2019/05/29 のログ
ご案内:「部屋」にアガサさんが現れました。
ご案内:「部屋」にアイノさんが現れました。
■アガサ > とある日。何でもない日。普通に授業があって、終われば寮に帰った日。
すっかりと油断した室内着姿で寛いでいた私の元に、後輩であるアイノ君が訪れた。
はて、先日もアリス君と二人掛かりで来たばかりだと言うのにどうしたんだろう。
「まあまあ何も無い所だけど……というのはこの間も言ったね。いらっしゃい、お茶とお菓子くらいはあるよ」
不可思議に思うも親しい後輩の来訪は嬉しい。私は彼女を歓迎し、部屋へと招いた。
私の部屋は先日、アリス君とアイノ君がアイスを届けに来た時と何一つ変わらない。
窓にかかる分厚い遮光カーテン
壁に掛かる額縁入りの真っ白なミルクパズル
下の隙間をガムテープで塞いだベッド
ノートPCが乗った、猫みたいな足の付いた小さなテーブル
所々隙間の有る本棚。
衣服を収めたクローゼット。
そう広くは無いけれど、我ながらきちんと整理整頓の出来た部屋だと思う。
■アイノ > 「アイスが欲しいなぁー?」
ぶしつけに先輩に対しての態度じゃない言葉を発しながら、どさりとベッドに腰掛ける。
割と堪えてないような顔をして、はっきりとダメージを部屋に残している先輩を………
心配して来た、なんて口にはしない。
表情にも行動にも出ない先輩の様子を見に来たのが正解だけれど、……それも口にはしない。
だから思い切りアイスをねだるのだ。
無いの―? なんて言いながらベッドにごろーんと横になって。
「お茶とお菓子も貰うけどね、当然!
いや、特に用事とかないけどさ、時々はこうやって尋ねてあげないと先輩であることを忘れちゃうかなーって。」
クソ生意気な態度を取りつつも、にひひ、と笑って。
■アガサ > 「アイスならこの間君とアリス君が持ってきたやたらめったらに硬い奴が冷凍庫にあるよ。
まったく危うく私の歯が欠けるかと思った。一体どこであんなの買ってきたんだい?」
無作法に無軌道にベッドに飛び込むようにするアイノ君に、私は形だけ咎めるように唇と尖らせた。
ちなみにその恐ろしいアイスの名前は『超硬エクスバニラー』というアイスバーだ。
剣の形をしたバニラ味。だけで済ませばいいのに恐ろしく硬い。
私は後輩を横目に台所へ向かい、冷凍庫からアイスを取り出し、冷蔵庫からはペットボトルの紅茶を取った。
「猫みたいな奴だなあ君は!そんなに物忘れが激しいんじゃ2年生になったら苦労をするよ。
この学園。2年目から本気を出してくるタイプだからね。天才のアイノ君とてどうなることか」
戻ってくるとアイノ君はまるで自分の部屋であるかのように寛いでいるのだから、声に呆れが混じりもしよう。
その口にアイスを突っ込んでやろうとも少し思ったけれど、それは思うに留めよう。
「ほら、アイス。お茶はテーブルの上に置くよ。お茶菓子はチョコレートでいい?ドライフルーツは今は杏ならあるけれど」
テーブル傍の座布団に座り、学生鞄を引き寄せて中からお菓子を取り出してテーブル上に広げもし
「そういえばアイノ君。同学年の友達とかは出来た?今年も色んな子が入学してきたようだから」
それとなく世間話を放り投げる。
■アイノ > 「あれなー、くっそ硬いからアガサならいけるかなって。
健康そうじゃん?
