2020/08/10 のログ
ご案内:「【イベント】海水浴場 浜辺」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
然なきだに蝉時雨に殴られるうえ、都の喧騒はもはや乱心のそれである。
逃れるにも日陰でない海辺を選んだ理由は瞭然、
貸し出された釣具の一式がその正答であった。

「思索にはもってこいの遊び事と聞くが、さて。
 やるからにはなにがしか釣り上げたいという欲も湧いてきてしまうね」

椅子を立て、飲み物を傍らに置いて、釣り竿の様子を確かめる。
こうした遊びに慣れがないことは、生白い肌色がはっきり物語っている。

月夜見 真琴 >  
「釣れれば今日の昼は海鮮。
 刺し身もいいが少し家から遠い、酒は飲めないかな。
 ああ、最近は寿司もご無沙汰だ、扶桑に美味しい店があると聞くが」

見た目で選んだウキの形、仕立ててもらった仕掛けに問題はないはずである。
竿を構えると、振る前に少し考える。

「誠心誠意耳を傾けたつもりではあるが――
 "シュッとやってヒュッ!"という口頭での説明では、やはり要領を得ない」

拗ねたように唇を尖らせて、店主に遅れて恨み言。
むーん、と椅子の背もたれに体重をかけながら考える。
暑い。快晴だ。麦わら帽子で遮断してはいるが、日差しはもはや痛いほどだ。

月夜見 真琴 >  
「どれ――」

竿を振りかぶる。これでいいのだろうか?
薩摩隼人の剛刀よろしく構えられた形を、横目でちらちらと伺った。

「シュッとやって――」

息を吸い込み、力をためる。
長物を振るうなど随分の無沙汰だ。
生白く細い腕が、しかし柔軟にしなると、

「――ひゅっ」

ふわり。
鋭さのない勢いで、ウキ仕掛けが海面にとぷんと落ちる。
第一関門は超えた。満悦げに、帽子の下に笑みが宿る。
さてあとは釣れるかだが、もう既に満足してしまった感がある。
太陽にひからびるまでにゆるりと待つとしよう。
[1d6→5=5]
ご案内:「【イベント】海水浴場 浜辺」に武楽夢 十架さんが現れました。
武楽夢 十架 >  
先日の気持ちよかった釣果が忘れられず、思わずまた足を運んでしまった。
足を運んで見れば、釣りをしている女の子。
美味しいポイントには人が来るものという感じのようだ。

「お、いいね」

投げる前の様子から初心者かと思えたが、投げた動きはどうして中々いい感じに見えた。
思わず、声が漏れた。

少し近くへと寄って、声をかける。

「どうも、近くで釣らせてもらってもいいかな?」

そう言って声をかけた青年は、ほぼ全て自前で装備を持ってきたちょっとした釣り経験者だ。
別に貫禄はなくのほほんとした感はある。

月夜見 真琴 >  
「そうかな?」

振り方を褒められれば、
嬉しそうに声を弾ませて、ふりかえる。

「ああ、もちろん構わないとも。
 やつがれもこちらに間借りしている身さ。
 太公望が傍らにあれば、もしもの時も安心だ」

笑顔を見せて、ずれたほうがいいかね?などと。
達者な様子は穏やかそうな少年にあって、どこか頼もしい。

「芯を感じる男だ。それにその瞳、うつくしいいろをしている。
 おまえ――ぅん……?」

くいくい。ウキが小刻みに動いている。
両手で竿を握り直すと、少し身を乗り出して海中に視線を向けた。
引けばいいのかな?となっている。おそらく小物だ。

武楽夢 十架 >  
「お、早速だね!
 その場所は『丁度いい』から、そのままでいいと思うよ」

早速反応している様子に自分が釣っているわけでもなく、調子が上がる。
やはり、この場所は正解。
青い海と青い空、地平線の方を見ればそんな世界を独占しているようにさえ感じる美しさもあって釣りにしても都市部の喧騒を忘れるにしても最高の場所だと思える。


「ゆっくり釣り上げるといいよ、中には顎の弱い魚もいるから」

雑になりすぎない程度に荷物を床に置いていくと海面に視線を向け、そう告げる。

落ち着いてゆっくり、という青年こそ落ち着くべきだと言われそうな様子であった。

月夜見 真琴 >  
「こ、このままか? よし――」

意味もなく息を殺し、肩を怒らせるように力を込める。
うん、やはり安心感がある。
教え導かれるがままに、竿をゆっくりと持ち上げて引いていった。
とぷん、と水中から姿を表した。小柄だが一匹かかっている!

