2020/11/11 のログ
ご案内:「浜辺」にユラさんが現れました。
ユラ > 「あ、居た」

時々様子を見に来ていた浜辺に足を運ぶと、今度こそ目的の人物を見つけた。
先日の話から、何か心境の変化はあったか、聞いてみたかった。

のだが、なんか落下してる。

「危なくね!?」

砂を踏み潰すようにダッシュして、落下予測地点に行く。
プロだし大丈夫なのかもしれないが、不安なもんは不安である。

迦具楽 >  
 迦具楽には体勢を立て直す様子はない。
 落下地点まで先回りできれば、受け止めることは出来るだろう。
 ただ、小柄とは言え一人分の質量。
 それなりの衝撃はあるかもしれないが。
 

ユラ > 「うわわわわかんねぇ!」

どうキャッチすればいいのか、判断しかねた。
腕で捕まえたら肩が抜けそう。
というわけで、ヘッドスライディングして自分の背中に着地させることにした。

砂を巻き上げながら、着地地点にずざーっと滑り込む。

迦具楽 >  
 ヘッドスライディングで回り込むと、しかし、予想された衝撃はやってこない。
 少年の背中にぶつかる寸前で、迦具楽の身体は停止し、ふわふわと宙に浮いている。
 しかし、迦具楽は動く様子はない。
 下から抜け出して様子を見て見れば、気を失っているのが分かるだろう。
 

ユラ > 「……大丈夫なのかよ!」

そんなことだろうと思った、と砂をばしばし叩いた。
けど本人に意思があったなら、こんな止まり方するだろうかと、ごろごろ移動して立ち上がって確認する。

「……あれ、大丈夫?」

寝てるの?居眠り飛行って危ないんだよねって兄に教わった。
ぼんやり考えながら、浮かんでる少女の肩を叩く。

「大丈夫?」

迦具楽 >  
 声を掛けられても反応はない。
 肩を叩いてみれば、ようやく反応を示すだろう。

「ん、ん――?」

 地表から10㎝ほどに不自然な姿勢で浮かんだまま、うっすらと瞼を開ける。

「――あれ、貴方、この前の、あれ?」

 少年を見てぼんやりとしたまま疑問を浮かべ、さらに自分の状態に気づいて首を傾げる。

「あ、ああ。
 もしかして、私、落ちて――た?」

 その状態から、膝立ちになる様に砂浜に着地して――力が入らず、同時にゆらりと体が傾く。
 

ユラ > 「うわ、ちょっとちょっと」

胸の前に腕を差し出し、顔から地面に突き刺さらないように警戒する。

「居眠り飛行は危ないよ。
海とか森みたいな、景色のあんまり変わらないとこ飛ぶと、催眠状態みたいになって落ちやすくなるから」

競技者はそういうことは知らない気がする。
一応持ってきたペットボトル入りの水を差し出し、様子を見ることにした。

迦具楽 >  
 そのまま前に倒れるところを、少年の腕に受け止められる。
 その手が迦具楽のささやかな胸に触れていたりもしたが――まあ本人は気にしないだろう。

「あ、あー、ごめん」

 自力で体を支えようとするものの、やけに身体が重たくて、力が入らない。
 頭を上げているのも、重くてしんどいようなありさまだ。

「居眠り――練習を切り上げようって思ったとこまでは覚えてるんだけど、な。
 そうなんだ、そんな事もあるんだね」

 知らない情報だ。
 とはいえ、迦具楽たちスカイスイマーは海上を泳ぐのが基本だ。
 滅多にそんな状態になる事はないのだが。

「ん、ごめん、動けない」

 少年に支えられたまま、ぐったりと体重を預けたままの状態。
 その上、酷く眠くて頭がぼんやりとしていた。
 

ユラ > 「あ、じゃあ居眠りじゃないかもなぁ……
疲れがたまってるんじゃない?」

水も飲めなさそう、ということでペットボトルはしまっておいた。
とりあえず倒れないように支えているが、ここからどうすればいいのか考えていない。
普通なら寝かせたほうがいいのかもしれないが、思い浮かばない。

