2021/12/19 のログ
藤白 真夜 >  
「はい、どうぞ」

 在処さんの会釈に、小さく微笑んで。……やっぱりもうちょっぴり、スペースを空けるように、いそいそ。
 こ、これはただのパーソナルスペース……!別に失礼ではないはず、なんてきっちり場所を譲りながら。
 ……こほん。先ほどまでの恥じらいを飛ばして落ち着くように、咳払いをひとつ。

「話しづらいなんてことはありませんから、気にしないでくださいね。
 少し落ち着くくらいなんです」

 やっぱり、その物言いは少し失礼に聞こえるかもしれないから、申し訳無さそうに。
 ……かと思えば、努力を褒められるようなその言葉に、やっぱり顔が赤くなった。

「い、いえ、……あ、あの、……は、はぃ……」

 ……やっぱり恥ずかしかった。
 私の異能は、結果として役には立たなかった。
 それでも、その足掻きを褒められるには、嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちで。
 私は結局、言葉を返さずに恥ずかしそうに押し黙るだけになってしまうのだけれど。
 ……土地勘が無いというその言葉には、やっぱり、と顔を上げる。
 恥ずかしがるより、人の助けになることのほうが大事……!

「また、ご案内しましょうか?
 とはいっても、私もこの後委員会のお仕事があるので、異邦人街――はちょっと遠いかな……。
 あんまりご一緒は出来ないかもしれないんですけど……。
 ……地図をかければいいんですけど、私そういうのがダメでして……」

 ……もしかしたら、異邦人や転移してきたばかりの人かとも思っていたけれど、……不法滞在者なのかもしれない。
 考えはよぎるけれど、それでも気にも留めなかった。
 悪意がある人なら話は別だけれど、私の前で困っているなら、素性に関係なくそれを助けたいと思う。
 私は私が意味を感じることを為すと、あの時決めたのだから。

 ……そう思いながら、在処さんにも見えるようにスマホを取り出して地図アプリを立ち上げてみるものの、なんかやたら地図が大きくなったり小さくなったりで、ものすごく大雑把にしか把握出来なかったんですけど。
 私も、地図が読めないタイプでした……!

狭間在処 > 気のせいか、ちょっと最初の時よりスペースが空いたような気がする。
ちらり、と彼女と自分の距離感を一瞥して確認。…まぁ、得体の知れない男だから警戒もあるんだろう。
そう、この男にパーソナルスペースの知識は残念ながら無かったのである。

『落ち着くならいいんだが。会話の流れや空気を阻害するような気がしていたから。』

僅かに目を丸くする。落ち着く、というのは彼にとっては意外な感想だったようで。
どうしても会話、という気軽なコミュニケーションが取れないのは密かな劣等感でもある。
それでも、彼女の言葉に少しだけ…気持ちが楽になった。申し訳なさは消えないけれど。

(…異能に限らず、例え暇潰しやその延長でも…こつこつ地道に積み重ねる事は無駄では無いからな。)

恥ずかしげに黙りこんでしまう少女。ちょっと遠慮が無さ過ぎる意見だったかもしれない。
そこに後悔は多少なりあるものの、彼女のその地道な努力は認められれば、と密かに思う。

―そして、矢張り失言だったらしい。俯いていた彼女の顔がこちらへと向けられる。
…その赤い眼差しを青い眼差しで僅かの間、静かに見詰めていたが、ややあって吐息を零して一筆を。

『俺は落第街の住人で学生じゃない。だから、落第街へ戻る為の道を教えて欲しい。
表の学生街に俺みたいな裏側の住人があまりうろつくべきではないからな。』

下手に隠したり飾らずに、目的地と共に早めにそこへと戻りたい旨を告げる。
そう、素直に伝えながらも彼女が取り出した携帯のアプリを失礼して見させて貰うが…。

「………。」

そもそも、常世島の大まかな全景というものをこの時初めて知った訳で。
繁々とそのアプリで地図を眺めていたが…矢張りどうにも実感というかピンと来ない。

(…かといって、あっちまで彼女に案内を頼む訳にもいかない。
…委員会の仕事もあると彼女は言っているし…さて、どうするか。)

そして、先程からアプリの操作が微妙に挙動不審ぽく見える様子に、沈黙の後にまた一筆書いてそちらに見せる。

『取り合えず、真夜が大まかに分かる範囲で構わないぞ。この後に仕事もあるんだろう?』

ある程度、道先さえ分かれば後は自分で多分何とかなる筈だ…いや、しないといけない。

藤白 真夜 >  
「あ、あれ……?う、うーん……。
 最近、凄い書き込みの詳細な地図を作る方がいらして、この方の地図がすごいんですっ。
 これはそれを組み込んだアプリのはずなんです、けど……」

