2020/11/28 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に迦具楽さんが現れました。
■迦具楽 >
――ざわざわ。
ファミレスの空気が少しばかりざわついていた。
その原因は、二人席に陣取って、大量の皿を積み上げている少女。
メニューを片っ端から注文し、あっという間に平らげているのだった。
「んー、これとコレ、あとこれを三つずつ。
あ、こっちは四つお願い」
そして気に入ったものがあれば、また大量に注文する。
店員も唖然としているが、他の客たちは騒然としていた。
しかし、ここは常世学園学生街のファミレス「ニルヤカナヤ」である。
店員も客も、また面白い奴が現れたな、という程度に収まるのが常世が常世たる所以。
際限なく注文し、楽しそうに平らげていく異様な少女の姿を、笑ってみたり、写真を撮ったり。
娯楽の一つとして受け入れるのもまた、常世島なのであった。
まあ、それはそれとして、その少女であるところの迦具楽は、今日は真剣だったりするのだが。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」にリタ・ラルケさんが現れました。
■リタ・ラルケ >
さて、この状況をどう見たものか。
「相談聞いて」と、親友――迦具楽から、携帯端末にメッセージが来た。
正直相談事についてはあまり自信はないけれど、頼られたことが嬉しくはあったし、親友が困っているのなら力になってあげたいと、そう思ってはいる。
だからこそ、嬉しさ半分、緊張半分くらいで、ここ――集合場所のレストランに来てみたはいいものの。
「……うわぁ」
思わずそう声を上げた。
店の中に入った途端、ただならぬ空気は感じていたのだ。そこまで深刻ではないけれど、ちょっとした騒ぎになっているような、そんな感じの。
しかして騒ぎの中心と思しき方を見てみれば、ああとどこか諦念にも似た心地が湧いてきた。
そうだよなあ、と。彼女が食事処に来ればそうなるよなあ、と。
困惑気味の店員に、一応軽く声をかけてからその席の方へ。
「……お待たせ、迦具楽。なんていうか、相変わらず?」
■迦具楽 >
巨大なハンバーグとステーキを、スナック感覚で食べながら。
やってきた待ち人に、ぱっと嬉しそうな顔を向けた。
「待ってた待ってた!
来てくれてよかったぁ。
ほら、座って座って」
とりあえず、今しがた空にしたばかりの皿をまた横に積み上げて。
テーブルの上をさっと拭う。
大量にしかもやたら早く食べる迦具楽だが、その食べ方が無駄なく残さず綺麗なのもまた特徴である。
「リタも何か好きなの頼んで頼んで!
私もいくつか追加するし、遠慮なく食べて良いからね」
なんて言いながら、親愛な友人へメニューを渡しつつ。
自分もまた再びメニューを開くのだった。
■リタ・ラルケ >
「あ、うん」
二人席の体面に座って、差し出されたメニューを受け取る。
この光景に慣れている、というわけではない。人というのは、自分の理解を超えたことを見ると、案外どうでもよくなるのだ。
……予想はしていたけれども。
さて。一枚でお腹いっぱいになりそうな肉を頂いている友人から視線を外し、代わりに今日は何を食べようかとメニューの方へ。しかして数分といったところでどうするかは決まって。
「じゃあ、私は……えっと、マルガリータとミートソースパスタ。あ、あとドリンクバーも」
自分の分の注文を傍にいた店員さんに伝え、メニューを閉じる。
こいつもやたら食うんじゃないだろうなという疑いの視線は、そっと見ないふりをした。
■迦具楽 >
友人の注文と共に、数種類のメニュー、それもパーティーメニューを複数頼み。
ようやく一息、といった様子で相席する友人に向き直った。
「いや、ほんと、急に連絡したのに来てくれてありがとね!
