2020/09/05 のログ
ご案内:「【イベント】海水浴場 浅瀬」にリタ・ラルケさんが現れました。
■リタ・ラルケ >
リタ・ラルケが放浪をする理由は、大きく二つに分けられる。
一つは、趣味としての放浪。これは本人が「散歩」と言い張るもの。着の身着のまま出掛けて、とにかく自らの気分に逆らわないままどこまでも行く。途中で興味あるものを見つけたら、脇道に逸れてそちらに向かう。とにかく気の向くまま辺りを放浪し、疲れたり飽きたら切り上げる。彼女の放浪のほとんどはこれだ。
そして、もう一つ。
"精霊"たちに人の体を貸してやって、思い切り精霊たちに遊ばせてやる、異能を使った放浪。精霊たちの"息抜き"と言ってもいい。
今日の彼女の放浪は、後者であった。
■リタ・ラルケ >
「ぷはぁっ」
海面から、少女が顔を出す。
暦の上でこそ秋とはいえ、未だ残暑が厳しい日。
リタは朝も中頃より、海で遊んでいた。
暑い。海に行きたい。そう思い立ったのが今日の朝方。
ちょうど街に出かける用事もあったし、いいか――と、突発的に海に出かけた。
初めは、波打ち際を歩いて涼む程度だったのだが、海辺にたくさんいる"水"の精霊が、まあなんだかはしゃぎたいみたいな雰囲気を醸し出していたから。
あんまり長くなりませんように、と。そう願いながら、体を貸してやった。
■リタ・ラルケ >
――やっぱり、海楽しいっ!
"リタ"に意識が渡されてから、それはもう遊んだ。
朝方であまり人はいないから、ひたすらはしゃいでも迷惑をかけない。
波を起こしてそれに揉まれたり、とにかく深くまで潜水してみたり。それはもう、久しぶりの海を満喫していた。
今は水面にうつぶせになって、ぷかぷか浮かんでいる。
「すいしたいごっこ」……だっけ? なかなか楽しい。
■リタ・ラルケ >
しばらくの間、「すいしたいごっこ」を楽しんでいたが、数分もすればじっとしているのに堪えられなくなって、すぐにひっくり返って立ち上がる。
「んー、どうしよ」
正直手ぶらでは遊びつくした感はあるのだが、かといって遊び足りたかと言われるとまだである。
どうしようかなー、と手持無沙汰で悩む。
「……」
そういえば。
海底遺跡が、確か近くにあっただろうか。
■リタ・ラルケ >
「あれ、でも……確か許可がいる……んだっけ? 行くだけならいいんだっけ?」
研究調査の際は、学園側の申請によって潜水艇や潜水服が貸し与えられるらしいが、リタのはただの遊びだしなぁ。
許可が取れるかどうかどころか、ただの遊びのためだけに学園に申請を出すのも。そもそも調査じゃないし。
というか潜水艇も潜水服も、今のリタには必要ないし。
「……どうしようかな?」
変に怒られても嫌だし、ちょっと迷う。
■リタ・ラルケ >
「……まいっか! 海底遺跡はまた今度ーっ!」
いろいろ考えて――やっぱりやめた。だからこれから街に用事があるんだってば。時間があるときに気が向いたら――なんて言うと、なんかずっと行かない気がするけど――挑戦しよっと。
そう決めた後、再び潜水。深いところまでひたすら潜って、海の生き物たちと触れ合いに行く。
潜水服もなしで、普通の人ならまずいけないような深い場所へ。
ふふーん、次はどこにいこっかな?
■リタ・ラルケ >
――しばらくして、少女は満足げに深い海から上がってきた。
「あー、楽しかった!」
うん、今日は大満足っ! それじゃあそろそろ、戻ろーっと!
