2019/06/05 のログ
ご案内:「常世公園」にアガサさんが現れました。
アガサ > 梅雨入りも間近の或る日の事だった。
その日私は午後からの授業が無くて、天気も良かったものだから常世公園を散策していて、
移動販売のクレープ屋さんで威勢よく生クリームアルティメット盛り(通常比5倍)を注文したりしていた。
中身はシンプルに生クリームだけ。成程これはアルティメット、次は絶対頼まない──そんな風に意思を固めていると。

「うわっ……え、なに?」

突然空から蛙が降ってきた。色は虹よりも様々で形も様々。中には羽が生えているものや、足が6本あるものもある。
そういった蛙群は本来なら地面に落ちたらとても見れない有様になるはずなのに、彼らはしなやかに着地をしている。

「……晴れ所により蛙?うーん、変な事があるなあ」

異能か、魔術か、はたまた科学か自然現象か。
原因は定かでないけれど、一つの現実は此処に実って喧しく、蛙が苦手な人は慌てて逃げるし、好きな人は捕まえている。
私はどちらかと言えば好きなほうで食べる事も厭わない。親友と異邦人街で食べた羽の生えた蛙は美味しいものだった。
そう思い出を振り返る私の目の前を、大きな捕獲網を持って蛙を捕まえては背負った巨大な籠に捕まえている人がいる。

「……………」

呆気に囚われてから数拍遅れ、何をしているのかと尋ねると捕まえて売るのだと言う。
成程、そういうのもあるのか。

アガサ > それから少し時間が過ぎた後。
そこには公園で元気に網を振り回している私の姿があった。

「あ、これ結構難しいな……魔術で動きを止めて……は危ないしなあ……ちょっと大人しく、したまえよ~!」

背中にはそう大きくは無い背負い籠。走り回って額に汗してビビッドな色合いの蛙を捕まえては籠に放る様は誰がどう見てもカエルハンターってもの。
そう、お金になるならこれは好機。何故か公園の入り口に網と籠をレンタルする人まで居るとなれば、夏に向けての軍資金が欲しい私の取るべき行動は一つさ。

「観賞用か食用か、はたまた私の知らない使い道があるのかは知らないけれど、大人しく、乙女の、財布の、糧になれーい!」

羽が生えて飛んで跳んで富んで(体型的な意味で)逃げる大き目な蛙目掛けて横一線に網を振う。ずしりと確かな手応えがあり私の口元は欲望的に歪んだ。

「あ、これアリス君と食べた奴に似ているなあ。羽は……ええと、輪ゴムで縛って置けばいいかな?」

ポケットから輪ゴムを取り出し手早く纏めて籠の中。羽付き蛙と来たら『ンエー』とか甲高い声で鳴く始末で中々面白い。

ご案内:「常世公園」にアイノさんが現れました。
アガサ > 健康的に網を振う人は何も私だけじゃあない。
先程私に蛙を売るのだと教えてくれた人──少しお腹の出た東洋系のおじさんとか
私よりももっと小さな、それこそ小学生くらいの男の子達は歓声を上げながら捕まえている。
不可思議な事態に対処する為に慌てて出張って来たのか、風紀委員の制服を着た人達もまばらに見える。
そうした人達の会話もまた、まばらに耳に入るもので、どうやらこの奇妙な現象は常世公園だけに起きているらしい事が解った。

「あれかなあ。どうみてもこの世界の物じゃあない蛙も居るし、上空だか遠方だかで開いた"門"から偶々舞い込んで来たのかなあ」

但し場所が限定的であるとするならば、それは何かが指向性を以て送り込んでいるとも予想出来る。
そこまで考えてから、私はそう明るくはない転移荒野での記憶を思い出しかかるのだけど、幸いに頭の上に落ちてくるどどめ色の蛙の感触が忘れさせてくれた。

