2020/09/13 のログ
■リタ・ラルケ >
「ん、決まったね」
どうなるかはわからなかったが、乗り気なようでよかった。これが彼女にとっていい練習になってくれれば――いや、練習でなくても、彼女の息抜きの一環になればいい。
道具の設定を行う彼女を尻目に、リングのほうを見る。
「リング……あの枠か。ん、大丈夫」
見た感じ、広さは十分。高さもそれだけあれば窮屈に感じることはないだろう。
球体――ドローンがリングから撤収していく。見たことのない道具を手慣れている様子で使いこなす彼女を、自分は感心したように見つめるだろう。
そして、粗方ドローンが撤収し終わると、今度はこちらにリングを差し出してくる。
「浮袋……便利なものがあるね。腕に着ければいいのかな」
リングを受け取り、両腕に通す。安全装置ということだ。まあ、万一落下しても大丈夫といえば大丈夫なのだが――念を入れておくに越したことはないか。お互いに、"遊び"で危険な思いをすることもない。
そして、ついでに。下準備として、"精霊"を集めておく。
■焔誼迦具楽 >
「そりゃースカイスポーツだからね。
こういう細かなセーフティはたくさんあるんだよ」
一歩間違えれば命に関わるスポーツだからこそだ。
そういった安全周りのアイテムも多数、用意されていた。
そしてS-Wingの設定も終わり、ドローンもリングの外で待機状態になっている。
「よっし、こっちは準備オッケー――そういえば、リタってどうやって飛ぶの?」
腕輪を付けてくれたのを確認しながら、ふと気になってたずねる。
台車から降りながら、『何か』が集まってくるのを感じる。
普段はあまり意識しない、どこにでもありふれている――そんな小さな力の気配。
不思議そうに迦具楽は少女の周りを回って、何をするのだろうかと興味津々に見ていた。
■リタ・ラルケ >
「あ、そっか――迦具楽に見せるのは初めてか。まあ、すぐわかるよ」
それだけ言って、目を閉じる。そう苦も無く精霊は集まってくれたから、後は取り込むだけ。
「――集中」
――"纏繞"。
■リタ・ラルケ >
――髪と瞳が、翠に染まる。
そうして目を開けると同時に、リタはふわりとその場に浮かび上がって。
「……ん、よーし、いいぞー」
先程よりも、いくらか間延びした声。その場で軽く、くるりと宙返りをしてみせる。
よし、動くには十分。
「かぐらー、しょうぶだー」
中空に浮かんだまま、そう言った。
■焔誼迦具楽 >
「――へえ」
小さな力が集まって、それが少女の中へと吸い込まれていく。
それと同時に気配が――少女の『匂い』が変わった。
「すごい――面白いわリタ!
へえそっか、そうやって力を使うんだ!」
初めて見る種類の力に、興奮を隠さずにはしゃぐ。
髪と瞳の色が変わっても驚かず、むしろ喜んでみせて。
「だいじょーぶ?
そんなのんびりした感じだと、あっという間に捕まえちゃうよ?」
笑いながら、迦具楽もS-Wingを起動して浮かび上がる。
身体を軽く動かして、ウォーミングアップをはじめつつ。
「とりあえず、私がリタの背中にタッチしたら私の勝ち。
時間制限の10分間、リタが逃げ切ったらリタの勝ち。
それでいいのかな?」
準備はいいよ、といつでも動き出せるように。
■リタ・ラルケ >
「なめるなー、まけないぞー」
性格こそ、普段のリタ以上にマイペースではあるものの。
こと空中機動において、他の形態とは一線を画す姿。それが今のリタ。
「んー、いいよー。それじゃあ、あいずするねー」
リタも腕を回したりして、もう一度ウォーミングアップ。準備は、お互いに万端な様子。
「さーん、にー、いーち……」
カウントダウン。と同時に、足下に魔力を溜める。
「――すたーとっ」
――足下の魔力を爆発させ、飛翔。リタの身体は弾丸の如く、上空に舞い上がる……!
