2021/12/23 のログ
ご案内:「常世公園」にノアさんが現れました。
■ノア > 昼下がりの公園。
表の通りのクリスマスムードと、雑木林一つで隔てられただけの静かな場所。
気持ち程度の遊具が設置されただだっ広いだけの広場に設置された冷たいベンチの上で
年端もいかない子供たちがボール遊びをしている姿を眺めていた。
ここには危険なヤマを踏んでいる最中の息継ぎによく来ていた。
追われていたとて、日中堂々とこの場所で襲われる事もない。
それに、ここではこの島の"平和"な部分が垣間見られる。
視線の先の子供たち等は、その最たる例でもあった。
■ノア > 雪でも降ろうかという程の寒さの中だというのに、
短パンのまま広場を駆ける短髪の子供の姿に苦笑が漏れる。
「元気なもんだ……」
自分にもあんな時期があったか?
今となっては遥か遠く、色褪せた記憶。
自分も覚えていないような幼い頃には――いや、ねぇな。
無い。記憶力が良い方だとかは関係なく断言できる。
ご案内:「常世公園」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
公園。そこは平和の象徴と言ってもいい。
子供が笑顔で遊び、それを見守る親の姿が。
ときたまくたびれた人間の姿があっても、そこが憩いの場所であるからこそ、羽を休めることもあるのだろう。
ぱたぱたと羽音を立てて鳩が飛び去った。
誰かが歩き寄ったからだろうか。
あるいは――
平和の鳥であるはずのそれが、何かを感じ取ったのか。
「こんにちは。
生きてる?探偵サン」
ベンチに座った男を、頭を傾げ覗き込むように、みつめる。
その瞳は、男というよりも――そのカラダに染み付いた何かを、目的としていた。
「やっと、見つけた。
もう、大変だったんだからねー?
諜報部が久々の出番で鬼のクビ取ったみたいに警告してきてさー。
情報嗅ぎ回ってるやつがいるー、なぜか追う痕跡がバレる、にげられましたー、って」
その女は、確かにその平和に紛れ込んでいた。
その胸の中に何があろうとも。
その姿は、ただの女生徒と変わりなかったのだから。
「――アナタでしょ?」
その瞳の奥底にのみ、仄暗い紅いモノを潜ませながら、平和に憩う男を、愉しげに睨めつけた。
■ノア >
お、白い鳩――
子供たちのあどけなさに毒気を抜かれたせいか、
逃げるように飛び去った事に気が付くのに数瞬遅れが出た。
警戒心が無かったわけでは無い。
それでも、接近を許しすぎたのには理由があった。
「あー、どうもこんにちは。
御覧の通りの元気そのものなんだけど――で、アンタ誰だ?
紅龍のおっさんの友達って線ならありがてぇんだけど」
声をかけてきた相手はフジシロマヤ。
自分の知るセーラー服の少女と瓜二つの外見特徴。
それでも、初めて会った時に感じられた血の香を極力隠そうとする意志は
あまり感じられない。
ノーフェイスん時もこんな感じだったな……。
呪われてんのか、このベンチ。
探偵業を始めて以来、捜されて見つかるのはここに来た時ばかりで
多少なりとも因果を感じざるを得ない。
「そんで俺が追っかけてた本人自らお出ましっていうわけか。
諜報部って奴らも大概だな」
肌がひりつく。
危険な存在を相手にした時の恐怖感にも似ているが、どこか違う。
「さぁ、探偵なんだから色々追っかけてんのはその通りなんだけど、
――どれの事?」
言いつつ、足元に置いたままのジュラルミンケースの中のアンプルを
かかとでベンチの下にそっと音の立たないように蹴り入れる。
あぁこの感覚はあれだ。
圧倒的に強い奴に、弄ばれてる時に感じる焦燥感。
■藤白 真夜 >
「……そっか。アナタ、真夜を知ってたわね。
――にしても、勘が良いみたいだけれど?」
諜報部から受けた報告は、腕の立つ探偵というコト以外あまり解ってない。
自慢じゃないけど、ウチの諜報部は別に優秀でもなんでもない。ただ何度か逃げられたということだけ。
だからこそ、私には警告が降りてきていた。
極力、隠れて情報を出さないようにするか、
――もしくは。
「じゃあ、“はじめまして”。
まあ私も真夜なんだけどね。真夜の裏側担当?みたいなカンジ?」