「これは――」

糸を巻いてこわごわと手繰り寄せた。
ぴちぴちと暴れているそれを掲げ、入道雲の峰のカンバスに置くようにして。

「イワシかな? ははは、やった。
 うん、おまえのお陰だ。あとはこの場を選んだ天運。
 いずれのめぐり合わせもきっと、日頃の行いの賜物だろう」

きっと焦って引いたり振り回したりしてしまったかも。
こうせよ、という指導は、とても有り難い。
クーラーボックスにそっと休める。焼いてよし煮てよしだ。

「やつがれは月夜見真琴という。
 紅き眼の太公望、おまえのなまえは?」

仕掛けを整え、シュッとやってヒュッ!
明らかに機嫌を上向かせ、椅子に座りながら脚をぱたぱたとやった。

武楽夢 十架 >  
「イワシは焼いてよし、刺し身も俺は好きだな。
 日頃の行いが返ってくるのは嬉しいね」

見せられた釣果を自分のことのように喜ぶ。
少女、真琴の喜ぶ顔に釣られて青年も機嫌がよくなるというもの。

「太公望って言われると違和感あるな……普段は土いじりしてる身なもんで。
 俺は武楽夢 十架。 白光(ひかり)の君、真琴さんと出会えたのも運が良かったのかな」

そう言いながら割と近くで、釣りの準備をはじめる。
折角仲良くなれそうなのだから、多少近くてもいいか、と考えた。投げる方向さえ間違えなきゃ問題ないだろと考えて。

「よし、俺も負けてられないな……」

とは言いつつ
どうしても純粋に釣りを楽しむ子をひっそりと応援したくなるのは、先達ならではの考え方だった。

月夜見 真琴 >  
「ほう、農業学科の生徒かな? やつがれは芸術のほうだ。
 ――ふふ、日陰者には過ぎた名だが、ありがたく頂戴しよう。
 ではこちらも十架、と。 とか、トカ、か。
 河を渡る、ではないか、どのような字を書く?」

少し帽子の鍔を下げ、照れ笑いを隠すように。
話好きなのがよくわかろう、だいたい同年代の少年への食いつきだ。

「土もいじれて釣行も達者とは器用で羨ましい。
 ふふふ、がんばれ、がんばれ。
 魚との真剣勝負、ひとつ披露してほしいな」

ウキは静かだ。流石に連続はそうは行くまいが。
蒼海に雲海、そして話し相手。行幸と言わずしてなんと言う。

「今年のナスやトマトはどうかな?あとは玉ねぎ。
 トルコ料理に興味が出てきた、夏野菜を仕入れたい」

武楽夢 十架 >  
「お、農業学科って言ってくれるのは嬉しいよ! 制服とは縁遠いのもあって農家だとか農民って言われるのが多いからさ。
 へぇ、真琴さんは芸術方面か……俺はそっち系はサッパリだよ」

昔に粘土いじりで遊んだのを芸術分野に触れたというには幼かったあの日は何も考えちゃいなかっただろうし。
そういう意味では、前に常世博物館で過去の歴史としてそんな芸術作品があったという記録写真でしか触れたことはない。

「結構、変な字描くんだよ。 十架って字もそうだけど、武楽夢も普通はそうは読まないよねっていう。
 教会とか病院のマークである十字架って書いて十架。 武楽夢は『武』者が音『楽』を『夢』みる、とか上手く言うのは難しいね」

真琴からみて読めるように少し背を向けて空中に、魔力で線を引いて文字を描く。
魔術使用する際の応用だが、こういう時に便利なものだ。
そんなに綺麗な字ではないが、宙空に「十 架」と文字が浮かぶ。

夏野菜の話になれば、また嬉しそうに声を弾ませる。

「今年の野菜はつい最近収穫したからそろそろお店に並んでるんじゃないかな?
 いつもの事だけど祭祀局から精霊の加護貰ってるし、年々品種改良が進んでるのもあってまた今年も良い野菜が取れてますよ。
 なんと、農業系部活動の直売所なら店頭価格の半額……までは行かないけど、ちょっと安いし採れたてなのでおすすめ」

