2021/11/16 のログ
ご案内:「浜辺」に出雲寺 夷弦さんが現れました。
出雲寺 夷弦 > ――――そう言えば、ここって島だったんだった。

島ってことは、海に囲まれている。海に囲まれているということはつまり、釣りが出来る。
堤防のひとつふたつくらいあるかなと思い立ったが吉日。近所の釣り具屋でレンタルをしているところがあったので、一式借りてやってきた。


デン。

人がいない。当たり前だ、オフシーズンのこんなところ、普通寒すぎて誰も来ないものだ。

「……寒いときって、やっぱ釣れる魚すくねえのかな」

釣りなんてまったくやったことがないのだ。寒いと魚も引っ込むのかな、とか適当な頭を回しながら、男子学生。持ってきた折り畳み椅子を適当に設置して腰掛け、ぼちぼち準備をはじめた。

どうやるかは、スマホで調べながら随分あっさりと判った。
そして。

「――よし、と。んじゃあ早速……それ、っと!」

――勢いよく飛ばした釣り針。すっ飛んでった先、無事着水。
長く伸びた釣り糸を、おー、と声を出しながら少しリールを回して張り、後は待つ姿勢。

「……釣れたら、それを晩飯にしてみるか。こういうとこだと何釣れんだろ」

……まぁ釣れれば後は調べて食べれるかどうかだけ考えよう。

出雲寺 夷弦 > さて、釣れるかどうか。試しもの。 [3d6→1+3+6=10]
出雲寺 夷弦 > http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca2710.png

1:小さい
3:ギラギラした
6:"冒涜的な何か"



「――っと、お、おお?おおおッ?」

一発目にして、竿がぐいっと揺れる程の勢いで引っ張られる。確かな手ごたえに、思わず頬を緩めながら立ち上がり、ぐっと力を込める。
こちとら体幹は人外譲り。当たったらば外すものかと、微かに姿勢を低く。

「……こ、れは、大物なんじゃねえの……?!何かわかんねぇけど、食えるの――来いッ!!」

――膂を以て柔を制する。青年の竿捌きは暴力的な力によって、その獲物の抵抗を赦すことなく、水面から引きずりだした。

ザパァン!!と、激しい水音と飛沫と共に、釣りあがったそれを見――。


「……釣れ、た………――――。」

なんかヤベェ魚 > ――真っ黒、しかし何故だろう。異様に反射が強く、金属質だ。
ぎょろぎょろとした白く濁った眼を動かし、びちびち躰を捩らせる小さな魚。
目が片方しかない。腹びれが左右にねじれている。
針の引っかけられた口が、ぱくぱくしながら、呪詛めいて何かを呟いている。



――クチ  アニ   クチ   アニ

――タロジ タロジ   タロジ     タロジ

――クチァニ クチァニ   クチァ

出雲寺 夷弦 > ――全力で海に投げ返した。なんか叩きつけられた勢いで魚が消し飛んだ気もする。
出雲寺 夷弦 > 「…………」

……ゆっくり椅子に座り直し、魚ごと針も餌も消え去った竿を引き上げると、もう一度仕込む。

「……いや、駄目だろ……あれは……思いっきりヤベェ魚じゃん……なんでそんなの釣れるんだよ……」

やだなぁ後で呪詛返し組まねぇとじゃんか。とかぼやく、手は若干震えていた。
ぶっちゃけ呪われた臭いが、青年は寺産まれ寺育ちのバチボコ退魔師家系。ちゃちい魚っぽい妖異からの呪い程度なら割となんてことないのだ。
それはそれとして今掛けられた呪いは地道に青年の耳に幻聴を聞かせてくるので、眉間の皺が若干増えたのだが。

出雲寺 夷弦 > 「……いや、まぁ、いいか」

よくはないんだが。次こそまともであれ、と願いながらのもう一度キャスティング。
今度はやや控えめに投擲したからだろう。大人しく近くの水面に落ちていった。


……冷たいが、穏やかで心地よい風だ。
日差しはやや強く、空は雲が少ないからか、真っ青な青空が広がる。
晩秋から初冬の晴天は、その青さに目が焼ける。
波の音、潮の香り、色々な要素で形作られる堤防の風景。

「……今度は、凛霞も誘ってみるか。んで、釣れた魚で……なんか、こう、料理とか……何がいいかな……刺身……天ぷら……」

――穏やかであったりとか、幸せであったりとか、そういうのを共有したくなって、その共有する誰かには、必ずあの顔が浮かぶ。
釣り竿を揺らしていた手が止まり、自然と顔が綻んだ。

「……釣り、あいつはやったことあるのかなぁ」

出雲寺 夷弦 > ――さて、次は何が釣れるかな。 [3d6→4+6+6=16]
出雲寺 夷弦 > 4:中くらいの
6:"名状しがたい"
6:"冒涜的な何か"



「――――う"ッ?!」


椅子から引きずり落とされる程の当たりに、前のめりにずっこけかけ、すぐさま踏ん張る。
さっきよりも当たりが強いうえ、何故だか嫌な予感がする!!

「おい、ちょっと待ったっ、待て、これ、たぶん駄目なやつだろッ!!?」

――ええいままよ。と、思いっきり竿を引き上げるッ!!もうなんでもいい!!食べれれば!!とりあえず!!



ザッパァンッ!!と、勢いよく水面から引きずりあげられたるは……

あからさまにヤベェ魚人 > ――――ぬめりのある肌、鱗だらけの図体。
半身ほどが水面から引きずりあげられた、あからさまにヤベェ奴。
釣り上げたのは、そいつの背びれらしき部位に引っ掛かった針が示すのからして、当たりというよりも引っかけた感じ。
あからさまに不機嫌そうに歯を見せている。


【ギリリリリ】とか、よく分からん言語を発しながら、善からぬ気配を放ってい――。

出雲寺 夷弦 > 「失礼しましたァっ!!」
と叫びながらリリース!魚人、還るッ!!

出雲寺 夷弦 > ――また餌と針が消え去った。投げ捨てられた魚人、水面下で物凄い勢いで吹っ飛ばされたに違いない。ゲームセットである。


息を切らしながら竿をその場に置き捨て、冷や汗をかいて地面に倒れ込んだ。


「………………いや可笑しいだろ!!」

誰だってそう思う。

出雲寺 夷弦 > ここまで当たりがほぼ全てヤバいのしかいない。
なんだかこのまま釣りを続けていても、こんなのしか釣れないような気がしてきた。
というか思えば一回目の時点で今この堤防が殆ど異界みたいな気配になってたっておかしくないのである。
釣り具を広げていたのが一か所だけというのも、もしかしたら。

……まだたっぷり残った餌、針だけ無い釣り竿。
レンタル代はそんなに安くなかったのだが、

――――悩みに悩んだ末、青年は決断した。





「……スーパーで切り身買ってこ……」
青年なりの英断。釣り具を仕舞い、片づけて。
穏やかな空気にも関わらず水面下からのピリピリした視線を感じるこの堤防を、競歩で脱することとした。
暫く、彼が釣りをしようと思うことはないだろう。


そして、冬がゆっくりとやってくる――――。




                         ~完~

ご案内:「浜辺」から出雲寺 夷弦さんが去りました。