2020/06/13 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に城戸 良式さんが現れました。
城戸 良式 > ――人間を。
生命を維持しながらできるだけ小さくすると、
どのくらいの大きさのサイズに収められるだろう。


ぼんやりと。
目の前のランチセットのハンバーグにナイフを通しながら、
頭の中で考える。


腕や足はいらない。
そこに臓器は詰まっていないし、
生きていればいいので、
能動的に動作を行う必要はない。

大事なものは脳と内臓各種だろうか。
腹の中に詰まった大体の臓器は
濾過か消化のための器官で、
どれがどの機能を果たしているかは調べないとよくわからないが、
安易に切り離して取り除いてしまっていいものでもないだろう。

城戸 良式 > じゃあ胴体の大きさくらいの空間は要る。
ただ、恐らく人間の身体は、動作のために伸縮するように出来ていて、
そのための余白というべき余剰を体の中に持っている。
体を曲げるためには、内臓をよけて肉をたわませないといけないし、
ある程度衝撃を吸収する必要もあるだろう。
これらは能動的、あるいは受動的に動作をする動物であるから必要なもので、
動作が必要ないのだとすればその余白も必要ない。
だったら、恐らく全ての内臓をきちんと詰め込めば、
今の半分くらいの容量になるのではないだろうか。

きっちりと詰め込み、
導線を造り、
流れを生じさせれば、元々の臓器の上下すら関係なく、
きっちりと何十センチ四方程度の箱にすら詰められるだろう。
肉や骨も体を支える仕組みだろうから、
それらも必要ないとすれば、人間はもっと自由な形になるだろう。

城戸 良式 > 脳は必要だ。
ただ、それに付随する顔面のパーツは、
他のすべては入力装置だったように思う。
視覚、嗅覚、味覚、これらは脳に情報を伝えるための装置で、
それを出力する必要がないのだとしたら、
それらも不要ということになる。
見て感じ、嗅いで感じ、舐めて感じたとしても、
それを外側に伝える必要がないのだとしたら、
そもそもがそれらの器官は必要ない。

だとしたら、脳の大きさという、
頭部の半分程度の大きさを確保すればいい。
箱状に収められた内臓の中心にでも置けば、
神経系の長さの必要も最小限になる。

胴体の半分と頭部の半分程度。
これが恐らく、人間が生命を維持できる最小単位。
思ったよりも小さく収まった。

城戸 良式 > 大体、デスクトップ型のパーソナルコンピュータ程度だ。
場所も取らない。
透明な箱でなければ、その中に人間が収められているとも思わないだろう。
机の下にでも置いておけば、きっと誰も気にも留めない。

今より多くの人間が存在出来て、
今より邪魔にならない。
人間のパーソナルスペースが、ぐっと狭くなり、
必要な広さもかなり狭くなる。

この状態でも、
人間は考えることができる。
だとしたら、
この状態で『異能』って使えるんだろうか?
手も足も必要としない異能者なら、
もしかしたらこの状態でも異能って使えるんじゃないか?

城戸 良式 > 「………。
 肉を食べてるときに考える話題じゃないな、これ」

ナイフで切り分けたハンバーグに対する食欲が、
見事に失せていることに気が付く。

暇で。
暇で。
暇で仕方がなかったから。

昼下がりの時間を埋めるために考え始めたことだったけれど、
目の前にある食べ物がもはやハンバーグじゃなく、
牛の死骸のミンチを焼いたものにしか思えなくなっている。

「失敗した……」

話題の、選び方に。

城戸 良式 > 公安委員会の仕事は、特に自分の所属している部署は隠密行動が多い。
隠密行動が多いということは、時間が定まっていないことが多い。
何かが起こる、そのタイミングに合わせて、動かねばならない。
何かが起こらない限りはずっと待機していなければならない。

本日は、ド級に待機が伸びた。
食欲は一週回ってどこかに逃げてしまい、
それでも促されるまま滑り込むように注文したハンバーグランチが、
もはや惨殺死体の認識と化していた。

「……公安委員会、やめようかな。
 モチベーションが大きく削れてしまった」

ある意味、自業自得で。

城戸 良式 > 常世学園は、自分に言わせてみれば異能の島だ。
正確に言えば異能と魔術と異種族と特殊能力者の島だ。
元々、話に聞くに大変容以降に少数紛れ込んだ、
そういった特殊な状態にある人間を押し込めるために作られた、
人造の楽園、という話だったか。よく覚えていないが。

