2022/02/08 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に麝香 廬山さんが現れました。
■麝香 廬山 >
「へぇ、君勉強熱心なんだね。字がこんなにもビッシリ」
そんな少女の隣にから軽やかな声が聞こえる。
その青年は気づいたらそこにいた。
ファミレス席のテーブルの隣、手にはドリンクバーのグラスをもって佇んでいた。
微笑みが絶えない一見好青年のように見えるが
もし、視線や気配に敏感であれば何処からともなく青年に注がれる視線や気配に気づくかもしれない。
そう、まるで監視されているかのような気配だ。
「試験勉強中?勉強、教えてあげよっか?
僕は廬山。麝香 廬山(じゃこう ろざん)。宜しく」
グラスに入った黄色い液体を揺らし、ウィンクでご挨拶。
自身を監視する気配さえ、青年は気にする様子はない。
「ね、隣いいかな?」
■皋嶺 冰 > 「ひゃッ?!……え、あ……」
突然に掛けられる声、気配なんてものに敏感でいるかいないかでいれば、いるほうではある。
だがそれにしても急に現れたかと思えば、只ならない気配と、その気配に付きまとうもの。
暫く唖然としたような、本気で怯えたような顔をしていたのもつかの間、少しずつ落ち着きを取り戻し、認識し、
……ちょっと苦笑い気味に頷いてみせる。
「……ああ、うん、初めての試験期間だから、何処から突き詰めればいいのか、判らないので……えと、隣は、構いませんが、その」
……なんだろう。なんとも言えないが、ざわついてしょうがない。
落ち着かない。
傍にいられると、なんだか自分にまで、そのよく判らない気配たちに気を向けられてしまいそうな気がして、内心でかなり、動揺していた。
■麝香 廬山 >
「どうもー♪」
青年は飄々とした態度のまま隣に座った。
するりと背もたれに背を預け、氷と液体がカランと音を立てた。
特に気にする様子なく、液体を口に注いだ。
程良い炭酸と酸味が喉に効く。美味い。
実際、少女の感じるものは強ち間違いではない。
強い視線は敢えてそう感じさせているのだろうか。
その視線は時折、隣にいる皋嶺へと向けられている。
そう、まさに"監視"と言って良い。
それは静かに気づかれないように、というものと真逆の監視。
敢えて"そうしている"と言うのをまるで周りに知らしめるかのようなものだった。
「ああ、ゴメンゴメン。驚いちゃった?
神出鬼没って趣味だからさー。……それとも、僕の"周り"?」
しれっと態度を変える事無く青年は尋ねる。
気配に敏感なら気になるだろう。
慣れている自分ならともかく、人に"見られる"というのは
人が思うよりもストレスを感じるものだ。
「ちょっとね、僕は"ワケあり"だからね。
人よりもちょーっとね、監視されてるって言うかね」
「ああ、けど大丈夫。彼等は見てるだけだよ。
それよりも何処がわからない?僕、こう見えて頭いいからさ。色々教えてあげるよ」
よもや、監視されている事さえひけらかす。
微笑みを崩さず、ノートに視線をなぞらせた。
■皋嶺 冰 > 「……」
落ち着かない。というよりも、ただ単純に怖い。
目の前の飄々とした様子の相手が、どういう仕草でどういう態度を取っていたとしても。
周りから感じる「これら」が、それを台無しにして、どうにも認識しようとする気持ちを阻まれてくるような感覚がして。
引き攣り気味の顔で、答えに困る様に口を噤む。
…………ゆっくり、そこから呼吸を二回ほど挟む必要があった。
「……英語が、あまり、得意じゃない、もので。
――その、入学するまで、本当に今まで勉強、してこなかった分野、だった、ものですから」
辛うじて答えた。……嘘ではない。
ノートの勉強内容に、英語だけがすっぽりと抜け落ちているからだ。
■麝香 廬山 >
その感じ方は決して間違いではない。
それはまるで危険物を扱うかのように、青年の一挙一足を追っている。
檻の中にいる猛獣に瞬きをしないように、ずっと見ている。
