2020/10/29 のログ
■ユラ > 「スポーツ観戦する分にはね。
実際にあんな風にわちゃわちゃ飛ぶことになるとキレそう」
そんなことを言いながら、空中でゆっくり回転を始める。
遊んでいるわけではなさそう。
「ふーん。暇つぶしか。
まあこんな時期に海に来るなんて、トレーニングか暇つぶしくらいのもんだよな」
きっちり逆さになった状態で目を開けた。
よしよし、と自分で納得している。
「……ところでそのシャツ、どこで売ってんの」
煽り性能の高そうなシャツを眺めながらつぶやいた。
そっちのほうが気になったらしい。
■焔誼迦具楽 >
「まあ見てる分にはね。
――ねえ、物理法則って知ってる?」
その法則を度外視した動きに、どこか呆れたような表情を浮かべた。
自分も埒外の法則に生きるバケモノではあるが、この手の挙動は真似できない。
「まあ、ね。
大会前は散々、トレーニングに来たけど――なんか、もういいかなって感じ」
その挙動に目を細めつつ、やっぱり普通に飛べる連中はずるいと思った。
「ああこれ?
自分で作ったやつだけど」
――自作だった。
■ユラ > 「知ってる知ってる。
俺の父とかは髪の毛も重力に逆らうけど、オレはそういうの無理。
重力に逆らえない」
長い髪が海面に向いている。
波がかかりそうでかからない。
「大会……えっ、じゃあ本当に参加してた選手?
すげー、本物だ」
ちょっと目をキラキラさせて見つめている。
ゆうめいじん、すごい。みたいな少年の顔だ。
「……自分で作ったシャツってのもすごいけど……センスがすごい……
売ろうよそれ、人気出るよ」
■焔誼迦具楽 >
「――なにそれ、バケモノ一家?」
失礼な言い分だが、率直な感想だった。
世界の法則から外れる、それは些細な事であっても『マトモ』じゃありえない事なのだ。
「んまあ、ね。
って、そんな面白いモノかな。
ほしいなら上げるけど」
と、手から布地がにじみ出るように、白地に『もぶきゃら』と書かれたTシャツが現れた。
「――それで、その大会で面白い選手でもいた?
やっぱり、星島?」
Tシャツを丸めて、ぽいっと少年に投げつつたずねた。
■ユラ > 「少なくとも父と兄はバケモノだと思う。
正直『ああ』はなりたくない」
至ってニュートラルにそう答えた。
侮蔑の感情も、嫉妬の感情もそこにはない。
「えっ、くれるの? マジ?
何これ、最高じゃん」
もぶきゃらがご満悦らしい、お宝をゲットした顔で広げて見つめている。
「えっ、うーん……競技を見てたから、選手はあんまりしっかり見てない。
オレは飛んでる選手を見るより、ルールとか飛び方とか、そういうのを考えながら見るほうが面白いと思った」
Tシャツをたたみながら答えた。
■焔誼迦具楽 >
「貴方も大概だと思うけど」
さらりと答える少年を見れば、身内の贔屓目も誇張もない事がわかる。
きっと、目の前の少年と比べるべくもないほどの、とんでもない家族なんだろう。
とはいえ、迦具楽から見れば少年も十分にとんでもないのだが。
「なんか、そんなに喜ばれるとそれはそれで、反応に困るわね」
迦具楽にしてみれば、常日頃から作ってる消耗品に過ぎない。
それであんまり喜ばれてしまえば、どことなく申し訳なくもなる。
もっと良いものをあげればよかっただろうか。
「――ふうん、競技を、ね。
じゃあ面白い試合とかはあったの?
