2021/10/21 のログ
ご案内:「常世公園」に矢那瀬陽介さんが現れました。
ルミ・イルマリネン > 「……やっぱりまだ臭いがぬけない」

タバコを半分ほど吸ったとき、すんすんと鼻を鳴らした。
髪の毛の臭いが気になったのだ。
日中の実習に夕方からのアルバイト。
どちらも金属を加工する現場だ。
どうにもコークスやオイルの臭いが抜けていないようだ。

「一応シャワーは浴びたんだけどな」

自分にとっては昔からなじみの臭いではあるが、ほかの人はそうじゃない。
ある種のマナーとして、実習やアルバイトが終わったらシャワーを浴びるのだが――

「帰ったらもう一回シャワー浴びよう。
 そういえば寮の浴場ってサウナあるんだっけ」

そんなことを考えながら、またタバコをふかした。

矢那瀬陽介 > 欠けることない月の琥珀じみた月が公園に降り注ぐ夜。
吹き抜ける風に寒さを覚える首筋を撫でて背中に預けたフードを頭深く被る。
向かう先はどことも知らぬ。薄暗い遊歩道を点在する外灯のスポットライトの中へ従容と足を踏み入れていったが。

「ん?」

どこからでもなく紫煙の臭いが鼻に届き目深く隠した双眸を周囲に巡らせ――視線がベンチに腰を下ろす銀髪の女性を捉えた。
一瞥し、通り過ぎようと――して後ろずさりに歩みを戻して。
ベンチに座る相手を見下ろすように背筋を折り曲げる。

「こんばんは。煙草吸うためにこんな寒い公園にいるの?」

フードから覗く唇が弓月の弧を描いて尋ねた。

ルミ・イルマリネン > ”あ、人……。こんな時間でも出歩いてる人いるんだ。”

3/4ほどタバコを吸い終えたころ、人が来た。
いや、別にどうということはないし何も不思議じゃない。
私が居たような片田舎じゃないのだから。
そう考えて少し視線を伏せてやり過ごそうとした。しかし――

「Ugh! Hyvänen aika, hyvää iltaa.(うわ、えっと、こんばんは……?)」

通り過ぎた彼が後ずさりして戻ってきたかと思うと、覗き込んできた。
ビクッと震えたかと思えば、思わず母語であいさつしてしまった。
が、即座に言葉が翻訳されて、相手に伝わる言語に変換される。

どぎまぎ、というかうろたえてというか、目が泳いで困った様子でいた。

矢那瀬陽介 > 「わ?英語……いや、なんか発音が違う」

翻訳されて耳に届くまでの間、かくり、と頭が肩に垂れるばかりに首を傾げ。
きょと、と瞬くする黒瞳を外灯の下で顕とした。
やがて相手が動揺していることを理解し、一歩身を引いてから決まり悪く肩を竦めた。

「驚かせちゃったかな?こんな人気のないところに女の人が一人煙草を吸ってたからつい気になったんだ。
 喫煙者の人は大変だなーって。こんな寒空の下でないと寛げないなんて」

動揺する相手の眼から視線をつ、と上に反らし。頭上に浮かぶ眩い月を収めた黒瞳が細みを帯びる。

「でも、こんなきれいな月を見ながらなら、悪くないのかな?」

ルミ・イルマリネン > 「ええ、とても……」

驚かせてしまったかと聞かれると驚いたと返事をする。

「別に据える場所がないからここでしょうがなく吸ってるわけでも、
 月を見るためにここで吸ってるわけでもないです。
 帰る途中で吸えそうな場所を見つけて、たまたま今日が満月だって気づいただけで」

続く彼の言葉には少し不思議そうに首を傾げた。
確かにこの国も私の故郷もタバコへの規制は厳しくなっている。
しかし別に追いやられてここにいるわけじゃない。
そんな注釈をすれば、まただんまりとして目を伏せた。

矢那瀬陽介 > 言葉一つ一つに笑みを取り繕いながらもゆっくりと距離をとってゆき。

「そうなんだ。ごめんね。なんとなく一人で煙草を吸ってる姿が気になってさ。
 こんなこと言うと怒るかもしれないけれど哀愁?みたいなの感じて。
 なんとなく声を掛けたほうがいいかな、って思ったんだ。
 それだけ」