「纏繞解除ーっ!」
……。
――"自分"が意識をようやく取り戻したとき、まずは時計を確認した。
自分が思っていたよりも、結構時間が過ぎていて。
急いで荷物をまとめて、街に向かう一人の少女の姿があった。
あんまり長くなりませんように、って言ったじゃあん……。
ご案内:「【イベント】海水浴場 浅瀬」からリタ・ラルケさんが去りました。
ご案内:「浜辺」に杉本久遠さんが現れました。
■杉本久遠 >
──三年前。
杉本久遠は、この海岸で妖精と出会った。
空を自在に舞い、緋色のコントレールを残して泳ぐその美しさに心を奪われた。
人はこれほど自由に空を泳ぐ事ができるのか。
その時の感動を、久遠は未だ言葉で言い表すことが出来ない。
『──あなたも飛んでみる?』
感動に打ちひしがれる久遠の前に、妖精は降り立ち。
久遠に手を差し伸べたのだ。
そして、久遠はその日初めて、空を泳ぐ──事は叶わなかった。
■杉本久遠 >
宙に浮いて、立ち上がることすらできず。
ゆらゆら不安定なまま、前に勢いよく倒れ込んだ。
10cmの目前に砂浜が広がる。
『あはは、まあ、最初はそうなっちゃうよね』
妖精は笑っていた。
ジタバタともがく久遠を見て、悪戯な笑顔を浮かべて。
それにつられて久遠も笑った。
初めて宙に浮かんだのが楽しくて。
『あなた、怖くなかったの?』
妖精は久遠に問う。
久遠は首を振った。
こんなにドキドキしたのははじめてだと。
『あはは! あなた、きっと素質があるわ』
妖精はまた楽しげに笑っていた。
■杉本久遠 >
『さあ、起き上がって。
まず顎を上げて前を見て、そのままゆっくり背中を反らして。
腕はなるべく大きく広げてね』
妖精に言われたとおり、体を動かす。
ずうっと、体は起き上がり、久遠は大の字になって宙に立ったのだ。
『うんうん、上出来上出来!
でもま、まだまだ飛べるようになるのは先かなあ』
妖精の言うとおりだ。
久遠は体を起こしているだけで精一杯。
ここからどうしたら空を泳げるのか、まるでわからなかった。
それでも、久遠は楽しくて仕方なかった。
地上から切り離された感動に、ただ嬉しくて笑っていた。
■杉本久遠 >
『──そっか、そんなに楽しいんだ。
なら、それはあなたにあげるわ』
妖精は少し寂しそうな笑みを見せながら言った。
『私ね、これからプロになるの。
私の為に用意された、新しいS-Wingも用意されてる。
その子で飛ぶのは、今日で最後だったんだ』
久遠の履いた靴を指した。
『だから、あなたにあげる。
飛べるようになるまでは、きっと丁度いいわ。
いずれは、もっと合う物に履き替えるだろうけど』
それまでは、と言って妖精は魔法の靴を久遠に授けたのだ。
『──あなたが泳ぎ続ける限り。
いつかどこかで、同じ舞台で会えるかもね。
その日を楽しみにしているわ』
■杉本久遠 >
──それが三年前の出来事。
杉本久遠が妖精に出会い、エアースイムに出会った日の事だ。
「そうか、お前とももう三年の付き合いなんだなあ」
懐かしそうに呟きながら、久遠は履いている靴──S-Wing【紅月壱型】に触れた。
あれから、結局一度も履き替えていない。
その機会はあったのだが、それでもこれがよかった。
「やっぱり泳ぐなら、お前と一緒じゃないとな」
うむ、と一人大きく頷いて、砂浜に立つ。
紺色のスイムスーツを着て、背中に翼を背負う。
【フライングジャケットⅢ】背中に特殊樹脂で作られた翼のある上半身に着込む形のS-Wingだ。
このフライングジャケットⅢと紅月壱型が、いまの久遠にとって空を泳ぐ──エアースイムの相棒だ。
■杉本久遠 >
「よっしゃァァァ──!!」
気合を入れた声と共に、久遠は砂浜を蹴る。
同時にその体は宙に浮き、蹴り出した勢いも受け取って加速しながら海上へと滑り出した。
久遠はただ加速していく。
大きく円を描きながら、何周も何周も、緋色のコントレールを残して。
海の上には幾重にも重なる赤い輪が浮かんでいた。