名を名乗り、スカートの端を持ち上げて芝居がかった一礼を。
……最低限の礼儀は払わないとね。
「そうなの!ウチの諜報部、結局本業が製薬だからそんな優秀じゃないワケ。
隠れてるのに慣れてるヤツと追っかけっこなんて元からできないのね。
……危険を感じ取るような優秀な探偵とはね。
私だって、見つけられるはずはなかった」
本当、がっかり。なんて溜め息をつく仕草。
私、一応守られる側のはずなんだけど。
……皮肉にも、闇の世界を知る探偵を見つけられるのは、私であるからだった。
「アナタが、ミスするまではね」
犯人を追い詰める探偵かのように、人差し指を立てる。
そこから微かに赤い霧が漏れ出したかと思えば、男のほうへ向けて漂う。
それは、ベンチの下へと潜り込んでいた。
「ソレ、手元に置くのはやりすぎだったねー?臭いがついちゃうから追い掛けれちゃうの」
にんまり、と悪戯が成功した子供のように邪気の無い笑いを浮かべる。
そこに殺意は有り得ない。
しかし、問い詰めるような視線は強い。
「……何が目的?」
そう問う顔から、表情が消えた。冷たくは無い。
しかし、そこには何も無かった。自らの中に沸き立つ感情を消し去ろうとするように。
■ノア >
「鼻が効いて足が良く動くだけなんだけど、
悪い予感だけは外さねぇ自信があってさ。
どうも"はじめまして"。
どっちもマヤだと呼びづらいんだけど、あだ名とか無い?
諜報部のお友達になんて呼ばれてるかでも良いんだけど」
裏側担当、二重人格のような物か?
芝居がかった振る舞いに対して口の端を上げて挨拶を返す。
懐の銃に手を伸ばす事も無く。
紅龍から貰った方なら牽制くらいにはなるかも知れないが、
交戦の意思を見せるだけ無謀というものだろう。
「だったらその無能な諜報部さんの早とちりじゃねぇかな。
知り合いの用心棒が良く怪我する上にあぶねぇ奴に絡まれたってんで、
気ぃ利かせててよく効くキズグスリを買っただけなんだけど」
半分本当で半分嘘。
フジシロマヤを調べろという依頼に基づいて関連物品として依頼主に渡す予定で抱えていた物。
当然、その中身がナニでできているかを知りもしたが。
「あー……」
追手を撒いた自信はあった。
追われて逃げおおせる自信も。
「鼻が効くの、俺だけじゃないってワケだ。
犬好きだったりしない? 俺も犬派だから見逃して欲しいんだけど」
悪戯っ子のような意地の悪い視線。
"今の所"自分を問答無用で処分するという気ではないらしい。
でなければ、声をかけるまでも無く首を刈られていただろう。
「目的も何もアンタの知りあいの紅龍のおっさんが
心配だから調べろっつーから親切丁寧に仕事してただけさ」
指示以上、個人的に気になっていた所まで踏み込んだ結果が今の状況を招いているのだが。
初めて藤白真夜に会った時に、己が心を救われたから。
柄にも無く――あの自罰的な少女が救われる事を願ってしまったから。
■藤白 真夜 >
「……」
数秒間、感情の消えた顔で何も言わず男を見つめる。
別に、私に嘘を見抜く力なんてものはない。何なら人の機微にも疎い。
……ただ。
今までもたまにいた探りを入れてきた“犬”どもとは違った。
金の匂いをチラつかせてくるヤツは金で黙らせたし、脅してくる馬鹿は死ぬ寸前までズタズタに切り裂いて二度と近づけないようにしておいた。
……このひとには、そういう邪気のような何かを感じられない、ような気がしただけ。
あるいはそれは。
真夜が私の中に残した何かだったかもしれない。
「――ふ。ぷっ、あははははっ」
しかし、今は仕事だからと一度黙殺したおじさんの依頼と知れば、流石に吹き出しちゃう。
「もー、あのおじさん何してんだろうねー?
あー、良かったー」
安堵するように息をつくと共に、辺りの血の匂いが薄まり女のカラダに、目に見えないほど薄い霧が“戻って”くる。
「探偵サン。よかったね、生きてて。
つまんない殺ししなくて済んだわ」
今度こそ、女は楽しそうに男を見つめていた。その目にはもう好奇心の光しか無い。
「うーん……呼びにくいならマヨって呼んだらいいよ。たまに呼ばれてたし。漢字一緒でしょ?