こう、私じゃどうにもわからないというか、ピンとこない事があってさぁ」
と、前置きも何もなく。
さっさと本題に入ろうとする。
■リタ・ラルケ >
さて、ここからは真剣な話である。
勿論大食い大会に出場するとか、そういったことでここに来たわけでもなく。
「ピンとこない事?」
正直、自分は彼女のことをそう深く知っているわけではない。だからまあ、彼女の悩みがどういうものかは実際に聞いてみるしかない。
共通の話題といえばエアースイムだけれど。そのことかな。
あれこれと考えながら、彼女の次の言葉を待つ。
■迦具楽 >
「そうそう、なんていうか、よくわかんないっていうか」
迦具楽の表情は真剣である。
そのことからも、相応に悩んでいる事が分かるだろう。
ただ、先日のエアースイムの件と比べれば、深刻さは感じられないだろうが。
一息ついてから、じっと友人を見て、たずねる。
「――やっぱりさ、人間って好きな相手といると、エッチな事したくなるの?」
大真面目な顔で、そんな事を訊くのだった。
■リタ・ラルケ >
「……」
わあ。
そう来たかあ。
……そう来たかあ。
「……そういうのはさ。もうちょっと、大人な人とかに相談するものじゃないの?」
言葉の意味は――まあ、わからなくもない、といったところだろうか。そういう話を聞く機会が決してゼロではなかったから、まあなんとなく漠然とわかる、くらいのものである。
悲しいなあ、過去の私。だってまだ十二だぜ。
「まあ……私もそんなに詳しいことは知らないんだけど」
恋愛の話だって、まあ聞いたことがないわけじゃない、くらいだ。はっきりと断言できないのが口惜しくはあるけど。
「そうなんじゃない、かなあ? その、本気で相手を好いているんだったらそうなることだってあるんだと思うけど」
■迦具楽 >
ふんふん、と友人の返答に真面目に頷いて。
「いやさ、私って人間の知り合いってほとんどいないし。
その中で親しい相手ってなると、リタしかいないからさー」
確かにまあ、相談相手としては多少幼い相手なのかもしれないが。
世の中には十歳未満でも交際経験がある娘はいるらしいので。
「そっかあ、そんなもんなの、かなあ?
本気で好かれてる、のはわかってるんだけど、こう、性欲っていうの?
そう言うのよくわかんなくてさー」
と、言葉をぼかす事もなく話す。
「リタならほら、可愛いし、良い娘だし、経験の一つや二つあるかなーって思って。
少なくとも、私と違って人間だしさ」
頭を掻きながら、うーんと首を捻った。
■リタ・ラルケ >
「んー」
可愛い、良い子。あまり自分でそう思ったことはないけれど。
「ないなあ、そういった経験。元の世界でそんな話してる人がいたな、くらいで。
そもそも私だって、その、性欲みたいなものはどういうのかよく知ってるわけじゃないし」
恋だ愛だに現を抜かす――という言い方はともかく。とにかく、元いたところがそういったことを考えられる状況でもなかったから、いまだ自分も人と人が好きになる、というのがどういうものかは知らないのだ。
「でもまあ、そっかあ。普通の人とは色々違うんだねえ」
自分のことですらそうなのだ。いわんやそも体のつくりから違うであろう迦具楽のことなど、とてもとても。
「というか迦具楽、恋人いたの? それともまだ付き合ってはないくらいとか?」
そっちの方が、むしろ自分にとっては驚きである。
■迦具楽 >
「そっかあ。
リタもわかんないかぁ、残念」
そう言いつつ、フライドポテトを口に咥えて。
しかし、こんないい子が放っておかれているのも、それはそれで勿体ない気はする。
親友にこそいい出会いがあって欲しいものだ。
「まあね、所謂、怪異ってやつだし。
ここ数年でだいぶ人間に近づいてきたとは思うんだけど」
とは言え、それもようやく理解できて来た、程度のモノである。
根本的な感覚のズレは、どうしたって出てくるのだ。
「恋人、ではまだないなー。
友人以上恋人未満、って感じ?
