2022/02/08 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に藤白 真夜さんが現れました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■藤白 真夜 >
……何気ない休日の昼下がり。
試験期間ということもあって、躍起になって今更勉強する生徒の姿や、あるいは試験から開放され甘味を味わう者の姿もあった。
そんな最中。
周りの様子を気にするでもなく、テラス席でミルクティーを飲む女が独り。
「……そっかー……。
タピオカってもう古いんだー……」
タピココミルクティーのストローを口に咥えて、何処かつまらなさそうに呟いていた。
“表”に出てこれる頻度の少ない私は、安直な流行り物が好きだが乗り遅れることのほうが多かった。
……その様は周りから見れば、試験に失敗してヤケになった女生徒のように見えなくもない。
しかし――
(……査察が入ってる中やんちゃするのは流石に難しいかな。
いや、案外異能学会の連中から来るかもしれない。真夜の立場結構面倒くさいし。
……『過激派異能促進派の暴挙から身を守るための正当防衛』
ふふ、割とイケるかも……?)
その瞳は道行く人を、その中に混ざる島外の人間を、あらゆるものを見つめていた。
……“都合のいい何か”が訪れないかと、つまらなさそうな瞳の奥に鈍い光を宿らせて。
「――不味っ」
かと思えば、べっとりケチャップのぬられたオムライスを食べて顔をしかめたりしていた。
つまるところ。
人間観察に興じながらの昼食――ただの少し珍しい昼休みなのであった。
■芥子風 菖蒲 >
どうにもここ最近激動と言うか、色々あったような気がする。
何時か起きた事件も皆忘れて、今は試験だの何だのと忙しい。
それもそうだ。学生って言うのは暇じゃない。
学業と言う本分、特に学園都市を一任される
立場である以上、社会人兼業と何ら変わりないんだから。
「…………」
ハッキリ言って試験とかどうとか
テストとか学業とかに不安はない。
勉学は可もなく不可もなく、追試も受けた事は無い。
ただ、如何にもあの事件以来上の空だ。
道行く少年は肩に漆塗りと鞘を乗せたまま、ぼんやり歩く。
別に殺した事を引きずっている訳じゃない。
近しい感覚で言えば疲れに近いかもしれない。
ふぅ、溜息に近い吐息を漏らすとふと、視界に映る見覚えのある人影。
「先輩だ」
見間違うはずもない友人の姿。
てくてくと歩いて近づいていき、声を掛ける。
「真夜先─────……、……」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
少年は感情の起伏には乏しいが
他人の機敏には敏感だし勘が良かった。
言い知れぬ違和感に、少しだけ表情が強張る。
「アンタ、誰?」
少年は素直に問いかける。
■藤白 真夜 >
(……あ)
それは目に入っていた。
“アレ”の顔は流石に私でも覚えている。
真夜の知り合いはひどく少ない。声をかけてくるようなのは、特に。
……内心、考えていた。
(さて、どうしようかな。
こういうタイプは真夜のフリしてからかうのが一番おもしろいんだけど――)
黒色の少年の姿を見て、ほのかに微笑む。
“真夜”の微笑みに似てはいるが、どこか違う。
光の無いはずの瞳は――真っ赤な瞳を嬉しそうに輝かせていた。
「――ふっ、あはは!」
開口一番の誰何の声。
一瞬騙せるかなとも思ったけど即座に見抜く姿に、つい楽しそうに笑ってしまった。
「“私”はキミのコト知ってるけどね? 菖蒲クン。
でもよかった。真夜に血なんて飲ませておきながら、違いがわからなかったら――
くびり殺すトコだったもの 」
顔は変わらない。愉しげにしながら、微笑んでいた。真夜のとはまるで違う、容易さで。
本気で考えているわけではない。本気にすると、怒られちゃうからね。
それでも、あまりに呆気なく口にされるその言葉には、殺意めいた何かが香っていた。
「ねーねー? じゃあ誰だと思う?
