2021/03/21 のログ
迦具楽 >  
 互いに弾かれ合い、足が止まる。
 しっかり反転して受け止めてきたのは予想以上だったが、狙い通り速度を殺す事は出来た。
 大きく弾き返されつつ、体勢を立て直す間に見たのは、悔しそうな顔。

「つーかまえた」

 体勢を立て直し、リタへ向けて動き出そうとして、また飛行膜の干渉が起きて斜めに吹っ飛ぶ。
 バチン、という音と共に大きく軌道が歪んだ結果、正面からぶつかるつもりが、横に大きく回り込む形になるだろう。
 自分でも予想しきれない挙動だが、ようやく慣れてきつつある。

「さあ、喧嘩らしく殴り合いしようよ――っ!」

 がんばる、と歯を食いしばる彼女に、横合いから右手を突き出す。
 完全に背後へ回り込むためにも、まずは体勢を崩し切ろうとする。
 

リタ・ラルケ >  
「もうっ……!」

 悔しいけれど、完全に大勢は決した。張り付かれた以上、振り切るのはもう難しいだろう。
 こちらに向かってくる迦具楽の身体が、弾かれるように横に飛ぶ。そんな意図しない挙動すらも、今の自分には脅威に写る。
 やっぱり。
 憧れたひとは、遠くて、強い。

「ただで捕まってなんて、あげない、から!」

 突き出された手を、懸命に弾こうとする。しかしそのままもつれ合っていけば、目論見通り、次第に体勢は崩されてしまうだろう。
 だけれど最後まで、抵抗はする――。

迦具楽 >  
 突き出した右手は、しっかりと弾かれた。
 彼女の姿勢はよろめくものの、より大きくはじかれるのは迦具楽の側だ。
 保護強度をギリギリまで低く詰めた設定。
 足回りで戦うタイプのファイターの常である。

 しかし、立て直す技術に置いては、一歩も二歩も先にいるのは間違いない。
 だから、差し引きすると、接触から立て直すまでの時間に大きな差はなかった。

「ほんとにっ、やるじゃん!」

 リタの、彼女の中ではもう敗色濃厚に感じられているんだろう。
 けれどその実、ほとんど五分と言っていい。
 経験と技術に劣っていても、最後まで諦めない強さが五分の状況を保っている。

「諦めても、いいんだよっ!」

 そう言いながら、今度こそ正面からのタッチ。
 ほんの少し早く体勢を立て直し、左手を突き出した。
 逃がすわけにはいかない。
 一度、離脱するチャンスを与えてしまえば、五分の状況も大きく傾いてしまうのだ。
 

リタ・ラルケ >  
 諦めるという選択肢は、何度だって与えられていたはずだった。
 初めから、勝てない相手だった。ハンデを貰ったって、まともに勝てる勝負ではなかった。最後まで頑張る、と決めただけで、その実だからどうした、という勝負では、あった。冷静に考えれば、そりゃあ、諦めた方が楽だったのかもしれない。
 どうして諦めていないのかは、自分でもわからない。半ば、意地のようなものだと思う。
 だけど、

「諦めない、もん――」

 ここで諦めたら、自分の中で、何かが折れてしまうような気がした。
 実力の差は歴然。勝てない相手。それは、そう。
 だけどだからって何もしないのは、それはそれで気が済まない。

「――それが本気、ってこと、でしょ!」

 正面から突撃してくる迦具楽を迎え打つように、右手を突き出す。攻撃だとか迎撃だとか、そういう意図を持ったような一発ではない。
 ただ、思いっきり弾いて、しまえば。そうすれば、もう一度逃げられる、はず。それだけ。

迦具楽 >  
 強くなったな、と思った。
 出会ったばかりの頃だったら、こんなに必死になってはくれなかっただろう。
 喧嘩を売っておいてなんだが、ここまで意地を通してくれるとは思っていなかったのだ。

(そうか――本気、だもんね)

