2019/05/01 のログ
ご案内:「常世公園」にアガサさんが現れました。
■アガサ > 黄金週間の真っただ中にある常世公園は初夏の気配を漂わせていた。
少し前までは鮮やかに咲いていた桜の木々も、今は新緑を纏い風に揺れていて、
ふと、その木々の一つにある樹洞に顔を向けると、血に塗れた誰かの顔が覗いた気がして頭を振った。
「錯覚錯覚……夏夜の幻、影法師だとも。すべての芝居が色褪せるような出来事なんかじゃない」
もう一度樹洞を視る。そこには何も無かった。
私は自分に言い聞かせるように呟いて並木道を抜けて広場へと出る。
視線を彼方此方へと巡らせると、犬の散歩をする若い家族連れの姿が視得る。
仲睦まじい男女の引くリードの先には、人体を歪に繋ぎ合わせた奇怪な怪物が──
「──……」
居ない、居る訳が無い。
リードの先に繋がれているのは白くて大きくて可愛らしいグレートピレニーズだ。
私は困ったな、と誰かに言い聞かせるように呟いて、誰かに示すように肩を竦めてからベンチに座った。
ご案内:「常世公園」にアイノさんが現れました。
■アイノ > 空中を浮くように滑るフローターボードが公園のゴツゴツした石畳を、まるでそれが何もないかのように滑る。
くん、っとその板の先端を強く踏み込めば、公園によくあるm字型のフェンスを、小柄な体がひょい、と飛び越え、フェンスをかつん、と軽く踏んで更にジャンプし、ボードの上にまた飛び乗る。
きらきらと輝く金色の髪は、2本のツインテール。
白い素肌を惜しげもなく晒すように、肩を露出させたシャツと、太腿を限界まで出したジーンズのホットパンツ。
ワイヤレスのヘッドフォンから漏れるのは、巨大な音量のロック。
新入生としてやってきた北欧の少女は、新しいボードにウキウキ。
今度は板の後方を踏めばくるくるとその場で回転して。
回転しながらベンチに一人座る、同じくらいの背格好の少女と、その隣の自動販売機に目が留まれば。
回転を弱めながらボードでしゅぃん、とその傍まで。
「がっこの生徒?」
よ、なんて片手を上げながら、割とフランクに声をかけてみよう。 ボードに乗ったまま、器用にスマホを取り出して。
■アガサ > 数日前に転移荒野に現れた不可解な館は、訪れる者を狂気で弄ぶだけの場所だった。
そして私は、たった二人だけの生還者の片割れ。
脱出後は勿論、健康診断のもっと気合の入ったような奴をやって、身体の異常が無い事はお医者さんが教えてくれた。
でもあの場所は私達の世界の理の外にあるとしか思えない場所だった。
そうだとしたら理の外が齎す物事を、どうして理の内の範囲で何も影響が無いと言い切れるのだろう。
弄ばれた私が狂気に触れていないと、どうして言い切れるのだろう。
「これ、ぜーったいそっちの病院に行ったら何か言われる奴だろう。PTSDとかなんだとか……ん?」
憤懣遣る方無し。誰がどうみてもそう思うような、少し大仰な所作で腕を振り上げた所で近くから声がした。
腕を振り上げたまま顔を向けると、鮮やかな金色の髪と、冬空のように青い瞳が目に映る。
「……あー、えっと。うん、そうだよ。なんたって此処は学園島とも呼ばれる場所だもの。
そりゃあ私くらいの年恰好の殆どは生徒だろうね。そして、そう言って訊ねる君は……その事をまだ知らない。
つまり、新入生とみた!」
その色に心が和むものを感じる。
悪い夢を、暖めたナイフがバターを切るように消し去ってくれる。
私は少し言い澱み、けれども直ぐに、いつものように少しだけ得意気にして見せることが出来た。
