2019/04/07 のログ
ご案内:「異邦人街」にアガサさんが現れました。
アガサ > 島の彼処で桜の木々が眩く綻ぶ常世島。
学園都市でもあるこの島にとって、新年度とはそれなり以上に重要な意味があるらしく、
従来の慣習を重んじる有志により執り行われる始業式や入学式に合わせてか、様々な物事が催されることがある。

「んー……ちょっと早く来すぎたかなあ」

異邦人街の通りをずらりと並ぶ屋台群もその物事の一つ。
私は通りの入口に在る、水を吐き出す不可思議な動物のオブジェが中央に配された噴水の縁に座り込んで待ち合わせの相手を待っていた。
待っていたと言っても時刻は約束の12時よりも少し早いのだから、私が勝手に待っているばかりで、
道を行く様々な人達を眺めながら鼻歌だって諳んじちゃうのだけど。

ご案内:「異邦人街」にアリスさんが現れました。
アリス >  
待ち合わせの時刻の5分前に噴水前にやってくると。
既に友達は待ち合わせ場所に来ていた。

「やっほーアガサ」

のん気に手を振って友人に向かって歩き出す。

「鼻歌なんて歌って、上機嫌デスナー?」
「ま、私も楽しみだったんだけどね」

彼女の前で両手を広げて。
これから楽しもうという意思表示。

「さぁ、行こっか! 今日はよろしくね、アガサ!」

アガサ > この時期に常世島を訪れる人はきっと多く、様々な事情を抱えて入学する彼ら彼女らを慰める目的もあるのだろうか
それとも、そういった学園の事情を踏まえた上で、賑やかしく騒ぎたい人達がそうしているだけなのだろうか。
私が去年訪れた時と変わらずに賑やかしい、変わった音楽を遠くに聞きながら私はそんな事を思──

「──おやアリス君。やだなあ聞いていたのかい?いいじゃないか、今日はこんなに良い天気だし。
友達とお祭りに、なんてなったら気分だって良くなるもんだよ?」

思っていたら、雑踏の中に聴き慣れた声を聞いて顔を向け、見慣れた白衣を視止めて瞳を細める。
立ち上がって、手を大きく広げるアリス君の真似をし広げてハイタッチ、ではないけれどタッチをしてから

「よし、行こうか!ふふん此方こそ今日は宜しくね!」

いざ行かん異邦人のお祭りへ!

アリス >  
舞い散る桜の花びらが目の前を過ぎ去っていく。
ふと、気になって桜の花びらを一枚。
人差し指と親指で摘もうとする。

当然、指先をすり抜けて花びらは去っていった。
地面に落ちる前の散った花びらを持っていると恋が成就するという噂が女子の間で広まっているというのに。

まぁ恋愛なんて今はどうでもいいからすぐに諦めた。

アガサと手をタッチしてから歩き出す。

「お祭り楽しみにしてて昨日はあんまり眠れなかったのよねー」

その辺の屋台を見ていると、変な木彫りの人形を見つけた。
なかなかヘンテコ。踊っている角のある人間のような?

「これ、なんですか?」

店員さんはにっこり笑って人形を手に持つ。

『タウマクタンギハンガコアウアウオだよ』

うん、さっぱりわからん。

「タウ………? 何? 聞こえた? アガサ?」

アガサ > 「あ、わかるわかる!あと試験前とかも眠れないよね。この間の期末試験も危うくテスト中に眠りそうに……」

右から聞こえる客引きの声。顔を向けるとまるで赤鬼と言った様相の、赤い肌に額から角を生やした女性が串焼きを売っている。
左から聞こえるのは祭りの開催費用の捻出を訴える募金の声。見ると法被を羽織った、一見してアジア系と思しき男性が声を張り上げている。
そんな賑やかしい中でお互いの不眠状況を話していると、アリス君が何かを見つけたようで其方に足を向けたものだから、
私も釣られて隣に並ぶ。すると、丁度何やら呪文めいた文言が聴こえ、アリス君が困惑気な顔を向けてきた。

「え?タクアン?じゃないよね。なんだろう、これ……ええと、並んでいるのが全部その何とかって奴なんですか?」

フタバコーヒーの新作メニューだってもうちょっと手加減するだろう名称に私だって困惑しよう。
店員さんが手にもったものとは別の人形を指さし、きっと同じ名前だろうと思って聞き直しもする。