アイノ > 「………なんだこれ。」

自分の目の前に広がる光景に思わず目を疑う。
カエルが空から降ってくるだけでも十分に恐ろしい光景だというのに、なんというか、それに順応して網を振り回す奴らがいて、更に目を疑う。

正気かこやつら、みたいな顔をして自販機で缶ジュースを購入しつつ。

「………何してんの。」

見知った顔が網を振り回しているのを見つけて、更に頭痛がする。
なんなの、常識を疑わないとこの島では生きていけないの。

自分のことを、割と常識知らずで奔放であると思っていたが、認識を改める。

カエルは、彼女をまるで避けるかのように落ちていることから、能力は利用しているのだろう。

アガサ > 懸命に網を振う私の直ぐ傍を和装に身を包んだ異邦人──見るも鮮やかな赤金色の鱗を蓄えた、爬虫類系と思しき男性が網を二刀流にして蛙を捕まえて行く。
彼の動きは早く、速く、そして疾い。まるで一陣の風のようで、私は呆けたように口を開けてその技前を見ていた。

「……おや!アイノ君じゃないか。君も午後の授業はお休みかい?私の方は見ての通り……蛙を捕まえているんだよ~!
聞いて驚く事なかれ。なんと蛙が売れるって言うからね。お小遣い稼ぎには持って来いと言う訳だよ!」

彼が通り過ぎた後には呆けたような顔をするアイノ君の姿があった。なんだろう、見てはいけないものをみたような顔をしている気がする。
私は少しだけ首を傾けてから熱の籠った声を上げ、後輩に駆け寄って背中の籠を見せつけるようにした。
アイノ君が覗くなら様々な色の蛙達が様々に鳴いていて、それはそれは賑やか如くも喧しい事が判るはず。

アイノ > 「そうそう、お休み。」

自主休講。いつも通り少し刺激的な格好でサボっていただけだ。
そして、聞いて驚くは驚いた。

「なるほどなー、どうせ売るなら金とか銀とか振ってきてほしいもんだけど。まあ、それは当たったら死ぬか。」

アガサの籠の中を覗き見て、うぇ、と思わず声が出た。
そこまで苦手でもないけど、そこまで得意でもない。
好き好んで、というわけではなく。

「ふーん、降ってきたのを捕まえればいいってことか。
 そんなら、私が強いんじゃないの。」

言いながら拳を握れば、降ってきたカエルが軌道を変えて、アガサの籠に直接シュートされる。

アガサ > 「金属は流石にちょっと洒落にならないね……。ああ、でも宝石でも降ってくるなら綺麗かも」

アイノ君と言葉を交わす折、彼女が嫌そうな呻き声を上げるなら私の唇は楽しそうに歪んだ。

「おやあアイノ君は蛙、嫌いかい?んふふ、天才少女の弱点見たり、だね。これは是非とも覚えて──」

ポケットから取り出したハンカチで額の汗を拭っていると
少し離れた所で高笑いを上げて自転車を二人乗りし、走りながら蛙を捕まえる屈強なモヒカンヘアの男性二人組が見える。
そして彼らの後ろを風紀委員の制服を来た男子生徒が追いかけている。
今此処は平和的な無法地帯と化しているのだと知れる出来事に私は一層気合を入れて──

「……ぅゎーアイノ君それはずるいな……!?あまり街中でみだりに異能や魔術を使ってはいけないよ。
今回は……まあ異常事態だし?多分平気かもしれないけれど」

次にはホーミングミサイルのように軌道を変えて籠に飛び込んでいく蛙達に脱力し、そのまま芝生の上に座り込んでしまった。
ああ、背負い籠が重くなっていくから外して地面に置いておこう。

