2020/07/06 のログ
アルン=マコーク > 「楽……ではありませんよ。『悪』は常に人々を脅かす。それは僕の世界でも、こちらの世界でも変わりはない」

やんわりと少年の言葉を否定しながら、アルンはしかし、表情を変えずに淡々と返事を続ける。

「僕は勇者なので、疲労は感じませんね。神聖治癒魔法が常時発動しているので」

その話す内容はだいぶおかしな事を言っている。
強力な回復魔法を常時発動しつづけているなど、それこそ疲れ果ててしまってもおかしくないはずだが……

「機械のことはよくわからないのですが、皆が機械だと何か不都合があるのですか。僕は皆が幸せなら、機械でもいいと思うのですが」

そして、目の前で蝶を潰す少年にも、特に反応はしない。
それが生命を持つ蝶ではなく、魔術による作り物であるということは看破している。

「僕が『悪』なら、全ての悪を滅ぼし、最後に僕が僕自身を滅ぼす」

勇者はまるで揺らがない。
目の前に立つものが誰であれ、何であれ。

「勇者とはそういうものです」

ツァラ=レーヴェン >  
「じゃあなんでここでも『悪』を絶対定義したがるのさ。
 僕から見たらラクしてるよーにしか見えないね。」

潰した蝶の欠片の光を撒いて、両手を広げてやれやれのポーズ。

「その悪って定義されたモノが、別の人から見たら救いに見えても、おにーさんはその悪を倒すの?

 明日食べるモノも無い貧乏な人に盗んだ食べ物モノを渡した人は悪い人?
 殺されそうになって相手を逆に殺しちゃった人は悪い人?
 誰かを助ける為に人を殺した人は悪い人?

 君がそうやって殺した人も、もしかしたらそんな人間だったかもしれないよ?」

少年の言葉は本当に矢継ぎ早だ。

「善悪なんてコインの裏表ぐらい薄っぺらいよ。
 大多数が善だと信じてることが善で、悪だと思うことが悪ってだけでさ。
 そんなモノを全部壊したら、僕らはおまんまの食い上げだなぁ。
 油揚げだって食べれなくなっちゃう。」

アルン=マコーク > 「定義……うーん、僕にとって『悪』は明確なので、定義する必要はないです。ただ、こちらの世界はどうなっているのかと、気になっているだけで」

まるで雨が降りそうで困ったな、というような軽さでそう答え、

「楽に『悪』が滅ぶならそれでいいのでは……?」

と、少年の皮肉にもまるで取り合わない。

「はい。殺します。『悪』は『悪』を救うこともありますから。しかし、他人を救うために食べ物を盗む者も、殺す者も、身を守るために目の前の相手を殺す者も、僕の滅ぼすべき『悪』ではない」

矢継ぎ早の言葉、そのどれもが勇者を揺るがすには至らない。

「なるほど。つまりあなたが言いたいのは、『悪』は移り変わる、ということですね。そこに基準はなく、『大多数』に属さない者が『悪』だと」

納得したように小さく唸りながら、何度も頷く。

「ところで、『善』とはなんですか? コインの表裏と言うなら、『悪』と対と成す何かでしょうか」

ツァラ=レーヴェン >  
「わーお……。僕も結構アレなことのたまってる自覚はあるケドサ。」

善の意味を聞かれると、流石にくるくるころころ落ち着きの無い少年が止まった。

「そーだよ。『悪』の裏が『善』。『善』の裏が『悪』。悪いことの反対。良いこと。

 困ってる誰かに手を差し伸べる事、
 誰かを笑顔にする事、
 誰かを、"幸せ"にする事。

 言っとくけど、大多数に属さないから悪って訳でも無いんだからね。
 その大多数が腐ってたら少数が善になるし。
 おにーさん相当アタマ固いよ? 物理的な意味じゃなくてね???
 少数ってだけで悪いと思ってもらったらヤバイもん。」