■焔誼迦具楽 >
「オッケー。
にー、いーち――はやっ!?」
少女の合図を受けて、同時に飛び上がろうとするものの。
予想以上のスピードに面食らって出遅れてしまう。
「――なるほど、こりゃスピードじゃ敵わないや」
後を追いかけて上昇するも、距離は離されていく。
設定を速度に振り分けてもこれだ、迦具楽の装備ではスピード勝負はできない。
となれば。
(――時間をかけても、着実にいかないと)
勝負事には、遊びであっても――遊びだからこそ、本気だ。
勝つための手段を考えて、まっすぐに追いかけるのは諦める。
少女の下方で、円を描くように回り始める。
上を飛ぶ少女を円の中心軸にして最高速度を維持したまま、螺旋を描くように高度を上げていく。
真っすぐに追いかけて追いつけないのなら、逃げ道を封じるように追い詰めていくしかない。
幸い、『鬼ごっこ』の範囲は限定してある。
このまま高度を上げていけば、いくら余裕のある高さを設定してもいつかは追い詰めることが出来るはずだ。
途中で軌道を変えるのなら、それこそ迦具楽の土俵だ。
小回りの利く急旋回と加速の良さが迦具楽の武器だった。
■リタ・ラルケ >
さて、上空に飛びあがったはいいが――このままいけば当然、いつかは限界高度が来る。
直線勝負では負けないだろうが――それも今だけ。
「……まわってる、かー」
彼女の様子を見る。円運動を描きながら、こちらを追いかけている。なるほど――一方向の速度は遅くなるが、逃げ道は封じられてしまう。不用意に切り返そうとすれば、その時点で捕まってしまうだろう。
「……」
見る限り、小回りが非常に利く――速度勝負には勝てるが、距離を詰められたら、恐らくは不利。
限界高度に達する前に、隙を見て切り返す。
「――じゃあ」
一定の速度で上昇していたリタは身体を翻して、そのまま真横方向――ちょうど迦具楽のいる反対の方向――に、直角に曲がる。
速度は、変わらない。
■焔誼迦具楽 >
まさに土俵が違うと言ったところだろうか。
スピードも機動の自由さも数段上だろう。
(それでも、このまま距離を詰めれば絶対に動く)
そして予想通り、少女は『直角』に曲がる。
エアースイムなら高等技術になるそれを、難なく行えるのは純粋にすごいと感じた。
けれど、わかっていれば反応はできる。
空中で前転――【フロントロール】という技で体の向きを反転させる。
けれどこのまま普通にターンをしていては間に合わない。
慣性に流されて、どうしても減速は免れないのだ。
「約束通り――見せてあげないと、ね!」
前転で縮めていた足を、力強く伸ばし、空中を『蹴る』。
バチン、という炸裂音と共に、迦具楽の身体は『速度を維持したまま』正反対の方向――少女を追うように打ち出された。
【スマッシュターン】、迦具楽が編み出した得意技だ。
詳細は省くが――空中を強打するように蹴る事で、減速せずに急激な方向転換を可能にする技だ。
そもそもの速度差によって追いつけはしないが、それでも迂回して切り返そうとする頃には距離を詰める事が出来るだろう。
■リタ・ラルケ >
「っ」
迦具楽が空中で前転のような動きをしたかと思えば、リタと同じように追従してくる。
それはそうだ。限界高度が迫る中、逃げ道をふさぐように動くのは当然のこと。それでも、生身の自分とほぼ同等に動ける――いかに彼女の技術が優れているかを物語っている。
「……」
そしてそうなると、リタにとってはピンチだ。
足下に溜めていた魔力を爆発させることで、スタートダッシュと方向転換でこそ直線的に高速で動けてはいるが、ずっとこの速度を維持できるわけではない。そもリタは特別直線的な動きが得意なわけではないのだ。
とはいえ並の相手ならば余裕で翻弄できるわけだが、流石に相手が悪い。どこかで、相手の予想を外すような動きをしなければ。
ならば。
「やっ」
残っていた足下の魔力を爆発させ、空中で急ブレーキ。
そのまま重力に任せて、真下に"墜落"する。
■焔誼迦具楽 >
距離は縮まらない――けれど、先ほどからの動きを見ると、あの驚異的なスピードは継続的なモノじゃないようだ。
となれば、このままきっちり逃げ場を塞いで持久戦に持ち込めれば、勝機はある。
大人げないかもしれないが、焦らず着実に追い込めばいい。
――そう思っていた。
「――えっ?」
頭上から少女の姿が消えた。
突然の事で完全に見失ってしまう。