あれはー、コンビニでさ、めっちゃくちゃ安売りしてたの。
売れないんだろな、これ。」
そんなものを先輩の口にねじ込む。この後輩は後輩力が無い。
ケケケ、と笑いながら肩を竦めて。
「心配ご無用、天才の上に要領もいいと来てる。
私がダメなら他の奴全員ダメさ。
んぁ、チョコでいいよ。バニラアイスには合うだろ。」
なんて、剣を咥えながら起き上がり。
「んーー……イマイチだな。
みんな距離感を図りつつって感じ。
ほら、ここやべー奴も多いからさ、探り探り。
過去を調べて様子を見て、って奴も多いしな。」
肩をちょびっと竦めて、首を横に振る。
■アガサ > 「どーゆー判断基準だいそれ。確かに私は──ああ、うん。健康、だけど。
でもだからって売れないアイスを人の口に突っ込んだら行けないよ」
健康。
健やかに康らかである事。
私は少し言葉が澱んで、選ぶようにして、後輩の問いに頷く。
そう見られるのなら何よりだもの。
「なんて、私が言わなくても解ってるんだろうけど。何せ要領がいいと自分で言うくらいなんだから……
じゃ、チョコレートをどうぞ。こっちがイチゴジャム入り、こっちがアーモンド。これはコーヒーヌガー入りで……」
アイスを頬張りながら頼もしく語るアイノ君にチョコレートを指し示し、
彼女が肩を竦めるのなら、意外そうに眉が動いたりもする。
「おやまあ今年はそういう感じが強いのかな?百聞は一見に如かずとも言うんだし、
先ずは話してみればいいのに。過去の出来事が事実かどうかまで全部調べたんじゃ学生より探偵ってものだよね」
私はアイノ君の事をそこまでは知らない。
アリス君の家に遊びに行った時に、彼女が冗談めかして口にした事くらいだ。
ただ、初めて会った時の事は憶えている。今の言葉からして、良くない事があっただろうことも想像は出来る。
「尤も?真偽不明の噂の類で人物を決める人は……そもそも友達付き合いがし辛い人でもあるんだけど……
ああ、何だか湿っぽい話になっちゃったね。折角来てくれたのに……そうだなあ。
アイノ君は未開拓地区にある大きなショッピングモールを知っているかな?セレファスと言うんだけど、
この間そこにアリス君と買い物に行ってね。中々面白い所だったんだよ」
話の向きを変えようか。
口に出さずとも、曖昧に笑って私はノートPCを立ち上げる。
開くページは島民向けのSNSで、日々様々な人達の出来事であるとか、店の広告であるとかが忙しく記されている。
私が開いたのはその中でも『セレファス』の口コミ評判が記された場所で──
「………あ、此処此処。このお店が結構おいしくってね。この時は屋上でアイスクリーム博覧会なんてのもやっていてさ」
──その中に、お店で買い物をする私とアリス君の写真を勝手に掲載している人物が、
『10人以上を見殺しにした極悪人ペアを発見』なんてコメントを添えているものも有った。
私はそれらをするりと流して、アイノ君に美味しかった中華屋さんのメニュー表等を示す。
■アイノ > 「大丈夫、味は割と良いんだよな、これ。
先輩の口に入れるもんだし、ちゃんと味見はしたって。」
その上で、面白そうだから買ってきたのだけれど。
にひひ、と悪戯な顔で笑いかけながら、チョコレートを指し示す傍から一つ口に放り込む。
行儀の悪い行動をとりながら、相手の言葉に考える仕草を見せて。
「………度胸のあるやつ、変わった奴はそりゃいるけどな。
私はみんなに集まれーって口にするタイプともまた違うから、そりゃまあ、なかなか難しかろ。
過去もまあ、仕方ないさ。 私の場合は真実三割ってとこでもあるし。
友達付き合いがしづらいのは確かになー。」
は、と笑いながらノートPCの画面をのぞき込み、ほーほー、と無邪気に足を揺らして。
………ほー、と言葉が止まる。
辛辣な、悪意しかない言葉。何も分かっていない奴が、安全な場所から、思いつきだけで放つ言葉。
一瞬、頭痛が走る。
沸々と多種多様な感情が沸き上がって、言葉が出ないまま、顔を片手で押さえて。
様々な光景がフラッシュバックのように浮かび上がって消えて。
突き抜けるような青空、誰もいない部屋、白いベッド、カメラのフラッシュ。
どろりとした空気が少女の足元から流れ出して、アガサの足元に近づく。
怒り、憎しみ、恨み、殺意……
腐り果てた感情が僅かに漏れて。
「あんまり見るとお腹が空くわ。」
かすれた声で囁く。
■アガサ > 「アイノ君」
厭な気配がした。
あの館で感じたモノとも違う冥い気配。空気が圧迫され、ねじ切れそうな威圧感もあった。
私は彼女が何を視てそうなったのか、解らない程愚かではないつもりであったから、
ベッドの上、アイノ君の隣に座り込んで世間話でもするようにした。
「心を割いてくれてありがとう。でも、噂は所詮噂だよ、気にしても仕方がないよ。
大丈夫。私はアリス君が噂されるような子じゃないと判っているもの。
影法師のようなものに君が心を波立たせる事は無いよ」
身体を伸ばしてテーブル上の、一口分ずつ包装されたチョコレートを取る。
包装を解いて、甘やかな香りを放つ嗜好品を私はアイノ君の唇に押し付けて緩やかに唇を曲げた。
「楽しい話をしようよ。そうそう電子計算機研究会が造り上げたとかいうAIは知ってる?