月を仰ぎてゆっくりと話しかける。やがて相手も言葉を閉ざして無言が漂うのに。
正面を向いて手を前に合掌させる。

「お邪魔だったかな?それなら俺、もういくね?」

ルミ・イルマリネン > 「そういう風に見えました?」

確かに少し疲れていたかもしれないが、
知らない人に心配されるような顔をしていただろうか。
ほかの人と変わらない帰り道だと思っていたぶん、なんだか納得いかない。

「別に邪魔とかは思ってないです。
 ただその……突然声をかけられて驚いただけで。
 私自身、あまりおしゃべりとか得意じゃないですし」

そう、純粋に驚いたのだ。
慣れない土地の夜の公園で、
通り過ぎていった名前も知らない男の人が突然戻ってきて声をかけてきたとなれば、
どんなにコミュニケーションに長けていても怖い。

なおさら、私にはこの島の自治組織の人たちのような戦えるような能力はないのだから。

矢那瀬陽介 > 「表情とは言ってないよ。
 公園に一人で煙草を吸ってる光景がそう見えたってだけ
 ……ふぅん。そうなんだ。おしゃべりしたくない。

どこまでも言葉の交接ができそうにない雰囲気に弱ったように眉を八の字にしていくのは僅かな間。
相手が何を思ってどのように自分を恐れているか知る由もない少年は。

「でもこのまま勝手に去るのもなんか失礼だし……」

独り言を呟いて右へ左へ困ったように視線を彷徨わせる内。自動販売機を見つけてそこから2つの温かい缶コーヒーを買ってきた。

「よかったら飲んでよ。
 これならおしゃべりする必要もないでしょ?」

まるで毒味するようにプルタブを開いて缶に唇をくっつけた。
夜気に冷えた咽喉にじんわりと伝わる缶コーヒーの温かさは心地よく。
は、と息をついてからもう一つの缶を差し出そうとした。

ルミ・イルマリネン > 「公園やこの近くでタバコを吸ってる人なんて、私以外にもいると思いますけど」

なんで彼が困っているのだろう、そんな不満にも似た疑問を頭に巡らせる。
留学してすぐ、帰り道にタバコを吸っていたら偶然満月だと気づいて、少年に絡まれた。

「暖かそうですね……まぁ、それなら」

彼が一度どこかに向かったかと思うと、買ってきたのは缶コーヒー。
ぼんやりと”光る”それを見れば暖かそうだとつぶやいた。
そしてしぶしぶ受け取ると、カコッっと軽い音を立ててプルタブを引いて、飲み下した。

「……うぇ、甘い」

コーヒーという字面に騙された。
故郷のものと比べると恐ろしく甘い飲料に、思わず声が出る。

「……良ければ座りますか?」

一口飲んでその味にひとしきり悶えれば、気づいたようにベンチの端に寄った。

矢那瀬陽介 > 「自分以外にも喫煙者がいる…・…そう言われたら。なんというかもう何も言えなくなる」

満月が出ていれば夜。冬に移ろう寒風の中でそう多くの人はいないように少年には見えていた。
が、何を言っても角を立ててくるのに笑みを装う唇も流石にへの時を描くというもの。
それでも相手が不信感や苛立ちとは別の発言をするのにふっ、と鼻抜けた笑みを零し。

「甘くないよ。だってこれ缶コーヒーだよ?それとも君の国のものと比べれば甘いのかな?」

嬉々と声を踊らす……が続く発言には申し訳無さそうに首を振って。

「ううん。そろそろ俺は帰って寝ないと。
 それはお近づきの印ということで飲んでよ。別にお返しとか要らないしさ」

小さく手を振ればその姿は公園の闇に消えてゆき――

ご案内:「常世公園」から矢那瀬陽介さんが去りました。
ルミ・イルマリネン > 「そんなに目立つことだってしてないつもりでしたし」

特別悩んでいたとかでもない。
髪の毛にコークスの臭いがついて気になっていた程度だ。

「これをコーヒーだって言い張る図太さだけは感心します……」

甘くないよ、なんていわれると、また怪訝そうに缶のラベルを見た。
そこには間違いなくコーヒーの文字。――納得いかない。

「お返しって……」

これを全部飲めというのか。
そんな絶望にも似た表情を浮かべると、徐々に”光”を失って冷める缶を握る。
決意したように唇を押し付けてすべて飲み干せば、
まるで強い酒を煽ったかのような声を出した。

「私も帰ろう。もう一度シャワーを浴びたい」

そういって吸殻を携帯灰皿へ、空き缶をゴミ箱に捨てれば、自身も公園を後にした。

ご案内:「常世公園」からルミ・イルマリネンさんが去りました。