2021/03/20 のログ
ご案内:「浜辺」に迦具楽さんが現れました。
■迦具楽 >
赤いスイムスーツを着て、迦具楽は海上を見上げる。
黄色いラインで区切られた四角いフィールド。
その中が今日の決闘の舞台だ。
「準備は、よし、と」
晴れた空の下で、静かに風を感じる。
天候はよく、視界は良好。
エアースイムにはうってつけのコンディションだ。
待ち人はもうすぐやって来るだろう。
どんな表情で現れるだろうか。
絶好のコンディションでいてくれる事を望みながら、その時を待った。
ご案内:「浜辺」にリタ・ラルケさんが現れました。
■リタ・ラルケ >
エアースイム。
自分が親友と出会う、きっかけになったもの。
初めて迦具楽と出会った場所で、迦具楽と出会うきっかけになったもので――自分は、これから迦具楽と戦う。
浜辺が――そして、遠目に迦具楽の姿が見えた途端、一瞬、足が止まった。
今の迦具楽との関係が、そして自分の気持ちというものが、未だに割り切れていないのは、そう。
だけれど、
「……違うか」
大会に出たのは、自分の中に残るエアースイムに対する気持ちを整理するため。
そして今、ここに来たのは。
自分たちが抱える気持ちに向き合うため。
親友と、本当の意味で向き合うため。
「……よし、行こう」
一つ深呼吸、それから髪に着けたヘアピンに触れて、勇気づけるように一言。
それだけ言っては、迦具楽の下へ向かう。
「お待たせ、迦具楽」
■迦具楽 >
「待ってたよ、リタ」
かけられた声に、振り返りながら答える。
親友の幼い顔には、しっかりとした意志の力が浮かんでいた。
「逃げ出すかと思ってたけど、よく来たね。
準備万端って感じじゃない」
振り返りながら、満足そうに言う。
そう、今日は彼女にしっかりと、やる気になってもらわなければならないのだ。
「見ての通り、こっちも準備オッケー。
いつでも始められるから――ルールを確認しようか」
そして、迦具楽は人差し指を立てる。
「ルールは一対一、時間制限なしのサドンデス方式。
スコアは無しで、先に有効打撃を取った方が勝ち。
ハンデとして、私はS-Wingを一つしか装備しないし、試合開始から五秒間、私は動かない。
それと、スタート位置はリタが好きに決めて良いよ。
リタの位置と私の位置、両方ね」
と、今回の『喧嘩』のルールを一つずつ挙げていく。
エアースイムに置いて、最初のスタート位置は戦略的に重要な点だ。
確実にイニシアチブを取れるのは、ハンデとしては恐らく十分だろう。
■リタ・ラルケ >
「やるしかないから、ね」
心臓はうるさいくらいに鳴っているし、怖い気持ちだって少なからずある。
だけれど。
目を逸らすのも、逃げるのも、自分はしてはいけないのだと――そのくらいは、わかっていた。
「ん、わかった。スタート位置、か――」
開始位置で、それこそどう動くかが変わってくる。大事ではあるけれど――さて。
「――じゃあ、私は向こうの高い場所に行く」
こちら側から見て奥側にある、フィールドの角を指す。
「迦具楽は逆、こっち側の低い場所でお願い」
今度は、手前側を指して。
高度面でいえば、オーソドックスではあるが、かなり明確に有利不利が分かれる位置関係である。もちろん、自分にかなり利のある形で。
そしてもう一つ、単純な距離という面で、できるだけ離れた位置取りを選んだ。
動き出しがどうしても今一つ遅れがちになる【スピーダー】である故に、加速する時間はできるだけ稼ぎたい、そういう狙い。
■迦具楽 >
「やるしかない、か。
たしかにね」
なんて馬鹿な事をしているんだろう。
そう思う自分もいる。
けれど、こうしない限り、いつまでも踏み出せないままだと思ったのだ。
「向こうに、こっちね。