戦術とか、それこそ飛び方の面白い試合とか」
■ユラ > 「この辺は練習次第だと思う。最初に教わったのがこの練習なんだよ。
平衡感覚と位置把握能力をとにかくつけろって言われて、浮けるようになってから半年くらいこれしかさせてもらえなかった」
再びゆっくり回転しながら、正しい姿勢に戻った。
髪の毛も落ち着いた……が、髪質の問題で浮いている髪はそのまま。
「んー……そうだな。
攻勢をかけるシーンがそう多くない気がしたけど、一部の選手の攻撃の鋭さは異常に高かったりして面白かった。
あと回避しながらも進行速度を落とさない選手が居て、その選手に対してのほかの動きが統率されてたような。
……そういう特定の変な選手が居る試合は、まるで空中での魔法戦を見てる気分で、全体通して面白く見れたかな」
一息に語りつくした。オタク気質のしゃべり方だ。
■焔誼迦具楽 >
急に言葉が溢れ出す少年に、目をぱちくりとする。
「まったまった、急に早口にならないでよ」
とは言え、言いたい事はわからないでもない。
「まあ、変わった選手が居れば、それだけ注目されるからね。
注目されれば対策もされるし。
その変な選手ってのが誰かはわかんないけど、そう言う変わった動きのある試合は派手にも見えるのかな」
首を傾げ、眉を顰めた。
■ユラ > 「あ、ごめん……」
口を覆うように手で隠した。
ちょっと思うところがあるのかもしれない。
「変な選手っていうと悪い言い方になるな……
周りより飛び抜けた何かを持ってる選手っていうか。
多分、そういう選手がいる試合が面白いって思うことが多かったから……」
んー、と言葉を探す。
しばらく考えて、手をぽんと打った。
「そうだ。
一人いるだけで試合が盛り上がる、周りが苦慮する。
そういうのをスター選手って言うんだ」
■焔誼迦具楽 >
「あー、私もごめん、気にしてた?」
と、遠慮なく言った事に少しだけ申し訳なさそうにして。
「――スター選手、ね。
私には縁遠い言葉だな。
それこそ『トップスイマー』って呼ばれてる星島なんかが、そう言うに相応しいんだろうな」
後ろ手に体を支えるようにして、空を仰ぐ。
ちょっと対策されただけで動けなくなるような自分には、とても縁がない呼称だと思った。
■ユラ > 「あ、いや……うーん。
昔から星の話をすると、急にうるさくなるって言われてた」
頭をかりかりとかきながら呟いた。
「その選手、無難に上手いから面白いと思わなかった。
トップを走ってるからってスター性があるかっていうと違うと思う」
トップスイマーの件に関して、首を横に振る。
試合の中の面白味を感じたのは彼ではないらしい。
「一番目を引くのって、誰にも出来ないことをやるタイミングだと思う。
『あの人にしか出来ないことがある』って誰かに言わせるほうが、よほどスターだ。
ただ単に全部が全部上手いだけなら、別にそれはスターじゃない」
■焔誼迦具楽 >
「それ、所謂オタクっぽい、ってやつ?」
好きな事になると急にテンションが上がるタイプ。
多分少年もそう言う気質があるんだろう。
「――無難に上手いって。
あいつの上手さは、一人だけ次元が違うんだけどな」
少年の言い方に苦笑が零れる。
星島和寿の実力は、他の選手と一線を画している。
対等に競い合うなんて言い方がおこがましい位に。
「『あの人にしか出来ないことがある』、ねえ。
つまり、貴方から見てそう見える選手がいたって事?」
そんなに凄い――面白い選手はいただろうか。
優れた選手はたくさんいたけれど、星島以上に目を引けるような選手なんて、と。
■ユラ > 「……多分、そういうやつ」
ちょっと認めたくない、みたいな雰囲気。
「その一強っていうのもつまんない要因だけど。
アレなら多分兄のほうが速い。
オレがやったら……はわかんない。多分勝てない」
家族の問題でちょっと目が肥えてるところもあるだろう。
「オレが一番面白いと思ったのは、そう……
さっき言ったけど、進行速度を落とさない回避をした速い選手、周りがやってない攻撃をした攻めっ気のある選手。
他にもまあ居たけど、そういう選手はみんな記録よりも記憶に残ってる」
とんとんと自分の胸のあたりを指先で叩きながら言った。
そういう選手が輝く瞬間だけは覚えている。
■焔誼迦具楽 >
「はは、良いんじゃない?
