2020/09/22 のログ
ご案内:「常世寮/男子寮 廊下」に倉間とろみさんが現れました。
倉間とろみ > 夕刻の男子寮。窓からさす西陽は物憂げな茜色だ。
ぼちぼちと寮生の多くが住処へと帰り始める時間帯。
いくつもの寮室の扉が立ち並ぶ、手狭な廊下。そこを、パジャマ姿の少女がゆっくりと漂っていた。

――文字通りに『漂っている』。足は床から10cmほど浮き、滑るように空中を平行移動している。
しかしその速度はじれったくなるほどに遅い。歩いても余裕で追い越せるレベル。
前かがみになり、腕をダランと前に垂らす飛行姿勢は、まさしく日本伝統の幽霊のそれ。
だが、頭に三角の布もつけてないし、透けてもいないし、触れば体温も触感もある。呼吸だってしている。

「…………………………………………すぅ………すぅ………」

……ちょっと鼻息が荒いかもしれないけど。
目を一文字に閉じ、周囲への警戒も疎かなままで浮遊する少女は、眠りながら動いてるようにも見えるかもしれない。
だが実際には、半分眠っていて半分起きている。
その証拠に、たまに思い出したように止まっては、くるりと辺りを見回す仕草をすることがある。

「……ふわぁ………………………どこ……………………………わたしの部屋ぁ……………」

どうやら、女子寮と間違えて男子寮に迷い込んできた様子。

倉間とろみ > さすがのとろみでも、自分の部屋の位置くらいは覚えられる。建物があっていれば、だけれど。
先刻から自分の部屋があるはずの場所を何度も通っては、造りの微妙な違いに混乱し、放浪を続けているのだ。

「……………………この階のぉ………………この扉…………………のはずなのになぁ…………」

今日何度目かも分からぬ『自分の部屋のはずの』扉の前に来て、パジャマのポッケから鍵を取り出す。
しかしドアノブの種類自体が違うのか、鍵は鍵穴に入りすらしない。
――ここにきて、ふと、とろみは何か明確な違和感に気付いた様子を見せる。

「……………………この、匂い……………」

鼻がひくひくとうごめく。普段住まいの女子寮とは違う匂いの存在に、今更気付いたようで。
とろみは、扉の縁に鼻を触れるほどに近づけて、間隙に沿って匂いを嗅いでまわる。
ドアノブや蝶番、そしてしまいには郵便受けをもパコッと開いて、部屋の中の匂いをも確認しようと。
その姿はまごうことなき不審者である。部屋の住人が不在なのが不幸中の幸いか。
――そして。

「…………………雄の匂い。…………………なんで……………?」

女子寮とは明らかに違う生活臭をその鼻に感じて、いよいよ明確な違和感を覚え始めて。
……だが、『入る寮を間違えた』という己の失敗に気づくまでに、さらに数戸の扉を調べる必要があった。

「……………………………女子寮じゃ、なかった………ねぇ………ここ………………………。
 あは……………あははは………………♪」

3軒の部屋の扉を嗅ぎ回ったところで、ようやく事態を察したとろみ。
それでも慌てる様子もなく、感情の籠もらない乾いた笑い声を奏でるのみ。
……やがて無言に戻ると、換気のために開放された廊下の窓の1つから、外へとその身を投げ出した。
70kgの恵体は重力に強く引かれることなく、ふわふわとスローペースで下降しながら、住宅街の屋根の上を漂っていく。

「……………………帰ろ……………」

こんなペースのとろみが、無事我が家に帰れたのかどうか、それは誰にもわからない。

ご案内:「常世寮/男子寮 廊下」から倉間とろみさんが去りました。