告白されたけど、返事は保留中」
もしゃもしゃと、ポテトの次は唐揚げを食べながら答える。
「私の事、真剣に好きでいてくれるし、支えてくれるし、私も好きなんだけどね。
だから簡単に返事できないっていうか。
今は一緒に暮らして、同棲しながらお互いを知ろうと努力中」
唐揚げを呑み込んで。
気づけばパーティープレート二枚が空っぽになっていた。
■リタ・ラルケ >
「あんまり役立てなかったかな、ごめんね」
人の話を聞くならばいざ知らず、自分がどうこうというのは考えたこともなかった。
将来はどうなるかわからないけれど――まあ少なくとも今の時点では恋人どうこうはないだろう。多分。
「ふーん……そうなんだ。同棲、ねえ」
相手のことをよく知るために。
そこまでの相手は、自分にはいない。
うらやましいな、とは思った。
「まあ、その。何も知らない奴がどうこう言うものじゃないと思うけど」
「いずれ分かるんじゃないかな。人に近づいてるなら人らしい欲みたいなのもそのうち出てくるだろうし。
それに、そういう雰囲気にでもなれば、なんかこういうことなんだなっていうのはなんとなく思えるんじゃないかと思うんだけど」
まあ、何を言ったって自分じゃ想像の域を出られないのだけど。
■迦具楽 >
「んー、そのうちわかるのかな。
だと良いんだけど――その前になんか、襲われそうというか。
なんだか、相当我慢させてるみたいなんだよねえ」
と、ここでようやく声を潜めて。
「そうなる前にさ、やっぱりこう、何かしてあげた方がいいのかな?
知ってはいるんだ、どうするといいとか、気持ちよくなるとか」
やたら生生しい話である。
■リタ・ラルケ >
「知らないよ」
だからそういう生々しい話は詳しく知らないのである。
声を潜めたあたり、迦具楽もそろそろ話題がアレな方向に行っていることはわかってるんだろうなあ。
「知らない、けど……なんというか、そこまでの相手なら、その。一旦一線を越えたらそのまま行くところまで行きそうだねえ」
迦具楽の話を聞く限り、その相手はひどく溜め込んでしまっているのだろうか。
破裂寸前の水風船に穴を開けるように、一度タガが外れれば全てを吐き出してしまいそうなのである。やっぱり想像ではあるけれど。
■迦具楽 >
「そっかぁ、そうかぁ。
どーしてあげたらいんだろうなぁ」
結局はそこなのである。
好きな相手に、どうしてあげたらいいかわからないのだ。
「んーっ、よくわからーん!」
と、両手を上げてバンザイ。
椅子にもたれかかって、降参の構えだ。
「なんでリタは経験豊富じゃないのさー。
私より人間歴――というか長生きしてるじゃんー」
理不尽な話である。
というか、十二歳に期待する事ではない。
「いいヒトとかいないの?
リタくらいなら、同級生とか、ほっとかれないと思うんだけどなー」
どこかミステリアスで、異邦人の少女。
心惹かれる人間の一人や二人、三人四人と居てもおかしくないような気がしてしまう。
■リタ・ラルケ >
「12歳を長生きしてるとは普通言わないでしょ」
動物とかならばともかく、一端の人間である。
たかだか十二年、それを経験豊富というのは無理がある。
「いいひと、かあ。私自身、そう思ったこともないからなあ」
異性の知り合いは何人かいるけれど、精々一回か二回か会ったきりである。深い関係の相手なんて、まあ思い当たりはしない。
「……そういうひと、いるのかなあ。だって私、性格変わるしなあ」
異能を持つ人間も、異邦人も、この島では珍しくもなんともないけれど。
『自分の性格を変える』という異能を持つ人間は――それが主だった効果ではないけれど――、この島にだってそうそういないのではないか。少なくとも、自分の知り合いにはいない。
■迦具楽 >
「それを言ったら私、五歳だもん。
私の倍以上生きてるんだし、長生き長生き!」
やはり理不尽な理屈である。
「ふーん、でも興味ないってわけじゃないんでしょ?
ほら、あの人いいなーとか、かっこいいな、あこがれるな―とか、思ったりさ」
十二歳はまだ少女とは言え、十分に女の子なのだ。
そう言う気持ち、まだ明確な恋愛感情でなくとも、憧れに違い感情はあってもおかしくないように思う。
「私はその、能力で性格が変わるところも含めて、リタは面白いって思うけどな。
面白いし、うん、やっぱり魅力的だと思う!