私はそう言うの、悪くないと思うけど」
好きな事に熱が入る。
それは別に悪い事じゃないだろう。
「――ああ、見ててもそう思うんだ。
まあでも、一番つまらないのは星島自身だと思うけどね。
本気で競える相手が居ないって、退屈だと思うよ」
自分なら――そう思っていたのは思い上がりだった。
目指した相手は、目標に出来るような距離にはいないのだろ思い知ったのだ。
「へえ。
私はまあ、初めてすぐに選手になっちゃったからな。
観客としてみたらそんなふうに見えるんだ」
意外そうな声。
他の選手が持っていないもの、それを見て心が動くヒトもいるのか、と。
「んー、わっかんないな。
流石にそんだけ面白い選手だったら、私だって覚えてそうなもんだけど」
自分が見ていない試合だったのだろうか。
試合の前後にもやる事があるものだから、全部の試合を見れているわけじゃないのだ。
■ユラ > 「上に立ってる人には、その人にしかわからない苦悩があるのは当然だと思うけどね。
でもそのうち勝てるでしょって選手も居るし、そろそろ競技全体が楽しくなってくるんじゃない?」
観客的にはそう思うらしい。
実際に戦う選手との間の認識には差がある。
「オレも選手の名前までは覚えてないけどね。
オレ自身感性ズレてるし、みんなの好きな選手とオレの好きな選手は違うだろうし。
……選手が十人十色なら、観客も十人十色ってことで」
■焔誼迦具楽 >
「楽しくなってくる、ねえ」
そうみてくれるヒトがいるなら、きっとこれからエアースイムは盛り上がっていくんだろう。
そして、きっと『その人にしかできない』スイムをする選手が増えてくるのだ。
「あはは、確かにちょっとズレてる感じするかも。
十人十色はわかるけどさ、気に入った選手くらい覚えてあげるといいよ」
意外とどんなふうに見られているか、っていうのは気になるものなのだ。
それこそ迦具楽だって、自分の評判を気にすることもあれば、それで気落ちする事もある。
あはは、と力なく笑って。
「――楽しい、かあ。
私はなんか、楽しくなくなっちゃったな」
はあ、とため息が零れる。
■ユラ > 「う……頑張る……
昔から人の名前を覚えるの苦手なんだよね」
命名規則が地元と違うのもあるが、とにかくこっちの人間の名前が覚えられなかった。
大会で数度しか見ない選手の名前なんてさっぱりだ。
「楽しくない?
ふーん……じゃあ一回選手辞めてみたら?」
一度砂場にざふっと足を下ろし、そう口にする。
「初めてすぐ選手でしょ。そりゃ疲れるよ。
一気にドカ食いしすぎたら、おなか一杯になって食べ物見るのもイヤになるだろ。それと一緒だよ」
海の方を見つめながら言った。
似たような経験があるのかもしれない。
■焔誼迦具楽 >
「――やめて、いいのかな」
たしかに、こんな気持ちで続けても意味はないのかもしれない。
少年の言う通り食傷なのかもしれない。
「でも、私がこうしてる間にも、他の選手は練習してる。
少しでも離れたら――私はもっと置いてかれるよ」
そして、本当に追いつけなくなる。
理屈ではそう、頭はそう、繰り返しているのだが。
それでも、気持ちが入らない。
「きっと、やめたらもう、やれない気がする」
あんなに好きだったものなのに、ここまで身が入らなくなってしまうのだ。
一度離れたら、二度と戻ってこれない。
そう感じる。
■ユラ > 「オレは一回辞めたんだよね、飛ぶこと。
それこそすげー楽しいと思いながら飛んでたのに」
一通り話を聞いた上でそう言う。
「でも久しぶりに空飛んでみたら、やっぱり飛ぶの楽しいなって思った。
オレは辞めたほうが面白くなかったから、戻ってきた」
すいっと目線を向ける。
さっきと変わらない、少し目つきは悪いがニュートラルな感情。
「辞めたほうがつらいと感じたなら、キミはきっと帰ってきて、もっと頑張れると思う。
続けるほうがつらいと感じたなら、キミはきっと今より楽しいことを見つけられると思う。
どっちなのかを見極めるためにも、一度離れてみたほうがいいと思うよ。
だってつまらないことを続けても、どんどん楽しくなくなるもの」
そうだろ?と顔を覗き込んだ。
■焔誼迦具楽 >
「――そういうものかな」
気持ちを確かめるために離れる。
そんなやり方もあるのか、なんて聞きながら。
「まあでも、面白くないのに続けてもってのは、その通りだよね。
きっとこのまま辛くなるだけなのかも」
理解できる。
そうして一度俯瞰してみないと、わからないモノもあるのだ。
けれど。
「でもさあ、それって、戻ったときに滅茶苦茶辛くない?
