2019/03/14 のログ
■金剛経太郎 > 「そうそう。食事も睡眠も排泄も考えずに10年育てた俺の分身。
なんせ生きてく為には必要不可欠だったもんでね。
歩くのも走るのも、戦う事だってこの分身が居なきゃあ満足に出来やしなかったわけだから。」
第二の肉体、そういう意味でも分身である。しかし、こうして現実の肉体を取り戻した以上、あくまでも虚構の肉体だ。
中身にあるべき精神が無い。当然だ、入っているべき精神は今経太郎の中にある。
だから異能名は虚ろな身体と言う意味で虚身、とつけた。
「どういった理屈でこの力が扱えるようになったのか、俺にも解らんね。
ただ、ゲームの中に長く居過ぎて、親和性が高まった結果、こっち側に持って来てしまったのだろう、ってのがお医者さんたちの見解だ。」
ひらひら手の平を玖弥瑞へと振って、直立不動の騎士を一瞥する。
現実の自分がこの様に屈強な体であれば、と考えなかった訳ではない。
しかし現実は見ての通りで、貧弱貧相な肉体をこれからどうにかしていくしかないのだ。
「まあ、このデカブツが自律してくれりゃそれも手なんだがね。
生憎と、俺の意思と同じ様にしか動かせないんだ。今のとこ。
今後、俺がこの異能への理解を深めたらどうなるか分からんけど。
ま、その為に最低限の体力は付けときたいってとこよ。」
くすぐったいな、と笑いながら尻尾を振り払う様に足を動かす。
動くように指示を出していないのか、出現してからこちら騎士は一度も微動だにしなかった。
■玖弥瑞 > 「ふーむ、10年の昏睡と言っても過酷なものじゃったんじゃな。
なるほど、なるほど………そいつぁ愛着も湧くというものじゃな」
少年の告白する来歴や異能の見解などについて、玖弥瑞は都度こくこくとうなずきながら、狐耳を傾ける。
「しかし、ふむ。お前さんを自動的に守ってくれるわけではないのじゃな。
そうであったなら便利じゃったろうにのー、まぁ、異能っつーのは自分のためになるものとは限らんというわけかぇ」
玖弥瑞の提案した『アバターに特訓してもらう』はどうやら無理な様子。
であれば、経太郎が体力をつけるにはオーソドックスに運動を重ねるしかないのだろう。
そこはもう彼の努力と意思の力を信じるしかない……玖弥瑞は体育教師ではないのだから。運動は苦手だし。
しかし。ここでふと気になることが出てきた。
「……お主が動かすモノなら、妾に動かせたりはしないんかの?」
などと思わせぶりな言葉を吐きながら、玖弥瑞は傍らに立ち尽くす騎士に対し『ハッキング』を試みる。
玖弥瑞の『リアルアバター』から電子の欠片を騎士に飛ばし、解析を試みる。
もしこの騎士が電子的なプログラムの類であるならば、きっと玖弥瑞でもコントロールができるはずだ。
仮にうまくいったとしても、指をちょこちょこと動かしたりする程度に留めるつもりだが。
……他人が愛着を持っているアバターに対して乗っ取りを仕掛けるなど、失礼な行為であることも承知の上。
少年の横柄な態度を一度は許した玖弥瑞、逆にこの程度の失礼は許してほしいな、と心の中で呟きながら。
■金剛経太郎 > 「過酷も過酷、異世界に転生した方がマシだったって今になって思いまさ。」
ふうやれやれ、と言わんばかりに頭を振る。
その一方で、玖弥瑞の反応から自分の事をほとんど知らないのだという確証を持つ。
もしかしたらブラフかもしれない、と考えてカマ掛けてみたりとかもしていたわけだが、本当の本当に経太郎の身上を知らない様子。
10年間オンラインゲームの世界に閉じ込められていたということを。
「確かに便利にゃ違いないが、案の定今この目の前にあるのが現実。
まあまだまだ発現したての異能なんで、これからお医者さんと一緒にあれやこれや探ってみるしかあるまいさ。」
本当に、面倒極まりないな、と経太郎は思う。
運動するのも、異能に対する認識を深めるのも。どちらも等しく面倒だ。
そう思うのは、未だ抜けきらない虚脱感の所為だろうか。
「そりゃあ、まあ……いや、どうだろう。
正直誰も試そうと思わなかったから、もしやすると、もしかするかも、だ。」
玖弥瑞がハッキングしようとしている様子をベンチに寝そべったまま見ていた経太郎だが、その眼には僅かに興味の色が浮かぶ。
しかし、玖弥瑞のハッキングは成功しなかった。
ガードが入ったりしたわけではない。対象とすらされなかったのだ。
つまり今彼女らの目の前に居る騎士は、プログラムでは無く完全に実体化している甲冑だということである。
「どうだ、先生?
