2019/02/11 のログ
ご案内:「浜辺」に天導 シオンさんが現れました。
■天導 シオン > 「はぁ~、やっと終わったか。いやー、やっぱ机でじっとしてろとか、身が持たないっての」
昼下がりに軽やかな足取りで向かう先は潮風香る浜辺。
机に座って用紙を出されて、テストなんて言葉を聞いたのはいつぶりだろうか、吐き気を催す地獄の時間が終わり、その解放感は通常の数倍身軽になるよう錯覚させていた。
くるりとその場で横に一回転、ぽすんと砂浜に自身の身を置いて
「まったくダメでした」
急に正気に戻ったような真顔に冷めた視線で果ての無い大空を見上げてぼそりと一言。
■天導 シオン > 「そもそも魔術がどうとか、やっぱりよく分からないしなー。向いてないんだよね、そういうの」
開き直ったようにくすくすと笑っている。
確かに魔術の素養はないのだが、人並みの魔力を備えており、気功術をはじめ行使できる可能性は十分にあること。
それに加えて、講義中平然と睡眠をとり、夢に入り浸っている人間の吐ける台詞ではない。
「あーあ、こんなんでやってけるのかねぇ…」
自身のいた世界と変わりはしないはずだが、魔術の発展に加え、そんな学園に入学するなんて夢にも思わなかった。
■天導 シオン > 気休めが終わって、すくりと上半身を起こして一息付けば、そのまま胡坐をかいて、果ての無い青い海をただじっと見つめ続ける。
そして首を下に向ければ、偶然子ガニが自身の足下を横断、それを観察するようにじっと見詰めて。
「ねぇ、カニ。私上手くやってけると思う?」
と何気ない質問を。
当然応えるわけがない。それどころか何か静止してまごついているみたいだ。
そう、彼女の足が進路を遮って邪魔なのである。
そこでカサカサと自身の足に爪を立てれば、サクッと小振りながら鋭い鋏で攻撃。
片目を固く閉じて、くぐもった声を漏らした。
■天導 シオン > 「くそっ!お前も意地悪するのか!帰れ帰れ!」
引っ掻き傷からじんわり血が滲む。
傷というには温いものだが、地味な痛みは徐々にやるせない苛立ちがこみ上げる。
勢いのままにひょいとそいつを掴めば、抵抗も虚しくポイっとどこか遠くに飛ばされた。
砂をクッションに着地すれば、子ガニは砂を巻き上げて一目散に逃げ去って行った。
ご案内:「浜辺」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 私用のために仕事を早く切り上げた日。通り掛かった浜辺で、座り込む少女の後ろ姿を見た。
足元はヒールの高い靴だったが、それでもそちらへ足を向けようと思ったのは、砂にまみれた彼女の背が、何となし物憂げに見えたから。
アスファルトの道路から浜辺へ降りて、ヒールが沈まないようにテンポよく砂の上を歩く。
高そうなブーツは、たちまち砂で真っ白になった。
「――こんにちは」
シオンの傍らに立ち、彼女の頭上から穏やかな声を掛ける。
「試験の帰りかね?」
大きな口は人間離れした造型に見えるが、微笑みは親しげだ。
■天導 シオン > 唾でも付ければ治る、お祖母ちゃんの知恵袋より。しかし、流石にこの年で公で唾を用いて傷口に塗ろうなんて、そんな幼稚な事は出来ない。瘡蓋になるまで気合で我慢する事にする。
さて、一人と一匹でコントを繰り広げた後、後ろから人の声
「あ、こんにちは…」
不意を突かれて控えめな声色。
そして振り返れば、スリムな体型にヒール。顔から男性だと判別は出来るが、入念に化粧がされている。
エキゾチック、というより神秘的にも見える風貌に圧倒されたのか、言葉が出なかった。
「あ、はい。全然ダメでしたけどね…?」
もしや教師だろうか、この腑抜けた姿を見られるとは…。
後頭部を頭で掻きながら、相手の微笑みに此方は愛想笑いで、不器用ながら動揺を隠している。
■ヨキ > シオンの反応に、笑って会釈する。
「突然済まなかったな。学園で、美術を教えているヨキというよ。