「それはそうとアイノ君の力があれば蛙は取り放題、買い取り金額も鰻登り!うんうん、これは素晴らしい事だよ。取り分は半々でどうかな?」

まるで渦の中央が如く次々と吸い込まれていく蛙達。すると遠方から悲鳴がしたのでそちらを視るとなんということだろう。

『いや、ちょっとあかんて。うちカエルちゃうねんで!』

蛙系の亜人のおじさんがぐるぐる巻きにされ、台車に乗せられ運ばれて行く所だった。
私は視なかったことにした。

アイノ > 「別に大丈夫だけどさぁ、自分から好き好んでではない、かなぁ。
 ほら、似合わないじゃん? 魔法を使うわけでもないし。」

なんて、くるりと回ってぺろりと舌を出して愛嬌のある笑顔とポーズを決めて。
カエルが頭にどすんと乗って、ぐぇ、っと声が出て、頭を下げることになる。

「………みだりではないだろ。
 こんな風に誰かにぶつかって怪我をするかもしれないんだから、誰かがなんとかしないとな。 流石に半々は悪いからいいよ、っていうかそんなにすごいやる気は無いからさ。」

言いながら、ほうれ、と手を揺らせば、また新しくカエルがすとんすとん、っと籠に突っ込まれる。

「………でもまあ、確かにこれは目立つか。
 誰かが狙っているのを奪ったら喧嘩になるかな?」

モヒカンがこっちを睨んでいる。
どうやら彼らが狙っているのを奪ってしまっていたらしい。

アガサ > 「ええ~似合う似合わないの問題なのかい?じゃあアイノ君に似合いそうなのってなんだろうな……猫?」

鈍色の蛙が勢いよくアイノ君の頭に着地をし、アイノ君が蛙みたいな声を上げると同時に蛙みたいな鳴き声を出す蛙。
中々良いシンクロ具合だなあ。なんて思って笑う私を他所に彼(?)もまた籠の中へと消えて行った。

「平和的な異常事態って奴だね。じゃあ終わって換金したら御礼に何か御馳走しようじゃないか~。またフタバコーヒーでいいかな?」

会話の合間にも赤と黄の二匹の蛙がアイノ君に異能に操られて飛んでくる。
私はのんびりと見ながら、あれは中々形とか艶がいいなあ。なんて蛙ソムリエみたいな感想を抱えていたんだけれど、
不意に空中で軌道を変えた赤い蛙が黄の蛙に掴みかかり、空中巴投げが如く回転して黄の蛙を放り投げた。
その反動で赤い蛙は放物線を描いて離脱して行き、黄の蛙は親友に裏切られたかのような顔をして籠の中に消える。
どうやら蛙の世界にも色々あるらしい。

「……いやいや蛙の取り合いで喧嘩だなんて……おや」

閑話休題《それはさておき》
アイノ君の言葉に苦笑をする私だったのだけど、彼女の視線の先に、風紀委員に追いかけられていた二人組とはまた別のモヒカン男性が現れた。
彼は如何にも剣呑な様子で私達を睨み、手にした捕獲網の柄をべろりと舐めて笑っている。

「ま、不味い。他のカエルハンターに目をつけられてしまったぞ……!刺激しないように場所を変えようじゃないか……!」

あわや一触即発の危機だ。私は籠を背負って逃げようとするけれど、籠は増えた蛙のせいかとても背負って走れるものじゃあない。
黄色い蛙を返却する事も視野に入るな。私はそうアイノ君に目配せをした。

アイノ > 「宝石とかじゃない?
 あー、そうだな、まあ練習には丁度いいか。」

ふぁ、とあくびをしながら網を片手に、ほいほいと網を振る所作だけをして、実際は能力で包み込んで捕まえていく。
凄まじい速度ではないが、空から降ってくるものを正確にとらえるのはいい訓練になる。

「でも、換金の率も聞いてないんだろ?
 めっちゃ捕まえて500円とかだったら、二人分にもならないけれど。」

アガサは目を輝かせてカエルを眺めている。
爬虫類好きなんかな、なんて、ちょっと勘違いをしながら………。

「………お兄さん、こんにちは♪
 私たち、そろそろ帰るからこの場所、使います?」

ウィンクしながら可愛らしい、鈴の鳴るような声を出してご挨拶。
こんなところで喧嘩とか馬鹿らしい。 甘える声と上目遣いで怒りを削ごうと試みる。

アガサ > 「君、結構現金な奴だな……」

動物から貴金属に飛ぶアイノ君を少しだけ睥睨するようにしてしまうのも無理からぬ事と思いたい。
それはそれとして会話をしながら網を振り、その実器用に異能を行使する様に感心とてするのだけど。
彼女の意識の集中のコツは一度聞いておきたいなと思った。