「動けないのは仕方ないけど……
やばそうなら病院まで連れていこうか?」

少女一人抱えて病院まで行くくらいならわけはない。
本人の体調次第で、どこにでも連れていくだろう。

迦具楽 >  
「あー、うん、ちょっと、やり過ぎたかも」

 そのままぐったりと、頭すら垂らしたまま答える。
 声からは、疲れ切ったような気力のない事もわかるだろう。

「ううん、休めば平気だとおもう。
 その辺に、転がしといてくれればいいから」

 と、病院行きは断った。
 

ユラ > 「無理しないようにって前言ったばっかなのに。
まああれは練習の話じゃなかったけど」

転がしておいてと言われて、ようやく寝かせる選択肢を思い出した。
ゆっくり体勢を変えさせて、仰向けに寝かせる。

「……練習してたってことは、引退も休止も無しのつもり?」

ペットボトルを再び取り出し、同じく持ってきたタオルをその水で濡らす。
濡れタオルを目から額まで覆うように置いて、リラックスさせようとする。

迦具楽 >  
「あー、あはは」

 砂浜の上に寝かされながら、力なく笑う。

「んーまあ、そう言うことになる、かな。
 本当は、やめようって思ったんだけど、ね」

 濡れタオルをされるがまま載せられる。
 本当なら熱を奪われる事は歓迎できないのだが、載せられた冷たいタオルは気持ちよかった。

「――ありがと。
 辞めようってしたらさ、やっぱりやめたくないって思っちゃって。
 それに友達が、私の事を憧れだ、って言ってくれて――やめられなくなっちゃった」

 ははは、と。
 力なく乾いた笑いを返す。
 やりたくて続けている、というよりも、どちらかと言えば、辞めたくても辞められないから、仕方なく続けている。
 そんなふうに見えるだろうか。
 

ユラ > 「そっか」

話を最後まで聞いた上で、そう呟いた。

「よかったね、やめない理由が出来て。
そう言ってくれる友達が居て。
……まだ飛ぶこと自体が嫌いになったわけじゃないでしょ?」

未練があるうちはやめられないものだ。
それすらイヤになってしまったときに、きっとこの人はやめてしまうのだろう。
そう考えると、その日も遠くないのかもしれない。
いつまで彼女は楽しく飛べるだろうか。

迦具楽 >  
「まあ、ね。
 まだ好きでいられてる、とは思うよ」

 ただ、以前のようにやはり楽しいとは思えない。
 ただただ、苦しい時間が続いているようで、先の見えない中をもがいているようで。
 何をすればいいのかも、自分ではわからない。

「どうしたら、前みたいに楽しめるんだろうね。
 幾らやっても、なんか、苦しいばっかりでさ――って、こんなのファンに聞かせる事じゃないか」

 ごめん、と言って笑うが。
 まだまだ、迷いや葛藤、劣等感や嫉妬といった感情が、迦具楽を苦しめているのが分かるだろう。
 

ユラ > 「……オレはイヤになっちゃったことは、大体楽しくないからなぁ……
どうすれば始めた頃の、ただただ楽しかった頃に戻れるのか……って、オレも知りたいな。
そうすればオレもいくつかやり直せることがあるかもしれないのに」

相手の悩みの深さがわかるだけに、それを克服出来なかった自分には伝えられる言葉がない。
あまりにも残念だ。
少しでも憧れた人がちょっとでも頼ってくれているのに、欠片ほども気の利いた言葉が返せない。

「選手だって挫折することあるし、いいんじゃない?
オレはすごい人たちみんなが、心まで最強だとは思ってないし。
苦しいなら苦しいって言ってるほうが安心する」

波の音を聞きながら、自分の考えだけを伝えた。
みんながみんな、強くはいられないのだ。

迦具楽 >  
「そっか、貴方も同じか。
 ね、どうしたらいいんだろうね」

 同じ悩みを抱いている、抱いた事がある。
 それだけで、幾分か、話すと気が楽になるきがした。

「そう?
 そういうもんかあ」

 少年はどうやら随分と理解があるファンのようだ。

「苦しい、苦しいなあ。
 どうして私、やめてないんだろ。
 苦しくて辛くて、楽しくないのに、ね」

 辞めない事を選んだとは言え。
 だからって、なにが変わるわけじゃない。
 むしろ、辞めなかったから、苦しさは何一つ変わっていないのだ。

「あーあ、折角のファンなのに。
 貴方、私がなさけないときにばかり現れるよね」

 

ユラ > 「……なんでやめてないのかは、まあわかるよ。
まだ嫌いじゃないからだよ。
競技自体もそうだけど……誰かに期待される自分も、空を飛ぶ自分のことも」

目を伏せながら呟いた。相手からは見えないだろうけど。

やってる自分がイヤになった時が、本当に心折れる瞬間だった。

「オレは気にしないけど。かっこいいところは本番で見てるし。
あと本当に辞めてなかったら、きっと会えると思ってたまに見に来てた」

ここまで正直である。
時々覗きに来ていた。

迦具楽 >  
「そ、っか。
 そうだね、まだ嫌いになれてないんだね。
 嫌いになれちゃえば、楽なのになあ」

 何もかも嫌になってしまって、嫌いになって。
 自分を慕ってくれる、友人以上恋人未満の彼女に、甘えて溺れてしまえば。
 きっとずっと、楽になれるのだろう。
 
 けれど、そうはなれない。

「わーたーしーはー、気にするの。
 まったくもう、私に会ったって、別に面白い事なんかないでしょ」

 少しずつ、気力が戻ってきた。
 ようやく何とか上がるようになった腕を持ち上げて、少年の額を小突く。
 今は見た目相応に、小柄な少女と変わらない力くらいしか出なかった。
 

