
■雨見風菜 > 確かに機材がないと挽いて淹れる事はできない。
いやでも道案内の礼には過分ではないだろうか?
と考えていたら高くない、と更に畳み掛けられる。
あ、これはなにかスイッチ入ってるな。
「わかりました、それでは遠慮なくいただきます。
ありがとうございます」
諦めて、これらを貰うことにした。
果たして、風菜に趣味が一つ増えてしまうのはまた別の話。
「……ここまでご一緒したのもなにかの縁でしょうね。
私は雨見風菜、学園の一年生です。
あなたの、お名前は?」
■Φ(ファイ) > 「ん」
どこか満足げに頷く。
ここでまた一つ有意義な布教を成してしまった。
お礼にしては高いだろうと直接言われても多分同じようにかえしただろうけれど。
若干金銭感覚はバグっているかもしれない。
……それならタクシーを使えばもう少し幸せになれただろうに。
もっとも今本人は嬉々として自分の豆をぎゅっと抱えている。
余程嬉しかったらしい。
「ファイ」
だからだろうか。
珍しく素直に名前を返す。
ある意味衝撃的な出会いで顔を忘れそうにもないというのもあるが
やっぱり浮ついているときは若干コミュ障がましになるらしい。
「ファイだよ。一年生?だよ」
最近転入してきたばかりというのもあるけれど
まともに自己紹介らしきものをしたのは今日が初めてかもしれない。
■雨見風菜 > 金銭感覚がおかしいのはもう気にしないことにした。
自分の豆を抱えている彼女はとても愛おしい。
気にしてたらそう考える余裕もなさそうだし。
「ファイちゃん。
なるほど、あなたも学園の生徒だったんですね。
よろしくおねがいします」
満面の笑顔で。
「……そういえば、ファイちゃん。
ここから帰れます?なんでしたら、帰り道もわかるところまで案内しましょうか?」
商店街で散々迷っていた以上、今までの道を見失ってる可能性もあるだろう。
だから、帰路の道案内も申し出てみる。
■Φ(ファイ) > 凄く良い笑顔になっている。
こうしてみるとやっぱり美人さんだなぁと思う。
同じ生徒さんみたいで良かったかもしれない。
……この世間に出てそんなに時間が経ってないからわからないだけで
もしかしたらこんな感じの隅の人は普通なのかもしれないし。先入観だったなぁと反省。
「ん」
こんな感じの人ばっかりだったら怖いのも少しはましになるのになぁ。
独り暮らしになるのだからこの辺りの地形も含めて覚えたりなれたりして行かないといけない。
「……」
そう、商店街である位しか今のところでは分かっていない。
間違いなく、そう間違いなく今の知識量では家には帰れない。
となれば……
「オネガイシマス」
たっぷり数秒固まった後どこか達観したような声色で出された回答は
それはもう予想通りで……
結局また見知った大通りに出るまでパーカーの裾をくしゃくしゃにすることになりそうだ。
■雨見風菜 > こちらの申し出に、数秒固まるファイ。
出てきた答えは、予想通り。
「ええ、お安い御用です」
機材までもらってしまったのだから。
とはいえそこまでは口に出さず、彼女のわかる道まで案内をするのであった。
ご案内:「商店街」から雨見風菜さんが去りました。
■Φ(ファイ) > 結局家の近くまで送ってもらうことに。
相変わらずマイペースに、ほとんど喋る事も無いままに
ただ静かに同じ時間を共有しながら歩く奇妙な行軍。
幸いにも職質に捕まることもなく家にまで帰る事が出来た。
ずっと迷っていたこともあって無駄に広い家に帰りついた時にはぐったりと疲れ果て……
けれどいつもガランと広く感じるその場所も今日は気にならない。
いつもは眠るまで時間がかかるけれど、身を清め人形だらけの布団に潜り込んだころには
もう半分眠りかけ。
「それでね、それでね、それであった人がね……」
内心また出会えるかななんてどこかで期待しながら
その日の出来事を半分ほど抱き枕に語った頃には睡魔に連れ去られていて……
「いいひ、だったよ」
そのまますやすやと久しぶりに穏やかな眠りにつく。
次の日の目覚ましをセットしていない事に気が付いたのが次の日の昼だったことはまた別のお話。
ご案内:「商店街」からΦ(ファイ)さんが去りました。