『こっちはリトズパデルナヨカトリポカステだよ』

どうしよう、さっぱりわからない。

「……アリス君、聴こえた?」

傍らにこっそりと耳打ちするのは店員さんが張り付いたような恵比寿顔だからかもしれない。
不味い、これは飲まれると買う事になる奴だと、何となくそんな予感がした気がする。

アリス >  
「わかる。わかるけどマズいよねーテスト中の眠気は……」

顎に人差し指を当てて考え込む。
どうして人は眠い時にスパッと眠って眠ってはいけない時に起きておくことができないのか。

そして人形屋(と、現時点では判断するしかない)の前で曖昧な笑みを浮かべていると。
この場を切り抜ける手段を模索する。
名前が聞き取れなかったからなんなんだ。
露天は怖くない!!

人形を手に笑顔でいる店員さんに親指を立てて。

「ナイス!」

満面の笑顔。き、きまった。
そう言い残すとアガサの手を引いて歩き出した。

「異邦人街恐るべし……」

何とか切り抜けられた。
お小遣いをタウマ……リトパズ…?で減らさずに済んだ。

「ところでアガサ、なんか買い食いしない? 美味しそうな匂いするしさー」

アガサ > こういった店員さんは俗に海千山千なのだと言う。
海が千に山が千。成程よくわからないけど凄そうだ。このままでは財布が海難事故や山で遭難する事になりかねない。

「おおっ?……な、ナーイス!」

ところが、私の太い眉が悩まし気に歪んだ所で不意に飛び込むアリス君の快哉を叫ぶような声。
それに怯んだのか、一瞬恵比寿顔を崩す店員。そこに隙を生じぬ二段構えで言葉を投げる私!
かくして私達は強敵(?)を制する事に成功し、通りへと戻る。
お財布の平和は一先ず守られたのだった。

「うーんアリス君は機転が利くなあ……と、そうだね。お祭りの華は買い食いだよね。
ほら、花より団子?って言うそうだし、ちゃあんと食べないとダメってことさ!」

友人の言葉に賛同し、再度歩きながら右を見て、左を見て、そして少し奇妙なものを見つけたものだから、
私はアリス君の手を引いて其方に向かうんだ。

「ねえねえアリス君。このお店を見てごらんよ。店員さんがロボットだよ。……ロボットだよね?」

『ナニニシマスカ』

着いた屋台は卵に手足が映えたようなシルエットの機械が店員の不可思議な店。
美味しそうな匂いこそするけれど、店先に並んでいるのはカートリッジが刺さったホイッスル…としか言いようの無い謎の機械だ。
横の看板を見ると、何故か流暢な筆文字で『調律師の作り上げたチップを装填し、咥えて吸うだけで口内に味覚と触感が再現されます』
『カロリーゼロ』『実際お得』などなどの文言が並んでいる。

『ナニニシマスカ』

目線を向けても店員さんは同じ言葉しか言わない。

「アリス君どうする…?試してみる?ほら、たい焼き味とかタピオカドリンク味とかあるけど」

アリス >  
こればっかりは気を抜いて人形の名前を聞いた私が悪い。
そしてこの失策に友人を巻き込むわけにはいかない。
セールストークと笑顔には、ポジティブをぶつける。
これが十五年、ヒューマン女をやってきた私、アリス・アンダーソンの答え!!

「ふふふ、月に一度出ればいいほうの大技だったわね」
「そうね、桜を見ながらだときっと美味しいわ」

アガサの言葉とロボットの店員につられて店先を覗く。
謎。このホイッスルを咥えて吸ったら、本当に味がするのだろうか。

「店員さん、これいくら? ああ、それなら買うわ、たい焼き味をお願い」

硬貨を渡して、ホイッスルを手に取る。
と、同時に小さな紙を渡される。

「へー、なるほど……とつて手いい香リで安全ごす。らしいわ」

変なギミックは好き。迷わず口に咥えて吸ってみる。

「こ、これ……! アガサ、本当にたい焼きみたいな味と香りがするわ…」

甘い。餡子の味わいがする。安全ごす。

「今日一おすすめね……」

まだ祭は始まったばかりなのにこの結論。再現度がとにかくすごい。

アガサ > 「月一の大技だったんだ……うーん、いいなあ必殺技って奴だね。
そうそう桜なら常世公園の方が凄かったよ。この辺は……あまり植わってないみたいだね。
桜に馴染みが薄い人が多いからかな」