どこか日常離れした乖離を飄々と受け止め日常に溶け込む違和感。
恐怖と言わず、なんというのか。
「ハハ、嫌なら遠慮なく言ってほしいんだけどさ。
気になるよね?一応、"気にしなく"は出来るんだけどさ」
「そう言う事すると、周りにも迷惑掛かっちゃうからさ」
そう言う意味では立場は弁えてはいる。
だからと言って、らしく振舞えなんてごめんだ。
とはいえ、わざとじゃないんだよ、と苦い笑みを浮かべて肩を竦めた。
そんなので許してもらえるとは微塵も思っていないけどさ。
「成る程成る程。君、日本系の人?僕もなんだけどさ。
多言語って暗号みたいで難しいよねー。どう?リスニング?読み書き?暗記?それとも文法?」
「何でも好きなものを教えてあげようー♪」
青年は何処か得意気だった。
■皋嶺 冰 > もうさっきまで勉強の合間合間につまんでいた優しい甘さは口の中には残っていない。
嫌な酸っぱさが滲んで、気分が悪い。
……胸がきゅうっとして、段々と気持ち悪くなってくる。
単純に、「何も分からないが兎も角嫌だ」という気持ちで一杯だ。
ストレスか、恐怖か。
何にしろ、相手の一挙手一投足で、ちょっとずつ浮かべている苦笑いも崩れてきてしまうような気がして、顔ごと目線を逸らした。
「……あ、あ」
「…………ぜんぶ、だ。その、今まで、本当に、触れて、こなかったから。うん。
……ぜんぜん、わからない。授業も、しょうじき、とても……難しい、もので」
片手でノートを、少し自分のほうに引き寄せる。
……教えて、もらいたくない。
「……だ、けど、だいじょうぶ。いや、その……じぶんで、こういうのは、ちゃんとしないと、だから」
■麝香 廬山 >
別に心理学を習っている訳じゃない。
だけど、此れは別に見れば一目瞭然、という奴だ。
気持ちは大変理解出来る。気持ち悪いよね、これ。
「(或いは僕自身が、かも)」
それならお手上げなんだが、仕方ない。
ふ、と力なく溜息を吐けばグラスを置いて頬杖を吐いた。
「なんだかごめんねぇ。僕って、そんなに怖い?」
ストレートに尋ねた。
■皋嶺 冰 > 「…………怖い」
押さえきれず、ぽつりと。
零すなり、隠していた顔を見せる。
――――目、一杯に。零れそうな涙を溜めている。
「きゅ、急に現れて、よく、わからないッ、なんだか、すごく見られて、見られていてッ……ぉ、恐ろしい、くらい、それを、当たり前みたいに……」
声を幾度詰まらせながら、段々と、公共の場だからということであって押さえていたものが声量ごと溢れてくる。
「――わ、私には、そういうの、そういうのはッとても、とても!!……い、嫌なんだ。私にはっ、私の、その、とても、凄く、触れられたくない範囲が、あって……!!」
ぎゅ。
両手を胸の前でそれぞれ握り締めて、歯噛みして、
今にも大泣きしそうな有様。あと数度つつかれようもんなら、歳甲斐なくぎゃん泣きしそうだとすぐにでも判りそうなくらい。
「っ……勉強、してただけだ!!私は!!英語が全然わからないから!!現代文と、数学だけでも、100点を、と、とりたいだけだっ!!!」
■麝香 廬山 >
「──────……」
まぁ、それもそうだ。
普通の人間なんて監視されてるなんて経験するはずもない。
四六時中休まる事もない。プライベートもない。
突然現れた事に関しては偶然ではあるが、泣かれそうになるのも止む無しだ。
ちらりと何処か彼方へと視線を向けた。
未だ張り付けている笑顔とは裏腹に、冷やかな"誰か"に向ける視線。
それを皮切りに、周囲を取り巻く気配が消えた。
当然いなくなったわけじゃない。ちょっとだけ"小細工"をしただけだ。
「……ああ、ごめんごめん。さっきも言ったけど"ワケあり"でね。
ホラ、この学校って異能とかでさ。そう言う子多いでしょ?」
「僕もその一人ってワケ。息も詰まるよね」
ほら、見ての通り下がらせたから。と、諸手を広げて見せた。
当然嘘だが、嘘も方便と言う奴だ。この場が収まるならそれでいい。
「突然出てきたのは趣味って言うか……ああ、ごめんごめん。泣かないで」