私だったらリタみたいな子、放っておかないんだけどなー」
もし自分が年頃の少年なら、きっと友人のような娘には惹かれてしまうだろう。
そして実際に関わってみれば――こうして馬鹿らしい相談にも真剣に乗ってくれる、本当にいい子なのだ。
先日の事もそうだけれど、自分が人間の男の子なら、恋してしまっていたかもしれない、そう思う。
■リタ・ラルケ >
「えー」
ならば5歳が12歳よりもそういった経験があるのはどうなのだろう。
年齢と経験や精神の成長が必ずしも比例しないのが常ではあるけれど。それでもどこか理不尽さを感じずにはいられない。
「憧れ、かあ。そういう意味なら迦具楽にだってそう言えるけど」
どうなのだろう。こと恋愛に限って言えば、ついぞそういう気持ちになったことなどない以上、経験値的には0どころかマイナスである。
好き嫌いはあるけれど、どういう気持ちが恋であるのかだなんていうのは、到底知らない。
「……性格が変わるのを、面白いとか、魅力的とか。そう言ってくれる人も、いなかったんだけどなあ」
この異能を持っているせいで、迫害された経験すらある。一時は嫌いになりかけていた自身の異能を、そう言ってくれる人がいると、そんなことは思ってもみなかった。
目頭が熱くなるのを、飲み物でごまかして。
「ふふ。だったら貰ってくれる? ……なんて」
そう、おどけるように言ってみる。
■迦具楽 >
「えーってなにさー」
そう、迦具楽からしたらリタは友人であり、また姉のように思う部分もあるのだ。
迦具楽は精神性こそ歳不相応な部分が多いが、それと同じくらいに幼い部分も多い。
「へへへー、照れるねえ」
改めてそう言われると、やはり嬉しいもので。
まだ純粋に喜べるほど整理は出来ていないが、先日に比べたらよほど前向きに受け取れている。
とは言え、迦具楽の方こそこの友人の才能に憧れている――羨んでいる事には変わりないが。
「そうなの?
だって、リタと仲良くなるだけで、一度に何人も友達が出来たみたいじゃない。
色んなリタが見れて、私は楽しいし、素敵だと思うけどなー」
言ってしまえば、変わる性格の分だけ魅力があるとも考えられるのだ。
きっと一緒に居れば、ずっと飽きる事なく楽しくすごしていける、そんなふうに思うのだが。
もちろん、魅力的な面が増えると同時に、噛み合わない部分も増えてしまうのだろうけれど。
「え、うーん。
リタみたいな子は、私には勿体ないというか、こんなロクデナシに引っかかっちゃだめだよっていうか」
もちろん、友人は魅力的だし、貰ってくれと言われればやぶさかじゃない気持ちはなくはないのだが。
「――そもそもさ、二人目ってどうなの」
自分にはすでに慕ってくれる恋人候補がいるわけで。
しかも彼女はなかなか嫉妬深い。
「というか、私が刺されるんじゃ?
結構嫉妬深いし――まあ、そう言うところも可愛いんだけどさ。
ああでも、意外と上手く言いくるめたらいけそうな気も」
真面目に悩み始めた。
しかし、まさにロクデナシな思考である。
■リタ・ラルケ >
「……そうかあ。そういう考え方かあ」
言ってしまえば、色々な性格の人間が一人の中に集約されたようなものである。一度に何人も友達ができるというようなもの、というのも頷けよう。
一度でお得、性格アソートセット――なんか嫌だなこの言い方。まあ、そんなころころと変わりはしないのだけれど。
「ふふ、冗談だってば」
真面目に悩み始めた親友を見て、少し笑いながら言う。
100%そういう気持ちがなかったかといえばそうでもないのだが、とはいえ流石に恋人――ではないんだっけ。
けど、そういう人がいる友人に、本気で貰ってくれと言うつもりはない。
「嫉妬深い子なら、なんか私も刺されそうだね。お邪魔虫とかそう言われて。いやその子のこと知らないんだけど」
なんだか、顔も知らない相手にあらぬイメージが付き始めている気がする。ごめん、迦具楽を慕う見知らぬ誰か。
というか今言いくるめたらいけるって言った?
■迦具楽 >
「そういう考え方もありじゃない?
私はどのリタにも魅力があって好きだもん」
そう恥ずかしげもなくのたまう。
まだ全員と会ったわけじゃないが、それでもどの友人もとても素敵だった。
「えー、冗談なの?
ちょっと本気で考えたのに」
と唇を尖らせて。
真面目に、リタが本気であれば本気で二股――一夫多妻的な事も考えたところだ。
「流石に今は刃傷沙汰にはならないと思うけど、正妻は譲らない!