ブレーキはしないが、その場で横回転して上下を見渡す、と。
いつの間にか少女が『落下』していた。
それは確実に『飛行』ではなく『墜落』だった。
海の上だから大怪我はしないとか、腕輪も渡しているとか、少女なら大丈夫だろうとか。
――そんな事を考える前に体が動いていた。
「リタっ!」
余裕のない声が飛び出した。
空中を蹴って反転し、落ちる少女を追いかける。
真っすぐに降下して、少女の下に回り込もうと必死に加速して。
■リタ・ラルケ >
高高度に位置していたリタは、"墜落"によってそのまま落下する。
――勿論墜落と言っても、リタが空中での制御を完全に手放したわけではない。
それは即ち、高高度からの落下によって、位置エネルギーを運動エネルギーに変換する――つまり、魔力を消費することなく速度を上げるということ。さらに言えば、その際の急失速によって、相手の視界からリタの姿を消すこと。
「やぁっ……!」
海面が、徐々に目の前に迫ってくる。
つと、少女の心配するような声が聞こえてきた。恐らくリタの"墜落"が、本当の非常事態だと思ってしまっているのだろう。
……ごめんね。でも、
「まだ、おわって、ない……!」
海面に衝突――する直前で、リタは再び上方向に急転換。
風を切って、宙返り。魔力のアシストを加え、再び速度を高度に変える。
――残り時間、わずか。
■焔誼迦具楽 >
落ちていた少女が宙返りした。
――事故ではなかったことにほっとする、けれど同時に――頭にきた。
「リタ――」
降下する迦具楽と、上昇する少女。
交差する瞬間に静かな声が聞こえるだろう。
そして、直後、下方から炸裂音。
「だめでしょ、そういうのは――っ!」
重力を利用していた加速、その速度のまま反転するスマッシュターン。
けれどそのまま追いかけては減速して追いつけない。
だから披露する。
ターンの勢いが落ちる前に、もう一度炸裂音。
やや斜めに角度をつけて曲がる。
そしてまた一度。
バチン、バチン、と連鎖する音。
極短時間で連続する炸裂音は、唸る雷鳴にも似て、稲妻が空に向けて放たれるように紅いコントレールが伸びていく。
【ライトニングターン】。
連続でスマッシュターンを続けていく、膨大な体力と集中力を削る迦具楽の切り札。
S-Wingの最高速度に落下速度も加え、減速することなく猛スピードで少女に追いすがっていく――。
■リタ・ラルケ >
やばい、怒らせた――すれ違いざまに彼女の声を聞いた時、そう思った。そも空中機動に特化した形態故、あまり危険な技だとは思ってもみなかったが――たとえそうだとしても、傍から見れば事故にしか見えなかったことだろう。後で全身全霊で謝っておこうと思う。
さて、状況は振り出しに戻る。高度を上げるリタを、迦具楽が追いかける形。しかし形こそ似通っていても、その状況は大きく異なる。
限界高度までの距離が離れたとはいえ、はじまりの時に比べれば速度は大きく落ちている。対して迦具楽はと言えば、例の急旋回でこちらとの距離を縮めていく。
「はやい……!」
足下で、ごく短い間隔で鳴り続ける炸裂音。それと合わせて、紅い軌跡が迦具楽に沿って描かれていく。
初めてリタと迦具楽が出会ったときも、ちょうどこのような紅い軌跡が浜辺の上空に描かれていた。あの軌跡の正体は、これだったのだ。
実際に見てみれば、その姿は稲妻が如く。ジグザグに複雑な軌道を描きながら、迫り来る。
「……だけどっ……!」
だけど。
純粋な直線勝負なら、既に一度勝っている。
最後の一発分。足下に一発分だけ溜めた魔力を炸裂させ、再び真上に急加速した。
■焔誼迦具楽 >
それは怒る。
当然、怒るのだが――勝負は精神力だけでは決まらない。
「――――っ」
歯噛みする。
続く炸裂音は徐々にリズムがずれていき、速度を落とさない最適なタイミングを逃していく。
それでもあと少し。
途切れかける集中力を繋いで、ギリギリのところで手を伸ばし――。
「あ――――!」
置いていかれた。
ここまで温存していたとなれば、これが最後の加速だろう。
時間はまだ僅かに残っている。
ここを粘って追いかければ勝てる。
「く――ぅわったぁ!?」
そのまま宙を蹴り、駆けようと足を伸ばし――姿勢が崩れてあらぬ方向へ迦具楽の身体が吹っ飛んでいく。
滅茶苦茶に錐もみしてすっ飛んで、何とか体勢を整えた時にはもう少女は遠く。
時計もまた、無慈悲にタイムアップを告げた。
「――ああー!