周りは今より強くなってるのに、自分はブランクあるんだよ。
またやろうって思ったら、どれだけ頑張らなくちゃいけないのさ」
けらけら、となさけない笑い方をして、のぞき込まれると目を逸らす。
少年を正面から見れないのはきっと、今の自分が醜いのをわかっているからだ。
■ユラ > 「本当につらくてポッキリ折れちゃったら、今度こそ戻れなくなるよ。
そういうときって、未練ばっかり残ってつまんないだろうし」
身に覚えがないわけでもない。
全部が全部上手くいったわけじゃない。
「そりゃ頑張らなきゃいけないけど、やっぱり好きなだなって思えることなら今より頑張れるよ。
それに行き詰ったときにしばらく時間を置くと、なんかちょっと上手く出来るようになることもあるだろ。
……オレは飛ぶのそんなに上手くなってなかったけど」
最後にちょっと正直なところが漏れた。
目を逸らされたなら、彼もまた目を離した。
「別に辞めたって、キミが選手をしてたもの全部が無駄になるわけじゃないだろ。
楽しかった部分は記憶に残るし、鍛えた体はすぐにはなまらないし。
もしかしたらもっと好きになれることが見つかったとき、エアースイムやっててよかったって思えるかもしれない。
オレは兄に影響受けて色々やって、大体のことで挫折してきたけど、全部無駄だったとは思わない」
■焔誼迦具楽 >
「はっきり言うなぁ」
けれど、意外なほど納得が出来てしまう。
少年が憶測や精神論じゃなく、経験から話しているのが分かるからだろうか。
先達の言葉だと思うと、耳を傾ける気にもなった。
「少し離れてみる、かあ。
一応これで食い扶持稼いでたから、考えたことなかったけど。
ちゃんと、考えなくちゃいけないのかもね」
全部が無駄にならない。
それならこの嫌な思いを経験したのも、何かの糧になるのだろうか。
――この醜い嫉妬も、糧になるんだろうか。
「難しいなあ。
私はただ、ずっと、楽しくて――それだけでよかったのに」
初めて見た時に感動して、自分もやりたいと思って。
そしてやってみたら難しくて、それでも楽しくて夢中になった。
別にプロになりたいとか、これで生きていきたいと思っていたわけではなかったのに。
「それだけじゃ、勝てないんだね」
いつの間にか勝ちたいと思うようになって、負けたくないと思いはじめて。
今は始めたばかりの友人にすら嫉妬して、続けるかやめるかと悩んでいる。
こんなはずじゃなかったのに。
そんな言葉が、頭の中に何度も浮かんでは消えた。
■ユラ > 「……あっ、そうか……
そりゃ選手だから、とりあえず辞めろっていうのは無責任すぎるよな……」
ちょっと失念していたので、今反省している。
仕事が無くなるつらさはわからないが、お金がないと大変なのはなんとなくわかるのかもしれない。
「うーん……勝負事で楽しむのって、結局強くないといけないもんな。
そのためには練習も勉強もしなきゃいけないし。
でも好きじゃないのにずっとそんなことを続けるのは絶対だるいし。
でも……そういうのを乗り越えて勝ったときは、最高に楽しくて嬉しいのは知ってる。
そんでその勝利が、何よりも自信をくれることも知ってる。
自信がついたら、また楽しめるようになることも」
にんまりと笑って、そう言った。
何をやっても上手かった兄に、数えるほどだが勝った経験を思い出す。
それこそが自分に自信をくれる勝利だった。
「……でもやっぱ、好きなことじゃないとダメだと思うんだよ、そういうのの足がかりって。
何もしてないのに勝てることなんてないし、自信が最初っからあるものなんて無いし」
■焔誼迦具楽 >
「あはは、これでも一応、企業の専属選手だからねー。
辞めるって言って辞められるかは、微妙かなあ」
少なくとも間違いなく、止められるだろう。
とはいえ、そう言いだせばしばらく休めと言われるだろう事は間違いない。
専任してくれるコーチも、元選手だけあって理解は深い。
「好き、だったんだけどな。
今はなんか、よくわかんないや」
すっぱりと諦められないという事は、未練があるんだろう。
それは、いつか別の少年にも言われた事だ。
諦められないなら、やるしかないとも。
「嫌いになったわけじゃないけど、嫌いにはなりそうなのかも。
ああでも、それは、やだな」
言葉にしてみると、胸の奥にわだかまりが出来る。
エアースイムを嫌いになりたくない。
そう思っている自分がいるのは、間違いないようだ。
「――なんか、ごめんね。
変な事話しちゃって。
がっかりしたでしょ、曲がりなりにも準優勝するような選手がこんなでさ」
と、苦笑を浮かべながら。
ご案内:「浜辺」にユラさんが現れました。
ご案内:「浜辺」にユラさんが現れました。
■ユラ > 「……好きかどうかわかんなくなったなら、やっぱり一度辞め……いや、まあ。
そう、休止期間とか取ったほうがいいんじゃないかな。
多分またやりたいって思うんじゃないかと思うけど」
未練いっぱいの様子を見るに、多分心から好きなんだろう。
けどその感情が信じられなくなってるだけだと予測をつけている。
「……えっ、準優勝の選手……?