って雰囲気は感じるねー。
あれ、それって、側室ならオッケーなんじゃないかな?」
さらに出てくるロクデナシワード。
いやしかし、一途に想ってくれる相手に対してどうなのだろう、と思わない事もない。
とはいえ、好意を持ってくれる相手には全部応えたいと思ってしまう欲張りさが見え隠れ。
■リタ・ラルケ >
「……なんか、恥ずかしいな」
こんなに褒められることなんて、今までなかった物だから余計に。赤くなった頬を隠すように、少し俯く。
「冗談だよ。流石にひとの関係に無理やり割り込むのはしないって」
好きあっている相手なら、猶更。そも自分は恋とかそういうのもまだ考えたこともないのだし。
「嫉妬深い子と一緒にいる子がそんな軽いノリで側室とか言う?」
何を言っているんだこの人は。いや人じゃないけど。
というかどうして二股前提で話を進めているんだろう。冗談だって言っているし別に付き合いたいとも言ってないというのに。
「……その子のこと、大事にしてあげて? 私はほら、今こうしてるだけで満足だから」
笑いながら言う。なんだかんだで、いい友達なのだ。その関係性を深めようとは思わない。
それでいいのだ。きっと。自分たちの関係は。
■迦具楽 >
「恥ずかしがることないって、ほんとの事だしさ」
迦具楽としては特別に褒めたつもりはないのだ。
ただ事実として、目の前の少女には他の人間にはない魅力がるのだ。
それをハンデと思ってしまうのは非常に勿体ないと思う。
「でもそういう愛もあるっていうじゃない?
なんだっけ、略奪愛ってやつ?」
多分に迦具楽はアホなのである。
「えー、だって正妻が居るなら側室が居てもいいんじゃないの?」
よくはない。
どこの王族の話をしているのか。
「そりゃあ大事にするよ。
私の事、本気で想って支えてくれるんだもん。
だってさ、弱音吐いたりして情けないところ見せても、幻滅しないで安心してって言ってくれるんだよ?
本当に私なんかには勿体ない位素敵なヒトだよー」
なんて、ニマニマと頬を緩めながら話す。
すっかり惚気ている顔だ。
けれども。
「ふーん――本当に満足?
私はちょっと、物足りないけどな」
なんて、少しだけ鋭い視線を向ける。
■リタ・ラルケ >
「文化のズレを感じるなあ……」
側室という言葉をまさか常世の地で聞くとは思わなかった。略奪愛も一夫多妻も物語の中でしか見たことないんだけど。
違う世界にでも迷い込んだのだろうか。
「……そっか。いいひと、なんだね」
そう語る彼女の顔は、幸せそうだった。
本当に、好きなのだろう。友人をこうまでさせるひとがどんな人なのか。
少しだけ、会ってみたいとは思った。
「満足だよ? 少なくとも、私は」
鋭い視線を受け流すように、そう答える。
将来、そういう気持ちにならないとは限らない――どころか、いつかそういう相手を探すときは来るのだろう。
だけど今現在、自分は十分すぎるほどに満たされている。
「……まあ、スラムとか落第街とか、そういうところは違うのかもしれないけどさ。
人同士が殺しあうようなこともない。人と違うからって、のけ者にされることもない。
どころか、こうしてそれを好きって言ってくれる友達もいる」
今までの自分じゃ考えられないほどの平和な世界である。
これ以上、何を望めというのだろう。そう思えるほどだ。
満たされているが故の惰性、ともとれるけど。
だけれど間違いなく、今の自分は幸せであると、そう言える。
「だから、本当に満足。……迦具楽が物足りないっていうのは、どうしたらいいのかわからないけど」
そう言って、少しばかり困ったように、だけど幸せそうに、笑う。
■迦具楽 >
「ほんと、いい子だよ」
そう心から染み出すように、言葉が零れた。
「そっか、まあリタが今を幸せに想えてるなら、なによりかな。
私が物足りないのは、ほら、私の我儘なところもあるからさ」
迦具楽としては、彼女の本気を、本気になった友人の姿を見たいと常々思っている。
そして、その友人が成功する事と――同じくらいに失敗する事を望んでもいるのだ。