速度はどんどん上がっていく。
エアースイムにおける最高速度はいくつだったろうか。
そう、曖昧な記憶だが、たしか時速80km程度。
「ならばっ、オレはそれを超えるぞォォ─!」
一層の気合と共に加速し、S-Wingの限界までのスピードを引き出す。
それと同時に、久遠は力強く空を見上げ上体を反らし、膝を曲げて、下さい空を蹴った。
■杉本久遠 >
「うおぉぉぉぉぉ────!!」
雄叫びと共に、久遠の体が真上へと打ち上げられる。
それまでの速度を維持したまま、強引な姿勢制御によって直角に上昇する技【ハイ・フライ・ハイ】。
久遠の体は、一直線に空へ向かって昇っていく。
緋色の軌跡を描いて、天へと挑む。
もっと早く、もっと高くへ。
その先を、その向こうへと、久遠は手を伸ばす。
■杉本久遠 >
しかし。
突然、久遠の体は減速する。
S-Wingに設定された安全高度を超えたのだ。
僅かに残った慣性で、久遠の体は雲の上へと押し上げられる。
あまりにも眩しい太陽。
金色に輝く雲の原野。
それをほんのひと時目にして、久遠は大の字になって落ちていく。
全身から力を抜いて、緩やかな降下を続けた。
海面が近づくとようやく体を反転させ、ゆっくりとしたスピードで砂浜へと戻った。
■杉本久遠 >
「だはぁぁ──!
やっぱりここまでかぁーっ!」
清々しそうに少し悔しそうに、それでも楽しそうに声を上げる。
自分の最高はだした。
だしきった。
それだけで、充分に満たされている。
そう、この清々しさと充実感。
まさに今、生きていると感じられるこの瞬間。
エアースイムはこれだからやめられない。
体一つでどこまでも飛んでいける。
そんな気持ちにさせてくれるスポーツは、そうはないだろう。
■杉本久遠 >
「だはー!
まだまだだな!
つまり、オレはもっと早くなれるという事だ!」
浜辺に着地し、両手を腰に当てて気持ち良く笑う。
海を背中に今度は両手を上げて、大きく伸びをする。
スイム中は速度を維持するために姿勢を固めているので、前後のストレッチが欠かせない。
「うむ、今日も最高のスイムだった。
よーし、体をほぐしたらもう一度泳ぐか!」
そう自分に満足しながら、ゆっくりと体をほぐすためS-Wingを身に着けたままストレッチを始める。
海水浴場から少し離れた浜辺は、新学期が始まったこともあり人が少ない。
少々、本当に、少しばかり、寂しい空間だった。
ご案内:「浜辺」に川添 春香さんが現れました。
■川添 春香 >
……懐かしいものを見た。
昔、とはいってもこの時代からすれば未来のことなのだけど。
私はあのスポーツを見たことがある。
あの時に見た眩しいような輝きは。
この時代でも一緒だった。
ストレッチをする彼に話しかける。
「どうも、エアースイムをしているんですか?」
「突然、ごめんなさい。あんまり楽しそうだったから話しかけちゃいました」
浜辺を歩いていて。
こんなものが見れるとは思わなかったな………
風に靡く髪を手で押さえて、微笑んだ。
■杉本久遠 >
ストレッチをしていたら声を掛けられる。
しかも、なんと、女子にである。
これには久遠も驚き――。
「おお!
エアースイムを知ってるのか!」
おおー! と大げさに感激して見せて、女子の目の前までバタバタと駆け寄っていく大男。
女子がどうだなどと、エアースイムを知る人に出会えた興奮に比べたら、大したことないようだった!
■川添 春香 >
駆け寄ってくる彼。とても背が高い人だなぁ。
でも、この世界にはそういう人も結構いる。
「はい。昔、見たことがあって……とても楽しそうだなって思いました」
「エアースイムは趣味ですか? それとも部活動ですか?」
よく見れば彼の瞳はこの海にも似たディープブルーだった。
そしてよく手入れがされたS-Wingを見れば。
真面目にこのスポーツに打ち込んでいることがわかる。
「風、気持ちいいですね!」
■杉本久遠 >
「おお、常世学園エアースイム部部長、杉本久遠だ!