なんでも究極だとか言われてる奴。他にも航空宇宙開発部が対大型の魔物用の機器を作っているとか噂に新しいね。
アイノ君は部活、何か入ったりするのかな?」
常世学園に数多ある様々な部活の話をしてみようと思った。丁度彼女は一年生であるから、
どの部に所属するか悩んだりもしているかもしれない。
■アイノ > おそらく、もし隣にいるのが知り合いではなくて、更に能力者であることが分かっていない赤の他人だったとしても気が付くであろう、感情の奔流。
隣に座るアガサの声が、やけに遠くに聞こえる気がして、首を少しだけ横に振った。
ああ、不味いなぁ。
私はいつだってやり過ぎるから。
「………お前はさぁ………。」
相手の言葉に、荒くなった吐息を、二度、三度とゆっくりと息を吸い込んで、吐き出して。
でもまだ、ツインテールの髪は僅かにふわりと浮き上がったまま。
押し付けられるままにチョコを口にして、もう一度ゆっくりと息を吐き出す。
「………まあ、待てよ。
こいつは、まあ、私の問題でもあるから。」
待って、と掌を差し出して言葉を堰き止めて、もう一度、二度、ゆっくりと。
この短時間で瞳が少し赤く。
「………私が似たようなことでやられてんだよ。
噂が噂を呼んで、だれも止められなくってさ。
私が住むと土地の値段が下がるんだそうだ。
最終的に国がお金積んで、出ていってくれだとさ。」
何度も間に吐息を挟みながら、断片的な言葉を連ねて。
だから、と言葉にしてから、しばらく押し黙る。
泣いているわけでもない、言葉を探しているわけでもない。
何かを我慢しているような沈黙。
■アガサ > 「……うん、わかった」
何かを制しようと呼吸を整えるアイノ君に、静かに、でも有無を言わさない様子で制止を掛けられ言葉が止まる。
まるで、発作を堪えているかのようにも見えるのに、彼女の口から落ちる言葉は酷く冷静で、冷たい。
言葉が終わってから、私は何を言い、何を言うべからずか悩んだ。
「えっと……アイノ君は、噂に対し反論すべきだって、言いたい?私とアリス君が、自分と同じようになってしまう前に、と。
……御免ね、私はー……そういうのは、あんまり好きじゃない。だってこれは呪いだもの。一方的な呪詛。反応をしたら作用する部類のね。
それに、私は私を嫌いな人に──悪し様に噂する人に何も言えやしないよ。好悪の由は自らに求めるもので、人はそれを自由と言うのだから。
その由の起源がまた他所の噂というのは残念な事だけどね」
アイノ君に苦く笑って、私は大きく溜息を吐いてから大きなベッドに仰向けに倒れ込む。
クリーム色の天井と、LEDの照明だけが視界に入り込む。
「アイノ君をね、軽んじてるつもりは無いんだ。私はただ目先の問題から目を逸らしているだけ。そう言われても仕方がないとも思う。
ただこれは意地でもあってね。私は呪詛を扱う魔術師だもの、そんな噂なんて簡単な呪いに屈してどうするっていうんだい」
右手を指鉄砲に象ると、人差し指の先に青白い火花のように魔力が瞬いた。
■アイノ > 「………それでいいんだよ。」
小さく言葉を連ねて、ふー……っと。
しばらくの沈黙の後、ようやく雰囲気を元に戻して、肩を竦めて。
「私、嫌われ者らしく振舞ったしな。
叩き潰して、脅して。
魔女って名前もすっかり板についてさ。
私にそうやって噂をくっつけた奴を、絶対後悔させてやるって。