ユラ > 「……好きだったことが嫌いになるのは、一番つらいことだと思う……」

聞こえるかどうか、ぽつりと呟いた。
聞こえないでいてくれるなら、そのほうがいい。

「えー……面白いかどうかっていうとまぁ……
面白い話はしてないし、面白いこともしてないし。
そりゃ今のとこ面白くないでしょ」

あまりに返答が正直すぎた。
頭を小突かれたものの、回復してきた様子で一安心。

迦具楽 >  
「――そうかもね」

 それだけ、それ以上は言わなかった。
 少年もきっと、好きでいられなくなってしまった事があるのだろう。
 タオルの下から、赤い瞳が少年を見上げている。

「いや、まあ、そりゃあ。
 貴方、ちょっと正直すぎない?」

 正直は美徳というけれど。
 正直すぎるのはそれはそれで、考え物のような気がする。

「面白い事は、そりゃあ、そうだけど。
 私たち別にほら、友達ってわけでもないし、ねえ」

 別に楽しい事や面白い事をする仲じゃあないのだ。
 偶然出会った、選手とにわかファンなだけである。
 

ユラ > 「どうもウソをつく能力を母のお腹に置いてきたんだって。
ウソついたらそれはそれでヘタクソって言われる」

うーん、と頭を悩ませた。

「うん、まあ、友達でもなんでもないけど。だからこれでいいんじゃない?
オレは面白いことを求めて、キミに会えるかなって見にきてたわけじゃない。
でも続けるかやめるか休むか、どれを選択したかってことだけはどうしても聞きたかったし。
あと飛ぶ練習するなら、オレもここがいいなと思ってるし」

全部ひっくるめて、ここに来たら会えるかな、という意図だった。
結果として目的は達したわけだ。

迦具楽 >  
「――トラブルの種にならないといいね」

 ちょっとだけ、少年を憐れんでしまった。
 嘘も方便という言葉がある様に、人間関係には少しの嘘っていうのも必要になるのである。
 正直なだけでは、人間社会はどうにも生き難いのだ。

「そっかー、本当に正直だなあ。
 その上、ちょっと言葉も足りない方だよね。
 大丈夫?
 友達とか、上手くやれてる?」

 少年の交友関係が少しばかり心配になるのだった。

「ま、結局、続ける事にはしたよ。
 どうしていいかわからなくて、こんなザマだけどさ」

 

ユラ > 「……もともと友達少なかったし、別に……百人の友達より、一人の親友だと思うし……
こっちでも友達思い出作りより、異能訓練が大事だと思ってるし……」

交友関係は芳しくなさそうである。言い訳もだいぶ苦しい。
お母さんみたいな心配のかけ方をされたな、とか思ってる。

「……オレは嬉しいけどね、続けるなら。
わかんないなら……とりあえず競技とか結果は置いといてさ。
楽しいって思ったこと……それこそ飛ぶきっかけになったこととか、飛ぶためにやり始めたこと……そういうことからもう一回やってみたらどう?」

初心に帰る、という言葉が出てこない。ボキャブラリ不足。
とはいえこれで伝わるだろうか。

迦具楽 >  
「うん。
 貴方が楽しい学園生活を送れるのを祈ってるよ」

 だめだこりゃ、とは言わなかった。
 大丈夫、人間の成長ってやつはとても速いものなのだ。
 少年は人間じゃなさそうだが。

「最初に始めた事、か。
 最初のころは、普通に浮かぶだけでも大変だったっけ。
 飛べるようになっても、今みたいに『泳げる』ようになるには時間がかかったなあ。
 そのころは練習とか、そんなんじゃなくて、ただ楽しくて遊んでて――」

 ぼんやりと、四年前、エアースイムを始めてからの事を思い出す。
 思い出すのは、いつも楽しんで自分が泳いでいた事ばかりだ。

「――ちょっと腕試しのつもりで、アマチュア大会に出て、そこで誰かと競うのが楽しくなって。
 そっか、私が競技選手を目指したのって、その時からだっけな」

 初めての大会で感じた、我武者羅な熱意、熱さ。
 誰かと本気で競い合う、その真剣さと楽しさ。
 それをあの日、あのたった数人しかいない小さな大会で、迦具楽は知ったのだ。
 

ユラ > 「……十分楽しいといえば楽しいけど……」

ちょっと前にホームシックになったのは言わないでおく。
そして少しだけ目を閉じて、相手の思い出に身を浸す。

「……楽しかった記憶、見つかったじゃん」

静かに呟く。

「勝たなきゃいけないって気持ちで、心ががんじがらめになってるんだよな。
プロだからそれも大事かもしれないけどさ。
でも楽しかった気持ちがまだあるなら……なんて言えばいいかわかんないけど……
多分、それが一番の続ける理由になってくれると思う。
オレの知る限り、上にいる人は……そういう楽しいって気持ちを忘れてない」