営業トークみたいにして冗談とも本気とも取れることを言いつつ、
一度視線を合わせて銀色の瞳を捉えれば、ウィンクしてみたりする。

「魚との勝負は時の運と根気だよ。
 ただ、ここは『流れ』がいいらしいからそれなりにいけるかもね」

よっと、という掛け声とともに一瞬の振りで僅かな力で糸を飛ばす。
連日そんなに運がいいとかあれば嬉しくはあるけれど。

月夜見 真琴 >  
「"なんとなく"でいいのさ。正解のない学問だよ」

もしなにか感じ入るものがあればそれが正解さ、などと。
中身があるようでない言葉とともに微笑みつつ。

「なんとも寓意的な名前に思えてくるな。
 武楽夢十架。なにより唇に乗せた響きが――ああ、好い
 ――ん、ああ――おぉ、ほほう」

視線は彼の指先、それが綴るものにそそられた。
そこに不意な思いつきで、指先を空中に踊らせると、
ひらひらと、蒼い燐光が『十』の字の横棒のふわりと止まった。
一羽の、蒼い光の蝶だ。
ゆっくりとその翅を呼吸するように動かして、鱗粉のように霧散する。

「『月の夜に見た』、――『真を』、『琴』弾く、ううん、少し無理矢理だな」

しっくりこないな、と眼を閉じて考え込んだ。

「おまえたちを謗る者は、野菜の味の良し悪しがわからないのであろう。
 佳味という正解がある学術――どれほど食卓に彩りを添えていてくれるかだ。
 ああ、イワシなら南蛮漬けもいいな、パプリカで鮮やかにしよう。
 ――では訪わせていただこう、目利きもしてくれそうだしな」

口約束。水ならぬ空に描いた約束とも。
おお、と様になっている竿の振り方に、子供のように声をあげて。
こちらも視線を海に――海、あれ、引いてる。

「おまえの――うわっ、わっ、わ!?」

引っ張られた。思わずがたり、と椅子から立ち上がり、両手で竿を抱きしめる。
黒い魚影はかなりの大物だ。沖合の魚が回遊してきたのか。

「十架!どっ、どっ、どうすればいい!どうすればいい!?」

武楽夢 十架 >  
「ははは、そう言って貰えると『無学ム』な俺としては
 これからも機会があれば触れやすくて嬉しい」

芸術分野に身を置く彼女からの言葉は、予備知識などなくてもいい。
後から興味を持ったら知っていけばいい。
そういう風に赦されてるようで、嬉しくあった。

「そう言われると嬉しいけど、照れるな。
 上手く言う必要はないかも知れないけど、そうだな。

 真琴さんはその髪や瞳が、月っぽくもある。
 月夜に見れる君、琴の音のような君の真心っていうのは……詩的にし過ぎかな」

それに名前を告げる時に言う順番でもなくなっちゃったか、なんて明るく笑う。
青い光の蝶が消えるのに合わせて残していた文字も蛍の光の様に儚く消す。
きっと夜に見てたらもっと綺麗だったかな、と惜しかったなと少し感じた。


「その時は是非付き合わせてもらおうかな、ちょっとしたデートみたいにエスコートするよ」

と茶化すように言い終えたところで彼女の竿の異変に気がついた。

「先ずはさっきよりちょっと強めにリール(糸)を巻いて、魚が水面によく見えてきたらゆっくりにして……
 ちょっと大きい奴だったら、俺が網も持ってるから落ち着いていこう!」

台詞は冷静だが、お前も興奮してるんじゃあないという様子だ。
念の為というのもあるが、網を持って真琴のすぐ傍らにそれこそ後半歩もなしにその身がぶつかるような至近距離に彼女の見てる視界から見える魚影を見ようと近づくだろう。

月夜見 真琴 >  
「りーる? りーる――ああこれかっ、糸巻き!」

持つとこにくっついてるアレ。
という釣り初心者の曖昧にも過ぎる知識はしかし、
それが糸巻きであるということはさっきがたの経験からもわかっている。

「硬った――い! んぐっ、んんん~~~!」

すっごい気合い入れて、どうにかリールを巻き糸を短くする。
顔を険しくして力入れすぎて赤くなっている。
魚との真剣勝負。ともあれば、月明かりの下に映えそうと、
称してくれた姿は幻想と消え、生物的な様相を見せた。

「かっ、身体が持っていかれそう、だっ。
 それに竿のしなりかたが不安だが大丈夫なのか?
 しかしこれは、きっと大物っ、大物のはず!
 お昼ごはんだ!釣り上げられたらこちらを奢ろう!
 きっとやつがれひとりでは食べ切れない――!」