「ちょっと趣味なんだよね。人を驚かすの」
しれっと語る悪趣味。
でもしょうがない。悪戯好きなんだもん。
グラスを手に取り、喉に流し込めばふぅ、と一息。
「君を脅かしたのも、僕のせいで居心地が悪くなったのも謝るよ。ごめんね?」
「できれば仲直りがしたいな。お詫びってワケじゃないけどさ、何か食べる?」
何て、軽くメニューを開いて見せた。
■皋嶺 冰 > 「ッ困る!!!!!!!」
切実な大声だった。
……無論、周囲がその声に振り返らないわけもない。
消えた視線とは別の視線を集めたことで、あなたの努力も若干虚しく。
――すとんと、脱力したように俯いて、手で顔を覆った。
「……ぅ、ぐす……ぅ、ぅぅぅ……」
――泣いた。ぎゃんではないが。
割と本気の泣き声。
「っほ、んとうに、っぐす……こまる、私にはっ、そ、そういうの、ほんとうに、やめて、くれ……ぅぇ……ぇぇ……っ」
切実な訴え。驚かすにしてもその指向性が絶望的に自分と相性が悪かったのだと。
ただ怖いとかではなく、追い詰められてしまうような感覚。
視線の檻。そんなものを耐えうるはずもなく、みっともなくも大泣きしそうになるのを、正直耐えることもできやしない。
「……ワケがある、そういうのはっ、知ってるけど……わ、私にも、そういう、"わけ"がないわけじゃない……っ」
「だから、だから……!!」
――ばっ、と、ノートも伝票も荷物も、手が攫って行く。
立ち上がり、真っ赤に泣き腫らした目元と、くしゃっと歪んだ顔があなたを見て。
「わ、私に、に、二度と!!そ、そういう、そういう驚かしッ、かたを、するのは、よしてほしい!!……しないと、いうなら、っしないなら……次は、もう、泣かないし、怒らない!
……でも、今日は、もう、怒るし、わたっ、し、は、泣いて……泣かせて、くれ……っ!!」
■麝香 廬山 >
軽く両手を上げてお手上げ状態。
「(……しまったな。ヘンな誤解を生んじゃったかなー)」
確かに急に現れたのは脅かしたけど
それ以外は素か本当だ。
監視対象である以上、監視の目はあるし
こうして"他人との関わり"に水を差すのも向こうの思い通り。
追い詰めたつもりはない。ただ、全部がマイナスに働いてしまった。
「ご、ごめんごめん」
流石にこれには面を食らった。
女の子に泣かれるのはその、困る。
おまけに他のお客さんの視線迄集まってきた。困る。
珍しく困り顔で頬を掻いた。
まさしく、"そんなつもりはなかったのに"、だ。
「(にしても、宥める為とは言え異能を使っちゃったし……後で面倒くさそうだなぁ)」
コッチが何をしたかなんて
監視者にはお見通しだ。
まぁいいや、何時も通り適当にいなしておく。
今はそれよりも……。
「本当に悪かったって、二度としないよ。ね?」
この通り、と両手を合わせた。
今はそれよりも目の前のこの子を宥めないと。
「幾ら怒ってくれてもいいし泣くのはぁ~……、……」
公衆の面前、困る。
だけど立場が悪い自分が泣くな、なんていえない。
見知らぬ女性を撫でるのも良くない。
遠からず、されど近づかず。適度な距離でどうどう、と宥める位だ。
そして、彼女が落ち着くのを見計らって……。
「……どう?落ち着いた。お詫びってワケじゃないけど
好きなもの奢ってあげるし、君が試験で100点取れるように力添えを改めて申し出たいんだけど……」
「ダメ、かなぁ?」
おずおずと尋ねた。
■皋嶺 冰 > 「……」
…………ぐっ、と、顔を俯かせて肩を震わせる。
激しくそこに、何か大きな感情が色々と渦巻いているのは見てても解る。
幾らか葛藤があったことか、それも間もなく治まって、ぐい、と、肩で眼を拭う仕草があった。
「……名前」
ぽつ。
「……私の名前は、皋嶺。皋嶺 冰だ」
――上げた顔は、もう泣き止んで、困惑と、呆れと、
まだちょっと泣き腫らして残る涙。
色々感情をないまぜにしたうえで"落ち着かせた"のだと判る。
「今日は、その……もう、帰る。勉強する気も、疲れて無くなってしまった。
だから、だ」
「……今日とは、集まりの違う日に、しないか?