 こうして向き合ってくれる事が、嬉しくもあり、情けなくもあった。
 こうまでしてもらわないと、自分は前に進めないのか、と。
 自分の心の弱さが露呈するようで、惨めな気持ちになるようだった。

(だから――)

 実力差はあっても、勝負はそれだけでは決しない。
 拮抗すればするほど、最期にものをいうのは心の強さだった。

「――ッ」

 手と手がぶつかって、迦具楽の腕が大きくはじかれる。
 そして、迦具楽の中にあった逡巡が、そのフォローを遅らせた。
 その結果大きく体勢が崩れ、さらに飛行膜の干渉が起き――その体勢を大きく崩させる。
 まずいと思ったが、すでに遅い。
 弾かれた腕がさらに大きく跳ね上がり、正面ががら空きに、無防備になる。
 なんとか身体がひっくり返る事は抑えたものの――完全に隙だらけの姿だった。
 

リタ・ラルケ >  
 弾いた。
 手応えを、感じた。
 届かないと思っていた場所に、一瞬だけとはいえ、届いた。

「……逃げるっ、」

 迦具楽が、弾かれるのが、見える。
 隙は、作った。
 後は、逃げる、だけ。迦具楽から離れる、だけ。
 そして、もう一度、速度を乗せて、突っ込めば、

「――ぁ」

 ――体が、重い。逃げられない。
 考えてみれば、当たり前だった。あれだけ激しい格闘戦をして、迦具楽の体当たりをいなして、それでもなお墜とされまいと抵抗して。それでもなお今ここに至るまで"それ"に気づかなかったのは、気づく余裕もないくらいに必死だったから。
 そう。
 自分の体力は、既に限界近くまで摩耗していたのだ。

「……もう、どうにでも、なれ……!」

 方針転換、隙を見せた迦具楽の下に飛び込む。
 速度の乗りきっていないスピーダーの一撃――一か八かどころか、無謀ともいえる突撃。だけれど今の自分にできる、最後の一手。
 止められたなら、負け。届いたなら、勝ち。もう、それだけだった。

迦具楽 >  
 彼女は逃げなかった。
 いや、逃げられなかったんだろう。
 体力作りをしてきたわけでもない、ただの少女の身体には、消耗が激しかったのだ。
 一瞬、気持ちについてこない身体に戸惑うよう動きが止まった。

 その瞬間に体勢を立て直せれば、次の突撃も防げたのかもしれない。
 しかし、結果は飛び込んできた体をいなせず、大きく弾き飛ばされた。
 ぶつかり合えば、保護膜強度の高い方が優位。
 彼女の突撃は、迦具楽を一方的に弾き飛ばしたのだ。

(やば――)

 制御が効かず、視界がぐるぐると回る。
 回転するほど大きく弾かれた迦具楽は、もう体制を立て直すどころではなく。
 飛行膜が干渉し、右へ左へと繰り返し身体が振り回される。

 リタがあと一息、力を振り絞る事が出来れば――その背中を取る事は容易だろう。
 そして背中に触れさえすれば、ほぼヒットは確実。
 疲れ切った少女にとっては――おそらくここが、最期のチャンスだ。
 

リタ・ラルケ >  
 強く弾かれる感覚はした。
 だけれどまだ、【有効打撃】は取れていなかった。

「ぐっ……!」

 痛いくらいに、歯を噛み締めた。
 背中は取れていなかった。だけれど今の突撃で、迦具楽は弾き飛ばされている。
 まだ終わったわけじゃない。もう一度だけ突っ込めれば、自分は勝てる。まだ、負けたわけじゃない。あと少しで、届く。憧れていた背中に、手が届く。
 弾かれて、振り回されている迦具楽に追いつかんと、加速、加速、

「――――――――っ、」

 ――手前で、失速する。後はもう、慣性のまま真っすぐ進むのみ。
 もはや、意地だとか気力だとか、それだけでどうにかなる次元ではなかった。今ここに至るまで、迦具楽だけを見ていた。自分の疲れなど、気にも留めていなかった。そんな状態でですら疲れを自覚するほどに疲弊しきっていた身体を、これ以上動かすことなんてできなかった。