それでも幾何かは舞い散る桜を見止めて、ついと指先で抓もうとして抓めずに落ちていく花を見た。

「お、アリス君買うんだね!……えぇー本当ぉ?本当にぃ?じゃあえーと……」

閑話休題《それはさておき》
私はアリス君の言葉にそれはそれは判り易く疑いの眼差しを向けてから店内を見る。
たい焼き味。タピオカドリンク味。たこ焼き味。レモネード味。
他にもお祭りの定番メニューである焼きそばにお好み焼き、各種様々な甘味の名称が記された札が並んでいる。
一番隅に、何やら赤茶けた染みの着いた『ランダム』という札を見つけたけれど、私は見なかったことにした。

「えーと、じゃあこのバニラアイスクリーム味で!」

硬貨を支払いホイッスルを手にする。装填されたカートリッジを少し、眺めてから咥えて吸うと何ということだろう
口内はひんやりとした感触とバニラの鮮やかな甘さに満たされるじゃないか。

「うわあ、これ面白いなあ!……口さみしい時にいいかもしれないけど、栄養が欲しい時には向かないかもだけど」

ピロロロー
なんて、気の抜けた音も混ぜながら私は目を瞠って、それから再び通りに戻ろう。

「今日一番だなんて気が早いなあアリス君は……あ、見てみて、見慣れない屋台の看板が出てるよ。
…えー生きているスライムドリンク。お通じが良くなる!……だってさ」

味はサイダー味らしいことが見て取れる。でも随分と嫌な予感もした。

アリス >  
「常世公園かー、桜が完全に散っちゃう前に行かないとね」
「そういえば、散った桜の花びらが地面に落ちる前に手に入れたら恋が成就するらしいわ」

二人で空中の花びらをつまもうと躍起になりながら歩いたり。
あちこちの屋台を見ながら騒いだり。
おしゃべりをしたり。
た、楽しい……リア充という感じがする。これが友達がいるということなのね。

「異世界の人はよくこんな発想が出てくるわね……」
「ダイエット中とかいいんじゃない? 革新的よ……それに安全ごす」

なんかこのワードがツボった。
スライムドリンクを見ると嫌な予感がして首を左右に振る。

「私、TRPGやって以来スライムには怨恨と畏怖を抱いてるから…」

それにさすがに生きているのはノーサンキュー。

「アガサ、あれはー? ピチュ・ッパイガヤ。鳥の羽が生えたカエルの照り焼きみたいな?」

結構、有名なグルメらしい。事前調査で見た。
それに私はカエルを食べるのにあまり抵抗がない。
以前、中華料理でカエル料理を食べたことがあるから。

アガサ > 「へえー、恋が成就……いいなあ。私もいつか、こう素敵な恋人が欲しいなあ」

不可解な語尾を得たアリス君に吹き出しそうになったり、スライムに何やら嫌な思い出があるらしいアリス君に首を傾げたり。
スライムドリンクの屋台を通り過ぎながら、そんな風にお喋りをしていると丁度、仲睦まじく歩く異邦人と思しき男女と擦れ違って溜息が出る。
猫科の動物系と思しき二人は尾をくるくると絡めながら歩いていった。

「もうちょっとこう、背とかぐいーんと欲しいよねえ──と、なになに?ピチュ……へえー羽付きのカエル!
美味しいのかな?確かカエルって鳥みたいな味がするんだよね」

溜息を遮るように香ばしい匂いと、その匂いの元が明かされて私の目線が其方に向く。
イカ焼きのように丸のままと、脚だけの二種類を商う屋台がそこにあった。店員さんはカエル……じゃなくて、東欧系に見えるおじさんだ。

「うんうん試してみようとも!でも、タレで服を汚さないように気を付けないとね。ほら、アリス君白衣だし汚れたら目立つだろう?
……そういえばアリス君っていつも白衣を着ているけど、何か理由ってあるのかい?」