ん、こほん。
……『祭祀局の、藤白 真夜です。あ、3年の……』
……こんなカンジ? ねえ、似てた?」
咳払いの後に、微笑みを引っ込ませて……どこか申し訳無さそうな顔をした。
そのまま、その問いに答える。
それは答えでもあり、嘘でもあった。
ふざけるようなその振る舞いに邪気はなく……ただ、はしゃいでいるだけの。
■芥子風 菖蒲 >
見た目は本当に瓜二つ、というよりも本人と言える。
藤白 真夜と何一つ……いや、違うとすれば
あの仄暗い紅色が何時もより明るく輝いている事。
彼女とは違う雰囲気、彼女とは違う感覚。
彼女と違って何処か、変な違和感だった。
「誰だと思うって……知らないし、わかんないよ。
姉妹って感じはしないし。でも、オレにとっては知らない人」
多分ね、と付け加えてじ、と凝視する青空。
何が違うかと言われるとハッキリとは答えられない。
もっと感覚的な、本能的な直感だ。
言葉にするのは難しいけど、それが悪い事かどうかは、わからない。
それを確かめるようにじ、と青空は興味深そうに相手を見ていた。
「……ヘンな感じだ」
同じ顔なのに、こうも雰囲気が違う。
先輩ってこんなにはしゃいだりしたら、こういう顔するんだろうか。
「オレの事は知ってるんだ。
有名人……じゃないよね。飲ませるって言うか、必要な事?じゃないの?」
よくわからないけど、あの時はそう見えた。
ただ先輩は酷くその行いを嫌悪していた。
それは良くないことだって言うし、我慢するとも言っていたような。
少なくとも病院内での出来事だけど、あれを吸血行為と分かる人間が何人いる。
傍から見れば抱きしめられた少年少女の一幕みたいなものだ。
体も顔も相違ないし、もしかしたら
本人であって本人じゃないのかもしれない。
一つだけ、わかる事があるとすれば……。
「……先輩と一緒にされるのイヤなんだ。アンタ」
それだけはなんとなくわかる。
多分彼女は彼女と言う、れっきとした"個"なんだろう。
「それで、結局誰?真夜先輩は何処?」
■藤白 真夜 >
「姉妹かぁ……それも面白そうだけど。どちらかというと、双子かなぁ……。
真夜はしっかりものの姉みたいだし、出来ないことだらけの不出来な妹みたいにも思う。
……あの子は、我慢するのが得意なの」
私は記憶力が悪い。
でも、こうして顔を合わせるとありありと思い浮かべられた。
……ずっと求めていた禁断の血に耽ける真夜の歓喜を。
「その真夜の決意を揺らがせたのが貴方の献身だったというだけの話。
必要か不必要かは真夜が決めることだわ。……たとえ、自らが苦しむことになってもね。
……はあ。あの子、7年くらいは生き血なんて吸ってなかったのになあ」
その口ぶりは、どこか非難するかのような響きのようであって。
……しかし、目前の少年を見てはいなかった。
実のところ非難するというより、拗ねたり嫉妬しているようなものであった。
「んー、私の扱いはどうでもいいかな。私も真夜だし、一緒だけど一緒じゃないし。そこはどうでもいい。
ただ、“真夜”の扱いに気をつけてねってだけかな、たぶん。
……私、動機の――殺意の言語化苦手なんだよね。
ただ、間違えただけで殺せそうな気がしたってだけで」
それは、本当にどうでもよさそうに語った。
結局、個があるのかすらどうでもよかった。
ただ、真夜に血を飲ませたものに対する、稚気のようなもの。
「真夜はここ」
自己紹介をするかのように、自らの胸に手をあてた。
「……“はじめまして”、菖蒲クン。
名乗りはもう済ませたんだけどね。
……私も、藤白 真夜。
二重人格ってヤツ」
■芥子風 菖蒲 >
「……不出来な妹……我慢強い……」
何となくだけど腑に落ちるというか
確かにあの先輩は遠慮がちだし、我慢するのが得意と言うのはそうかもしれない。
「なんか、ごめん。けど、我慢ばっかりはよくないよ、やっぱり」
言われる言葉には何となく棘があるけど
程度にもよるがそれが良い事とは思えなかった。
要するにそれは、自分を殺して生きているわけなんだし
息苦しい生き方なんだ、それ。良く知っている。
自分の事を失くして生きるのって嫌なんだ。
島の外にいた自分がそうだから、よくわかるつもりだ。
彼女が決意した後で言うのもなんだけど、やっぱりよくはないと思う。
あの時と変わらない。そう、誰に向けるのも同じ。
青空はじっと、真っ直ぐ彼女を見ていた。
「……二重人格。もう一人の先輩……ってこと?