腰に手を当て、もう片方の手の人差し指をピッと立ててメッのポーズである。

アルン=マコーク > 「ああ、それをこちらでは『善』と呼ぶのですね」

アルンは何か合点がいったというように大きく一度頷いた。

「僕の世界では、それは生きるものが当たり前に持つ性質でした。だからそれに、名前はなかったのですね……」

なるほど、なるほどと何度も繰り返しながら。

「理解が遅くてすいません」

勇者は叱られて素直に頭を下げた。
そして、眼をすっと細めた。

「しかし、僕は言われたことを繰り返しているだけです。
『大多数が善だと信じてることが善で、悪だと思うことが悪ってだけ』と言ったのはあなただ。それは違うのですか?」

勇者の眼は爛々と紅く輝いている。
それが何を意味するかはわからない。

「皆が幸せになるなら、機械でもいい。その問いについても答えがまだでしたね。楽に『悪』が滅ぶならそれでいいという問いに関しても」

同じ文化を――共有していないから。

「はぐらかして答える気がないのならそうと言って下さい。僕は腹芸が得意ではないので」

ツァラ=レーヴェン >  
「当たり前ねぇ。当たり前だから名前が無いってのも変なの。」

少年の倫理はこの世界と近い、近くて少し遠い。

「基本的にはそーだよ。大多数がルールを決めて、それを善って呼んでる。
 でもさ、少数だからってだけで殺して良い理由にはならないって分かる?
 おにーさん0か100かしかない考えに見えるけど、その間の数字は見えないの?
 全部が全部そうって言われてあっさり信じちゃうワケ?
 少数を無くしたらまた新たな少数が出来るよ。

 そーやってあんまりぽんぽん人間の数減らされるとさー、僕困るんだ。
 ご飯減っちゃうもん。」

血のような紅を見つめるのは空の蒼。
下から空がアルンを見つめている。
 
「んで、機械でもいいって? 君が良くても僕はやーだね。
 楽に悪が滅んだって僕は首を縦には振らない。

 悩んで迷って泣いて笑って怒って楽しんで…それが人間だ。
 こんなことを言う僕は君にとって『悪』なのかな?」

気になったことだけ返す癖があるようだ。
抜けていた問いに改めて答えを返して腕組をする。

アルン=マコーク > 「ああ、僕には『悪』が段階的に測れるものであるという考え方がわかっていないですね。それはそこにあって、ルール……『法』ですか? に決められたものであるのなら、それは『悪』であって、他の何者でもないでしょう」

ころころ変わるものは法ではありませんしね、と付け加える。

「それとも、こちらの世界では『法』も移り変わるのですか?」

そんな的はずれな問いかけを、大真面目に。
空の蒼色に向けて、正面から投げかける。

「言葉を信じるつもりはないです。僕には僕にとって明白な『悪』を感じられるから。ただ、こちらの世界で言われている『悪』を、僕が理解できたなら、共に悪を滅ぼす仲間として動けるだろうと思ったので」

言葉を弄しても、この勇者には届かない。
周りを駆け回っても、ただ視線を合わせるだけ。
勇者の足を動かすには至らないのだ。

「悩んで迷って泣いて笑って怒って楽しめないなら、人間ではない、と?」

ううん、と唸り、それから、言葉を選ぶように慎重に吐き出した。

「僕はそうは思いませんが……それだけであなたを『悪』とは断じません。僕の滅ぼすべき『悪』とは、言葉で象られるものではない」

それから、ああ、とついでに思いついたように付け加える。

「それに、あなたが人間を『ご飯』と呼ぶことで、僕があなたを『悪』と呼ぶこともない」

ツァラ=レーヴェン >  
「少なくとも僕には人間には見えないね。
 
 はー………やめよ! 僕が幸せじゃーないやこれ。
 大体君ご飯になんないし。幸せないし。」

相手の言葉を一通り聞き終え、くるっと背を向けて伸び。
その後手をぱたぱたと振っている。

「ルールも法も確かに似たようなモンだけどさ、
 それだけってことは無いんだよ。何事も。
 少なくとも僕が見て来たこの世界のヒトは、僕が前に居た世界のヒトとさほど相違無い。
 姿かたちはともかくね。

 だから君や大多数が機械で良くても、僕や、僕以外の人がそれを拒否する。少数派は必然と出来る。

 おにーさんにとっての『悪』が明白で揺るがないっていうなら、
 ここでいくら他人に悪を聞いても君が納得のいく答えは返ってこないと僕は思うなー。
 だってそれ、仲間じゃなくって道具だもん。