可能性の塊とも言える友人が、これからどうなるのか。
楽しみと同時に妬ましい。
「そうだなあ、きっとリタが今の幸せが物足りないって思った時、それがきっとリタが本気になるときなんだろうね」
と、目を細めて笑った。
そんな未来を切望してやまない、そんなふうに。
■リタ・ラルケ >
「……そうだね」
遅かれ早かれ、いつかその時は来る。それは断言できる。
そのきっかけが何かは、わからない。案外些細なことかもしれないし、それこそ今の平和が壊れてしまうような大事件かもしれない。
「物足りないって思ったときが、本気になるとき、か」
その時自分は、どうするのだろうかと。そう考えかけて、
「……そういうのは、未来の私に託そ」
未来のことを憂うのは、あまり得意じゃない。
どうなるにしたって、今考えたところで、と思ってしまうのはあるけど。
「……なんかしんみりしちゃうな、こういうの。こういう話じゃなかったでしょ確か」
なんか、急にシリアスな話になった気がする。途中まではほのぼの……ほのぼの? してたと思うんだけども。
■迦具楽 >
「えーっと、確か私がリタを貰うかどうかって話だっけ?」
それも違う。
「まあうん、相談ってのはそう言う事だったんだよねー。
人間の気持ちは人間に聞いてみようってね」
とはいえ、それを聞くには相手がまた若すぎたが。
それでもとりあえず、聞いてもらっただけ気楽になった。
「いやー、ありがとね、わざわざ付き合ってもらってさ。
ほんと、リタ以外に親しいヒトっていないもんだから」
友人はいないわけじゃない。
それこそ数年ぶりに会った友人もいたりするが、女性となると彼女くらいなものだ。
「あ、リタはこの後暇ある?
時間あったら服でも見に行かない?」
そう誘ってみるが。
見ての通り、迦具楽の服飾センスは壊滅的だったりする。
■リタ・ラルケ >
「話がすり替わってるねえ」
しっちゃかめっちゃかになっている。どうしてこうなったんだっけ。
「どういたしまして……って言うにはちょっとね。もっと大人だったらいいことも言えたんだろうけど……」
何せ経験も何もあったもんじゃない齢十二の少女である。それも少しばかり特殊な経歴の。
あまり力になれなかった気がして、そこはやっぱり残念だったけど。
「服? それは、うん。行きたいけど、」
ハロウィンの時に、着せ替え人形と化したことがある。自分があまり外見に頓着しない分、ああいうのもなかなか楽しかった。楽しかった、のだけれど。
ちらと迦具楽の着ている服を見る。まあ決して絶対的に奇抜というわけではない。あの異様な存在感を誇るTシャツを除いては。
……というか、他が割と普通な分、Tシャツが悪目立ちしている感がある。これを迦具楽以外が来ているのを、自分はついぞ見たことがない。かねてより思っていたけれど、なぜかこの友人はこういう服を好んで着ている気がする。
「……一応聞くけど、普通の服だよね?」
恐る恐る、といったように。
■迦具楽 >
「――え、服に普通じゃない服とかあるの?」
きょとん、と不思議そうな顔で首を傾げた。
なお、このTシャツが全て自作である事を知る者は少ない。
■リタ・ラルケ >
ひょっとして、自分がおかしいのだろうか。実は今世間ではそういう服装が流行っていて、あまりに外見に無頓着すぎて自分だけが気づいていなかったとか、そういうことなのだろうか。そうじゃないと思うんだけどなあ。
普通とは何かみたいに、そういうのを吟じるつもりはないけど。
でもそれはなんか、うーん。
「……まあ、いっか」
人の趣味にどうこう言うのはやめて置く。誰だって好みにあれこれ言われていい気分はしないだろうし。
さしあたっては、
「とりあえず、このご飯を片付けちゃおっか。服はそれから、ね」
話に夢中で止まっていた手を、もう一度動かし始めて。忘れていた空腹を満たしていく。
■迦具楽 >
「あ、それじゃあ私も追加頼んじゃおっと。
話してたらお腹すいちゃった。
――すいませーん!」
そうして、さらに複数のプレートを頼むと、友人が食べ終わるまでにあっさりと平らげてしまうのだった。