「まだ、」

 もう身体が言うことを聞かない。
 どうして、あと少しなのに。
 それが、たまらなく悔しかった。

迦具楽 >  
 少女の身体が流されていく。
 あと一歩、届かずに、疲弊しきった体が伸ばした手は宙を滑る。
 そして、届かなかったのなら――それが決着だった。

 時間をかけて立て直した迦具楽が、ゆっくりと流されていくリタへ近づいていく。
 その背中に掛ける言葉はなく、ただ、最期まで手を抜くことなく。
 背中に向けて手を振り下ろした。

 最後のブザーが響いて、二人の身体はフィールドの外へ、隣り合い砂浜の上へと転送される。
 S-Wingを停止させて砂の上に降りると、迦具楽は黙ったまま、静かに拳を握った。

(――私、勝てたんだ)

 負けると思っていた。
 この期に及んで迷いを持っていた自分と、迷いなく全身全霊で挑んできた彼女と。
 そこには明確な差があったと感じていた。
 けれど、最期に明暗を分けたのは、経験の差だった。
 

リタ・ラルケ >  
 意識こそ、失っていなかったけれど。それでも疲弊しきった身体はまともに動くことも難しかった。
 せめてこれだけはと、S-Wingは停止させる。後はもう、砂浜に体が倒れ込むだけ。

「……負けたかあ」

 届かない背中のはずだった。もとより自分が敵う相手ではなかった。だから、負けたのなんて、そう不思議なことじゃない。

「……勝てなかった、かあ」

 それでも、憧れた姿に、手は届きそうだった。手を伸ばして、自分の全力は尽くして。それでもなお、届かなかった。

「……うまく、でき、なかったなあ」

 後、少しで。
 手は、届いていた、はずなのに。

「――――――っ」

 声にならない悔しさが、涙と一緒に流れ出る。
 悔しい、のだった。
 あと少し、頑張るだけだった。それだけで、憧れていた親友の背に、手が届いていたのに。
 どうして自分は、こんなにもダメなのだろう。

「どうしてっ……!」

 それを問うたところで、何かが変わるとは思えないけれど。
 ただ、そうするしかなかった。

迦具楽 >  
 倒れ込んだ彼女の隣に、ゆっくりと腰を下ろす。
 涙を流す姿を見ても、手を伸ばす事はしない。
 勝者が敗者に出来る事は何もない。
 勝者の優しさなんて言うものは、敗者をより惨めにさせるだけだから。

「――どうして、だろうね」

 ただ、自然とその問いかけには言葉が出ていた。

「私は、負けると思ってた。
 私の気持ちは、こんな時でもふわふわしてて、きっと、気持ちの上では私は最初から負けてたと思う。
 私が勝てたのは、経験のおかげ。
 何度も試合をして、練習をして、そうやって身に着けたペース配分とか、スタミナとか、きっとそういうやつ。
 他はきっと、全部負けてた」

 技術、テクニックなんてものは些細なものだった。
 そんな小手先のものには、彼女は食らいついてきて、追いついてきた。
 彼女は、とても『強かった』。

「リタは、すごいよ」

 慰めではない、正直な気持ち。

「思いの、気持ちの、心の強さで、私に追いついて――追い抜こうとしてた」

 彼女はそれだけ、強い思いを、心を持っていた。
 目の奥が熱くなって、胸がじんとしびれるようだった。

「――ありがとう。
 本気で、ぶつかってきてくれて」

 本気になる事を怖がっていたのに。
 自分のためにあれだけの想いをぶつけてくれた。
 それが、たまらなく、嬉しく思えた。
 

リタ・ラルケ >  
「……ううん。こっちも、ありがと」

 感謝の言葉を、返す。
 きっと、迦具楽がいなかったら。こうしてぶつかり合ってなかったら。自分はずっと、こんなにも強い感情を覚えることもなかっただろう。
 ずっと、ずっと。
 自分でも驚くくらい、自分は何かに本気になれるんだと、思った。
 一人じゃ、知らなかったこと。