 少し興奮気味に……ちょっと話半分というか、在処さんのほうを見る余裕がなくなるくらいにスマホをぺちぺちしていた。
 アプリや地図のせいというより、ボタンをやたらぺちぺちするので、重くて読み込まれたり読み込まれなかったりする。……ちなみに、反映するのに少し時間がかかるとちゃんと書いてあった。

「――はっ。
 す、すみませんっ。慣れないことはするものではありませんね……。
 お恥ずかしながら、私もちょっと迷いがちなひとなので……」

 視線を戻せば、落第街の住人であるという文字に、少しだけまばたき。
 そして、それは納得できるものだった。どこか、線を引いたような印象。
 この街でときたま感じる、表と裏の狭間にあるモノ――見えない壁。
 それは、物言わぬ彼の言葉よりも、よほど大きな壁に思えた、けれど。

「……あの街に住む人がうろついてはならないなんてコトは、無いと思います。……私は。
 この街の風紀委員の方々は、優秀です。私は身を以ってそれを知りましたから」

 その言葉は、どこか自分のモノであるかのように、嬉しそうに――

「アナタがどう在ろうとも……間違えを犯さない限り、風紀委員は矛先を誤りません。
 ……この街は、色んなものを許容する場所だと、知り合いが言っていましたから」

 その知り合いの言葉を、借りた。
 私も、何かを許すことはそんなにかんたんではないと思う。
 でも……、

「現に、私が通報なんてせずにアナタのお手伝いが出来ているでしょう?
 ……で、できてますよね?」

 ついにチカチカしだしたスマホの画面を片手に、ちょっと自信なさげに。
 そのあやふやさを振り払うように、立ち上がる。
 やっぱり、直接脚で行くのが一番だから。
 常世渋谷までなら私にもわかるし/何故か落第街への道のりは“カラダ”が覚えているしね。

「落第街に繋がる手前の、常世渋谷までご一緒しませんか?
 ちょうど私もそこで用事がありますから。
 ……そ、そのあとは、こう、……こう……!」

 しゅっ、ちょっと不安気な手付きで、ハンドサイン。
 ふわっとした何かを、ぐいぐいするポーズ。……そう、ふわっと行けないでしょうかという意味です。伝わるかな……。

狭間在処 > (…多分、それは真夜がアプリを連打しているから再度の読み込みの繰り返しで反応が重くなっているのでは…?)

と、アプリに苦闘する彼女を冷静に眺めつつ内心でそう突っ込みを入れてみる。
流石に、これはいちいちメモに書いて見せる訳にもいかないので沈黙だ。
…と、どうやら我に返ったらしい。まぁ、こちらが落第街の住人だと理解したからだろう。

表と裏、その『狭間』――仮とはいえ苗字がそれなのに、自分は結局裏側の人間だ。
――多分、正確には表とか裏じゃなくて、人と怪異の――…

『勿論、偽造学生証や何らかの手段で普通にこっち側に出入りしている連中も多いだろう。
けれど、俺は表と裏の線引きはある程度は…少なくとも、最低限はしておくべきだと思う。』

表と裏が交錯する事を否定はしない。けれど、そこで起こる化学反応が吉とは限らないのだから。
根っからの落第街の生まれ育ちである己にとって、こちら側は――…

『向こうで生まれ育った俺には、こっち側は眩し過ぎる。
勿論、真夜みたいに穏やかで親切な人も居るのは俺にだって分かる。
それに、迷い込んだ身だがこっちは良い環境だと思う――けど、何処か馴染めない。』

と、何時にも増してサラサラと一気に長居文面を綴りそちらにメモを見せる。
若干、感情的になってしまったのは否定出来ない。こちらへの憧れと劣等感が半々、そんな所か。

『…それに、俺は微妙に厄介な種族というか。まぁ、そんな感じで風紀とはおそらく相性が悪い。』

あくまで元・人間ではあるが…出来損ないの失敗作、偽物のとはいえ今は怪異の体だ。
それが平然と我が物顔で表側を堂々とうろつく訳には行かないだろう。

何より、

『真夜の意見も俺なりに分かる。懐が深いのがこの街の良い所なんだろう。
けれど、例えば俺がトラブルの元になってこっちの生徒や生活する人に迷惑を掛けたら自分を許せない。』

壁、線引き、何でもいい。ただ、単純に表側の人間に――となりの少女を含めて迷惑を掛けたくない。
それでも、彼女が通報もせずにこうして対話をしてくれている事は…ありがたかったけれど。

(…ちょっとベラベラと『喋り過ぎた』か…。)