この時間にここを訪れるのは、試験がよほど上手く行った者か、その逆だろうと思ってな」
彼女の隣に腰を下ろし、同じように胡坐を掻く。
違いに似て非なる青い目で向かい合って、小首を傾いだ。
「ふふ。全然ダメだった、と聞くと、ついヨキも心配になってしまうな。
学園の試験は、初めて受けたのかね。何の教科の試験だったか、訊いてみても?」
■天導 シオン > 「あっはは、教師だったんですね。
どおりで、全部見透かされてる…」
ヨキ、相手の名前を小さく呟いて確認し、分かったと首を縦に振って伝える。
明らかに若手とは思えない空気感を醸し出しながら推測する彼。それに射抜かれたような衝撃が彼女の身体に走った。図星である。
「何の試験って、国語や数学があった。あとは歴史?それと、……そうだ!なんか文字が見えないやつとか!」
まず彼女は自身が何を受講しているかすら、あまり理解していない。ただ、平凡な教科は答えられる。
この世界の歴史は曖昧で、そして次は講義名が浮かばずしどろもどろ。悩んで記憶を絞り出せば、テスト用紙でピンと思い出したように内容を伝えた。
■ヨキ > 「見透かすなんて大層なことではない、山勘が当たっただけさ。学生らの試験と、何も変わらぬよ」
可笑しげに笑って、シオンがひとつひとつ挙げてゆく教科を聞く。
「数学はまだしも、国語や歴史はヨキも覚えるのに難儀したよ。
ヨキは学生だったことはないが……、読み書きをしたり、地球の長い長い歴史を覚えるのは、異邦人にはなかなか堪えたものだ」
困ったよう調子で、頭を掻く。
そうして、“なんか文字が見えないやつ”と聞くと、訝しんで眉を顰める。この学園の試験形式は、何とも多種多様だ。
「……文字が見えない? 印刷のミスではなくてか? それはまた、難しい試験もあったものだな……。
異能や魔術で文字を炙り出すとか、そういったものだろうか」
■天導 シオン > 「聞きますねぇ、テストに出そうな内容を予想して臨むってやつですね。でも、私はいつでも一発勝負」
予め出そうな内容を想定して絞る。やんちゃな生徒の会話からよく聞く話だ。
しかし、それを良しとせず、正々堂々何もせず真っ向から立ち向かうスタンス。余計にたちがわるい。
更に、そのように言いながらも連中から盗み聞きして、情報を整理して試験に臨んですらいる。自身の発言が矛盾する程に狡い。
「異邦人、かぁ…。ってことは、この世界の人じゃないってこと?」
異邦人とは所謂、この世界の住民ではない人の事か。
街の人々と顔付きから雰囲気が違うのも納得いったみたいだ。
そして、自身も同じ境遇である。興味を示しており
「横見たんですけど、皆見えてなかったですね。
そして、その通り!私忘れちゃってたんだけど、あれはきっと火で炙れば文字が出ると踏んだんですよ。なんで気付かなかったのかなぁ!もう!
あの先生、ミカンの汁で問題を作ったんだろうね」
相手も流石に頭を悩ませている。教師陣の間でも想定外の内容だったみたいだ。相手の推測にパチンと指を鳴らした。
そして、自身のとんでもない答えを告げる。
自信満々の回答、ドヤ顔が相まってアホ丸出しである。
■ヨキ > 「ははは。一発勝負か、勇ましいな。それはそれで、ヨキには好ましい。教師としては、無事に結果を出して進級してもらう方が安心出来るのだがな」
複雑だよ、などと笑ったが、窘める気がないのはその表情から明らかだった。
「そう、ヨキは元々、他の世界からやって来たのだよ。
君の周りにも、そういう学生は少なくなかろう? 故郷から離れてさみしい思いをしている者や、むしろ地球での生活を楽しんでおる者などが。
かく言う君は……どちらだろう。日本国外の血を引いているのか、それともヨキと同じ異邦人か」
前髪の陰が落ちると黒くも見える碧眼で、シオンの目を見る。
「あははは、ミカンの汁か。そんな試験をノーヒントで出すなど、まるで出題者の底意地が悪いみたいではないか?