 ……いつかおにーさんの行き過ぎた『悪』の決めつけが、
 おにーさん自身を『悪』にしない事を祈るよ。」

やめよといいつつ答え切った。

ここまで喋るつもりなかったのになーとばかりに無防備に背中を向けている。
周りからは自分達のことは今は何が起きたって風景だ。

アルン=マコーク > 「それだけってことはない、ならば、『それだけではない』の中身を知りたいと思うのはそんなにおかしなことですか」

小さく、息を吐く。
蒼い瞳を持つ少年の、問答を切り上げる言葉に残念そうに頷いて応える。

「僕は納得が欲しいのではないんです。ただ、この世界における『悪』の在り方について知りたいだけで。それが僕の在り方と共に歩めるものであればいいと願ってはいますが、何かを求めているわけではない」

そして、自分に向けて祈ってくれた少年に。
『悪』にならぬようと想いを向けてくれた少年に応えるように、膝を折り、自分の胸に手を置き、眼を閉じる。
なにかの儀式的な意味のある仕草だろうか、妙にこなれている。

「共に歩めないのであれば、共に歩まなければいいだけの話ですからね。元より、向こうでも一人で『悪』と戦っていましたから」

そして、立ち上がると、両手を揃えて深々とお辞儀をした。
これの意味はわかる。すなわち――

「多くを教えてくれてありがとうございました。おかげで、この世界の『悪』についてを知ることができた」

感謝の意を示しているのだった。

ツァラ=レーヴェン >  
「知りたい欲求は別におかしなことじゃーないよ。
 でも、僕にとってはどーにも暖簾に腕押し、豆腐に鎹ってね。」

跪かれてしまった。
正直、斬り込んでくるだろうかとも思っていた。

「……言っとくけど、さして相違無いとは言ったけど、僕はここのヒトじゃあないよ。
 あくまで僕が言ったのは僕の世界でのことだもん。

 …なんでここまで言うかって? "幸せ"は僕のご飯だからさ。」

背を向けていたのをやめて、少し遠目に彼を見ている。

「いつか君も僕のご飯になるといいなぁ。
 僕はツァラ、"幸運の祟り神"さ。」

アルン=マコーク > 「それで構いません。僕より多くを知る人であることには変わりない」

深く下げた頭を上げながら、そう言って微笑んだ。
背を向けている相手であっても、笑みを返すのが、アルンという人間のあり方だったから。

「僕が勇者である限り、そうはならないでしょうね。それでは、またどこかで」

少年が、『ツァラ』と名乗った瞬間。
アルンの指が僅かに動き、勇者が身に纏っていた魔力に動きがあった。
魔力の操作に長けている、或いはそういった異能を有しているなら、それが精神に干渉する類の魔法の気配だと、気付くかもしれない。

当のアルンは、何事もなかったかのように、少年とは逆方向に去っていこうとしている。

ツァラ=レーヴェン >  
もしその魔法が、少年の「真名」を通じて行うモノならば。
その魔法は不発に終わるはずだ。

それが何を意味する所かは分かるだろう。

そうでなくとも精神に関する類の干渉は、少年の近くを飛ぶ蝶の動きが大仰に動く。
当のツァラは少しの間しまっていた笑みを戻している。

「……人間、どんな人生歩むか分からないから人間なのさ。」

アルン=マコーク > 厳密には、『魔法の気配』。
魔力が蠢き、完成した魔法として放たれる前の僅かな気配。
それだけを残して、しかし、それは発動するには至らなかった。
それは、精神干渉を防ぐ蝶の力か、或いは単純に条件を満たしていなかったからか。

