2020/10/17 のログ
ご案内:「浜辺」にリタ・ラルケさんが現れました。
リタ・ラルケ >  
 エアースイム。飛行用の魔道具"S-Wing"を用いて空を泳ぐスポーツである。
 競技人口こそ未だ少ないものの、全世界にプレイヤーが存在しており、その試合の様子は圧巻の一言。
 なぜ突然こんな話をするかといえば、今日の海岸にはそのエアースイムに勤しむ、一人の少女がいるからである。
 先日体験会で手に入れた練習用のS-Wingを足に装着し、空に軌跡を描きながらそれを駆って、

「うわあああ」

 ほどなく墜落していた。飛行のコントロールを完全に喪失したマジのやつである。
 きりもみ回転をしながら少女の身体は海に向かって急速に降下していき、

「ああああぐっ」

 ――海面スレスレで急停止。安全装置のおかげで、体勢を崩したまま墜落とは相成らなかったが、それにしたって肝が冷える展開であった。

「あー……」

 自分がS-Wingのコントロールを失ったのだと、うつ伏せで海面ギリギリを浮かびながら理解する。理解してからも暫く、何を考えるでもなくそのまま海面を滑るようにゆっくりと飛んでいく。
 傍から見れば、そして詳しくない人が見れば、服のまま海面に浮かんで動かない人の姿に見えるだろうか。ちなみに全くの五体満足である。怪我はない。

リタ・ラルケ >  
 まあそうなるよなあ、と自分は海面に浮かびながら他人事のように考えていた。
 単なる飛行という経験については自分も決して浅くはないのだが、ことエアースイムに関しては全くの初心者である。普段と勝手が違う飛行の感覚に制御を失ってしまうのは珍しくはない。
 それにしたって派手な墜落である。調子に乗ったらこうなった、という単純な話ではあるが、これには突き詰めれば少しばかりわけがある。

 少し前、この海岸でエアースイムの世界大会があった。世界の名だたる強豪――といっても全然知らない人ばかりだったんだけど――が集う大会の中、自分は一人の選手に特に思い入れがあった。
 スパルナ。『空駆ける稲妻』の異名を持つ選手であり――自分の唯一知るスカイスイマー。一応、一度だけだが競争したこともある。
 件の大会では惜しくも優勝を逃してしまったが、彼女が空に描いた軌跡に、自分はらしくもなく惹かれていた。
 まあそんなわけで、彼女の真似をして高速飛行をしてみたものの、当然上手く行くはずもなく。

「……そうだよねー……」

 今に至る。むしろあれだけ派手に墜落しておいて目立った怪我がないというのが、むしろ幸いだったかもしれない。

リタ・ラルケ >  
 そういえば、最近彼女に会えていない。
 自分が今日海岸に来たのは、S-Wingを部屋に眠らせておくのを惜しんだというのもあるが――何となく、彼女の姿を見たくなったというのもあったからだ。
 彼女は、いつもここで練習していたから。まあ「会えたらいいな」位の心持ちではあったが。

「……ま、いいか。飛ぼ飛ぼ」

 今日は飛ぶ気分なのだ。倒れていた体を起こして、もう一度空を飛ぶイメージ。
 海面に漂っていた少女は、そうして再び空を舞う。自分の思うままに、右へ左へ。海岸の空に曲がりくねった光のコントレールが描かれる。速度は消して速くはないけれど。

ご案内:「浜辺」に焔誼迦具楽さんが現れました。