なお部員はいない!」
両手を腰に当てて、胸を張って宣言する。
そう、この時代、エアースイムは、超マイナー競技なのである!
「うむここの風は気持ちいいんだ。
スイム中に感じられないのが残念でならないな!」
少女に深く頷き、そしてまた感動したように声が大きくなる。
「しかしそうか昔からか!
オレが知ったのはつい三年前なんだ。
それからすぐに部活を立ち上げたが、うむ!」
だはー、と少々暑苦しく爽やかに笑うという矛盾。
■川添 春香 >
「そうでしたか、私は春香です。川添春香、一年生」
「一応……異邦人? みたいな………そんな感じです」
胸元に手を当てて名乗り、小さく一礼した。
そして風に流れる髪を手で押さえて。
「そうなんですか? エアースイムの道具って風を遮る効果もあるんですね…」
「安全には代えられないんでしょうけど、私は好きなんですよ、潮風」
彼の笑顔は、暑苦しい。けど、思わずこちらも笑顔になるような。
素敵な笑顔だった。
「部員がいないんじゃ部費とかあんまり降りてこないでしょう?」
心配そうに相手の顔を見上げて。
■杉本久遠 >
「おおそうか!
よろしくな川添!
オレは学年的には、なんだ、もう十年以上学園にいるな」
指折り数え初めて、うむ、と頷く。
「最高時速は80㎞らしいからな、生身で風を受ければシャレにならん!
ははは、趣味があうな川添!
だからこそ、試合の前後に風を感じるのがたまらなく気持ちいのだ」
快活に笑いながら、がっしりとした腕を組む。
スイムスーツ越しに浮き出る身体は、非常に筋肉質だった。
「だはー!
痛いところをつくなあ川添!
そうなんだ、この三年、部費にも部室にも恵まれていないぞ」
がっくりと、首が倒れる。
エアースイム部。
現在、部員無し、部費無し(?)、部室無し。
■川添 春香 >
「はい、よろしくお願いします杉本先輩!」
「………十年……………?」
十年。そうか、そういうものなのかー。
じゃあ大先輩だなぁ。
杉本大先輩だ。
「時速80kmですか……大分速いですねー」
「ふふ、そうですね! スポーツの後なら、なお気持ちいいかも」
筋肉質。かなり鍛えてある。
スポーツをやる上で、こういうのも必要なのだろうか。
ムッキムキにはなれないけど。スポーツには興味がある。
「そうですか……じゃあ、私が部に入りたいって言ったらどうなります?」
「あ、異邦人なので……その辺の事情もわかってないのですが…可能なら」
たはーと頭に手を当ててまだ異邦人要項を読み終えてないことを暴露。
■杉本久遠 >
「おう、五歳だったか六歳のころから通ってるからな。
ははは久しぶりに先輩と呼ばれると案外くすぐったいな!」
この三年、暇があればエアースイムをし続けてきたため、後輩と接する機会がなかったのだ!
少女の言葉を完全に肯定するように、大きく頷く。
しかし、その後の言葉に、久遠の顎があんぐりと開いた。
「か、川添、それは、それは本当か?
いや、異邦人でも部活動は自由だし、エアースイムも自由だ、うむ、自由なはずだが!」
がたがたと震えだす大男。
組まれていた腕が解かれ、わなわなと震えている。
■川添 春香 >
「へえ、ずっとこの島にいるんですね……」
「ふふ、いいじゃないですか杉本先輩!」
ひらひらと手を振って。なんと気っ風のいい男性だろう。
彼と一緒にエアースイムをするというのも、良いかも知れない。
「はい、私は初心者なのでルールを読み込むところから…」
「そういう感じで良ければ、私もエアースイムしてみたいです」
そんなに震えるほど? 部員がいなかったのかぁ……
でも、面白そうだし。やってみたい。
その時、真上にどこかから飛んできた帽子が見えて。
私は腕を1メートルほど伸ばしてその帽子を掴んだ。
「あのっ! そこの人! 帽子、飛んできましたよ!」
帽子を追いかけてきた女性に返して。
振り返ると、笑った。
「とまぁ、こういう異能なんですが。制御はできているので心配無用、です!」
■杉本久遠 >
「う、うむ、だはは、照れるな!」
少しばかりだらしなく笑う。
そこはまあ、一応年頃の男子であるので仕方ないだろう。
しかし、入部したいの一言を聞いてからは挙動不審だ。
「お、おおおおおおー!