少食だから!
足をどうにか地面につけて、ぎりぎりと糸を巻く。
あちこちに泳ぎ回り暴れる魚影は、一瞬の姿を覗かせて、
ばしゃりと跳ねて飛沫を散らしながら海中に没した。
糸は未だ繋がっているその先、魚影の正体は。
旬を少し先に控えた、あいつ。

月夜見 真琴 >  
 
_人人人人人人人_
> 常世ガツオ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
 
 

武楽夢 十架 >  
身体を支えるように包んで、あくまで持っていかれないようにする程度に釣り竿を握る左手に自身の左手も添える。
基本的に人は右利きというのを考えての左手合わせ。 自分は右手に網を持っているのもある。

少女との背丈の差は、程よく支えやすいと感じた。

「こりゃあ、常世ガツオ!しかもかなり大きいな!」

思わず声も大きくなってしまう。

「ははっ!真琴さんは気前が良いね。

 なんなら、俺で良ければ捌いてもいいけどね」

後半は少し水面覗き込むようになって耳元で囁くような状態になってしまう。

「ちょっと、このまま耐えてね。
 今、網で掬い上げるよ」

下手に無理矢理引っ張り上げようとすると糸が切れる可能性も否めない。
だからこそ大きな魚を釣る際は網があると助かったりするのだ。

月夜見 真琴 >  
「――ああ、これは有り難い、その芯、すこしばかり借らせてもらうぞっ」

振り回されていた身体をそっと支えられるなら、その軸の力を借りよう。
腕力は見た目相応だが、運動が苦手、というわけではないことがわかるはずだ。
理合に幾らかの知識がある。彼の体重と体軸を借り受けながら、負担を分散。
すなわち少々ばかりカツオのパワーが彼にもかかるわけだが、
食卓の褒章が在るとなれば、借りっぱなしというわけでもあるまいさ!

「カツオ?カツオか!釣れるものなのだな!
 好い!刺し身かタタキかな。
 包丁を握ってくれるなら助かる、こうして骨太の魚だと、
 やつがれの腕ではなかなか疲れ――――ぅひゃっ!?」

随意でないことはわかるが耳朶にかかった囁きに、
白い肩をびくんと跳ねさせた。
竿がぶれて釣り糸が左右に揺れながらも、
陽光を照りつけて、鎧った銀を光らせる鰹は釣られた魚の有様。

どうにか呼吸を落ち着かせながら、網にそっと休めると、
網の動きに竿の動きを合わせて――釣れた。四点分の上物だ。

「―――ほぅ」

これを釣ったのかな?
海に生きる存在の生命力と重みは、腕にまだ残っているが。
イワシより随分実感を欠く大きさだ。釣れるサイズ、の常世ガツオ。
帽子の鍔を上げて、幾度か瞬いた銀瞳を輝かせる。

「画材は持ち込んでいないのだ――写真、構わないか?」

武楽夢 十架 >  
確かに自分は支えはしたが、姿勢さえ良ければきっと自力でも釣れなくはないそんな肉付きかなと回した手や触れた身体、合わさった腰部の印象から受ける。
女性らしい身体かと思っていたけれど、それだけでない柔軟な肉質になるほど、投げる時に様になる訳だと納得した。
青年の身体は言ってしまえば細め。
しかして、腕や足腰が農業に携わってるのもあるのか――最近鍛えているのもあってか、細身の割には安定感があると感じることだろう。

凄いなぁと釣った本人のように喜んでいたところに写真を求められれば、
携帯端末を取り出す。

「オーケー、撮るよ」

真琴がポーズを撮っているところに適当な掛け声と共にシャッターを切る。

「ああ、そうだ。 記念に一緒に写って撮ってもいいかな。
 それと、俺の端末で撮っちゃったから良ければ連絡先とかも交換しないかい?」

カツオ。 常世ガツオといえば、ベストシーズンではないけれど、それでも美味い。
釣れたて新鮮を一尾買おうとすれば、そこそこのお値段にもなる。

なので、ついついはしゃいでしまうのは仕方ないのだ。
それこそ君が警戒しなければ「本当に凄いよ」と軽く抱きついてしまう程に今、青年のテンションは高い。

カツオはみんな好き!