紙に何が書かれているか暴くところから試験などとは、確かに気が滅入るのも無理はないな。
お疲れ様――おっと、まだ名前を聞いていなかったな。何と呼んだらいいかね?」
■天導 シオン > 「でしょうねー…。ま、まあダメなら二度、それでもダメなら三度でもやってやるし…」
教師としては、きっちり対策をして合格して貰う方が好ましいだろう。
しかし、そんな要領を持たない彼女は七転び八起きの精神である。
「私もそう、異邦人。気付けば来ちゃった。
まあ、まだよく分かってないけど…、楽しい所だと思うよ」
そんな身近にも異邦人がいるというのは全く気が付かなかった。
自身だけが特別ではないと分かれば、清々しい笑顔で答える。
「白紙で出す時点で意地が悪い以外、言葉が見つからないからね。解けないように酷い細工なんかしちゃってさぁ…。
私は、1年の天導 シオン。シオンで良いですよ、先生」
顎に指を添えながら、躊躇いなく意地悪だと即答した。その表情は露骨に不満そうである。
そして名を名乗れば、二ッと笑って。
■ヨキ > 「三度……三度か。この常世学園はなかなか鷹揚な方ではあると思うが、何とも言えんな。
留年したところで命を失う訳でもなし。いずれ結果が出れば、ヨキも目いっぱい君を祝おう」
シオンの笑顔に、こちらも目を細めて微笑み返す。
「そうか、気付いたらここに……。はじめは余程混乱したろう? よく頑張っているな。
この学園には、異能者も異邦人も、そうでない者も、さまざまな事情の人間が集っている。
複雑な身の上同士、打ち解け合えればさぞ良い友人も出来よう。
君がこの常世島を気に入ってくれれば、ヨキも嬉しいよ」
相手の顔と名前を覚え込むようにじっと見つめたのち、満足そうに復唱して頷く。
「天導……うむ、シオンくん。よろしく頼む。
ふふ。その様子からするに、“文字の見えないやつ”はそれほど大変だったらしいな。
何という教師か、名前は覚えておるかね? ヨキもその答案用紙を見てみたくなった」
■天導 シオン > 「叩き出されたらその時は考えるよ。経歴が無いと名乗るのが中々難しくなるからね。
まあ、取り敢えず数学と国語は頑張るよ…」
ここまで激励してくれるのならば、その親切心を蔑ろにするほど薄情ではない。
次第に苦笑に移り変わる。歴史や魔術はからっきしだが、抑える物は抑えておくと、控えめな口調で宣言する。
「そりゃあもう、全く意味が分からなかった。
でも、私と同じような人が居るならば、なんか活力は湧いてきたよ…」
その言葉を抵抗なく受け入れた後に、こくりと丁寧に会釈した。
自分だけ混乱している場合ではないと、戒めるように…。
「名前は、あー…いや、秘密で。でも、あれだ、魔術全体の事を学ぶ内容です。私サッパリですけど」
教師名は浮かんだ…が、大きなヒントだけ与えた後、口元に人差し指をあてて黙秘。
講義も真面目に受けてない身が好き放題言っているのだ。これで自身が公言したとバレたら恐ろしくて出席すら出来なくなりそうだ。
■ヨキ > 「たとえ勉強に太刀打ち出来ずとも、常世学園で学べることは沢山あるさ。
ヨキが教える美術だってそうだし、他にもいろいろな教科を教える者が居るからな。
君がこの在学中に、何かひとつでも打ち込めるものを見つけられれば、それでよいのだ。
得意なことでも、楽しめることでも。君の毎日が華やぐようなことをね」
シオンの遠慮がちな宣言に、くすくすと笑う。