オレは今、猛烈に感動しているぞー!」
そして叫んだ。
「興味を持ってもらえるだけでも嬉しいのに、入部してくれるのか!
うおぉぉぉ!
オレはきっとこの日のためにエアースイム部を続けてきたに違いない!」
感激に打ち震えている。
細い糸目から、滝のように涙が溢れ出している!
ふと飛んできた帽子。
それを掴んだ川添。
腕がすごい伸びたように見えた。
「――川添!」
振り替えて笑う少女の両肩を大きな手で掴む。
「――すごいじゃないか!
人のためになる素晴らしい異能だ!
オレは今の川添の行動に感激したあっ!」
涙を流して興奮しながら、少女の身体を揺すらんばかりに感動を伝えるだろう。
■川添 春香 >
「あはは、大袈裟ですよ……杉本先輩」
苦笑しながら。それでも、人が喜んでくれるというのはやっぱり良いもので。
パパもそう言っていたから、私もそうなのかも。
「って泣くほどですか!?」
慌ててハンカチを取り出そうとすると、両肩を掴まれて。
カクカクと首を縦に振りながら、困惑して。
「ど、どうどう。人助けをするのは当然のことだってパパも言ってました」
「だから、これは普通のことなんですっ。そう、普通…」
大きな手だなぁ、とか思いながら彼を落ち着かせようと努める。
■杉本久遠 >
「おおぉぉ!
お前はなんていいやつなんだ川添ぇ!
オレは素晴らしい後輩を持てて幸せだぞ!」
この男、大興奮である。
そうしてひとしきり感激してから、やっと我に返り慌てて手を離した。
「だはー!
す、すまん川添!
女子の身体に気安く触ってしまったぁぁ!」
申し訳ない! とがくんと頭を下げて手を合わせた。
モーションが一々でかかった。
「しかし、しかしだ!
川添の父さんは素晴らしいヒトなんだな。
人助けを普通で当然と言って、実践できる人はそういるもんじゃないぞ」
そう、言うは易し、行うは難し、である。
それができる目の前の少女は、とても素晴らしい、至宝と言って差し支えない人物だ。
「そして、そんな素晴らしい後輩の川添が、入部してくれると言うのならば、嬉しくならないわけがないだろう!
くぅぅぅぅ!
異邦人でも初心者でも問題ないぞ、オレも初心者だったしな!
興味を持ってくれたならば、今すぐにでも入部を――」
と、言って固まった後、ショックを受けたようにまた、口をあんぐりと開けて震えた。
「だはーっ!
入部届が、ないぞぉー!」
そう、まさか突然入部希望者に会う事なんて想定するはずもなく。
入部届など、持ち歩いてはいないのである!
■川添 春香 >
「そんなに!?」
この時代の人がみんなオーバーリアクションなわけでないことはわかる。
この勢いは杉本先輩の固有スキルだこれ!?
手を離してもらって、すぐに頭を下げられると慌てて。
「い、いえ!! 気にしてませんから!」
思わずこっちまで声が大きくなってしまう。
そしてパパを褒められると自分のことのように嬉しくなって。
胸に手を当ててドヤ顔をした。
「そうなんです、パパは最高の父親で……」
「色んなことを教わりましたよ、異能もパパ譲りなんです」
ふふん、と胸を張っていると。
入部届がないと言われてたはーと頭に手を当てて。
「ですよね、いつも持ち歩いているわけないですよねー」
「それじゃ連絡先を交換しておきましょうか」
未来の携帯デバイスを取り出して。
いつも調子が悪いけど、通信機能は普通に使えるだろうし。
「アドレスはnekoneko-nyannyan……」
口頭でアドレスを教えるのって難しくない?
