2020/09/12 のログ
ご案内:「浜辺」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
 空に鮮やかな紅いコントレールが引かれていく。
 それは円を描いたり、曲がりくねったりしながら、空に軌跡を描いていく。

 エアースイム。
 空を泳ぎ、速さや強さを競い合う競技スポーツ。
 コントレールが縦横無尽に空を染め上げる様は、他では見られない特有の光景だ。

 今はまだ非常にマイナーなスカイスポーツだが、それでも魅了される者は少なくない。
 エアースイムに出会い、青春や人生を捧げる者もいた。
 迦具楽もまた、その一人。

「──反応もいいし、AIも良くなってるけど、まだイマイチ面白みが足りないなあ。
 すぐに慣れちゃって、パターンが読めちゃうし」

 台車の上に腰掛けて、空中に投影される操作パネルに触れながら難しい顔をする。
 今やっているのは、エアースイムのスカイファイト用のトレーニング用ドローン。
 その試験運用だ。

「──オッケー。
 それじゃあ新しい試験項目送っといて。
 一休みしたらやるから」

 そう答えてから、操作パネルを閉じる。
 開発室は随分とやる気で、ほんの一日二日でどんどんプログラムのアップデートを行っていた。
 その度にドローンは着実に手応えのある物に進化していて、この調子ならそう遠くないうちに商品化の目処も立つかもしれない。

焔誼迦具楽 >  
「ま、商品化しても買える所がどれだけあるやら。
 開発費いくら掛かってんのかしら、これ」

 相当な費用が掛かっているのは間違いない。
 迦具楽に支払われている報酬も、安くはないのだ。

(私はいくらでもやるんだけどね。
 一人で泳いでるよりは練習になるし)

 来月初頭のスカイファイト大会。
 それに備えて少しでも練習できる時間を作りたい所でもあるのだ。
 そして、もう一つや二つ、あの『トップスイマー』に勝つために手札が欲しい。

(リタのおかげで、もうすぐ何かが掴めそうなんだよね。
 乗り物、操る――うーん)

 白い少女のおかげもあって、イメージにいい刺激を受けた。
 とは言え、それをすぐに形に出来るわけでもない。
 もう少し考えて、体を動かして、手探りで得ていくしかないのだ。

焔誼迦具楽 >  
 機材の乗った大きな台車に座って、腕を組んで頭を悩ます。
 もう一息、もうちょっとの手ごたえは感じるのだが。
 迦具楽もすっかり、エアースイムのセオリーに囚われてしまっている。

「んー、やっぱりこう、昔みたいに好き勝手自由な発想ってわけにはいかないなあ。
 星島のやつ、どうしてあんな自由自在に泳げるのかしら」

 勝手にライバル視している『トップスイマー』の事を思い浮かべつつ。
 また何か、きっかけでも見つからないかと、ぼんやり水平線を眺めていた。

ご案内:「浜辺」にリタ・ラルケさんが現れました。
リタ・ラルケ >  
 学生街で、ちょっとばかりの買い物を済ませた帰り道。
 ふと思い立って、浜辺を覗いてみた。

「お、いるいる」

 視線の先には、つい先日知り合った少女。
 あの時と同じような装備を身に着けて、休憩中だろうか、海の様子を眺めているようだった。

「やっほ、遊びに来ちゃった。今日も練習?」

 座り込む少女に近づいて、そう声をかける。

焔誼迦具楽 >  
 聞こえた声に振り向くと、ぱっと表情を明るくする。

「わ、本当にまた来てくれたのね!
 嬉しいなぁ」

 本当に嬉しそうに、近づいてくる少女に手を振った。

「そうそう、練習を兼ねたお仕事かな。
 大会も近いし、遊んでばかりいられないからねー」

 台車の上に乗ったまま、足をふらふらと揺らす。
 その様子は少女の訪問をとても歓迎しているように見えるだろう。

リタ・ラルケ >  
 少女――迦具楽はこちらに向くと、嬉しそうに手を振ってくる。こちらを歓迎してくれているようで、その様子がなんだかこそばゆい。

「買い物帰りにちょっと覗いてみよう、くらいだったんだけどね」

 迦具楽がいなければ、そのまま帰るつもりではあった。勿論、迦具楽が忙しくなければ話をしたいと、少なからず思っていたことは否定しない。

「そっか、頑張ってるね。練習は順調?」

 世界大会の練習ともなれば、やはり色々と考えるべきことはあるだろう。まあ、直接的なアドバイスはできなくとも何か話を聞くくらいはできるかな、と。軽く聞いてみた。

焔誼迦具楽 >  
「んーふふ、そっかそっか、ちょっと覗きに来てくれたんだぁ」

 にこにことして、少女の様子を見る。
 今日もまた、この周囲はなぜか気温が低く、涼しく感じるだろう。

「順調かーって言われちゃうと難しいところだなー。
 あのフィールドに浮いて飛んでるボールみたいなのあるでしょ?
 あれ、今、私のスポンサーが研究開発中の練習用ドローンなんだけどね」

 そうフィールドを浮遊している九個のドローンを示して。

「ちょーっとまだ、手ごたえがないって言うか。
 私、ちょっと事情があって他の選手とかチームとか、そう言うところと練習したりも出来なくてさ」

 がっくりと肩を落として、ため息。

「一人じゃ出来る練習も限られるし、いまいち捗ってないんだよね」

 うーん、と悩ましそうに唸った。

リタ・ラルケ >  
「ふぅん……?」

 指し示された方を見ると、海上には前にも見た球形の物体。

「手ごたえがない……っていうのは、物足りないってことかな。しかも他の人とも練習できないって」

 一人での練習しかできない、というのは果たしてどんな事情なのだろうか――少し聞き出してみようかとも思ったが、まあ聞いたところで自分にどうにかできるものでもなし。
 スポンサーか、あるいは"お仕事"の事情かと、そう思って自分を納得させておく。