いざピチュなんとかの屋台へ、の前にふと、どうでも良いような事が気にかかった。
ひょっとしたら先日、白衣を纏った魔術学教師と出会ったからかもしれない。
ひょっとしたら衣服と言うには日常的なものでは無いからかもしれない。

アリス >  
「恋人! なんと聞こえのいい言葉か……」
「でも彼氏ができるってことはその人と長い時間を過ごすんでしょ?」
「異性と? ずっと一緒に? いられる……?」

私には無理だ。
異性の友達となら気にならないけど、好きな人が仮にいたとしてずっと一緒にいるなんて。
そういう意味でもそれを乗り越えたパパとママを尊敬する。

「でもあの猫科獣人の二人は幸せそうでステキ……」
「背がぐいーんと伸びるなら悪魔と契約してもいいわ…」

乗り気な友人の言葉に笑顔で頷いて。
試そう、評判異世界グルメ。
どうでもいいけどこの生き物は跳ねるの? 飛ぶの?

「それじゃ私は丸焼きのほうちょうだい!」

硬貨を渡して串に刺してあるそれを手に取る。
そして白衣の理由を聞かれると。

「これ? 私、昔イジメっ子に覚醒したばかりの異能で仕返ししたことがあって」
「その後、異能研究施設で何ヶ月か過ごしたんだけど、その時にみんな着てて気に入ったから」
「大人の男性、大人の女性ってイメージがして好きなのよね」
「まぁ、中に着る服はママの選んだガーリィピンクなのばかりだけど」

自分の個性の問題で、ファッションのつもり。

「それに私、異能の件で製薬会社からオファーきてるしね」

さらっと言いながら羽付きのカエルを食べる。
甘辛いタレがほくほくの身肉に絡んで、なかなか美味しい。

アガサ > 「んー……どうなんだろう。でも私はこの島に来る前はパパと──あ、パパと言っても義理のね。
ママが昔に再婚した新しいパパ。その人と二人で暮らしてたし……あ"~でも恋人とはまた違うかあ」

異性との生活についで、顎先に指をやって眉を顰めて天を仰ぎて悩み顔。
なんてことをしているとアリス君はちゃっかりと丸焼きを手にして戻ってきていた。

「えぇ?またまた上手いんだから。アリス君みたいな子を虐めるなんて子いるのかい?
こんなに綺麗な髪の毛をしているのに、そんな事をしたらバチが当たるよ。当たらないなら私がガンドを当てるとも!」

さらりと詳らかにされるアリス君の経歴。島に来る前の事。
友達にウソをつくような子じゃないって、思っているからきっと本当で、どう返せばいいか判らなくて、
解らないから私ならそうすると唇を不満そうに尖らせるばかり。
そうして途中で話題を切るように屋台に足を運んで、トレーに乗った羽付きカエルの脚の照り焼きを買いに行く。

「……へえー異能の件でオファー……ってそれ凄いじゃないか!あれかい?製薬会社ってことは、
アリス君の異能で薬を作ってーって事だよね。うんうん、異能が将来の選択肢の一つになるなんて良い事じゃないか。
私の異能なら……大工さんとか?そういう感じだもの。登山家は何だかズルい感じだし」

もがもがとカエルの脚を頬張って口端を汚しながら驚いたり嘆いたり。
甘かったり辛かったりする照り焼きの味のように態度が忙しく変わる。

アリス > 「アガサ……」

なんだか、二人揃って過去の話なんて。
『死亡フラグみたいだね』とは思っても口が裂けても言えない。
そもそも死んでたまるか!!

「新しいパパか、想像できないな……」

カエルを食べながら話を続ける。

「ハニーブロンドの髪。碧い瞳。みんなそれが嫌なんだって」
「みんなが私のことを嫌いで、みんなで私を傷つけたわ」

一瞬、瞳に暗い灯火が宿りそうになるのを目を瞑って隠して。
まだ自分の中で終わってないんだと思うと、いつ振り切ればいいのかすらわからない。

「私が仕返しをしたことでパパとママがあちこちに頭を下げて回っていたの」
「そういうの、もう嫌だから……異能と感情をちゃんとコントロールできるようになりたいのよ」

指先を鳴らすと、ウェットティッシュが創り出されて。
それをアガサに差し出しながら、自分の分で指先を拭った。

「アハハ、アガサはそれでいいの? 異能に人生を変えられてさ」
「私は迷ってる。異能も自分の一部だけど、製薬会社に異能だけを理由に入ったら」
「異能に人生を変えられ続けることを認めることになるもの」

