2019/03/08 のログ
■金剛経太郎 > (心根が清いっていうのは、まあ分かるんだけどな……)
手を握られ、にこにこと笑いながらも経太郎は冷静に玖美のひととなりを観察する。
悪い人間ではない。むしろ善性が強過ぎるほど。
しかしあまりにも抜けが多い為か、危なっかしさに目が行き過ぎる。
(目が行くと言えば……この胸もか。)
横目に見てもその大きさは解るほど。
果たして本物だろうか、という疑問が沸くがそれは今は抑えて。
「違うお店みたい……似てるお店がいっぱいだね。」
ひとまず今しばらくこの少女に任せてみて様子を見よう、という結論に至って小さく息を吐く。
■玖美・E・A > 「似てるように見えても違ったり、同じお店でも違う角度から見たら違って見えたり……うーん、ますます迷いそう……」
というよりも実際問題とっくに迷っているわけだが、それはそれとして。とにかくまっすぐ進めばどこかには出るだろう、くらいの見積もりでずんずん先に進んでいる。それでもまだ、古本屋の並びは途切れる気配もなく、
「これ全部本屋さんだっていうんだからすごいよねー……ね、きょうたろう君は本読むの好きー?」
周囲に視線を配るのは忘れないまま、しかしその目の色はどちらかというとテーマパークに来た子供のような輝きを帯び始めていた。
■金剛経太郎 > 「だ、大丈夫?玖美お姉さん……
……え?僕?本は、……マンガとかなら、少し。」
進んでも進んでも古本屋。
もうここから先は海まで古本屋が並んでいるのではと思うほどの並びは圧巻としか言いようがない。
なるほど本の虫にとっては楽園にも見えるだろう。事実隣を歩く玖美は自分が迷子である事を忘れそうである。
「お姉さんは、ご本読むの好きなの?」
このまま古本屋群に囚われてしまうのではないか。
そんな考えを頭から追い出すように首を振りながら、玖美を見上げてたずねる。
■玖美・E・A > 「漫画かぁ、私も漫画は大好きだよー。他の……ええっと、普通の本も良く読むかな。あれとか、これとか……」
と、微妙にごまかしたのはタイトルを思い出せないからである。『つい最近読んだ』という記憶は確かにあるのだが。
……と、その時、不意に一軒の古本屋を目に留めると、その表にあったワゴンから一冊の本を手に取った。
「……あっ、漫画ならこれなんかどう?買ってあげようかー?」
その表紙には『爆走!トロリーランド』と描いてある。どうやら小学生向けくらいのギャグ漫画のようで、トロリー、すなわちトロッコに乗ったトロリと溶けかかったネズミのキャラクターがものすごい形相で『やぁ!ぼくはトロリーマウス!』と挨拶?していた。
■金剛経太郎 > 「へえ、玖美お姉さんもマンガ、好きなんだ!
マンガじゃない本も読むんだね……大人だな~。」
本のタイトルが思い出せないのは、まあ想定の範囲内というか、想定のど真ん中だった。
とはいえそれを指摘するのも可愛げが無かろう、とぐっと堪えて。
「あれ、お姉さんどうしたの……
えっ、これを僕……に?」
玖美が手に取った本の表紙を見て、思わず何とも言えない表情になる。
確かに見た目は小学生で、今は小学生のフリをしている。
だが感性自体は18歳、玖美よりも上なのだ。小学生用のマンガを面白がれるはずもない。というか大丈夫なのかそのキャラデザイン。
が、玖美の親切心を蔑ろにも出来ず。少しの間悩んで
「え、えっと……大丈夫!そこまでしてもらわなくても、平気だよ。
でもお姉さんの気持ちすっごい嬉しい。ありがとうっ!」
ええいままよ、と無邪気(に見えるよう)に玖美へと抱き着いて喜びを表現。
■玖美・E・A > 「あっ……そ、そう……?ええっと……」
急に抱きつかれて、天然に定評のある?玖美もさすがに少し面食らってしまった。しかし、きっと彼も不安だったんだろう、それを察してあげられなくて申し訳ない……と勝手に結論付けると、手に持っていた漫画は元のワゴンに戻して、
「えへへ……よしよし、きょうたろう君はいい子だね……」
と、思い切り大人目線の言葉をかけながら、彼の体を抱きしめ返し、頭を撫でる。そうするともちろん胸の膨らみを押し当てる形になるのだけど、そんなことにいちいち構うわけもなく。
■金剛経太郎 > (しまった、さすがに何をしてるんだ俺はっ……!)