「そう。君の苦しみは君だけのものだが、それでも分かち合えるものはきっとある。
ヨキもそうやって、この島の人々に助けられてきたからな。
悩んだり迷ったりしたとき、いつでもヨキを訪ねてほしい」
美術室か職員室に居ることが多いから、と。
相手の内心は推して知る他にないが、それでもゆったりと受け止めんとする顔で。
「魔術全体の? …………、ああ……」
“白紙の試験を出す魔術学教師”の心当たりを閃いて、何とも言えない顔になった。
シオンからも、ヨキが誰のことだか気付いた様子が見て取れるだろう。
「……その教師の授業では、少なくとも『一発勝負』は止めておいた方がいいやも知れんな。
どちらかと言えば、『二度がダメなら三度でも』の気持ちで頑張りたまえ。正解に辿り着けずとも、過程は評価する奴だ」
■天導 シオン > 「流石先生!いい事言う!
確かにこの学園って結構幅広いし、まるで一つの街みたい…。
だから、先生の言う通り、自分に合いそうな物をじっくり探してみようと思いますよ。」
こちらも機嫌よく笑いながら、感謝の意を込めて頭を下げた。
世界は違えど、元の世界との類似点だって存在している。きっと、馴染めばいつか自分の居るべき位置が分かる事だろう。
「切羽詰まった時は助けて下さいよ?ほんと、期待してます」
極力は自身でどうにかするつもりだが、この世界の事は相手の方が圧倒的に知識量がある。
どこか躓いてしまったら、彼からヒントを得てみようと。そう考えるきっかけになった。
「内緒!内緒で頼みますって!!
………え?ええ、参考にします」
どうやら心当たりがあるみたいだ。しかも、それからのリアクション。明らかにその教師と深い接点がある。そう断定すれば、内緒だと強く念押しした。
そして、次に続くはその講義における助言だ。そこまで熟知しているとなると、一周して言葉にできぬ安心感。
「じゃあ、私はそろそろ失礼します。
話に乗ってくれてありがとう。トキ先生」
長話で初めに来た頃に赤く照った陽は、僅かな姿しか残しておらず、周辺も気付かぬうちに暗くなっていた。
それに気付けば、夕食でも取ろうと身体を起こして立ち上がり、相手の名前を呼んで礼を述べた。
ご案内:「浜辺」から天導 シオンさんが去りました。
■ヨキ > 「ああ。どんな学生でもヨキの教え子であることに変わりはないが、出来れば楽しんでくれた方がヨキも安心するというもの。
シオンくんがどう成長してゆくか、これから見守ってゆくとしよう」
相手の会釈に、こちらも胸に手を当てて頭を下げてみせる。
「もちろん。学生に頼られたときには、誠心誠意応えてみせるさ。
たとえヨキ自身に出来ぬことであっても、教師には“人とのつながり”という武器があるでな。
君が答えを見つけ出す助けになれるよう、ヨキも最大限努力しよう」
笑ってウィンクする。
シオンがひた隠しにする教師については、思わず吹き出してこくこくと首肯した。
「判った、判っておるとも。安心したまえ、絶対に言わん。ヨキは嘘を吐かんよ」
悪戯っぽく笑う。唇の前に人差し指を立てて、二人きりの内緒話として秘する。
「ああ、気を付けて帰りたまえ。
今日は日がな一日、頭を沢山使ったろうからな。ゆっくり休むとよい」
相手に続いて立ち上がり、裾についた砂を払う。
また会おう、と手を振って相手を見送ると、ヨキもまた砂浜を後にする。
ご案内:「浜辺」からヨキさんが去りました。