先生でも動かせそう?」
興味深そうに玖弥瑞の挙動を見守る経太郎の様子からも、彼が妨害を試みたわけではない事も解るだろうか。
■玖弥瑞 > 経太郎のこれまでの経験について、教諭の立場を使えば調べようとすれば調べられただろう。
玖弥瑞の検索能力は、調べ物を生身の人間よりも迅速に行えるというだけ。
そして、せっかくこうして面と向き合っているのだから、調べるよりは当人の口から聞いてみたいものである。
彼の言いたいこと、隠したいこと、自慢したいこと、遠慮すること、そういうのを知れるのはよいことだ。
「うむうむ、10年寝て目覚めたてということは、自分の事だけじゃなく世界の事も分からぬことが多かろう。
学園の者と異能について探り、体力もつけ、勉強もする……くふふっ、大変じゃのう、お主は!
まぁせいぜいがんばることじゃな。どれもこれも、絶対お主のタメになることじゃからの」
経太郎の口ぶりはガサツだが、やけっぱちになっている様子はない。
頑張ってる者に頑張れと言うのは酷だが、それでも玖弥瑞は言う。教師として、できるかぎり応援してあげたい。
……それはそれとして、何食わぬ顔でハッキングを試みているあたり、玖弥瑞も悪い奴であるのだが。
「……む、バレとったか。妾は大抵の電子機械は己の手足のように動かす『力』があるのじゃが。
お主の異能の騎士様は、そういったのとは違ったようじゃ。ちぃとも反応がなかった。
アバターを借りてお主の運動に付き合ってやろうかと思ったんじゃがの、くふふっ♪
……いや、失礼なことをしたの。すまぬ」
つかの間神妙な面持ちになり、深く頭を下げる。少年の脚に載せていた尻尾もふわりと退けて。
「……うむ、経太郎、おもしろい話をありがとの。
お主が妾の生徒になるかどうかは知らぬが、生徒の話を聞けて大変タメになった。
妾は来年度の仕事開始の準備があるから、そろそろ学校に戻るよ。お主も気をつけて過ごせよな?」
未だ動かぬ騎士の傍らに歩み寄り、その肩にポンと手を載せながら、再び温和な笑みを向けて礼を述べる。
「あとそうじゃ。お主がゲームに囚われてたのがトラウマじゃないのなら、《蓬莱オンライン》もやってみるとええ。
妾もだいたいそこにおるぞ? つーか、住んでおる。んじゃーな、経太郎!」
玖弥瑞はきびすを返し、大きな狐尾をふわふわと振りながら、校舎のある方へと去っていく。
■金剛経太郎 > 「まあ、10年程度で様変わりするほど世界は安定してるとは思えねえ。
少なくとも俺が目を覚まして見たものは、大抵10年前と変わらなかったからな。」
精々が知らない病室に放り込まれていた、くらい。
精神をゲームに囚われた時は、確かに自室に居たのだから。それはもう軽いパニックに陥ったほどで。
「ま、色々やれるだけやってみようかとは思ってるけど。
幸い時間もいっぱいあるし、4月までは春休みと、非常に都合も良い。」
ニヤリと年端もいかないような少年が浮かべるには粗野すぎる笑みを見せて。
ゆっくりとベンチの上で身を起こすと、腕を天へと伸ばして背伸びをする。
「なあるほど、つまり電子機械じゃあなかったって事か。うちの騎士サマは。
こちらこそ、先生。
お陰で自分の異能についてひとつ分かった。礼を言おう。」
異能によって出現するアバターは電子世界のものではない、ということ。
それは、他の職も同様なのだろう。
顕現する際は電子めいていたのにな、と胸中に疑問を抱きつつ。
「うーん、実の所もうしばらくはゲームは勘弁被りたいところだな。
まぁた意識を持ってかれちゃ堪ったもんじゃない。今度は何十年閉じ込められるか、とか嫌でも考えちゃうんでね。」
知ってんじゃないか、と経太郎は少しだけ口を尖らせる。
まったく、この島の人間は腹の探り合いなんかするだけ無駄か、と諦めにも似た様子で溜息と共にベンチから立ち。
「ばいばい、玖弥瑞先生。
あんたが何の授業を担当するのかは知らないが──ま、縁があれば。」
その場を去る後ろ姿を見送ってから、経太郎も騎士を連れて公園をゆっくりと後にしたのだった。
ご案内:「常世公園」から金剛経太郎さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から玖弥瑞さんが去りました。