じゃぁ、オレの知ってる先輩は寝てる、とか……?」
二重人格。
聞いた事はあるけど初めて遭遇した。
成る程、なら全部合点が行く。
姉妹の様なものも、性格以外全部が一緒なのも当然だ。
"同一人物"なんだから、変わりようがない。
一つの体に、二つの人物。
一体どういう感覚なんだろうか。それを察する事は出来ないけれど。
「どうでもよくないよ」
それは聞き逃せない。
「初めて会うし、どんな人かオレはよくわかんないけど
どうでもいいって事は無いと思う。もう一人の先輩って言っても
アンタはアンタで、真夜先輩は先輩だと思う」
別にちょっと体が一緒なだけだ。
二人のヒエラルキーと言うか、バランスがどういうものかは知らない。
それでも今目の前にいるのは、"別人"なんだ、
名前も知らないもう一人の先輩。どうでもいいはずがない。
「うん、改めて初めまして……で、いいのかな。
オレは芥子風 菖蒲。好きに呼んで。アンタは……なんて呼ぼう?」
「真夜先輩B?」
ネーミングセンスは大分終わっていた……悪意はない。
隣いい?と視線でアイコンタクト。
「七年間生き血を……って言うけど、真夜先輩はそんなに吸ってきたの?
ねぇ、教えてよ。アンタの事も、先輩の事も」
「オレは、"二人の事"が良く知りたいな」
■藤白 真夜 >
「うん、真夜は寝てる。
記憶の優先度は私にあるから、私が上位人格……かも。
だから、真夜が何してたかも知ってるし、あの子が貴方の斬撃を見て綺麗って思ってたのも知ってる。
……私のほうが真夜のこと知ってるってこと」
実際、どっちが上位なのかもはっきりとはしなかった。
意識と記憶では私が上だけれど、身体面では完全に真夜が優位だから。
……真夜の枷がなければ、私はこの少年を殺していたのだろうか。それを予想することすら許されない。
……その口ぶりは、やっぱりちょっと拗ねたように刺々しい。
かと思いきや偉ぶるように得意げに微笑んだ。
「どうでもいいな~」
それも聞き流した。
「私はただ、待ってるだけ。見ているだけ。
……真夜が、生きるのを。生きてるのを。」
少年の言葉は、真に響いた。私は私で、真夜は真夜だ。
私の欲求は私の内にしか無く、それはまだ成し得ない何かだった。
意識や、外からの言葉では揺るがない何か。
「うん、菖蒲クン。私、人の顔とかすぐ忘れるんだけど、貴方は血の味まで知ってるからそうそう忘れないよ」
そして、それとは一切関わりなく、少年のことはまっすぐに見つめた。
真夜とは関わりなく、私が彼に抱くものは、少しの稚気と……血が美味しい男というだけだから。
「呼び方なんて何でもいいんだけどねー……そもそも真夜だし、マヨって呼ばれたりもしてたけど……。
っていうかBって、なに?
