2019/06/22 のログ
金剛経太郎 > 空に浮かぶ月をぼんやりと眺めながら、経太郎は今日一日を振り返っていた。
場所はいつもの公園のベンチ。既に日も落ちて久しく、公園の利用者はほとんどいない。
時折日課のウォーキングをする者が通り掛かり、そのまま訝しげに経太郎を見て走り去っていく。

「……今回も成果なし、か。
 だがしかし、だいぶこの異能を使うのも慣れて来たな。」

横目で落第街方面を一瞥してから、今度は自分の手の平を見つめて呟く。
あどけなさを残した、というよりは、あどけさなさしかない顔立ちを精一杯顰めているが、くしゃみを堪えている様にしか見えない。

金剛経太郎 > 昔は、というかまだ4ヵ月も経っていない過去だが。
異能を使い騎士や弓兵といったアバターを召喚した後は疲労感が全身を覆い、このベンチで倒れ伏している事も多かった。
そんなことを懐かしむ様に思い出しながら、退屈を紛らわせるように経太郎は大きく伸びをする。

「んんー……あっちの世界での全てが出せるわけじゃないし、アバターの数も増やせる様になれば良いが。
 こればかりは研究機関の尽力に頼る他無いな。」

ゲーム世界のアバターを召喚する、という認識でいた異能が実の所少し違うらしいと経太郎は研究機関からの報告を受けている。
詳細は不明、という事ではあったが経太郎自身もそんな気がしていたのでさほど驚きもしなかった。

金剛経太郎 > 自分がかつて文字通りの意味で囚われていたゲームのアバターを電子の海から召喚しているにしてはあまりにも稚拙な部分が多い。
扱えるスキルの数も、鎧や武器の意匠も、どことなく粗さが目立つ。
現実世界と電脳世界の差なのかと最初は思っていたが、次第にそうではないと経太郎は感覚的に気付き始めていた。
10年も連れ添った自分の分身たちの差異に気付くのが、随分と時間が掛かったものだ、と経太郎は自嘲した。

金剛経太郎 > 「まあ、差異が分かったところでって感じだけどな……」

ふぅ、と溜息と共に自嘲を止めて夜空を見上げる。
ゲームの中と較べて、現実世界は随分とゆっくりだ、と“こちら”に戻って来てからはよく思ったものだった。
後で調べたところによると、現実世界で一日が過ぎる間に、ゲームの中では8日経過しているらしい。
それを知った時は、そりゃあ自分の精神も老成するはずだ、と思わず失笑したものである。

時間の感覚は肉体が目を覚ました際にそちらに合されたが、ゲーム内でほぼ80年近い日数を過ごして来たのだから、嫌でも達観した性格になると思う。
変に老け込まなかったのは僥倖だった、と経太郎は今でも思うのだ。

「この見た目で年寄りじみているなんて笑い者にもなりゃしないからな。」

ふー、と細く長い息を吐いて

金剛経太郎 > 「さて、そろそろ戻るか。
 いい加減寮監に怒られるのも日常になってるし。」

少し足で反動をつけ、ぴょんっとベンチから飛び降りる。
ただそれだけの動きが酷く子供らしく思えて、誰もいなかた事に少しだけ感謝したりしつつ。

ゆったりとした足取りで、経太郎は家路についたのだった。

ご案内:「常世公園」から金剛経太郎さんが去りました。