アルンはもうだいぶ遠くまで歩いていってしまっていて、その真意を探ることはできない。
少年の言葉ももう、届いてはいなかった。

ご案内:「常世公園」からアルン=マコークさんが去りました。
ツァラ=レーヴェン >  
「うーん……マズイのと当たっちゃったなぁ。」

ひらひらと舞う青い光の蝶を人差し指に乗せ、舌を出してぺっぺ。
特に青年を追いかけるということもなく、少年は佇んでいた。

「なーんか最後変なことしようとしてたよーなそうでもないよーな…。
 幸せを感じないってのは厄介だなぁ。他のてきとーな所食べにいこー。」

興味を失ったようにアルンとは反対側に歩いていく。
蝶を引き連れて、蝶に埋もれるように、
そしていつしか少年の姿は…見えなくなっていた。

ご案内:「常世公園」からツァラ=レーヴェンさんが去りました。
ご案内:「常世公園」に227番さんが現れました。
227番 > 公園だ。

暗くなっても街灯の明かりで足元を見失うこともない。

「くぁ……ぁぅ……」

ベンチに座っていた少女が目を覚まして、大きくあくびをする。
どうやら、座ってぼーっとしていたら寝ていたらしい。

目をこすって、状況を確認する。

227番 > 暗い。どうやらすでに夜の帳は降りているようだ。

もともと夜行性……もとい、夜を軸に生活をしていたため、
"こちら側"に来てもその習慣は抜きっておらず。
昼間はとてもとても眠かった。

夜に出歩いていた理由は、"向こう側"ではそのほうが身を隠しやすいからであり、
"こちら"ではその必要はないため、矯正していこうとはしている。

227番 > 227には、"外"に出てきたことを報告したい人が数人ほどいる。
知見を広めるがてら、その人を探そうと歩いているが、この学園はとても広い。
そううまく会えるはずもなかった。

当の227も昨日の迷子で懲りており、あまり期待はしておらず。
あくまでついでのつもりで街を歩いていた。

そうして、のどかな公園をみつけて、
一休みしている間にうたた寝をしていた……というのが現在だ。

227番 > 夜の公園は、昼に比べれば明らかに人が少ない。
なるほど、確かにスラムのように危ないというのもわかる気がする。
(なお、これについては227は若干の勘違いをしている)