いいね、しっかり考えてるじゃん」
バカにする意図はなく、セオリーに乗っ取ったポジションを指定してきた事に感心する。
空中投影される設定パネルを呼び出して、互いのスタート位置を登録した。
「うん、いいよ、設定した。
ハンデはこんなもんで十分かと思うけど、リタからは何かある?」
■リタ・ラルケ >
「ん、何も――」
ない、と言おうとしたけれど。つとその口が止まる。
「――ううん、やっぱ一個だけある」
迦具楽は、"プロ"だ。
いくらエアースイム才能があるって言ったって、経験も、技術も、知識も、自分では到底手の届かない場所に迦具楽はいる。
ハンデを貰ってもなお、あっさり勝負が終わる可能性だって、ある。
だけれど自分は、
「本気で……正真正銘、本気で行くから」
本気になるのが怖いだけ。少し前に言われたその言葉は、確かにそうだった。
本気になるのは、怖い。
頑張って、頑張って、どこかで間違えて――そうして取り返しのつかないことになるくらいならば、始めから。
だけれどもう、そうしているだけじゃ、ダメだ。
失うことを、大切な人を傷つけることを、怖がるだけじゃ、ダメだ。
「迦具楽。――真剣勝負、だよ」
いちエアースイマーとして。
自分は今から、"空駆ける稲妻"に、挑むのだ。
■迦具楽 >
「――いい目、出来るじゃん」
本気で行く、真剣勝負。
そんな言葉が聞けるとは、正直思っていなかった。
けれど、彼女の瞳は、良く知っている。
高い壁に本気で挑もうとする、挑戦者の目だ。
「当然。
私も、本気で叩き潰すつもりだから。
でもそういった以上――がっかりさせないでよね」
胸の奥がざわついて、暗い感情と、淡い期待が混ざり合う。
彼女は、今の友人関係を終わらせる事も覚悟した上で、そう宣言したのだ。
競技選手をやめるか、縁を切るか。
そんな理不尽な条件を呑んでの言葉なのだ。
「準備は――出来てるよね。
カウントは30。
はじめるよ」
そしてパネルを操作して、迦具楽はS-Wingを起動させ浮かび上がる。
フィールドでは、無機質な電子音声がカウントダウンを始めた。
もう何も考える必要はない。
ただ、目の前の相手を叩いて、圧倒して――それで終わらせる。
カウントを待つ間、迦具楽は目を閉じて集中する。
カウントが終わると同時に、二人はフィールドの中へ転送されるだろう。
そして迦具楽は転送後、五秒間は動かない。
イニシアチブは、リタのものだ。
■リタ・ラルケ >
「ん、いつでも」
来ていた服を脱いで、下に着込んだ空色のスーツになりながら――S-Wingを起動して、短い言葉を交わす。
そうとも。
いくら実力が離れていたって、迦具楽が強くったって――何もせず、無抵抗にやられるだけなんて。そんなつもりは、毛頭ないのだ。
「……行きます」
カウントダウン終了と同時に、フィールドの中に転送される。
距離は十分、開始から五秒の間、迦具楽は動かない。
五秒、プラス二人が近づききるまで。それが自分に与えられた時間だ。
【スピーダー】の命は速度。しかしながらS-Wingは仕様上、最高速度を上げるとその分加速が鈍くなるように作られている。
与えられた時間を使い、加速。とにかく彼女が動き出す前に、速度を乗せる。
水平に、フィールドの外側を沿うように移動しながら、速度を上げ続けていく。
「――さて」
無為に突っ込むことは、しない。
迦具楽より高い位置で、円を描くように動きながら、迦具楽がどう動くかを伺う。
■迦具楽 >
身体が転送される感覚の後、目を開ける。
遠くにある彼女の姿を確認して、そのまま視線で追う。
「冷静だな」
セオリーに沿った、高度を取っての加速。
速度を保つための円軌道。
有為な位置と速度、視界を五秒の間にしっかりと確保している。
「そういう頭の良さ、子供らしくないんだよ」