それよりさー」
相変わらず、自分のことを話す分にはあまり興味が無い。呼ばれ方すらどうでもよさそうに。
「あのおじさん、私のことなにか言ってたーっ?ね、ね?やっぱりアレかな?私に惚れてるってヤツだと思う?探偵の目から見てどう?浮気調査とかもするんでしょ?私、鼻が利くだけの犬とかショージキ嫌いなんだけど、アピールされるとそれはそれでっていうかね?いや、私もう好きな人いるしあんなおじさん脈ゼロなんだけど」
断りもなくずさーっとベンチの隣に座り込めば、話しをせっつくようにまくしたてていた。目もこう、キラキラしている。恋バナ的何かかと思えば、絶対的に違うのだけれど。
■ノア >
へらへらと事実の中でもっともらしい部分だけをかいつまんで口に出す。
沈黙と、マヤと違って爛々と煌めきを携えた視線に息を飲む。
冷や汗が背を伝い、寒空の下で熱いくらいに心臓が鼓動を刻むのをひた隠しにして。
ややあって、唐突に噴出した少女に面食らう。
「……マヤちゃんの方も君くらい笑ってくれると嬉しいんだけどね」
以前あった時、最後に見かけたはにかむような小さな笑顔とはどうにも重ならず。
それでも、あの子が呵々大笑する姿はこんな風なのかと小さく夢想して。
「おっさんも"一般人"を巻き込むつもりはなかったんだろうよ。
まぁ勘づいちゃいただろうけど、万が一があるからな。
俺もその心配は無用だって報告できるし、おっさんも安心できる。
やべぇモンに一般人巻き込んだら心が痛むしな」
うぃんうぃんだろ? とい言いながら、目で追えるわけではないが感じ取るのは薄くなった血の香り。
気を紛らわせようとして手に持ったままだったコーヒーを口に含んだ拍子に
眼前の少女の意のままに動くそれに無意識に手で触れてしまい、
咳き込むように地に顔を伏せる。
触れた事に気づいたわけでは無く、触れた事で気づいてしまった事があったから。
嘔吐を堪える姿が、眼前の少女にそうと見えないように。
「――うぇほっ、あっ……あー、あぁ。
ま、生かしてくれてありがとう。
俺みたいなの気まぐれに殺したらおっさんも嫌がるだろうさ」
命令されたからとりあえず殺したなどと言えば、あの男は心底嫌な顔をするだろう。
「マヨ、マヨちゃんね。
娘でも見るような目なんじゃねぇかと思うが……
あ? え、なんだ。あのおっさんモテ期って奴か?
浮気調査くらいそりゃやってっけど」
生かされた事への安堵、突然"流れ込んできた"情報への困惑。
色んなものを飲み込みながら、少女のキラキラとした視線に押し込められる。
■藤白 真夜 >
「そだねー。
私も、己の欲に従わない殺しとか絶対ゴメンだし。
……良かったね。真夜と遭ってて。
アナタが、真夜の中にこのキモチを残してなかったら、アナタのこと殺してるとこだった。
真夜もちゃんと笑ったわ。
他ならぬ、アナタに笑顔を見せたんだからね。その多寡も意味も私にはどうでもいいことだわ」
男が咳き込んでも、女には何の感情も浮かばない。
気の進まない殺しを語る顔には、先程までの無表情とはいかないもののやはり感情らしいものは薄れていた。おじさんはいつもこんなつまんない想いしてるのね……。
ただ、“真夜”のことを語る時だけ、静かに目を閉じて微笑んでいた。
紅い瞳が見えないその時だけ、二人の姿は重なるのかもしれなかったけれど。
「娘ぇ?……それはそれでなんかヤダ。
パパって呼んだほうがよかったりするのかな……いや、ちょっとキモいかも……。
探偵に依頼するのも結構キモいほうなんじゃ……。
いやでもおじさんにバケモノ認定されるならそれはそれで美味しいかも……?」
きらきらと弾んでいたかと思えば、ビミョーそうに顔を顰める。
かと思えば、またわくわくと何かを妄想して顔を輝かせていた。
「……ま、おじさんはいいや。今はアナタだし」
そう言うと、今度はちゃんと探偵の顔を見つめた。
そこに危険なモノは無い。でも、まっすぐに見つめて。
「ゆびさきのことは好きにしていいよ。私も、好きに調べていい。どうせ何も出てこないしね。
ただ、」
今度こそ、男を見つめる瞳は感情が宿る。
それは、獲物をいたぶる猫の目だろうか。
あるいは――好きな人を渡さないと恋敵に自信満々に宣言するかのように。
「真夜の邪魔をしたら殺すから」
短く。けど確かに、そう告げていた。
■ノア > 「……アンタは欲でおっさんは情ね。
人を殺す気持ちはまだ知らないもんで
――感謝しとかねぇとな。
あの子が笑えたんなら、そりゃ良い事だ」
助けたいと願い、笑ってる方が似合うなどと言った自分が
あの時逢っていなければ殺されていた、か。
……ははっ、笑えねぇ悪運の良さ。
姿形は瓜二つ、静かに微笑む姿を見やる。
二重人格の表と裏。
彼女は裏と言ったが恐らくマヤはマヨを知らない。
あるいは知っているがマヨの活動内容について知らない?