時代が違うから色々と機能に互換性がない(だろう)から仕方ないのです。
■杉本久遠 >
「な、なに、いいのか?
いいのか川添、男に簡単に連絡先を教えてしまってー!」
動揺しつつ心配しつつ、ちょっと嬉しくなりつつ、こちらも携帯端末を――。
「だはー!
カバンの中だ!」
そりゃあ、スイムスーツの時に持っているはずがないのである。
などと話している久遠の頭に、横からスポーツバッグが飛んできて横倒しに吹っ飛んだ。
「だはぁ――っ!」
■杉本永遠 >
「はーい、兄ちゃんその辺にしときなよー」
浜辺を同年代くらいの少女がやってくるだろう。
片手にカバンを持ってセーラータイプの制服に薄いカーディガンを羽織った少女だ。
「どーも、兄ちゃんの妹で、杉本永遠(とわ)ですよー。
なにか兄ちゃんが迷惑かけなかった?」
そう、横倒しに倒れた兄を気に掛けるでもなく、気さくに声を掛けてくるだろう。
『なにっ!
迷惑だったか川添っ!』
ガバァっと起き上がる久遠だったが、すぐに少女――永遠に牽制される。
「はーい、兄ちゃんは話進まないから黙っててー。
えっとー、ちょーっと見えたし聞こえたんだけど、エアースイム部に入部したいって事でいいのかなー?」
と、適度に距離感が近く、朗らかで柔らかな雰囲気で確認した。
■川添 春香 >
「あ、そっか……今の時代の携帯デバイスって剛性が…」
エアースイムの時に壊れるかも知れないというわけね。
そのことは考えていなかった。
その時、横合いからスポーツバッグがかっ飛んできて。
杉本先輩がなぎ倒されてキョトンとする。
「お、兄ちゃん……? 杉本先輩の、妹さん…」
ぺこりと頭を下げて。
なんと、妹さんが近くにいたなんて。
「迷惑だなんて、そんなっ」
ぶんぶんと手を左右に振って。
意思を込めて頷いて。
「はい、エアースイム部に入部したいです」
「問題もないなら、私もエアースイムをやってみたい!」
ハイハーイと右手を上げて。
■杉本永遠 >
「はーい、よろしくね。
えーっと川添さんかな?
私の事は『スーパー可愛い永遠ちゃん』って呼んでいいよー」
なんて、きゃぴっと目元でピースサインをしてみて。
この兄妹、どちらも少々独特かもしれない。
「わあお、気合十分って感じだ。
ふんふん、ちょーっとまってねー」
そう言いながら、少女の身体を上から下までじっくりと見て。
それから満足げに大きく頷いた。
「うんうん、姿勢もいいし、手足も長いし、ちゃんと筋肉もつきそう。
良いと思うよ、エアースイム。
上手くなれる素質あると思うなあ」
そう言いながら、カバンをごそごそと探り、一枚の紙をクリップボードと共に差し出す。
「はい、これ入部届。
ここに名前と、入部したい理由を適当に書いてもらったら、後は提出するだけー。
そしたら、川添さんもすぐにエアースイム部の一員だよ」
と、ボールペンも添えて。
にこりと笑う。
「ちなみに私、エアースイム部マネージャーもしてまっす。
こんなこともあろうかと、常々準備しておりましたーっ」
なんて、どこか明後日の方向にポーズと表情をびしっと決めながら言った。
■川添 春香 >
「はい、わかりました! スーパー可愛い永遠ちゃんさん!」
真似して目元でピースサイン。
至って私は大真面目。
体を見られると思わずポーズを決めてしまう。
何故かブイキュラ。しかもキュラホワイト。
「本当ですか! 私、素養ありますか!」
入部届を受け取ると、目を輝かせて。
しっかり者の妹さんで、マネージャーさんでもある!!
なんということでしょう。
「それじゃ早速………」
神妙な顔つきで一筆入魂。
名前は川添春香、一年生で……
入部したい理由は空が好きだから!
「準備がいいねー?」
「これでいいかな……?」
■杉本永遠 >
「うわっ、本当に呼ばれた!