そう言いながら、自分のことを省みる。
ああ、だからオレはダメなんだな、と。
本当にすごい人は、何があっても笑っていた。
楽しいと思える気持ちを捨てなかった人が、すごくなれるんだと。

迦具楽 >  
「楽しい気持ちを忘れない、か。
 難しいこと言うなあ。
 今正しく、その楽しさを思い出せなくなってるんだけど」

 苦笑しながら、よっ、と体を起こして、頭から落ちるタオルをキャッチする。

「――ありがと、おかげで動けるようになったよ」

 そう言いながら、タオルを少年に投げ返す。
 冷たかったはずのタオルは、いつの間にか蒸されたように湯気を放っていた。

「流石に今日はこれ以上やれないな。
 あんまりバテて帰ると、同居人が心配しそうだし」

 ようやく動けるようになった手足を伸ばして、服に着いた砂を払う。
 まだ少しふらつくが、ゆっくりと立ち上がる。
 疲れ切ってはいるが、結局は精神力の消耗だ。
 後は家に帰って、恋人候補に癒してもらうとしよう。
 

ユラ > 「それはわかるよ、オレもそれが出来ないから。
……だからどっかイカれてんだろうね、どこまで行っても笑顔の人って」

兄がまさにそれだった。
常に笑顔で、常に天才で、常に好奇心と向上心に満ちていた。

「えっ、すげえタオル熱いけど。大丈夫?」

熱まみれのタオルをばたばた振って冷やしながら聞く。
さすがに本人が高熱なのでは。

「帰るのはいい選択だと思うけど……
途中で倒れたりしない?
家まで送るよ、こけたら大変だ」

砂場でエアースイムの装備があったからよかったものの、もしアスファルトに倒れたら怪我をしてしまう。
飛ぶ予定だったが、持ってきた荷物も再び抱えなおした。

迦具楽 >  
「――はは、そうかも。
 きっと、マトモじゃそこまで行けないんだろうね。
 多分、そのマトモじゃなさってのが、才能ってやつなんだろうな」

 迦具楽にも才能がない訳じゃなかった。
 技術の習得が早い、慣れるのが早い、適応が早い。
 それは十分すぎる強みだったが――世界レベルでは、それだけじゃ通用しなかった。

 本当に強い選手と、そうでない選手。
 その間にある分厚い壁は、少年の言うように『どこかイカれて』でもいないと超えられないのだろう。

「ああ、大丈夫大丈夫。
 私、疲れ切っちゃうと体温のコントロールが上手くできなくなっちゃうんだよね。
 だからもうしばらく、私には触んない方がいいよ、火傷しちゃうからさ」

 よく見れば、迦具楽の身体からも湯気が立っているのが視認できるだろう。
 こうして近くにいるだけで、暖房効果を感じられるくらいには、迦具楽の体温は熱くなっているようだ。

「んー、心配してくれるのはありがたいんだけど。
 男の子に送ってもらったりしたら、同居人が嫉妬しそうだからさ。
 まあ、そんなところも可愛い子なんだけど」

 なんて、自分を慕う可愛い同居人をのろけつつ。
 足元を確かめるように何度か、砂浜を踏みつけて、しっかりと立った。

「ま、だから一人で帰るよ。
 貴方こそ、もう冬も近くなってるから、風邪ひいたりしないようにね。
 飛んでるとかなり、身体冷えるからさ」

 と、少年に少しだけ気を使いながら、軽く手を振る。
 

ユラ > 「ホントに大丈夫……?
ってもまぁ、そういう体質の人も居るよね……」

大丈夫だ、という言葉をとりあえず信じた。
世の中には疲れると体重のコントロールがおろそかになる人も居る。

「うーん……わかった。気を付けて帰ってね。
オレは……まあ大丈夫だと思うけど、風邪はひかないようにする」

無理せず見送ったほうがよさそうだと判断した。
相手も姿かたちほど幼くはないだろうから、自分の体調の良しあしくらいは判断するだろう。

「……また飛んでるとこ、見せてね」

去り際の背中に、そう声をかけた。

迦具楽 >  
「はは、心配してくれてありがと。
 ん、ちゃんと気を付けるよ」

 そう言って少年に背中を向けて。

「――頑張るよ。
 意地くらい、張って見せないと、でしょ」

 背中越しに手を振りながら、ゆっくりとした足取りで、砂浜を歩き去っていった。
 

ご案内:「浜辺」から迦具楽さんが去りました。
ご案内:「浜辺」からユラさんが去りました。