……BlackとかBloodは悪くないかもね!」
しかしそのネーミングセンスは割と刺さっていた。
「んー……。真夜のこと話すとあの娘怒りそうだけど……ま、いっか。
真夜は違反部活に居る間ずっと実験続きだったから、色々飲んでたよ。生き血なんていくらでも。人間以外のほうが多かったけど。そこから出てからはずっと我慢してたの。
……ねえ、これ食べてくれない? こんなに食べらんないの。鶏肉なんて入ってるし」
語る言葉の血生臭さと裏腹に、語る口ぶりはひどく軽い。
むしろ座ってとばかりに、隣に一口かじっただけのオムライスを寄せた。
ちなみにべちゃべちゃにケチャップがかかってる。赤い。
■芥子風 菖蒲 >
「ずっと傍で見てたんだ」
きっと先輩の中でずっと見て来たんだ。
彼女自身が生まれた時からずっと傍で見てたんだ。
そりゃよく知っているはずだ。彼女の事も。
「なんだかお母さんみたい」
母親と言うには少し違う気もするけど、何となくそう思った。
「……オレがどうでもよくない」
だから、聞き流されても少し食い下がる。
先輩の中でずっと先輩を、自分を見て来たもう一人の先輩。
彼女事がもっと知りたい。彼女がどんな人なのかもっと。
どうでもいい事のが多い少年だけど、こういう所だけは違うらしい。
「でも、今はこうして外にいる。別に見てるだけって訳じゃないと思うけど」
勿論それが限られた自由なんだろうけれど。
何もかもが不思議な先輩だ。
ふぅん、と相槌を打って隣に座った。
…何というか、雰囲気も違う。当然だけど。
護ってあげたくなるような感じと言うよりも、何処となく蠱惑的。
「血の味?……あの時見えたのって、もしかしてアンタ?」
あの病院の一連、あの一瞬。
確かに彼女の瞳にかすかに光が宿った気がした。
恍惚を宿した表情はもしかして、彼女が表に現れたものなのかもしれない。
「じゃぁ、マヨ先輩で。……?……うん?」
呼び名は決定した。因みにBについては理由はない。
だから不思議そうにしてた、ライブ感であだ名をつけるのはやめようね。
「違反部活……?実験続きって、何されてたの……?」
軽く語る割には随分と重い内容が出てきた。
要するに彼女は違反部活にいいように扱われて来たという事になる。
目を丸くしてぱちくりしてる最中、差し出されるのは赤いケチャップ。
いや、赤いんじゃない。ケチャップ塗れなんだ。
それこそ血のようにべったりだ。
「…………」
それにも驚いた。ぱちくり。
「……肉、嫌いなの?」
食べろと言われたら疑うことなく食べる。
スプーンを片手に掬って食べた。もごもご。
……うん。凄いケチャップだ。もうオムライスって言うよりケチャップ食べてる気分。
■藤白 真夜 >
「……お母さんは流石に早すぎるかな……」
その言葉には流石に眉を潜めた。……彼の言う母に意味はあったかもしれなかったが、“私は”そういう機微はどうでもいいのであった。
「うーん、お肉も嫌いだし卵もキライ。ご飯も好きじゃないかなー。
トマトはなんとかイケるカモ」
ならどーして頼んだのか、と言われてもオムライスの見た目が好きなだけだった。赤くできるし。
「……食事がそもそも、要らないんだよね」
頬杖をついてつまらなさそうに、もぐもぐ食べる少年を見ていた。……やっぱり赤いのだけは美味しそうに見えるんだけど。
「部活に居るころ、目的のために私達ってば頑張ってたの。
そうしたら、異能が膨れ上がっちゃって。
食べ物も要らないから受け付けないし。
心臓も要らないから体温も下がるし。
……傷ついても傷つかないし、死にもしない。
そのあたりは、貴方も聞いたでしょ?」
やっぱり、つまらなさそうに語りながら、ミルクティーのストローを咥えて飲んだ。
「……ナタデココ、吸いづらい……」
何かにつけて口を開くと文句が出てくるものの、味に不満はなさそうなあたり甘いものは好きなのかもしれなかった。
「私はどーでもいー。
真夜が不安になったり弱ったりすると出てくるけど。