そんな中、無異能で頑張っている公安委員がいるらしいな。
そうです、学年二にして一般公安委員、城戸良式です。
親は良識ある人間に育つようにという願いを込めて、
でも何回も書く自分の名前だからこそ簡単な文字でという優しさと共に
この世に送り出してくれたらしいが、
ついに先輩からのあだ名が社畜と化した、
真面目で真面目で向いてないと噂されてる一年留年してる18歳です。

どう考えても真面目な奴が向いていない委員会って時点で、
破綻してんだよな、公安委員会。

城戸 良式 > そもそも、法治を行う機関として風紀委員会という、
しっかりと警察の代わりになる組織があるのに、
なんで同じような公安委員会なんてものが必要なんだ?
先輩に聞いたところ、法で治める場合、
それに対する監視機能を行う組織が必要となり、
ここではそれに名前がついているだけだ、とのことだった。

にしては、やることも権限もほぼ風紀委員のそれに近い。
自分にとっては、与えられている権限も同じように見えるし、
何か起こった時にどっちが現場に近いか、くらいの違いしかないように思う。

まあ、かといって自分が表立って風紀委員のあの腕章をつけて、
第一線として市民の盾になったり剣になったりしている様は
想像できないので、こういう仕事の方が向いているといえば向いている。
こっちの方が、かなり仕事もやりやすくはあるし。

ご案内:「カフェテラス「橘」」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 「相席いいかしら?」

思索に耽る良式に、そう声が掛かる。
声をかけたのは、ウェーブがかったセミロングにニヤケ面を張り付けた制服姿の女。
首輪のような真っ黒なチョーカー……異能制御用リミッターを見せびらかすように軽く襟をはだけさせ、返事も聞かずに対面に座る。

「久しぶりね、リョウ君」

元違反部活所属学生。日ノ岡あかね。
つい最近、『補習』を終えて外に出てきた札付き生徒。
あかねは一方的にただただ笑って、良式の目を見た。

城戸 良式 > 「あ”あ」

カエルを踏み潰したような声を出して一回突っ伏する。
思い通りにいかない委員会。
食べたくもなくなったハンバーグ。
最初から相席する気満々の、日ノ岡あかね。

そうか……『出てきた』のか、彼女。

フルコースのデザートが一番強烈だった。
そんなフルコースあるか?

顔を上げ、苦みの強い笑顔を返した。

「……自分の誘いを俺が断れないの知ってて言うから性質悪いよな。
 お久しぶり、あかねさん。特に表で会うの久しぶりじゃない? 元気?」

なみなみかかったハンバーグソースくらい皮肉たっぷりに言いながら自分の食事プレートをずらして相手の座る位置を示した。

日ノ岡 あかね > 「ふふ、リョウ君のそういうところ私好きよ。
 お陰様でとっても元気。
 二年生ももう一年続けられることになっちゃったから、それも含めて良いことづくめね」

良式の反応一挙手一投足を逐一楽しそうに観察して、くすくすと笑う。
マイペースにティーセットの注文を済ませながら、両肘をテーブルについて、緩やかに組んだ両手の上に軽く顎を乗せた。

「相変わらず外は『楽しいこと』ばかりだし、
 リョウ君みたいな可愛い男の子とお茶もできるんだから、これで元気にならない理由を探す方が難しいわ。
 アナタもそう思わない?」

ハンバーグ越しに甘ったるい上目遣いで良式の目を覗き込んで、あかねは猫のように目を細めた。

城戸 良式 > 「……そりゃどうも。
 例の事件前ならその『好き』だけで恋に落ちれたのに残念だ。
 いっそ記憶消そっかな。できれば何もかも」

自分にとって、いや、広く公安委員にとって、
もっと広く風紀委員や公安委員、平和に暮らしたい人にとって、
日ノ岡あかねが食事中に相席してくるというイベントは、
中々に緊張する物のはずだ。

……違反部活の最後の生き残り。
うちの部署では、彼女のことを勝手に『歩く緊急事態』と呼んでいた。
結局、一年で出てきたんだな、と感慨深さすら感じる。

「……そりゃ『補習』よりは楽しいことばっかりだと思うよ。
 こんな美人と相席できる幸せを、俺も今噛みしめてるよ。おかしいな、苦虫の味がする。
 ああ、んじゃまあ、俺に会ったのはさて置くとしても、
 今も『楽しいこと探し』の最中ってこと?」

それはまあ。
まあまあ、風紀委員にとっても公安委員にとっても面白い状態ではないわけで。

日ノ岡 あかね > 「ええ、毎日毎日絶賛『楽しいこと探し』をしてるわよ。
 その甲斐あって、どこもかしこも相変わらずこの島は『楽しいこと』で溢れているわ。
 外に出られるように『補習』を頑張った甲斐もあるというものね」