予想が合っているなら私の後輩。少し、偉そうにしたって良い筈さ。
■アイノ > 相手がどんな状況なのかは彼女には知る由もない。
そして公園で出会った少女相手に、そこまで慮る理由も無い。
相手が自分を見て発する言葉に、に、っと唇の端を持ち上げて笑って。
「そっかー、生徒かー。
私はついこの前来たばっかだから、先輩って奴?」
フローターボードの上に器用にしゃがみ込みながら、ふーん、と見つめて。
軽く前後に揺れながらバランスをとる辺り、よく慣れていることが伺える。
ホットパンツだからいろいろきわどいが、何にも気にする素振りも無く。
得意げにする相手に、にひ、と笑って。
「せーんぱーい、私ジュース飲みたいなー?」
後輩であることを認めて、なおかつそれを使って攻撃してきた。
白い肌を露骨に見せながら、歯を見せて笑いかけて。
■アガサ > 「んっふっふーどうやら正解のようだね。と言う訳で報酬の代わりに君の名前を教えてくれたまえよ。
私はアガサ・ナイト。学園の二年生……って遠慮がないなあ!?」
フローティングボードは結構な運動神経が無いと乗りこなせない代物だ。
なんといってもスケートボードと違って車輪が無いから安定しない。
それを雑談しながらに安定感を保つ、目の前の女の子に私は訊ねがらも下から上に、上から下にと眺めて、
次には吹き出しそうになって大声を出した。
「君、初対面の人物に催促するとは中々の大物と見たぞう……うん、でもいいよ。お近づきの印って奴。
私も少し喉が渇いたからね。オレンジでいい?」
ベンチから立ち上がり、自動販売機の前に立って硬貨を入れてオレンジのボタンを2回押す。
そして下の受け取り口を開けて──
「──」
缶ジュースが、何か別の物に視得て動きが止まる。
瞬きをすると、缶ジュースはきちんと2本。そこにあったけれど。
「……お先にどうぞ?」
視界の隅が青白く霞む気がした。
熱が引く感覚を覚える中で、私は隣の後輩を促す。
■アイノ > 「アイノ・ヴィーマ。
誰かを愛するって愛の字に簡単な方のすなわちって漢字をくっつけて愛乃って書くんだよ。 ウソだけど。
遠慮で腹は膨れないからさー? あ、オレンジでいいよ。」
ぺろ、と舌を出してウィンクを一つ。
自分のどういう所作が可愛いかを理解しているのだろう、てへ、とあざとい笑顔を見せて。
………
とはいえ、一瞬の躊躇を見逃すほどにすっとぼけたキャラでもない。
見て見ぬふりも一瞬考えた上で、こっちがボードから降りて2本のオレンジを手に取る。
ボードは、自販機に立てかけて。
「アガっさん、腰でもやってんの?」
先輩に対する口の利き方があまりになっていないけれども、少しだけ心配するように眉を潜めて、はい、と素直に手渡そう。
■アガサ > 「へえーアイノ君はそういう字を描くんだ。という事はお父さんかお母さんが日本人……って嘘かーい!あと、何その呼び方!?」
会話は精神の均衡を保つのに役立つ。
何かの本で読んだ通りだなあ、と俯瞰した思考で考える私の口からはツッコミが幾つか飛び出て跳ねて、何処かに転がっていく。
「腰なんてやってないよ。君、私を幾つだと思っているんだい?今度の五日には15歳になるレディなんだぞ?」
わざとらしいアイノ君の笑顔に渋い顔を向けてやり、さりとて差し出されたオレンジジュースの缶を受け取りベンチに戻る。
「それでアイノ君はどうしてまたこの島に?私は異能の発露が契機だけれど、差し支えなかったら教えてくれないかい?