基本、やることといったら血の補充くらいだし。
……落第街あたりだと面白いこともあるけどね。あ、菖蒲クンに会えたのも面白いことの内には入るかな」
……どうでもよくないことは、まだ出来ない。なんとか出来るようすり抜ける路を探す妄想にだけは余念が無かったけど……、
「あ、間違えたー」
病院の、あのいっとき。あの瞬間は私も覚えている。あの歓喜も。そして、だからこそ。
「私が菖蒲クンに直接会うのは初めて。
“あの時”も、真夜が悦んでただけ。……まあ、私も悦んでたけど。
あの子も、アレくらいの貌はするよ。普段禁欲的な分ね。
……大体キミのせいなんだけどね」
そう言いながら、やっぱり少年を見つめる時はちょっと拗ねていた。
■芥子風 菖蒲 >
「……確かに。まだマヨ先輩も若いし」
それは確かにそう。
別にお母さんって言う程大きくないし、まだちょっと幼すぎる気もする。
おまけにケチャップ凄い掛けるし。甘いものは好きみたいだし。
……もしかして、案外子どもっぽいのかな。
「…………」
黙々と黙ってオムライスを掬いながら話を聞いていた。
確かに聞いたことがある話だし、その原因は違反部活に居たから。
同情しない……と言えばウソになるけど、憐れむのも違う。
そうなった事を仕方ないと言う気はないけど
"ワケあり"なんて、この島じゃゴマンといる。
彼女はそう言う理由なんだ、位だ。
……にしても本当にケチャップの味しかしない。
流石の少年もちょっと顔を顰めた。
口の周りのも、ちょっとケチャップがつくほどに。
「……赤い……」
赤いものが好き……ってわけじゃなさそうだ。
多分だけど、血が好きなんだ。彼女たちは。
誰かの好物が果物とか同じ感覚なんだと思う。
今時、吸血種とかそう言うのも珍しい訳じゃない。
「……そんなに周りに興味が無い?」
「オレも言う程興味がある事ばかりじゃないけど
少しは興味を持つ努力をしろって言われた。だから、してる」
何気ない会話で言われたことだ。
前は買ったもののメーカーにさえ興味が無かった。
食べれるならそれでいい、使えるならそれでいい。
そんな程度だけれど、それじゃいけないらしい。
どうでもよくないこと、と言うのはよくわからない。
けれど、その言動は何処か前の自分を見ているようで心配だった。
それに、何処となく拗ねるような言動。
……もしかして……。
「マヨ先輩も、オレの吸いたいの?」
小首をかしげて、訪ねてみた。
■藤白 真夜 >
「うーん……興味はあるけど中身にしか興味が無いっていうか……。
例えば、鶏肉が好きな人がいるとするでしょ。
じゃあそのひとって、バードウォッチングとか好きなのかな? 養鶏所体験コーナーとか好きなのかな? ってハナシ」
……そういえば、真夜は少し似てると菖蒲クンに思っていた。
私のそれも近いのかもしれなかったけれど、やっぱり少し違う。
「……結局の所、周りに興味は無いんだろうね。私も、真夜も。
周りに溶け込む努力、同調する意志、縁を結ぼうとする想い……。
真夜は少しはあるけど、私には無さそう」
頬杖をついたまま、ケチャップをつけた少年の顔を見つめる。つまらなさそうに。
「貴方に対する興味も。
……キミは腕から切って殺すのが良いな、くらいにしか無いんだもの」
ぼーっと。
世間話をするように、そう呟いた。
隣の席になら届く、血の臭いを漂わせたまま。
「私は血を吸うのはいいよ。あれは真夜の趣味だから。私はもっと――いやそうじゃなくて。
……それはともかくとして、貴方の血が美味しかったのは認めるけどね」
……吸いたいのかと問われたら、やっぱりちょっと機嫌が悪くなった。
真夜がそうなら私も、ある意味禁欲中なのであった。……流石に、真夜の恩人を殺したいとか言えないし。
「ねー。
ケチャップ、ついてるよ。
……拭いたげよっか」
やっぱりどこか子供っぽい少年の口元を見つめた。
なんだかなあ……毒気が削がれる幼さと、勘の良さがあるっていうか……。
■芥子風 菖蒲 >