生きていることを後悔するくらい、怯えさせてやるって。
……だから、別にお前をどうこうしようとは思っちゃいねーよ。
そんだけ分かってるなら、私が何か言えるわけないだろ。」
なんて、ぺろ、と舌を出してにひひ、と笑う。
「まあ出る杭は打たれるって奴? 私にゃ世界は狭すぎるからさぁ。」
いつも通りの軽口が戻ってこれば、仰向けに倒れたアガサの口に今日はチョコをねじ込もう。
■アガサ > 「……反論どころか物理的にやったのかい、君。無茶をするなあ……アリス君の家で冗談めかして言ってた事が、
まさか本当だなんて予想しろって方が無理ってものじゃないか。ああ、でも安心した。さっきの君は随分怖かったから」
身体を起こそうとした所で唇にチョコレートをねじ込まれて叶わない。
正に言葉の通りに出ようとした杭が打たれた形だ。
「……噂は所詮噂。私には素敵な親友も居るし、素敵な後輩も居る。だったら後は余計な誰かに何を言われようが知った事じゃないさ。
そう思う事にしてる。勿論、悪し様に噂するに留めず直接的に行動されたら話は別だけど……この島は賑やかだもの。そうなる前に次の噂が流れるよ」
恰好をつけて魔術師だ。なんて言った所で本当の私はそう名乗れたもんじゃない。
だから恰好ついた杭は素直に打たれてベッドに引っ込み、口の中の甘やかな味で苦い思考を覆い隠す。
「世界は狭くっていいと思うなあ。ひろーい世界の全てに好かれようなんて無理だもの。
仮に、もしひろーい世界の全てに好かれたとして、私の手じゃ全てを掴むのも全てに差し伸べるのも無理だもの。
私は狭い世界でいい。両手で覆えるくらいで沢山だなあ」
これくらい、と仰向けのまま手を広げて見せて、暫くは言葉が無い。
けれど、途中で私はゆっくりと上体を起こした。
「……よし、ちょっと早いけど夕飯を食べに行こう!」
起こして、今までの話なんか全部なかったかのように明るい声を出した。
■アイノ > 「まあ、いろいろあってさ。」
けけけ、と笑ってごまかそう。これ以上は明るくいられない。
チョコレートをねじ込んでやりながら、……直接的な行動、でぴくりと身体を止めるけれど。
チョコレートの甘さできっと気が付かれない。
「私にゃ全世界も狭すぎるからなぁー。
ほほほ、まあ、才能があるってのも辛いもんだ。」
からから、と笑って。
世界に対してどういう感情を持つのかは伏せながら、上体を起こした先輩の手を更に引っ張って、ベッドから起こしてやりながら。
「じゃあそんな素敵な後輩に奢りってことで。
ごちそうさまでーす!」
わきゃ、っと笑顔と、ウィンクでハートマーク。
ウィンクでハートマークを飛ばせる自称美少女。
■アガサ > 「しまった口が滑った……!」
口頭詠唱を魔術制御に用いる人間としてまだまだ甘い。
私は言葉を捕まえてはしゃぐアイノ君──私の事を自分の事のように憤ってくれる素敵な後輩に唇を噛んで悔しがった。
「君はちゃっかりしてるなあ……んーと、それじゃあ何処が良いかなあ。中華?洋食?
あんまり高いのはちょっと本当にやめてくれたまえよ~?」
けれども全ては後の祭り。
私はそれはそれはわざとらしく項垂れて、クローゼットチェストから着替えを引っ張りだし始めるのだった。
ご案内:「部屋」からアガサさんが去りました。
ご案内:「部屋」からアイノさんが去りました。