「負けちゃった、けど。悔しい、けど……でも、なんだろ」

 一つ一つ、区切るように言葉を紡ぐ。

「やっと、迦具楽と同じ景色が見れた、気がする」

 届かなかった。だけど憧れてた背中は、確かに見えていた。
 いつかやった、違う舞台での遊びじゃなくて。正真正銘、同じ舞台での真剣勝負。

「……ありがと」

 私と、出会ってくれて。エアースイムというものを教えてくれて。
 もう一度、感謝の言葉。

迦具楽 >  
「私は、なにもしてないよ。
 リタが自分できっかけを見つけて、自分で乗り越えた――リタが頑張ったんだよ」

 今日彼女が見せた強さは、もともと、彼女の中にあった強さだ。
 ただ少し見失っていたソレを、彼女は自分自身の手で、また見つけ出すことができたんだろう。

「同じ景色、か。
 そんないいもの、見せられた気はしないけど、ねえ」

 言いながら、迦具楽もまたリタの隣で仰向けに倒れ込んだ。

「はぁ――でもこれで、私も選手引退かぁ」

 『喧嘩』の前に決めていた事。
 選手を辞めるか、縁を切るか。
 迦具楽が一方的に決めた、勝手な約束。

「まあ、それもいいのかな。
 中途半端なまま引きずるよりは、さ。
 リタにも、気持ちでは負けちゃってたしね」

 潮時なのかもしれない。
 敵わない目標を追いかけたり、誰かの才能に嫉妬したり。
 もうその必要もなくなる――そう思うと、どこかすっきりする気持ちもある。
 リタとぶつかり合った事で、自分の中でなにか、一区切りついたのかもしれなかった。
 