「……見るのが好きなのか、食べるのが好きなのかって事?」
確かに中身は違うけど、"好き"というのに違いはあるのだろうか。
今一腑に落ちない。んー、とスプーンを咥えたまま思案顔。
要するにこの人の言う"興味"は、一般的な娯楽とはかけ離れてるんだ。
だって、この人は自分を殺したら面白そうだと言った。
ああ、そうか。多分そう言う所が違うんだな。
真夜先輩はぎこちないけど人の善性というか
そう言うのに縋ってるけど、この人は文字通り血生臭い人なんだ。
ただ、相手が少年に限って言えばそれを気にする事は無い
「無理だよ」
寧ろハッキリと言ってのけた。
「マヨ先輩に、オレは殺せない。戦って勝つとか負けるとか、そう言うのじゃなくて」
「殺される姿が、見えないや」
実力差とかそう言った事じゃない。
ただ、この人に殺されるような未来が見えない。
少年は幾つもの戦場を経験してきた。
死線を潜る程に、死に近づくほどにそう言った"最悪"は頭をよぎる。
日常に居る平和ボケとは違う。ただ、そう思った。それだけだ。
「興味が無いなら、オレと一緒に色々興味持つような事しようよ。
オレ一人だと何から始めていいかわかんないし。オレもあんまり興味がある事、多くないから」
それならときっかけ作りだ。
刹那的な生き方を否定するわけじゃない。
だけど、この人は、"この人たち"は繋ぎとめておかなきゃいけないんだと思う。
少年は多くを許してきた。だから、彼女(マヤ)の事も、彼女(マヨ)の事も認めている。
一緒に居たいってさ。
「ん?……ん」
そう言えばべったりついてた。
お願いします、と言わんばかりに頷いた。
■藤白 真夜 >
「……そーなんだよねー……。
私もそう思う。
だからこそどーでもいいんだけど」
私は、殺しを考えるともう少し……いや大分ワクワクする。殺しがあったりありそうだとテンション上がるし。
でも、目の前の少年に対して考えてもつまらない感情しか湧き上がらなかった。
……そういう興味しかないのも事実だったけれど。
真夜が彼を殺すことなど――誰かを殺すことは、そう起こり得ることではなかった。
「……興味かぁ~……。
私、ホントにキョーミ無いんだけど。
……我慢してる真夜に血を飲ませるとか……私でも成功しなかったのに、それをやったヤツはちょっとはからかってやろうと思ってたんだけどな~」
結局のところ、少年に対して……あるいは血を吸った真夜に対して、どこか拗ねているのはその事実があるからだった。
少しはからかってやるか、あるいはぶった斬ってみようかと思ったけれど……どうにもそそらない。
だから……ちょっとだけ閃いた、いたずら。
「……じっとしててね」
狙いがそれないよう……少年の顎に、手を添えた。
そのまま顔を近づけて、
――ぺろり。
菖蒲クンのくちびるのすぐそばを、赤い舌で舐め取った。
「……私、赤い色ってスキなんだー。ケチャップとかさ? ……ふふ♡」
ほほえみながら、ぺろりと自分のくちびるを舐めた。
味はやっぱりよくわからない。
不味いと思いながらオムライスを頼むくらいには、人間に興味があったからなのかも、わからない。
ただ、……これは、面白い味がする。
今日、つまらなさそうな顔を浮かべてばかりだったのが、興味に輝いた瞳としてやったりと言わんばかりに笑みを浮かべるくらいには。
「真夜には、真夜のやるべきことがある。
私には無いけど、……もしかしたら、また貴方と重なることがあるかもね。
……私の興味を惹くのは、真夜みたいな仄暗いものばかりだから」
悪戯っこの笑みを浮かべたまま、立ち上がる。
唇を奪った――とは言わないけれど、これで少しは溜飲が下がるというもの。
「じゃーねー、菖蒲クン♡ オムライス、食べてくれてありがとねー?」
そのまま、ゆっくりと歩き出した。……満足そうな笑みを浮かべて。
これで怒り狂ってくれたらそれはそれで面白いし。
少年らしく照れていてもやってやった感が出る。
真夜のでなくてがっかりしたら、それが本望だし。