負けたーっ!」
空中に直立姿勢で浮遊して、腰に手を当てたまま空を仰ぐ。
少女は早く、そして自分の能力をしっかりと把握していた。
動揺せずに追い詰めていれば勝機はあったはずだが――あそこで助けに飛び出せないくらいなら負けて良い。
負けるには負けたが、久しぶりに自分の限界まで出し切って、どこか清々しい気分だった。
■リタ・ラルケ >
遠くに聞こえる、タイムアップの音――終わった。
速度を徐々に落とし、その場に停止。正直、かなり危なかった。最後の急加速でも引き離しきれなければ、恐らくそのまま捕まっていたことだろう。
迦具楽も止まったのを見て、徐々に高度も落としていく。これほど高速で動き回ったのは久々だったので、結構疲れた。
そのまま彼女のところに向かうのだが――彼女の前に着いて、まずやることは。
「……ごめんなさいー」
危なっかしい姿を見せてしまった、お詫びの言葉である。
■焔誼迦具楽 >
少女が降りてくる。
そして前に来てすぐ、少女は謝ってきた。
きっと『事故』に見えるような挙動をした事を詫びているのだろう。
「んー、まあー、今回は許す。
何ともなかったしね」
眉をしかめつつも、ため息一つで受け入れて。
「でも、もうあんなおっかない飛び方しないでよね。
大丈夫だと思ってても、本当に事故が起きる事だってあるんだから」
そこだけはちゃんと言っておかねばならない。
少女の力がどこまでの保証がされているかわからないからこそ、心配が口に出る。
絶対に大丈夫という確信がない以上、言わなければならなかった。
「まあでも、本当に早かったわ。
すごいわね、リタ。
おかげで、久しぶりに思いっきり泳げたかな!」
すっきりした表情で、うーん、と大きく背伸びをする。
そして軽くウィンクをして、砂浜に向かって降りていく。
■リタ・ラルケ >
「……ん」
許された。もうちょっと怒られるものかと思っていたけど、よかった。
とはいえ彼女の言うように、本当に制御を失って事故が起こる可能性も、ゼロではない。今回は意表を突くために行ったが――危険な空中機動は、ほどほどにしておかなければなるまい。
「そうでしょー。……リタ、はやい。ふふーん」
空中の動きはお手の物。エアースイムの選手に褒められて、ちょっとばかり得意気に胸を張る。
そうして迦具楽が砂浜に向かうのを見て、自分も後を追うように砂浜に降り立った。
砂浜に足を着けると同時に、そのままリタは呟く。
「それじゃ、てんじょう、かいじょー」
■リタ・ラルケ >
――髪と瞳の色が、元に戻っていく。
「ふう、終わったあ……疲れたー」
やがて髪が白く染まり切れば、もういつも通りのリタ。
異能と激しい運動で、疲れが出てきた。そのまま砂浜に腰を下ろして、息を整える。
■焔誼迦具楽 >
砂浜に降りると、少女の姿が普段のように戻っていく。
腰を下ろす少女に、自然と笑みがこぼれる。
「お疲れ様。
んーっ、私もちょっと疲れたかも。
全力を出したのって、春大会以来だなぁ」
台車の上から、ドリンクボトルを一本手に取る。
中身は沸騰するくらい熱したスポーツドリンクだが、その熱を冷たくなるまで吸収してから少女に放った。
しっかり冷えたスポーツドリンクは、よく動いた体には沁みるだろう。
「よかったらどーぞ。
今日のお礼、って事で」
ひらひらと手を振って。
「ありがと、おかげですごくいい経験になったわ。
私がまだまだだ、ってよくわかった。
やっぱりもう一息、一つか二つか手札が欲しいなあ」
手段が違うとはいえ、切れる手札を切って、その上で負けたのだ。
やっぱりこのままでは、春大会の時と変わらない結果になってしまいそうで。
まいったなぁ、とこぼしつつ苦笑した。
■リタ・ラルケ >
「ありがと。いただきます」
迦具楽からスポーツドリンクを受け取って、一口。ドリンクは冷蔵庫から出したばかりのように冷えていて、それはもう疲れた体に沁み渡る。すごくありがたい。
「手札か。……難しいねえ」
彼女自身はまだまだだとは言うが、実際今日だって勝ったのは半分くらいは運がよかったからだ。自分が"墜落"したことによって迦具楽のペースが乱れ、それで引き離せたようなものだ。
初めから、あれが『そういうものだ』と見抜かれていれば。あるいはそうでなくても、迦具楽が事故と認識していなければ、結果は大きく変わっていたかもしれない。
「……まあ、その辺りは私にはわからないけどさ」
――実際、今度の大会がどれほどのレベルなのかはまだ自分は知らない。世界大会ならば、そりゃあ並大抵のレベルではないだろうが――他ならぬ彼女自身が今の結果に満足していないのなら、今の機動を遥かに超えるレベルの選手がいるということだろう。