「くぅぅ……」

また大きなあくびが出る。背伸びを2回する。
目がしっかりと覚めてきた。
まんまるな青い瞳が、あたりを見回す。

ご案内:「常世公園」に雨見風菜さんが現れました。
雨見風菜 > 今日もまた、夜の公園にふらりとやってきた。

「今日も平和ですねー」

そうのんびり呟きながら。
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた気がして振り向けば。

「あれ、ふつなちゃん?」

吃驚した。
見るからにスラムの住民だった彼女と、こんなところで出会うなんて。
そして服も、きちんと洗濯されているものを着ているなんて。

227番 > 見回していた視線がぴたり、見覚えのある姿を捉える。

「……ふーな?」

目を大きく開けて、もう一度姿をよく見る。
間違いない。
ひょいっと椅子から降りて、小走りで、まっすぐにその姿のところへ向かっていく。

雨見風菜 > 「元気そうで良かった。
 お菓子でも持っていったほうがいいかな、とは思っていたんですが。
 こんな可愛らしい服まで着て、いい人と出会ったんですね」

しゃがんで目線を合わせ、安堵の笑顔を向ける。

227番 > 「ふーなも、元気そう。ちゃんと、帰れたみたい?
 服……は、そふぃあ先生に、貰った」

"向こう"で一度会った顔を見つけて、かなり嬉しい。自然と笑顔になる。
ここが思っていた"外"と違う場所ではない、という保障が得られた気がして。

「これも、かわいい?」

雨見風菜 > 「ええ、大丈夫でしたよ。
 ソフィア先生……なるほど。
 色々されてますねえ」

ソフィア先生といえば、先日のスイーツ店の先生がそう呼ばれていたなと。

「ええ、かわいいですよふつなちゃん」

227番 > 「良かった」

こちらも安堵の表情。結構心配していたらしい。

「そっか、かわいい……こういうときは、ありがとう?」

なんだかぎこちないが、お礼を言えるようにはなったらしい。

雨見風菜 > 「心配してくれてありがとうございます、ふつなちゃん」

安堵の表情を見て。
そりゃあ、逃げれると知っていなきゃ心配もするものである。

「そうですね、そこで『ありがとう』というのは間違ってないと思います」

227番 > 「……うん、ありがとう、ふーな」

安堵の表情から、また笑顔になる。
227にとっては、言葉を教えてくれた先生に近い何かなのかもしれない。

「……えっと。前の、続き……わたしの、こと、だっけ」

それから、伺うように青い瞳で見上げる。

雨見風菜 > 「そうですね。
 ふつなちゃんのことも、私のこともお喋りしましょう」

そうなるとここでおしゃべりするのも、と思い。
立ち上がり、227に手を差し出して。

「あちらのベンチでお話しましょうか」

227番 > 「えっと…わかった」

と、手を差し出される。これは…前のとはちょっと違う。
……多分、付いてこい、ってことだろう。そっと手を取って、あとに続く。

雨見風菜 > そうして、二人してベンチに座り。

「さて、それじゃあ……好きな食べ物の話をしましょうか。
 私は、みかんやオレンジといった……柑橘類、という種類の果物が好きなんです。
 ふつなちゃんは、好きな食べ物が出来ましたか?」

227番 > 「みかん?かんきつ?」

ピンとこないが、そういう物があるのだろう。
食べたことも有るのかもしれないが、
それを意識したことはない。ので、覚えていない、が正しい。

「わたし、おいしいもの、なんでも……ぁ、イチゴ味のあめ、好き」

雨見風菜 > 「橙色の、丸い果物。
 外の厚い皮をむけば、白くて薄い皮に橙色のつぶつぶがたくさん詰まってる果物ですね」

言って、そういえば色の概念って大丈夫なのだろうかと思い。
まあでも言っちゃったししょうがないやと取り直す。

「なるほど、イチゴ味の飴。
 いいですよね、甘いものって」

そういえばちょうどフルーツキャンディを収納していたっけ。
そう思い、イチゴ味のドロップタイプの飴を出して。

「ふつなちゃんが食べたものとは違いのでしょうが、これもイチゴ味の飴です。
 どうぞ」

227番 > 「だいだい……色?どんな色?」

色というものが何を指すのかはわかる。
ただ、光も殆どない暗い夜中はだいたい似たような色に見える。と言う問題が有る。

「なにか、なつかしい?味、する」

突然出てきた飴にびっくりして目を丸くする。もともと丸いが。

「……ありがと」

ひとまず飴を受け取って、透かしてみたり、すんすんと嗅いでみたりする。
路地裏に居たときと違い、知っている人に限り、物を貰うことを受け入れるようになった。

やがてそれを口に放り……顔をほころばせた。

雨見風菜 > 「うーん……色はちょっと言葉で説明するのは難しいですね。
 夜なのでちょっと分かりづらいかもしれませんが、こんな色です」

と、収納していたオレンジ色の飴を出して。
227はイチゴ味の飴を舐めてるし、これは自分の口に入れようと思っている。

「ふふ、どういたしまして」

飴を受け取った後の行動を微笑ましく眺め。
そうしてほころばせた顔に、風菜も笑顔になる。

227番 > 「……だいだい。……皮なら、見たことある、かも」

それを食べたことも有る。流石に口には出さないが。
ゴミとして捨てられる部分、当然、美味しいとは程遠かった。

「やっぱり、この味、好き」

違う飴でも、目指す味は近いものであるので、問題はないようだ。
からからと口の中で転がす音が、小さく鳴る。

雨見風菜 > 「なるほど、そうですか」

227の反応を見て、察する。
スラムに居たのだ、食べたのかもしれない。
ひもじさの辛さは思った以上と聞く、口にしてもおかしくはない。
だがそこを突っ込んで聞くべきじゃあないだろう。
そう考えていたところに、飴の味の感想。

「そうですか、良かった」

そう言って、自分も説明のために出したオレンジの飴を口に入れる。

227番 > 「……こんど、それの味も、知りたい、かも」

察されていることに気付いたか、気付いてないか。
その飴の味も興味があるという。
トラウマになっているわけでもないようだ。

「うん、ありがとう、ふーな」

言葉だけじゃなく、今度は小さく頭を下げて、笑う。
ぎこちないものだが、少しずつ、教養を身につけつつある。

雨見風菜 > 「そうですね。
 またこんど、ごちそうします」

裏目った。
個包装ごと収納ではなく中身だけ収納したのがこんな形で裏目に出るとは。
表情には出さず、内心で後悔する。

「本当、良い人に拾われてよかったです」

227が教養を身に着けてるのを見て、つくづく思う。
自分では、彼女を拾う余裕なんてなかった。
根本的に助けられず、ただ施すだけしか出来なかっただろう。