まるで恋する乙女のように両頬を紅潮させて笑う。
折良く届けられたティーセットの紅茶を砂糖もミルクも入れずに飲みながらも、視線は良式から逸らさない。
相変わらず舐めるように良式の顔を見ながら、あかねは目を細めた。

「そんなにでも、お風呂に連れ込まれた猫みたいにならなくてもいいでしょ? 
 ほら、今の私だって可愛い猫ちゃんみたいなものなんだし」

そういって、首元のチョーカーを指さしてニヤニヤ笑う。
委員会謹製の異能制御用リミッター。文字通りの首輪。
通常の異能使用を禁じる代物。
この常世島では、それは額面以上の意味を持つ処断である。

「これなら、全部忘れて恋に落ちてもいいと思わない?」

からかうように、あかねは笑った。

城戸 良式 > 成程、猫の首には飼い猫の証である首輪がついている。

……いやあ、ホント。
何も知らなきゃ恋に落ちてもいいところなんだけど、
何もかんも知ってたら故意にでも落ちたくないんだよなこの人の懐。

「全然関係ない例えばの話していい……?
 ここに俺の大きさの二倍のライオンがいて。
 爪と牙全部抜かれて、できれば目隠ししてもらって、
 『このライオンは絶対人間に噛みついたりせず、人間が大好きです』
 って札を首から下げていたとして。
 俺は一回二回餌やることはできても、
 同じ屋根の下暮らすとなったら、初日でギブアップする自信ある」

強制異能不能者の笑みに、異能不能者は苦笑いで答えた。
両手をハンズアップする動作も加えて。

「ライオン相手に恋に落ちるのは俺がライオンになるまで待って欲しいな。
 今のところ、まあ、その予定はないけど……」

日ノ岡 あかね > 「別にいいわよ? 
 恋は同じ屋根の下じゃなくてもできるし、むしろそれくらいの距離感が丁度いいわ。
 私も無理にリョウ君じゃなくなったリョウ君より、そのままのリョウ君がいいし」
 
わざとらしい笑みと物言いを向けながら、ティーセットのイチゴパイを齧る。
中身の真っ赤なイチゴの身が、どろりと溢れて皿に落ちた。

「まぁ、ライオンとウサギが同じ檻にいられないのは当然として。
 それでも……私、ライオンとトラとかなら一緒でも大丈夫かなって思ってるだけのことよ?
 関係ない例え話でしかないけれどね」

微かに指についたイチゴジャムをなめとりながら、あかねは軽く瞼を落として半目で笑う。
すっかりスイーツを平らげ、一息つくように紅茶を飲む。

「それにトラは……皮を被れば案外なれるものでしょう?」

どこか、意味深に笑いながら。

城戸 良式 > 苦笑いが深くなる。
椅子に深く座りなおして、

「ああ、ホント……。
 そういうところが、性質が悪くて、大好きなんだよな」

自分が嫌になるくらい。
まあ、彼女を相手に色々誤魔化す方が無理か、と嘆息した。

「トラもライオンも、檻の中にいるから、
 みんな格好いいだの、好きだの言ってくれるわけで。
 表歩いてたらどうなるか分かってる?
 いや、分かってるよな。誰よりも知ってる人だったわ」

まだ途中の食事を切り上げて、
二人分の会計分のコインをテーブルに置く。
と、同時にコインの陰に、城戸の携帯の番号の描かれた紙片が覗く。

「次はトラで会えたらと思うよ。
 いつかは、わかんないけど。
 じゃ、撃たれないといいよね」

お互い。と付け加えて、
手をひらひらと振ってテーブルを後にした。

手汗かいてなかったらもう少しサマになったんだけどな……。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から城戸 良式さんが去りました。
日ノ岡 あかね > 「勿論、折角もらった首輪だもの。大事にするわ」

笑顔で見送って、紙片を大事そうに小物入れにしまう。
味わうように残りの紅茶を飲み干して、ティーセットの空き皿をテーブルの端に退ける。
すると、店員が開いた皿を片付けようと近づいてくるが。

「ありがと。ああ、そっちはいいのよ」

くすくすと笑って、無惨に切り刻まれたハンバーグプレートを自分の前にまで引き寄せる。
そして、カトラリーケースから新しいフォークとナイフを手に取り。

「これは元々、私が貰うつもりだったから」

そのまま、何でもないように手を付けて、食べ始める。
肉片をフォークでつついて、ゆっくりと咀嚼しながら。
日ノ岡あかねは……静かに微笑んだ。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から日ノ岡 あかねさんが去りました。