月夜見 真琴 >  
釣った魚は重たいが、心地よい重みだった。
糸を持って、まだ元気な常世ガツオを持って微笑む。
ぱしゃりと響くシャッター音。なんだかこういうのは久しぶりだ。
懐かしささえ、感じる。

「――ああ、これは嬉しいな。達成感がある。
 おまえのおかげさ。 ありがとう、十架。
 ひとりでできることなど、ほんとうにたかがしれているのだなあ――とはいえ。
 おまえなら、ひとりで釣ってみせてくれるのかな、これも、もっと大物も」

嬉しそうにしていると、ふとした申し出に眼を丸くして。
そして視線を横に、髪をつまむ。さっき感じた吐息を思い出して。
――――――。
その親しげな少年の様子には、ちょっと困ったような苦笑を見せた。
勘違いしてしまう者が、けっこう多そうだなとか。

「"武者"。成程そういう、よく言ったものだなあ」

色には通じていないのか、遠ざけているのか。
そう笑って、自分の携帯端末も取り出した。

「いいとも。食材の仕入先は多いほうがいい。
 そのかわり耳寄りな情報は回してくれ、秋口は特に。
 ――ああしかし、やつがれは風紀の鼻つまみ者。
 仲良くしていると知られたら、おまえも色眼鏡でみられてしまうかもな?」

抱きつかれるがままに身体を寄せ、帽子を取って荷物の上に。
ファインダーに釣果を示して――シャッターを切る。
うん、良い思い出だ。"大物が釣れた"。ほんとうに。

「にしても『流れ』――か。くれないの色は、炎ではなく。
 水――血流か。そうしたものをおまえからは感じるね、おもしろい男だ。
 ささ、新鮮なうちに捌いてしまおうか? すこしうごいて、おなかがすいた。
 調理器具に調味料、持ち込んで居ると見えるが」

心地よい拍動だな、と。
すぐ傍らの顔を見上げて、興味深げに眼を細めた。
感性の問題だ。芸術学科であるがゆえか。

武楽夢 十架 >  
「そう言ってもらえると嬉しいな。
 きっと時の運、俺一人では釣る機会には恵まれなかった。
 だから、二人だったから良かったんだ。 そういう時の巡り合わせさ」

勿論、武楽夢 十架が女性に興味がないということはない。
同性に恋をするなんて言うことはないし、性癖を問われれば至って普通な答えしか返ってこないだろう。

ただ、そういう色恋沙汰を考えることを棄てている、だけ。

とはいえ、生物的な本能はあるし生理現象を抑えることもまた異能を使わなければ難しい。
長時間の接触なんてあれば、隠しはしても隠しきれないものは出るだろうがそれはその時だ。



君が立場の話をすれば、少し身を離してその銀色の双眸を赤い瞳で覗き込み、
作ったような緩い怒り顔をして、額を指で突くだろう。

「同じ風紀委員の人同士の事は知らないけど、
 一般学生からしたら風紀委員ってだけでちょっと身構えたりするものだから
 俺が真琴さんと仲良くしてるのをそういう目で見るやつには、笑いながら魅せつけてやっちゃばよくない?

 俺たち仲いいんだぜ、てさ。

 他人の目を気にして付き合う相手を選ぶなんてつまらないじゃん?」

楽しめる相手ならどんな立場だっていいじゃないか。
二級学生だって、なんだって、風紀委員で定めている第一級監視対象だって関係ない。
彼はそういう輩だ。


「俺と君の付き合いは、誰にもケチなんてつけさせないさ」


そう言うと一拍おいて笑みを浮かべて自身の荷物へと向かい食事の相談と言葉を投げかける。


「包丁と軽い調味料しか持ってきてないけど、捌いて塩……コンロもあるから少し炙ったり鍋でしゃぶしゃぶとか出来るけど、たれ系は醤油しか俺は持ってきてないんだよね」

どうしようか、と。

月夜見 真琴 >  
「――――」

とん、と額を突かてから。
怒り顔を見るならば、僅かな逡巡の後、
にっこりと笑みを深めた。良い男だな。

「十架――男女の仲を魅せつけようとは、
 ずいぶん大胆なことを言ってくれたものだよ」

ふふふ、と笑い声を立てながら、いたずらっぽく小首を傾げてみせる。
こちらもまた彼から離れ、麦わら帽をかぶり直す。
良い思い出を納めたスマホを眺めてから、それを鞄にしまい込んだ。
"なにか"あれば、《嗤う妖精》が化かしたこととなろう。
それでいい。

「まあそれは冗談として、そう考えてくれるならとても嬉しい申し出だ。
 農業学科の友人にして太公望となれば、まこと得難い友垣さ。
 そう言ってくれるなら有り難く甘えさせてもらおう。
 ありがとう。 なんなら今度からは腕を組んで歩こうか――うん?」

顎に手を添え、首を傾げてみせた。

「せっかくだ。
 塩と醤油だけというのも乙かもしれない。
 釣りたて捌きたて、少し臭みのある魚ではあるが、なに。
 むしろ真に迫った味が楽しめるというものさ――頼めるか?」

指を立ててご提案だ。
誤魔化しのない味は、難ありでも美味しいと食べられると。
そうなのだろう?