「………おー」

思うに留めたのは強面な男性が今正に近づいて来ているからで
感嘆とした声が上がるのは、アイノ君がアイノ君じゃないような様子で彼を見事に撃退したからだ。
彼からすれば、女子供にムキになるのも、と言った所なのかもしれない。

「アイノ君はそういう所も器用だなあ。というか慣れている気もする……ううん、私も見習うべきかもしれない。
例えばその会話と動作と異能の行使の三つを綺麗にやるなんてのは、やっぱり練習とかして──」

危機が去った所で思ったことを聞こうとしたのに私の言葉は途切れてしまう。
何故か。
それは周囲の人達が歓声を上げたからで、視線を向けると空から金色に煌めく、如何にも有難そうな蛙が降ってくる所だったからだ。

「アイノ君!」

私は後輩に叫んだ。聡明な彼女の事ならば、アレが五〇〇円なんてものじゃあない価値がある事は理解してくれる筈。

アイノ > 「そりゃあそうでしょ。
 アガサもカエルを現金化しようとしているんだから同じようなもんだろ。」

言葉尻を捕まえて舌を出して悪い子の笑いをする後輩少女。
男をあっさりと……まあ、追い払うまではいかずとも、争いごとにならぬように納めれば、アガサにふふん、と鼻を鳴らして笑う。

「そりゃーな、それこそ、みだりに使うな、じゃなくて、日常生活で使うようにしてるからさ。
 ちょっと物を取るとかそのレベル。」

自然に、当たり前に使えるようにしてるから、と話しかけたところで言葉を止めて。

「アガサ、お前の籠は私が持つから。私なら能力込みで抱えて走れる。
 あいつはお前が網でとっ捕まえて、思いっきり走って逃げるぞ。
 大丈夫さ、お前の方によこすから。」

捕まえる役割をアガサに任せて、自分は籠を能力込みで持ち上げる。
ぐぇ、結構、重………。

アイノ > 「……行くぞアガサ!」

拳を握って、ぐ、っと引き寄せる姿をすれば。
まるで滑空するかのようにアガサに突っ込んでくる金色のカエル。
網で一発確保ができれば、二人してそそくさと逃げるのだろう。


網で確保できなければ?

アガサの顔にカエルがべったりはりつくだろうさ。

アガサ > 「ふぐっ……それを言われると言葉も無いね……」

私もまた資本主義の奴隷だった。背景に宇宙が広がり大いなる深淵の縁から何かが笑っている気さえする。
いや、正気をしっかり保つんだアガサ・アーミテッジ・ナイト。
私の未来は今遠くで煌めく黄金の蛙のように煌めいて──あれ、なんだか距離が近いなあ?

「どぅおっ!?」

反射だった。
乙女にあるまじき声を上げて反射で振り下ろされる捕獲網。
そうして見事に御留するは金色の蛙!

「採ったァー!」

私は網を高々と掲げ快哉を叫ぶ。
そんな私の襟首を引っ掴んでアイノ君が叫ぶ。
周囲に居た人達も何だか叫ぶ。

「よし、あとは換金しに行くだけだねアイノ君!」

三者三様の熱を巻いて常世公園は狂騒に包まれていく。
私達が無事に脱出し、異邦人街で蛙を無事に換金し、フタバコーヒーで新作のフニャペチーノに舌鼓を打つのはまた別の話なのだった。

ご案内:「常世公園」からアイノさんが去りました。
ご案内:「常世公園」からアガサさんが去りました。