抱き着いてから我に返る。幾ら小学生のフリとはいえ、これはやり過ぎだろう、と冷や汗が背筋を伝う。
玖美が面食らったことが、僅かな体の強張りからも伝わり、これは一刻も早く離れた方が、と考えたところで。
「わっ……ぷ。く、玖美お姉さん……?」
離れるよりも一手早く、玖美の腕が経太郎の身体を抱き締め返す。
今度は経太郎が面食らい、戸惑っているうちに頭まで撫でられて。
(お、おいおいマジか……くっ、ツイてるのかツイてないのか……。
まあいい、俺は小学生俺は小学生俺は小学生……つか、何だこれ柔らけえ……。)
思わぬ包容力に前後不覚に陥り、どうしたものか分からず幼子が甘えるように玖美へと頭を擦り付ける。
「えへへ……玖美お姉さんあったかぁい……」
■玖美・E・A > 「よしよーし、いいこいいこ……」
相手が嫌がっていないことは、感覚ですぐにわかった。しかしわかったのはそこまでで、あとはとにかく『不安がっている子供を落ち着かせよう』という目的に従って、強く抱きしめ、優しく頭を撫でる…ということを繰り返していた。いくらなんでも往来でやりすぎではないか、と思わないでもなかったのだけど、それが幼い子供を勇気づけることより優先されるわけもなく……
「……あれ?あそこ、あの公園じゃないかな……?」
しかし、ふと視線を路地の先にやると、なにやら見覚えのある光景が目に入った。ワゴンの漫画を手に取るために少し細い道に入っていたのだけど、その先に何度か行ったことのある公園が見えたのである。
■金剛経太郎 > きっと傍から見れば仲睦まじい姉弟のようにも見えたかもしれない。
しかし、実態はといえば知らぬが仏と言う諺もある事を思い出させるような状況で。
「はわぁ……玖美お姉さぁん……」
久しく経験していなかった母性と、大きく柔らかな膨らみの感触を否応にも甘受させられ、すっかり骨抜きになっている経太郎の姿がある。
普段は斜に構え皮肉の一つも口にする様な性格が、先のトロリー某の様にとろっとろにされている。
「……どうかしたんですか、玖美お姉さん……?」
しかし、公園を見つけた玖美の呟きを聞き取れば、僅かに冷静さが返ってくる。
腕の中で顔を上げ、いぶかしげに眉を寄せた。
■玖美・E・A > 「ほら、あっち!あそこに行けば外だよ!出口出口!」
文字通り胸の中に埋まっていた経太郎に半ば無理矢理反対を向かせると、そのまま後ろからグイグイと押すように歩き始める。普段はおっとりの極みで、常にスローモーションのような動きをしているのだけど、喜びを分かち合う時は数少ない例外だった。
「あそこからなら私でも案内できると思うよー。あーよかったよかった」
心の底から安心した声に、遅蒔きながら、自分も少しだけ不安だったのかもしれないと自覚した。
■金剛経太郎 > 「出口……?」
一体何の話だ、と言いかけて何度目かの我に返り。
自分は迷子になっていて、この少女も迷子になっていて。
それで帰る方向を探して歩いていたのではないか。
「あっ……」
ぐりん、と反対を向けられ夢のような状況に強制的に別れを告げさせられれば、どんどんと冷静さは加速して。
つい先程までの自分の言動に、たちどころに耳まで赤く染まり上がった。
「あっ、えっと、その、う、うん!」
安堵した様子の声を後ろに聞きつつ、公園に向けてぐいぐい押されていく。
■玖美・E・A > 「一時はどうなることかと思ったねー……」
などと当たり障りのないようなことを言いながら、経太郎の背中を押していく途中。やっぱりさっき抱きしめていた間、彼がかなり安心していたんだろうと思い至ると、
「……私でよかったら、まただっこしてあげるからね、ふふっ」
と、内緒話のように(実際内緒話なのだけど)彼の耳元で手を添えながらささやいた。
■金剛経太郎 > 「そ、そうだね……でも、玖美お姉さんが居てくれてよかった。」
決して抱き締めて貰ったあれやそれやが良かったというわけではなく。
独りで居れば周囲の無関心や自分の不甲斐なさに悪態を吐きながら彷徨っていた事だろう。
それが防げただけでも、良かったと、経太郎は振り返って思う。
「えっ!?……あ、それは、その……うれしい、けど。それなら、」
そして耳打ちをされれば再度耳まで真っ赤に。
突然の事に何が何やら、と混乱した頭から勝手に言葉が出力されて。
「今日は、このまま、玖美お姉さんと一緒に居たいな……なんて。」
■玖美・E・A > 「……そ、そう?私、そんなに頼りがいあったかなぁ……」
もちろん、誉められれば悪い気はしない。自分でも出来るだけ頼れる大人であろうと努めていたつもりはあったのだけど、一日一緒にいたいなんて感想はさすがに想定外で、少し照れてしまう。
「じゃあ、もうちょっとだけ、一緒に歩こっか。えへへー……」
緩んだ笑みでそう言うと、経太郎の後ろから抱きつくような形になりながら、公園を目指して路地を歩いていった。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から玖美・E・Aさんが去りました。
■金剛経太郎 > (うわー、何言ってんだ俺の馬鹿野郎ッ……!)
直後、激しい自己嫌悪。
完全に普段のペースや自分で作って来たキャラが崩壊していくのをただ見ている事しか出来ない。
(このゆるふわ女もいい加減に……う。)
思いの外満更でも無さそうな玖美の表情に、毒気をすっかり抜かれ。
直後、後頭部からの圧倒的な質感にみじめに敗北して。
(まあ、今日だけだ今日だけ。……今日だけだからな!)
「わあ……えへへ、ありがとぉ、玖美おねーさんっ」
ほんわかとした雰囲気で、その日は過ごした事だろう。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から金剛経太郎さんが去りました。