武楽夢 十架 >  
「あ、」

そうか、そうとも取れるかと今更気づいたかのように呆けた顔を少しして
誤魔化すように少し笑うが、認識させられれば照れもする。

「いや、なんというか……まあ、ちょっと大胆に過ぎたかも知れないけど
 変に偽った言葉を並べるよりは……いいと思ってくれ、下さい」

夏の暑さで赤くなるのとは別に青年は首から上を赤くした。
考えれば考えるほど、受け取り側が間違えればなんとも言えない言葉ではないかと羞恥した。

けれど、それでもだ。

「……真琴さんのことをそういう目で見るやつを驚かせられるなら、
 そうするのは面白そうかな」

委員会内での彼女の扱いは知らないが、そういういたずらを一緒にしたら楽しい気がした。
だから、恥ずかしいと思ったが、彼女と仲がいいのをみせつけてやるのはやっぱり有りかも知れないと思う。


「では、喜んで作らせていただきますとも。
 新たな出会いを祝し、真琴さんの胃袋を鷲掴みにしてみせよう!」

フッフッフとわざとらしく笑い、包丁を手にした。
この時の食事は、この間一人で食べた時よりも味わい深く彩りに満ちていた、と青年は感じた。

ご案内:「【イベント】海水浴場 浜辺」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「【イベント】海水浴場 浜辺」から武楽夢 十架さんが去りました。
ご案内:「【イベント】海水浴場 岩場」にレナードさんが現れました。
レナード > 兜を脱いで、ここに来た。
その道中、離脱症状に苛まされながらも、ふらつく身体でたどり着いた。
岸壁を背に、その場に座り込む。切らしていた息は、やがて落ち着いて。

こんな夜更けに、誰もいない。誰も来ない場所。
大時計台は駄目だ。もう、あそこは人が来る。

「……僕は、救えない者………かぁ……」

分かっていたことだ。
自分の旅路がそれを物語っている。
反逆というものにかまけていたからかもしれない。
自分自身を含めて、誰一人として、レナードを救うことはできなかった。
そんな結果を、"彼"は嗤った。
もう、救えない者だと割り切るしかないのだと。

レナード > 「……っ………」

涙が出てくる。
自分で出した結論にも関わらず、それを飲み込むには非情がすぎる。
鋭く尖った刺の球を飲み込むかのような、苦行だ。
心に穴が空きそうで、痛い。辛い。
それでも、"彼"はそれを飲めと言う。

今まで敢えて見てこなかったその結論を、"彼"はまざまざと見せつけてくる。
その方が、確かに、弱みとしてはなくなるだろう。
機械になる上で、心は不要だ。そんなものは殺してでも、生きてはいけるのだから。
目の前にぶら下げられた、復讐という甘い蜜に塗れて生きればいいと、"彼"は言うのだから。

レナード > 脳内に、彼の言葉が去来する。
男女の声を重ねたような、歪な声色。

<お前を救える人は、誰もいない。>

「……っ……」

<お前を受け止められる人は、誰もいない。>

「………ゃだ…っ…」

<言葉で救いを示されたところで、それは何の意味も為さない。>

「……ぃやだ……っ……」

<…ならば、耳を閉じてでも前を向いて、生き続けるしかないだろう。>

「…いやだ…っ………、いやだよぉ……っ……」

もう、聞き分けのない子供の様に、泣き腫らすしかなかった。
…こんな姿、誰にも見せられるはずがないのに。

レナード >  
 
 
「…だれか………
 ……ぼくを、たすけて…………」
 
 
 
 

レナード > 終ぞ出てこなかった、その言葉を、口にしてしまうくらいに。
それを呑むのは、辛いことだった。
彼が目を逸らし続けてきた、その結論を。

そのまま、しくしく泣くしかなかった。
まるで、到来する痛みに耐え続けるように。

ご案内:「【イベント】海水浴場 岩場」に朝槻 世海さんが現れました。