落ち着いていて、冷静。
精神的に一歩引いているから、理にかなった判断ができる。
「どうするかな」
とうに五秒は過ぎたが、迦具楽は動き出さない。
位置関係は不利。
S-Wingの数値でも、勝っているのは初速くらいなものだ。
追われれば逃げられないし、追えば追いつけない。
保護膜の強度も大きく劣っているため、軽い接触でも有効になりかねない。
圧倒的に不利なハンデを背負った中で、勝っている点は、経験と技術のみ。
「――待つか」
ゆっくりと、泳ぎだす。
海面に向けて降下しながら、最低限の速度を確保するため加速する。
が、泳ぎだした途端、バチン、という音と共に迦具楽の身体が大きく揺らいだ。
「チッ――じゃじゃ馬め」
迦具楽の相棒たるS-Wing、紅月試製弐型。
飛行膜の感度が異常値を示すほど高い『欠陥品』。
その感度の良さは、ほんのわずかな動き、それこそ指先の動き一つですら、泳ぎに反映させてしまうのだ。
うっかり普通に泳ごうとすれば、飛行膜の反応に保護膜の追従が間に合わず、干渉を起こして今のようにあらぬ方へと弾かれてしまう。
相棒の暴れ馬っぷりに舌打ちしつつも、細やかな制御を繰り返し海面付近まで降りる。
本来ならここで背面泳法に移り、視界を確保するのだが。
そんなことしようものなら、また干渉を起こして吹っ飛んでしまう事だろう。
「ほら、隙だらけだぞ。
どうする、リタ」
高い位置からは、ふらふらと真っすぐにすら泳げない迦具楽の様子はよく見える事だろう。
海面付近で不安定に泳ぎつつ、時折、体を傾ける事で辛うじて位置関係を把握している様子だ。
その気になれば、完全に背後を取って攻める事もできるだろう。
■リタ・ラルケ >
妙だ、と思った。
五秒経っているはずなのに、迦具楽が動こうとしない。
いや、動いてはいるのだ。だけれど低空でゆっくりと飛ぶ迦具楽は、しかしその身体がぶれていて、不安定である。素人が見たって、空中で上手く動けていないことがわかるくらいに。
率直に言えば、下手な飛び方なのである。このまま速度が乗った状態で突っ込めば、いとも容易く背後を取れるだろうと思うくらいに。
「……釣ろうとしてる?」
だけれど逆に、それこそが狙いのような気がして気持ち悪い。迦具楽の技術は、何度も見ているからこそ――あれが、ただ飛ぶことを失敗しているとは思えないのである。
考えなしに突っ込めば、間違いなく負けるだろうと、そう思えてならない。
「……じゃあ、釣られてみるか」
だけれどこのまま様子見というわけにもいかない。
普段のルールとは違って、ここには自分たち以外に選手はいない。制限時間もない。逃げきるだけでは勝てず、勝負をするしかないのだ。
ならば、膠着状態を一度切らねばならない。
「……っ!」
息を飲み込んで、軌道を変える。迦具楽から離れるように、距離を取る。
それと同時に、少しずつ高度を下げて行って――、徐々に、海面近くへと近づいていった。
■迦具楽 >
「思い切りも良し、と」
制御に苦心しながらも、なんとか上への視界を取ると、じりじりと高度を下げてくる彼女の姿。
一気に降りてこないのは、迦具楽の動きを誘いだと警戒しての事だとわかる。
実のところは、真面目にやってこれが精いっぱいなのだが、相手にそれが分かるはずもなく。
ポジションで優位を取られ、速度に劣り、制御にも苦戦する迦具楽の勝機は少ない。
仕掛けてきたところをカウンターで取るか、ハンデを経験と技術で補える近距離でのキャットファイトに持ち込めるか。
いずれにせよ、自ら動いたところで勝機はないのだ。
だからこそ、海面すれすれを泳ぎながら、ひたすらに待つ。
「さあ、いつでもおいで」
低速で蛇行しながら、仕掛けてくるのを待つ。