ほら、こうやって出会ったのも何かの縁だもの、ね?」
缶の口を開けて一口飲むと爽やかな日常の味がした。
■アイノ > 「先輩キレッキレじゃん。 腰も大丈夫、と。」
鋭いツッコミをひゅう、と口笛を吹きながら眺めて。
缶をくるりと掌の中で回しながら、アガサの隣へと腰掛ける。
「ほー、じゃあもうすぐ誕生日と。
まあ、1~2歳の差なんて誤差みたいなもんだし、私も淑女ってことか。」
こちらは渋い顔に対して、悪戯っぽく、それでいて明るく笑い飛ばし。
「あー、こっちも同じ同じ。
他の隔離施設にいたんだけど、どうにも私の才能が小さなグラスにゃ収まらなくてね。
こっちの施設にゃすごいのがいっぱいいるって聞いて、段ボールに詰めて国際便でぴゃーっと送られてきたわけ。」
才能のくだりはすさまじいドヤ顔で。
段ボールの下りはへらへらとした笑顔で。
表情をコロコロ変えながら、アガサ女史のツッコミを待つ。
待って待って、突っ込んでいる最中に二の腕に冷たいオレンジ缶を押し付けていく。
■アガサ > 「人を抜き身の刃物みたいに言わないで欲しいなあ!?」
アウトローじみた口笛の吹き方がいっそ似付かわしい。
アイノ君の手の内でくるりと回るジュースの缶は宛らウェスタンなリボルバーか何かのようだ。
なのに、隣に座り込んで気安く言葉を重ねる様は人懐っこい猫のようでもあって、私の言葉が追い付かない。
「いや君はどちらかと言うとアウトローって感じがするけれど……他の隔離施設って。
ふぅん、何だか凄そうだ。うん、私の親友にも凄い能力を持っている子が居てね。
その子も君と同じような綺麗な髪と瞳を持っていて──冷たっ!?」
余り踏み込んだら行けない言葉が聴こえた気がして、言葉を選んでどうしようかと考えて。
その間ばかりは余計なものを幻視しない気がして落ち着けて。
だけれども、そうはさせじとアイノ君が悪戯をするものだから、私の頓狂な悲鳴が公園に上がる事となる。
「アイノ君。君の才能って悪戯の才能とか、そういう奴じゃないだろうね……」
それとなく周囲を視ると、私の大声を聞いたと思しき人達の目線があった。
顔に熱が灯るのを感じ、アイノ君に訊ねる言葉は少しばかり咎めるようなものになるし、私の唇だって尖りをしよう。
■アイノ > 「アウトローね、まあ、割とアウトローが多い場所なんじゃないの、ここは。
私なんて真っ当真っ当。常識の塊よ。
ふぅん、すごい能力ね。強いんかね、その子は。」
ベンチで足をぷらん、ぷらんと揺らしながら今度は素直にオレンジの缶を開けて、取り上げられないようにするりと口をつける。
素っ頓狂な声をあげてびくっとするアガサを楽し気に見つめて、にししし、と歯を見せて笑い。
ただ、強いかどうかについては、少しだけ目が細くなった。
「それもあるかもね? いやまあ、私は天才って奴だしな。
いいじゃん、アガサ先輩も人の視線を集めることなら今この公園で一番よ?