もう注目されるのは嫌だから、別の日に、してほしい」
……周囲を見遣り、微かに肩が縮んだ。
「……あなたも、そのほうが、いいだろう?」
■麝香 廬山 >
「…………」
とりあえずは、落ち着いてくれた事に胸を撫で下ろした。
一定の信用は回復したとみていいだろう。
尤も、それでもまだ下の方だけど。
「うん、それもそうだ。冰ちゃんもそれがよさそうだし」
「……まぁ、そうだね。何とかするよ」
流石に二度目で同じような事が在ったら今度こそだ。
さて、次会うまでに監視者をどう黙らせておこうかな。
あんまり"異能"を使うと命の見積もりを考える事になるし
後で一々言い訳を考えるも面倒だ。
にこり、とにこやかに笑って見せる笑顔の裏では色々な思考が交錯中。
「今日はごめんね?代金は僕の方で払っておくよ。
だから、"また今度"。今度はゆっくり話そうよ」
■皋嶺 冰 > 「……いや、払わなくていい。"今回"は」
じろり。
「せめて意趣返し、次回奢るまで、その申し訳なさというか、反省を……こう、噛み締めていてもらいたい。じゃないと、その……色々と、私は、困ってしまうから」
――怒ってるからな。と、たぶん言いたいのだろう。
ただ直には言わない。いや、言えない質。
根っこは多分ドがつくほど人に対して何かといえない怒れないタイプが、かなり珍しく地雷を踏まれたという状況なのだろう。
「……今度は、本当に驚かさないでくれ。私は……うん、すごく、怖がりなんだ。
……だから、次はちゃんと、いきなりじゃなくて、普通に来て、もらいたい。わかったか?……いや、わかってほしい」
――それを最後の言葉にして、頭を一度、深く深く、丁寧なお辞儀を向けてから、女学生は席を立っていった。
……ひんやり。テーブルの上のケーキと食器、それから飲みかけのほうじ茶は、冬に添えるには、随分冷たいものであった。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から皋嶺 冰さんが去りました。
■麝香 廬山 >
「……肝に銘じておくよ」
それだけ言って軽く手を振り、青年はその背中を見送った。
一人残されて指を鳴らせば、何時もの視線が帰ってくる。
異能の解除だ。前よりも幾つか目線が増えてるし、嫌になるね。
「……にしても、ねぇ」
要するに反省を知ろと言うらしい。
勿論反省はしている。ちょっと不運が重なった。
だが、それはそれとして、だ。
「……ふふ……♪」
驚く彼女の顔も泣き顔も、面白かった。
これだから人と絡むのはやめられない。
それは善意ありきの悪意でもある。
好意的なのは本心だが、その実悪戯が止められない性悪なのだ。
さぁて、と立ち上がれば代金を払って青年も後にする。
次会う時は、少しばかり彼女に対しては身の振り方を考えておこう。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から麝香 廬山さんが去りました。