相手の気配を見逃さないよう、気を張り詰めさせて。
■リタ・ラルケ >
高度を落としても、未だ迦具楽は大きく動きを変えない。
まあ、別にいい。
ならばこのまま、突っ込むだけ。
「せー……」
迦具楽と同じくらいの高さに来たことを見て、
「のっ!」
そのまま、横を突くように突っ込む。
このまま動かなければ当たる位置だけれど、はたして。
■迦具楽 >
じりじりと高度が並び――そして、気迫を感じる。
(――来た)
横合いから飛び込んでくる影。
正面から受ければ、保護強度の差でヒットは確実。
かといって上に逃げても追いつかれ、横軸で避けても彼女の足は止まらない。
となれば、わずかでも動きを鈍らせるには――下。
「――ッ」
わざと大げさに腕を動かして、『欠陥品』たる所以の干渉を引き起こす。
その結果、大きな破裂音と共に迦具楽の身体はあらぬ方向へ飛ばされて、海面へと叩きつけられる。
リタが足を止めなければ、上がった大量の水飛沫の中に突っ込むことになるだろう。
速度を落とすか、視界を奪われつつも速度にまかせて突っ切るか。
いずれにしても、海に落ちた迦具楽の姿は、ほんのわずかの間見失うだろう。
■リタ・ラルケ >
強く弾けたような感覚と同時に、体がよろめく。
と同時に、大量の水飛沫が、自分を襲った。
「っ――!」
当たる感触はしたけれど、手応えは薄かった。直撃はしていないだろう。
「ダメかっ!」
これで決まるわけはないと思っていたけれど、いざそうなってみるとなんとなく悔しい。
さて次――と思ったところで、気づく。
迦具楽の姿が、見えない。
「見失った……!」
考えるより先に、再加速。速度を失った状態では、格好の的である。とにかくまずは逃げる、とその場から離れようとする。
だけれど宿命、加速は遅い。明確な隙、だ。まずい。
■迦具楽 >
水飛沫に覆われながらも、リタの手は確かに触れて来た。
悔しそうな声が耳に届くが、今の状況で、触れただけでも大した物だ。
(でもまだ――詰めが甘い)
水飛沫に紛れて、海面を蹴る様にして上昇する。
水飛沫の中を突っ切るリタと、今度はポジションが入れ替わった。
迦具楽が上を取り、速度の落ちたリタを補足する。
勝負は、彼女が加速するまでの数秒。
初速で上回る事が出来るわずかの間だ。
真っすぐにその背中に向けて突進する。
腕を伸ばしたり振ったりすれば、またあらぬ方向へと飛んでしまうだろう。
だから――そのまま全身でぶつかりに行く。
スーサイドダイブの出来損ない。
タイミングを読まれて反撃されれば、強度の弱い迦具楽がヒットを取られる事になるだろう。
しかし、彼女の足を殺して近距離戦に持ち込むにはここしかない。
一か八かの体当たり。
頭を抑える事が出来るか、それとも、反撃されヒットを取られる事になるか。
■リタ・ラルケ >
背後に気配。
水飛沫を利用されて背後を取られた――!
「まずっ――」
体の向きを反転させるけれど、そのまま海面に背を向けながら加速する――つまり、背面泳法を行うだけの技術は、自分にはない。
そして未だ速度が乗ってない以上、突っ込んできた迦具楽は受け止めるしかない。
強烈に弾かれる感覚。辛うじて背後を打たれることはなかった、けれど。速度は完全に殺される形になった。
――やられた。ぎり、と奥の歯が鳴った。
【スピーダー】の強みである速度が失われた以上、自分の勝ち目は限りなく薄い。間もなくヒットは取られることになるだろう。
やっぱり、強い。そうだ、そんなの、わかっていた。
だけれど。
「――がんばるっ……!」
正真正銘、本気で行くと言った。真剣勝負だと言った。例え力は及ばなくても、それだけは。
ささやかな抵抗。弾かれて、制御が及ばなくなっても。己の身を守るように両腕を構えて、その紅い軌跡を見つめ続ける。