すっごい恥ずかしいよこれー。
永遠ちゃんやらかしちゃった系かなあ」
と、顔を赤くして恥ずかしがる。
が、相手もポーズを決めたのを見れば、ぐっと親指を立て舌をぺろりと出してウィンク。
「うんうん、身体的な素質はばっちりあるんじゃないかな。
無理なダイエットとか、筋トレとかしてた様子もなさそうだし。
エアースイム向きの身体づくりを無理なく始められそうだよー」
入部届を書いてもらいながら、そんなふうに少女を評する。
この妹、見ただけで相手の身体能力を見抜く異能保持者なのである!
「名前オッケー、入部理由――いいね、私も空好きだよー。
よっし、入部届はこれでおっけい。
あ、一応連絡先聞いておいていーい?
兄ちゃんには漏らしたりしないから安心していいよ」
と、自分の端末を取り出して。
■杉本久遠 >
「永遠ぁ、なんだか兄ちゃんの扱い酷くないか?」
隣で蹲ってしょんぼりしている、兄ちゃんこと久遠であった。
■川添 春香 >
「えっ、あ、うん! 永遠ちゃんさん!」
これか!? これが正解か!! アンサーか!!
どうにもわからないけど、しっかりした妹さんですね杉本先輩!!
「そんなことがわかるんですね……パパが無理は長続きしないって言ってたから…」
「本当はもうちょっと痩せたいけど!」
「エアースイム向きの身体を作るんだったらそうも言ってられない!」
女子にとって体重の問題は永遠の課題なのです。
「あ、はい」
連絡先を交換して、携帯デバイスを仕舞う。
杉本先輩が脇でしょんぼりしているので、小さく手を振って。
「ごめんなさい杉本先輩、決して無視をしているわけでは…!」
■杉本久遠 >
「川添はやさしいなあっ!」
久遠は激しく感動している。
■杉本永遠 >
「なはは、まあ、こんな兄ちゃんだけどよろしくね。
人に教えるのは、多分、そこそこ?
あー、きっとうまい方だと思うからさ」
と、苦笑交じりに言って。
「うんうんわかるよー!
私も気持ちはもっと痩せたいんだけどねー、数値的には今がこう、黄金比なのですなぁ」
悩ましそうに頬杖を突くように顎に手を添える。
「――はい、ありがとね!
よーし、それじゃあ、永遠ちゃんはこのまま入部届の提出にいってきまーす!
川添さん、今度連絡するから、S-Wingとスイムスーツ買いに行こうね。
ちゃんと部費は蓄えてあるから、お金の心配はしなくていいよ」
そう駆けだすようにしながら、ちらっと振り向いて敬礼するようにピシっとウィンク。
「あ、兄ちゃんはちゃんと、川添さんの事送ってってあげるんだよ。
女の子を一人で帰らせたら怒るからねー!」
などと言って、嵐の用に掛け去っていく。
力強い妹だった。
■杉本久遠 >
「――って、部費あったのかー!?」
驚愕のあまり、部長は大変ショックを受けてあんぐりと口が開きっぱなしだ。
「お、おお。
そ、そういうわけらしいな!
これからよろしくな、川添!」
と、気を取り直すように勢いよく起き上がって、白い歯が見えるように笑いながら右手を差し出した。
■川添 春香 >
体重問題に言及が入ると頷いて。
「痩せぎすにはなりたくないけど、綺麗に痩せたいんですよね…悩みます…」
そこから先の言葉には、困惑しながらも。
「きっと……! わ、私は杉本先輩を信じます!」
「って部費の存在を兄に知らせてなかったー!?」
嵐のように去っていく永遠ちゃんさんを見て。
しばらくキョトンとしていたけど。
エアースイム部。悪くない。こういうのも、きっと青春だろう。
立ち上がった杉本先輩の右手を取って。
「はい、これからよろしくお願いしますね、杉本先輩!」
と、笑顔で言った。
それからは色んな話をしながら、杉本先輩に女子寮まで送ってもらった。
楽しいこと、見つけたかも!
ご案内:「浜辺」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から川添 春香さんが去りました。