じゃあオレ、キミのあの飛び方と攻撃結構好き。
……けどもし休止するなら、あれ見れなくなるのか……ぐぬ……」
苦渋って感じの顔。
正直な生の感想なのだろう。
■焔誼迦具楽 >
「そうかな、そうだと――いいのかな」
自分でもよくわからなかった。
未練はあっても、続けたいのか、やめたいのか。
「――えっ、そうだったの?
そっか、あはは、ありがと」
面と向かって感想を聞くのは初めてだった。
それが思ったよりもくすぐったくて、変な笑いが出る。
情けないところを見られてしまったのと合わせて、どんな顔をしていいのかわからなかった。
「えっと、まあ、もう少し考えてみるよ。
無理やり続けるのか、少し休むのか、本気で辞めるのか」
少年の渋い顔を見ていると、惜しまれているのが分かる。
そうなると、なおさら申し訳ない気持ちになった。
友人以外に応援してくれる人と、直接会うのは初めてだったから。
「――あ、ごめん、一応今の話は秘密ね。
私さ、事情があって顔だし出来ないし、表に出れない身分でさ。
やばいやばい、うっかりしてた」
と、自分が身分を隠して選手をしているのを思い出す。
ついつい、エアースイムの事で他人と接する機会が少なく、うっかりしてしまう。
しまった、というように額を押さえた。
■ユラ > 「できれば……できれば休止で……
あとその期間も短めで……
でもきっちりリフレッシュしてもらって……」
自分で勧めたことだが、いざ推し気味の選手が居なくなるとなればさみしい。
そんな気持ちがありありと伝わる返答。
「……え、そうなの?
わかった、内緒にする。
なんかトップ層の選手も大変なんだな……」
競技の世界では知らないルールがたくさん存在するのだろう、と納得した。
多分顔をさらすと、メディアとかがうるさいんでしょう。
「……まあその、どっちを選んでも後悔はすると思うから……オレは大体後悔したし……
でもオレなら大好きなことから離れるときは、楽しかったって気持ちで離れたいと思うな……」
■焔誼迦具楽 >
「ちょっとちょっと、めちゃくちゃ言ってない?」
可笑しくなって、笑いだす。
自分で競技から離れるのを勧めたくせに、と。
けれど、少なからず嬉しさを感じているのは間違いなかった。
「うん、まあ、色々ね。
人間的にまっとうな生き方はしてきてないからさ」
競技の世界というよりは、この世界のルールから外れているのだ。
この島以外ではもとより、この島でも、迦具楽はまっとうに生きる術を持っていない。
学生にも教師にも成れないなら、不法滞在者でしかないのだ。
「そっか、どっちでも後悔するんだ。
なら、少しでも楽しいと思える方がいいよね。
――ありがと、少し楽になった」
そう言って、ゆっくり腰を上げる。
気持ちははっきりしないけれど、それでも自分が選べる道は提示されたように思う。
後は――この醜い自分と向き合わなくちゃいけない。
「踏ん張るつもりになったら、頑張るだろうから。
その時はまた応援してよ。
まあ案外、すっぱりやめちゃうかもしんないけど、さ」
そう言って立ち上がり、立ち去ろうとする。
■ユラ > 「ふーん……何をもって真っ当っていうのかはわかんないけど……
まあバレないほうがいい身分ってことなのはわかった」
とりあえずは伝わったらしい。
多分大丈夫でしょう。
「そりゃね。続けたらあの時辞めてたら~って思うし、辞めたらあの時続けてたら~って絶対考える。
……でもまあ、ホント。楽しいほうにちょっとくらい逃げたほうがいい」
うんうんと首を縦に振った。
あとはどちらを選択するかは彼女次第。
「もし辞める時は楽しかったって言えるといいな。
続けるなら、もらったシャツ着て応援するよ」
帰るのかな、と見送る構え。
後ろから手をひらひら振った。
■焔誼迦具楽 >
「ええ、それで?
一応ファングッズとかもあるんだけどなあ。
まあいいや、その時はうん、よろしく」
そう言って、手を振って応えて。
「それじゃ、また――選手として会えるといいね」
と、言葉だけは前向きに残して。
そのまま砂浜を歩き去っていった。
ご案内:「浜辺」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「浜辺」からユラさんが去りました。