カエルを食べ終えると、ゴミ箱に串を捨てて。
ついでに指を拭ってウェットティッシュも捨ててしまおう。

その時。

「あ、アガサ。動かないで、髪に桜の花びらがついているわ」

アガサ > 「ちゃんと子供の為に頭を下げてくれる、良い親だと思う。勿論私の新しいパパだって良い人さ。ほら、内藤有人さんって言うの」

金色の髪に蒼玉のような瞳。白皙の肌を持つアリス君はとても鮮やかであるのに今は目を瞠る程に冥い。
華やかな異界の祭囃子に、きっと不釣り合いな様子を見せる友達を視て、私は話をすり替えるように、
形態端末からホロモニタを立ち上げて一枚の画像を彼女に見せる。
其処には私と一緒にピースしている、眼鏡をかけた黒髪の男性が写っていた。

「それでいい……んーどうなんだろう。異能に人生を変えられたって言うより、異能が人生の選択肢を増やしてくれた。
そう考える方が……前向きかなあって。その、アリス君は、異能のせいで大変な目に遭ってしまったけれど、でも、
私はー……異能のおかげで、アリス君と知り合って、友達になって今、こうして一緒にお祭りに来たりも出来ているんだもの」

アリス君の差し出したウェットティッシュを受け取る際に指がホロモニタに触れて画像がスライド。
すると、ホワイトデーの際に二人で訪れた、歓楽街のお菓子屋さんの画像が浮かび上がる。
私とアリス君、二人でお店のマスコットの着ぐるみさんを挟んで記念撮影をした時のものだ。

「ほら、こういう写真も取れたし……ん、なーに?」

言葉に困る。こうした時にもっと頭が良ければきっと、ステキな事が言えるだろうにと心裡で悩んだ時に、
不意にアリス君から言葉がかかって私の動きがぴたりと止まる。

アリス >  
「パパとママは大好き。だから、パパとママにこれ以上迷惑をかけたくないの」
「……これ、ステキな笑顔ね。アガサと二人で写ってて、良い人ね…」

そして異能について語る、アガサの前向きな言葉に。
ちょっとだけ涙が滲んでしまって。

「そうね、そういう考え方をしたほうがポジティブだわ」
「私を追いかける犬から助けるあなたの魔術も、あなたにウェットティッシュをあげられる私の異能も」
「どっちも好きになれそうだもの」

二人の記念撮影を写した手元をちら、と見て。
近い距離で『あの時の写真、私も大事に残しているわ』と囁き。
笑顔でアガサの濃紫の髪に触れて、桜の花びらを取った。

「やったー、恋のおまじないアイテムゲットー」
「地面に落ちなきゃいいんだったら、友達の髪からとっても有効だよね?」
「ふふふ、桜の花びらを取るのは私、一抜けー」

そう言って異邦人街の広場のほうに走っていく。
今日という最高の一日を、どうかずっと忘れずにいられますように。

アガサ > 「うん、ステキな人だよ。春休みに帰省しなかったから、すっっごく長いメールが来たけど」

見る?と言って見せる素振りは無く、御伽話のチェシャキャットのように唇を歪めもするのに、
アリス君からの囁きが何だか恥ずかしく感じて、顔に熱を感じて崩れてしまう。
私の魔術を好きだと言うなら猶更。

「んふふ、ありがと。2年生になって新しい科目も履修する事になったし、
もっともーっと、君が好きになってくれる魔術を修めてみせるとも!例えば……」

私の魔術適正は呪いの魔術。例えばお呪いもその類で、私は恋のお呪い、なんて言おうとしたのに先に言われて口を開ける。
アリス君がするりと駆けていってしまうのなら猶更ってもの。

「え"っ、ちょ、アリス君!?それずるくないかい!?待ちたまえって!そうだ、増やそう!それ、君なら2枚に出来るだろう!?」

得意満面、花のように笑って逃げる友人を、追いかける私が抓めたかどうかは賑やかしい異世界の音に紛れて判らない。

ご案内:「異邦人街」からアリスさんが去りました。
ご案内:「異邦人街」からアガサさんが去りました。