「また"遊び"たくなったら言って。時間があれば、相手するよ。……ああもちろん、ただの話し相手でもいいけど」
ならば自分にできることは、目の前の目標に進む友人を、少しでもサポートすることだ。
■焔誼迦具楽 >
「――ん、ありがとう。
リタのおかげで、気分転換も出来てるし、何か掴めそうな感じがしてるんだ。
だからまあ、うん。
また気が向いたら、『遊んで』ね」
少女の気遣いをありがたいと思う。
こうして、親身に応援してくれる相手がいると、どうしたってやる気がでる。
「あと三週間弱、か。
よーっし、頑張るよ。
優勝目指して頑張るからね、リタ!」
少女に向けて宣言し、気合を入れなおした。
■リタ・ラルケ >
「……ふふ、そっか」
気合を入れなおした彼女を見て、微笑を浮かべる。
――なんとなく、迦具楽なら大丈夫そうだと。根拠はないが、そう思った。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るよ。今日はありがと。……練習、頑張ってね。迦具楽」
立ち上がり、服に付いた砂を落として。自分はそっと、砂浜を後にしていった。
ご案内:「浜辺」からリタ・ラルケさんが去りました。
■焔誼迦具楽 >
「うん、またねリタ!」
去っていく少女を手を振って見送り。
迦具楽は再びドローンをフィールドに戻していく。
「――よし、もっと色々試してみよっか!」
友達に貰ったやる気を漲らせて、迦具楽は再び空を舞うのだった。
ご案内:「浜辺」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に干田恭支さんが現れました。
■干田恭支 >
蒼い空、碧い海、白い砂浜───とはいかなかった今日。
空にはグレーの雲が立ち込め、僅かな陽光が照らす海は濃紺。
長トングを持ち、背負子とゴミ箱を一体化させたものを背負って少女は浜辺に立っていた。
「おかしい───仕事終えたら海で遊べたはずなのに」
気持ち気温も低い気がする。海水浴に全く適さない訳ではないが、テンションはだだ下がりである。
間も無く遊泳期間を終える海水浴場のゴミ拾い。
生活委員見習い、干田恭支の今日の活動内容である。
「……ま、ぶつぶつ言って晴れるわけじゃないし、やっちゃうか……」
がちょんがちょん、とトングを鳴らしながら恭支は浜辺を歩き始める。
■干田恭支 >
「もう夏もいよいよ終わりって感じになったなー。」
流木、空き缶、タバコの吸い殻、ペットボトル、マネキンの腕。
人もまばらな浜辺には思いのほか多種多様なゴミが転がっていた。
それらをトングで拾い上げては、背中のゴミ箱へ放り込んでいく。
その作業自体は苦ではないけれど、どんよりとした灰色の空と、ぬるい潮風が気力を削いで行く。
暑い暑いと言っている間に夏が終わろうとしている。夏らしいことは何もしなかったような記憶だけ残して。
「はぁ~~~~~~、やるせな~~~い」
こんなことなら夏休み中に海水浴くらいすりゃ良かった。
後悔先に立たずここに極まれり、である。
■干田恭支 >
「来年はもうちょい夏休み漫喫してやるもん……」
海にも来て、お祭りも行って、友達と買い物とかも行けたら良いな。そんな希望が思い浮かぶ。
きっとどれも楽しいことだろう。楽しくない筈がない。楽しむって決めた、今決めた。
「その為にも、早いとこアイツ見つけてやらなきゃなあ……」
一緒に常世学園へと進学した幼馴染。
進学したその日に裏常世渋谷に共に迷い込んでそのまま行方不明になった幼馴染。
アイツが居なきゃ楽しめないもんなあ、と今年を振り返って思う。
「その為にも地道な情報収集と、体力作り……だな。」
大きめの流木をトングで拾い上げようとし、ちょっと無理があったので直接手で拾って背中のゴミ箱へ。
何だかんだと黙々とゴミ拾いをして来た成果か、だいぶ身体が重い。背中のゴミ箱に引っ張られるような感覚がある。
■干田恭支 >
「そろそろ一旦まとめてこよーっと。」
背中に掛かる重さを確かめる様に背負子を軽く揺らす。
確か海の家の裏手にゴミ回収場所があった筈だ。
一度そこまで行ってゴミ箱の中身を仕分けして移すように事前に指示されている。
「この調子なら今日だけで浜辺ぴっかぴかに出来るかな!」
たぶん無理だろうけれど、少しでも自分のテンションを上げておきたい。
希望的観測を口にしながら、恭支は海の家へと向かうのだった。
──その後海の家で差し入れとして焼きそばパンを貰い、意図せずやる気にブーストが掛かった恭支は、
膝が笑ってまともに立ってられないくらい頑張ったとか頑張らなかったとか。
ご案内:「浜辺」から干田恭支さんが去りました。