――分からない物は、一度持ち帰るとしよう。
「お兄さんとでも呼んでやりゃ喜ぶんじゃねぇか?
なにしろナイーブな年ごろらしいからな。
……アンタおっさんにバケモノとして見られてる方が良いのか」
紅龍とマヨの会話を聞いていたわけでは無い。
彼が何を語り、彼女が何を明かしたのか。
依頼の理由を問わないという不文律が残したブラックボックスに、少しだけ引っかかった。
おっさんはバケモノを殺す。その専門家で、それをできる人間だ。
「ご本人様から許しが出たんで、自己防衛も兼ねてもうちっと探らせてもらおうかね……」
ようやく向けられた感情は、好意的な物とは言い難く。
敵意と呼ぶには迂遠で。
視線一つで動く事もできずにオモチャのように転がされながら、
少女の勝気な宣言に小さく笑い返す。
「……なんだ、あんたマヤちゃんの事大好きじゃん」
■藤白 真夜 >
「ふふふっ、そーなの。ワカっちゃう?
アナタやっぱり、腕のいい探偵サンね」
殺すと言った直後にも関わらず、どこか嬉しそうにそう言う女の頬は、ほんのり紅く染まっていた。
「私、人殺しは出来ないの。真夜にダメって言われてるから」
……思えば、このひとを大分怖がらせてしまった気がするから、一応言っておく。正直気にはしてないけど、真夜が気にしそうだし。
「でもね。だから、真夜のためなら殺せるんだ。そこに欲や情みたいな意味が無くてもね」
そう呟く言葉は、男に向けたものではなかったかもしれない。
自分に――胸の中へ言い聞かせるような、静かな決意の言葉。
「……まあ、私のことはどーでも良いんだけどね。
おじさんにナンパされるわ、探偵に付け回されるわで……もーつかれたー。
……私、帰って寝る」
ひとしきり騒いだかと思えば、今度は疲れたかのようにおとなしくなっていた。
……まあ疲れたのは事実なんだけど、はしゃいだ子供が昼寝するみたいに見えるかもしれない。
「あ。忘れてたー」
すっくと立ち上がりすたすたと帰りだしたかと思えば、探偵を振り返りまたすたすたと歩み寄る。
「これ」
むんず、と掲げたバッグから取り出した茶色い紙袋を、男が受け取れるかも気にせず放り投げる。ベンチに落ちればいいでしょ、たぶん。
「それ、口止め料。
ま、ただの口約束だから気にしなくていいんだけど。
雑に吹聴されると面倒だから、その分だけね。
アナタならそんなコトしないと思うんだけど、諜報部の人たちがね?お冠でね?
……じゃあね、探偵サン。
私、シャーロック・ホームズ嫌いなんだよね。ほぼ犬だし。」
それだけ言うと、振り返りもせずに歩き出す。本当に疲れていたのか、少し眠そうな足取りで。
袋の中には、厚い札束が三つ入っていた。
それと、黒いケース。中にはあのアンプルが三つ入っている。
それに込められた意味は何だっただろうか。
現金にして300万に上乗せした150万と取るだろうか。
これを持っている限りお前の場所は解るぞ、という脅しだろうか。
あるいは。
私達は、これだけのモノを作ったんだ、という子供じみた自慢にも、見えるかもしれなかった。