リタ・ラルケ >  
「それでも、迦具楽がいなかったら、きっかけを見つける気にもならなかった、と思う。だから、ありがと」

 例え自分の中にあった強さだとしても。それを見つけようとしなければ、ずっと埋もれているままであっただろう。
 多分迦具楽が何を言っても、自分はそう思っている。
 
「……あ」

 そういえば、そんな約束もしていたっけ。勝負に必死で、すっかり頭から飛んでしまっていた。

「……迦具楽は、それで、後悔しない?」

 引き留めようと思って出た言葉ではなかった。ただ純粋に、それでいいのかという問い。
 ずっとやってきたことを、辞めるというのは――それこそ、大きな決断であろうに。

「後悔しないなら、私からは何も言わない」

 辞めてほしくない気持ちはある。
 けれども他人の決断を曲げてしまうようなことは、したくない。
 だから、何も言わない。

迦具楽 >  
「――後悔、か」

 後悔しないかという問いに、再び自問自答する。
 けれど、答えはやはりはっきりとしない。

「後悔は、すると思う。
 多分、続けても、辞めても」

 だからこそ、迷い続けていた。
 喧嘩の最中も中途半端な気持ちでいたのは、そのせいでもある。

「きっと、辞めたら、あの時やめなかったらって思うし、
 続けても、あの時やめてたらって思うだろうし。
 だから、わかんないんだ。
 私がどうしたいのか」

 だから、喧嘩を口実にした。
 負けたら続ける、勝ったら辞める。
 自分で決断できないから、外的要因にそれを求めた。

「正直さ、こんな苦しい思いをしてまで続ける理由なんてあるのか、って思うよ。
 届かないモノ追いかけたり、誰かに嫉妬したり、劣等感で嫌になったりさ。
 でも――」

 ぐっと、砂を握りしめる。

「やっぱり、悔しいって、このままじゃ嫌だって気持ちもあるの。
 だから――絶対、後悔はする。
 後悔、し続けると思う」

 ぼんやりと、空を仰いだまま、ぽつりぽつりと、気持ちを吐き出して。
 

リタ・ラルケ >  
「……」 

 吐き出された気持ちを、一つ一つ聞く。
 時間をかけて、咀嚼して――出てきた言葉は。

「続けるか、辞めるか、って。その二つしかないの、かな」

 どっちの道を選んでも、後悔する。だけど、本当に道は二つしかないのか、と。

「私ね、大会に出るか迷ってた時に、言われたんだ。『やりたいと思った時にやって、やりたくなくなったらやめる、それの何がいけないんだ?』――って」

 エアースイム部の部長が、前にそう言っていた。
 あの時は、まだ決めきれていなかったけれど。
 それでもあの言葉が、一つのきっかけになったことは違いない、と思う。

「……その、迦具楽は私と違って、お仕事とか、プロだとか、そういうのもあるんだろうけど、さ。だからって、そう思っちゃいけないなんて、ないんじゃないかな」

 続けるか辞めるかといった中途半端な気持ちが、彼女にとって枷になっているのなら。
 いっそ、どっちも選んでしまえばいいんじゃないか、なんて――そんなことを、考えたのだ。

迦具楽 >  
「やりたいときにやって、やめたくなったらやめる」

 一度、繰り返すように口にする。
 そんなふうに、考えた事はなかった。
 そんな単純に考えていいのだろうか。
 けれど、口にしてみたら、意外なほどに気持ちが楽になった気がした。

「そんなんで、いいのかな。
 そんなどっちつかずみたいな――美味しいところだけ、貰うみたいなの」

 少しだけ、目を閉じる。
 ふらふらと揺らいでいた気持ちが、少しだけ定まったような気がする。

「――なら、もう少しだけ。
 もう少しだけ、続けて見ようかな」

 あと少し、もう少しだけ、頑張ってみようかと、そう思った。
 そう、例えば次の、春の大会くらいは。
 そこで、嫌になって、耐えられなくなれば――今度こそ辞めてしまえばいい。
 だって本当は、やめずにいられるのなら、辞めたくはなかったのだから。

「苦しいし、辛いけど――やっぱり私、競技スイムが好きだし、ね」

 口から出たのは、素直な気持ち。
 この『好き』が苦しさや辛さに埋もれ切ってしまったときは。
 その時がきっと、本当の辞め時なのだろう。
 

リタ・ラルケ >  
「そっか」

 そんな短い相槌だったけれど、ちょっとだけ、嬉しさがにじみ出ていたかもしれない。

「正直、言うと。迦具楽がもう少しだけ続けるって言ってくれて、ちょっとだけ安心した。こう言うと、なんか、ずるい気がするけど」

 自分だって、エアースイムをしている迦具楽の姿は、好きだ。
 本当に辛くて、苦しくて、辞めたいと思っていたなら、続けろなんて言わなかったけど。
 そう言ってくれて、素直に嬉しい自分がいる。正直。

「私が言うのも、どうかと思うけど。本当に辞めたいときは、辞めていいし――辞めたとしても、また始めたくなったら、その時はまた始めればいい、んじゃないかな」

 そういうもので、いいんだと思う。
 趣味でも、仕事でも。本当に苦しかったり、辛かったりすることを辞めるのを、誰が責められるだろう。

「――あー……ダメだ、もう限界……」

 ……と、まあそう話していても、畢竟身体の疲れは限界だったので。
 後に目覚めたとき、このあたりからおおよそ、自分の記憶は曖昧になっていたりするのである。

迦具楽 >  
「そっか」

 大切な親友が、本当に心から応援してくれている。
 それが伝わって、きっと迦具楽の相槌にも嬉しさが滲んででいただろう。

「はは、限界超えてたもんね。
 起きるまで居てあげるから、少しだけおやすみ」

 そうして、気を失うように微睡むだろう親友を隣で見守り。

「――ほんとにありがとう、リタ。
 大好きだよ」

 そんなふうに口にした言葉は、きっと夢と混ざって溶けていく事だろう。
 春の青い空の下行われた、ささやかな『喧嘩』は。
 こうして穏やかに決着する。

 この出来事が、二人にどんな影響を与えるのかは――まだ誰にもわからない。
 

ご案内:「浜辺」からリタ・ラルケさんが去りました。
ご案内:「浜辺」から迦具楽さんが去りました。