こっちの身勝手な意見や考えをぶつけてしまったようで申し訳ない所だ。
それでも、世界もこの島もただ優しいだけじゃない。同時に残酷でもあるのだから。

「……。」

気を取り直す。常世渋谷…名称は知っている。あの喧騒に紛れた事は一度だけあるから。
少し考え込むようにしていたが、ややあってからメモをサラサラと書いて。

『ありがとう。じゃあ、そこまでの案内をよろしく頼む。
あと、そう不安そうにジェスチャーしなくてもちゃんと伝わってるから大丈夫だ。』

と、彼女の何処か不安げはハンドサインを眺めつつ、少しだけ微笑んだ。

藤白 真夜 >  
「……」

 在処さんの言葉を、読む。
 ……眩しい。
 その感覚は、解る気がした。
 立場としては真っ当な場所に居るはずの私も、本当は血に濡れている。
 居ていい、と言われても素直に飲み込めない、どこか申し訳ないような想い。
 その齟齬と……表と裏の間にある何かが浮き上がる、光と影。

 そんな在処さんにかけた私のさっきの言葉は、すごく自分勝手だった。
 けど、在処さんの言葉を見る私は申し訳無さそうというよりも……、
 どこか、共感するような……悲しい顔をしていた。
 ……種族、という言葉はやっぱり私にはわからなかったけれど。

「――はい。
 そう、なんでしょうね。
 ……在処さんは、優しい方なんですね」

 それは、ちょっと的外れだったかもしれない。
 けど、この人は自分を許せないと言った。
 表の不理解を憎むのではなく、裏の自らを戒めるようなその言葉は、私には……とても綺麗なモノに聞こえた。
 だから、どこかやるせないモノを抱えても……小さく、微笑んだ。

「あ、あはは……すみません。
 私、ちょっとカラダの感覚で道を選んでしまうところがあって、説明出来なくて……。
 じゃあ、手前まで一緒に行きましょうか。
 そこまでなら迷いません、絶対に!」

 立ち上がれば、やる気を出すようにぐっと手を握りしめた。

 ……しかし。
 いざ常世渋谷へ入ると、その街並の喧騒にそわそわと落ち着かなくなるのだけれど。
 でも、だからこそ。
 静かに伝わる彼の言葉が、その足並みや会話の流れを阻害することはない。
 常世渋谷に緊張してしまっている私とは裏腹に、脚はたしかに彼を送り届ける。

 ……表と裏の狭間で、在処さんを見送りながら。

「お気をつけて~!」

 常世渋谷の喧騒に負けないよう、少しだけ声を張り上げて、あなたを見送るでしょう。 

狭間在処 > ――別に、光が憎いだとか怖いだとか、そういう訳ではないけれど。
ただ――自分みたいに、ずーっと、あちらで生まれ育って、挙句の果てに怪異に『された』人間には。
やっぱりこちら側は眩し過ぎて――手を伸ばしたくはなるけど、だからこそ『伸ばしてはいけない』と己を戒める。

嗚呼、でも――彼女の悲しげな顔は正直あまり見たくはなかった。本当、申し訳なさが募るばかりだ。
拒絶はしないけれど、線引きはどうしてもしてしまう…本当、自分勝手だ――俺は。

「―――…。」

だから、優しい、と。彼女から言われて僅かに目を見開く。
優しい?何で?と。けれど、それを問い返そうとしてもペンを握る手は動かなかった。
きっと、その理由を聞きたくはなかったのだろう。…そう、思い込んでしまおうと。

『…いいんじゃないか?そういう感覚的なものも大事だと俺は思うし。
少なくとも、真夜は俺よりこっち側に慣れているのは確かなんだから自信を持っていいさ。』

ゆっくりと、息を吐き出してから気分を入れ替えて改めてメモにそう綴って見せる。
自分はおそらく彼女の一面しか知らないけれど。きっと貴女の方が何倍も優しいから。

その後は、気合を入れる彼女に『気負い過ぎないように何時も通りでいいぞ』と、やんわり嗜めつつも。
そこから、何やかんやで常世渋谷に辿り着けたのは、彼女のカラダが覚えていてくれたからだろうか。

――次に、また彼女と会える時は来るだろうか?何時ぞやの遭難のお礼もロクに出来ていない。
前回といい、今回といい、借りを作ってばかり――彼女はそう思わなくても、自分自身が納得出来ない。だから。

『ありがとう。真夜も仕事頑張ってな。それと。前回と今回、世話になった礼は必ず。』

そう、最後のメモを彼女に示してから深々と一礼をして――束の間の表から、己にとって日常の裏へと。

一抹の名残惜しさは、表の光のせいか彼女への借りを返せぬまま別れた事か。

そうして。表と裏の狭間…境界線で、彼女に見送られて彼は静かに立ち去ろう。

ご案内:「常世公園」から藤白 真夜さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から狭間在処さんが去りました。