待って待って怒らないで冗談だからさ。」
からからと笑いながら、まあまあまあ、と唇を尖らせる先輩をなだめる側に回って。
ね? ね? と下から見上げるように甘えた声を出す。
「先輩こそ、公園で一人でどうしたのさ。
のんびり日向ぼっこ、ってわけでもないでしょ。」
■アガサ > 「場所次第だよ。此処は、学生街は安全だけれど歓楽街の端の方。アイノ君もその内知るだろうけど、
そこには皆が落第街と呼ぶ場所があってね。そこは凄く危ない場所だから気を付けないと行けない。
昼間の、大きな通りくらいは平気かもだけど、夜中に行ったりしたらいけないよ」
土地柄については先達の務め、とばかりに努めてきちんと説明を。
私が言わなくても何時かは耳に入る事だろうけれど、何時かの前にアイノ君が迷い込んだら大変だもの。
「その子はー……うん、強いよ。凄く強い。アリス君と言ってとっても頼もしくってね、私なんかとはえらい違いで。
ピストルなんかもね、凄いんだ。両手に二丁持って、こうバンバーンって。」
抗議の声もそこそこに、周囲の視線もそこそこに。私の説明は続く。
二丁拳銃の下りになればジェスチャーを交えて説明だって加わろうもの。きっと熱演さ。
「……で、自分を天才とか言って憚らない君は凄いなあ。天才か……」
そんな天才が、私が入り込んだ狂気の館に居たならば、もっと良い結果があったのだろうか。
説明の最中の言葉に、私は少しだけ考え込んで動きが止まって、ふと気が付くとアイノ君が上目遣いに擦り寄っている事に気付く。
「……っ!?……私?私はー……ちょっと気分転換。ほら、怖い映画を見た後とかに、ベッドの下に怪物が居るだとか。
部屋の暗がりに何かが居るだとか。何でもない音が悲鳴に聴こえるだとか。……よく、あるよね?
ちょっとそういう事があって……」
意識外の接近に、反射で立ち上がってジュースの缶が地面に転がりオレンジ色の液体が地面に染みていく。
大丈夫。赤い色になんか見えない。私の心臓は早鐘のように五月蠅くなんてならない。
アイノ君に出歩く理由を話す顔だって、きっといつものようなものだ。
■アイノ > 「落第街、ね。………ありがとね、危ない場所くらいは知っとかないとねー、美少女だしさァ?」
けけけ、と悪い笑顔で自分のTシャツの襟をぴらりと捲って素肌を見せつける。
あ、ギリギリ見えないから大丈夫。
「ほーう。………なるほど、アガサ先輩のそのまた先輩?
拳銃か。」
熱演っぷりに尊敬や憧れの情を感じ取れば、先輩かと予想をつけて。
少しだけ何かを考えこむ。
銃器と自分の能力は、実は割と相性が悪い。
二丁となれば……なんて、見たこともない相手とのシミュレーションをしかけて、首を少しだけ横に振って。
違う違う、何いきなりやり合う前提で考えてるんだ。
「っとぉっ!?」
びく、っと立ち上がる姿にこっちもびくっとして。慌てて落ちた缶を拾い上げる。
とはいえ、もう飲めないだろうし、ベンチの隣にひとまず立てておいて。
「………まあ、無いこともないだろうけど。」
今の動きは、どうにも反射的に思えた。
何があったかを知る由も無いが。言葉と共にそれが透けて見える。
「先輩のジュースこぼしちゃったし、お昼くらいは出そうか。
先輩は代わりに、美味しいところを私に教える、ってくらいでどうよ。
……もう悪戯はしないってー。」
なんて、そっと手を差し出してエスコートを希望してみる。
にひ、と悪戯っぽい笑顔を向けつつだけど。
■アガサ > アイノ君の顔は、アイノ君の顔だ。
別の何かじゃあない。
私は呼吸を整えて、整えて、それから大きく息を吐いた。
「自分で自分を美少女って言えるのは凄いなあ。……うん、でも私もそう思うから気を付けて。
あとアリス君は先輩じゃないよ。私の同級生、君みたいに綺麗な髪の色と目の色をしていて……背丈は私と同じくらい」
何かを考えるようにも視得るアイノ君に言葉を続けて、無い事もないと言うのなら、そういう事だと返事はしない。
「む、いいのかい?零したのは私なんだけれど……アイノ君はいい子だねえ。うんうん、有難く御相伴に預かろうとも。
丁度そこにクレープの移動販売車が来ているからね、それで手を打とうじゃないか」
立ち上がり、手を差し出すアイノ君の手を握り、空いた手で近くに止まっているカラフルな車を指差そう。