「やっぱ、他の人とやりたかったりする?」

 とはいえどうも、不満足そうな様子。
 ……うーん。

焔誼迦具楽 >  
「そうそう、物足りないの。
 ――実は私、戸籍もない違法居住者だから」

 ここだけの話、とでも言うように、口元に人差し指を当てて小声で。

「あんまり大っぴらに表舞台に出るわけにいかないのよねー。
 特に島の外になると、一層取り締まりが厳しいっていうか。
 試合だって、正体を隠して出場する契約になってるしね」

 本当なら守秘義務のある内容なのだろうが、本人は特別隠すような様子もなくさらっと喋る。
 もちろん、相手は選んでいるのだが、相手が風紀委員であったり、学園の体制側だったらどうするのか。

「そりゃあね、他の選手と練習できるならそれが一番うれしいけど。
 そうしたらもっと、いろんな刺激が貰えそうだし。
 どうしてもねー、なんか行き詰まっちゃうっていうか」

 後ろに手をついて、空を仰ぐような姿勢になる。
 その様子から、多少なり悩んでいる様子が見て取れるだろうか。

リタ・ラルケ >  
「……違法、居住者」

 その言葉が指し示す意味は、わかる。正式に、この島の住民とは認められていない者。つまりは他人と練習できないというのも、そういうことだった。
 焔誼迦具楽という人間は、公式には"存在しない"。故に、合同練習することはできない。

「……ふふ、そういうのって、誰にも言えない秘密――とかじゃないの」

 笑みを零す――それを聞いたからといって、彼女への態度が変わるわけではない。立場がどうだろうと、良い人もいれば悪い人もいる。そう知っているから。

「……ねえ、迦具楽。私さ、ちょっとだけ考えたことがあるんだけど」

 ――正確には、練習が捗っていないと言われたときから、考えていた。思い悩む目の前の友達の助けになれば、と思って。

「私が、練習相手になろうか?」

焔誼迦具楽 >  
「そうそう、誰にも言えない秘密なの!
 だから、リタも内緒ね?」

 そんな聞く者が聞いたら黙っていないことを、ちょっとした内緒話のように言う。
 そんな『存在しない』人間――ですらない、怪物は、普通の娘のように小首をかしげた。

「考えた事?」

 そして少女から聞いた提案は、目を丸くするほど驚く事で。

「え、練習相手って――リタ、エアースイムなんてやったことないでしょ?
 そりゃあその、気持ちはすごい嬉しいけどさ」

 もちろん、初心者だからどうとか言うつもりはない。
 人に教えるのはそれはそれで、とても練習になるのだから。
 しかし――この少女は自分でプレイする事にはあまり、積極的でなかったと思う。

「へへ、そんなに気を使ってくれなくても大丈夫だよ。
 こうして話し相手になってくれるだけでも、すごく助かってるし」

 実際、一人で根を詰めていると思考が堂々巡りになってしまう。
 それがこうして息抜き出来ることで、思考が切り替わってくれるのだ。

リタ・ラルケ >  
「そうだね。私はエアースイムなんてやったことない。精々、この前一緒に飛んだくらいだね」

 ――だけど、エアースイムをしたことがないからといって、"飛べないわけじゃない"。

「練習――って言うと違うか。一緒に遊ぼうって話。練習じゃなくて、ただのゲーム」

 そう、今からやるのは、

「"鬼ごっこ"。飛んで逃げる私を、迦具楽がエアースイムで捕まえる。制限時間――まあ、だいたい10分くらいかな。それまでに捕まえられたら迦具楽の勝ち、捕まえられなかったら私の勝ち」

 リタ・ラルケはエアースイムの選手ではない。故にこれは練習ではない。ただ友人同士が遊ぶだけである――有り体に言えば、そんな詭弁だ。

「……まあ勿論、私は練習のことなんてわからないから。これが練習になるかはわからないけど」

 さて、どうだろう。そう言いながら、彼女の様子を伺ってみる。

焔誼迦具楽 >  
「――なるほど」

 空を飛ぶ手段は、なにもエアースイムばかりじゃない。
 そして、エアースイムの練習を『エアースイム』に拘る理由もない。

「それは面白いかも。
 私、エアースイム以外で空を飛ぶヒトって間近で見た事もないし。
 練習になるかはわからないけど――それはそれとして、楽しそう!」

 友達と同じ舞台で遊ぶ。
 そんな事も、迦具楽にとっては難しい事だった。
 なにせ本気になれば――うっかり相手を殺してしまいかねないのだから。

「ちょっとまってね、設定を生身と接触しても大丈夫なように調整するから。
 そうすればぶつかっても弾かれるだけで済むし」

 夢中で追いかけている時に繊細な加減を出来る自信はない。
 間違って怪我をさせるのも嫌だった。

「鬼ごっこ、ね。
 じゃあフィールドはそこのリングの中でいい?
 高さはほぼ制限なしで、海面から雲に入らないくらいまでかな」

 操作パネルを呼び出して、ドローンを呼び戻す。
 海上でなら、万が一落下しても大怪我はしないだろう。
 ああ、それでも念のための用意はしてほしい。

「それと、せめてこれだけ着けてもらっていい?
 万一海に落ちた時には膨らんで浮袋代わりになるからさ」

 迦具楽の手の中に、いつの間にか空色のリングが二つ用意されている。
 海水に触れると膨張し、簡易な浮袋になる使い捨てのブレスレットだ。
 空での『遊び』はどうしたって危険が伴う。
 友達だからこそ、そのあたりは気を付けておきたかった。