2020/07/05 のログ
ご案内:「異邦人街・大通り」に金剛 経太郎さんが現れました。
金剛 経太郎 > 「ふぅん、異邦人と言っても本当に多種多様だな。」

休日の人々でごった返す往来を、とぼとぼと歩きながら周囲を観察している少年が一人。
幼い容姿ながらも立派な高校生、金剛 経太郎だ。
今日は午前中に補習が終わったので、気分転換に散策でもするかと異邦人街までやって来た。

翼のある者、角のある者、不定形の者と様々な人種が行き交う様子を見て、

(何と言うか……異様に見慣れた感じがある……)

自身が囚われていたゲームの街の一つにも、こんな風に異種族が共存しているところがあったな、なんて思い出していた。

金剛 経太郎 > ──未だに、まだ自分はゲームの中に居るのではないか、と思う時がある。
救い出されてなど居らず、未だに電子の海の底でもがきながら沈んでいるのでは、と。
こうして学校の生徒として過ごしているのも、そういうアップデートが行われた結果なのではないか、と。

「──……っと、すいませんッ」

ぼんやりと心ここに有らずで歩いていたら多腕の異邦人が持つ買い物袋とぶつかった。
慌てて道を開けるように避ければ、『こっちこそごめんねー』と間の抜けた返事が返ってくる。

(……ああ、やっぱり現実か)

もしここがゲームの中なら、何事も無かったかのように通行人は自分の身体をすり抜けて、そしてそのうち描画処理がされなくなって消える筈だ。
ぶつかる、言葉を交わす、通りの向こうに至るまで人の姿が見える。
それらは全て経太郎が現実世界に居るのだと言う証左だった。

金剛 経太郎 > 「そういや、あの事故に巻き込まれたのって俺だけだったんだろうか。」

再び、今度は対向歩行者に気を付けながら歩き出し、ぽつりと呟く。
経太郎がゲームの世界に閉じ込められた事故。10年ものあいだ一人少年がの囚われ続けた悪夢。
経太郎が救出された当時、思うほどの報道はされなかった。
ゲームを運営する会社から緘口令が布かれたという話を両親から聞いた。
──そしてそのゲームは現在も稼働を続けているという。

(……親が聞いた話じゃ、俺以外に被害者の居ない非常に稀なケースだったから、らしいけど。)

本当に、自分以外には居なかったのだろうか、と訝しんでしまう。

金剛 経太郎 > 結局のところ、両親はゲーム会社からの慰謝料としてかなりの額を受け取る代わりに追及は諦めさせられた。
更には検査入院の治療費と、学園への学費の負担も相手側が受け持った。

(つまりは、それだけ公にして欲しくなかったっつー事だよな。)

両親も自分の息子が無事に生きて戻って来たのだから、と疑問は抱えたままであれど了承し、
そして発現した異能の検査と、10年分の学業の遅れを取り戻すべく経太郎はこうして常世島へと来ている。

「──腑に落ちんわなあ。」

ぷう、と息を吐いて街路樹の下で足を止める。
常世島に来てからも心の隅にモヤモヤとした物を抱えたままで、金剛 経太郎は此処に居る。

金剛 経太郎 > 目の前を行き交う人々を眺めながら、思考を巡らせる。
ほぼ毎日のように補習を受けてる所為か、頭を動かしていないと少し落ち着かない。

「……や、それよりも飯だ飯。腹減った。」

頭を使い続けていたせいか、きゅる、と控えめに経太郎の腹が鳴った。
今日はこの通りで昼食を済まそう、と異邦人たちの中に再び紛れる。
経太郎の身長では周りが邪魔で飲食店が見つけにくい事に気付くのは、もう少し歩いた先──

ご案内:「異邦人街・大通り」から金剛 経太郎さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「異邦人街」にヨキさんが現れました。
山本 英治 >  
警邏中である。
大したことはしていない。
家の近所だけど、結構離れているので知り合いはいない。

………なにか恨みでもあるのか、太陽よう。

ギラギラと照りつける直射日光にアフロが焼かれていた。
いかん、ミネラル取らなきゃ。
近場に何か水分と一緒に摂取できそうなお店ないかねぇ。

犯罪が頻発するような街でもなし。警邏は平和でいいけど。
今の時期に歩きはキツい。

ヨキ > 休日の買い物中である。
それはそれは楽しんでいる。
パナマハットを被ったひときわ背の高い男が、貴重な日陰を辿るように歩いていく。

「おや」

正面からやって来る、ひときわ頭の大きな男に気付いて。

「こんにちは山本君、お疲れ様。今日も暑いな」

片手を軽く挙げて挨拶する。
帽子のおかげで、こちらは涼やかな顔をしている。
今日も暑いな、という言葉が、何だか軽い。

「…………。今にも死にそうな顔をしておるが、平気か?
少しどこかで休んだ方がよいのではないか」

アフロの下の顔を覗き込むように。
真面目に職務に打ち込むこの山本英治という青年を、ヨキはいたく気に入っていた。

山本 英治 >  
汗を魚へんの漢字が書かれまくってるハンカチで拭っていると。
声をかけられた。
癖の強い黒髪、見ているだけで不思議な心持ちになれる深い色の瞳。
ヨキ先生だ。

「お疲れ様です、ヨキ先生。いやぁ、暑いですねぇ…」
「太陽に怨恨を向けられる覚えはないのですが」

こちらも片手をあげようとして、持っていたハンカチを落としそうになり慌ててお手玉。
ふぅ、落とさずに済んだ。

「そうですね……そろそろ休憩しないと体がもたないす…」

ふと、見ると。
双葉コーヒーというコーヒー店があった。
冷たいコーヒー。というか甘いフニャペチーノ。
良いかも知れない。

「どうです先生、ちょっと涼んでいきませんか」
「昨日は夜ふかししてしまったので、カフェイン摂取がてら」

と、誘ってみる。
ヨキ先生の言葉に耳を傾ける絶好のチャンスでもあるがぁぁぁ。

ヨキ > 「それは大変だ。
風紀委員が警邏中に倒れたとあっては、示しが付かんからのう。
コンディションは万全に保たなくては」

英治に釣られて、コーヒー店の方を見る。
再び相手へと向き直り、快諾した。

「構わんよ。休憩には良かろう」

言って、二人連れ立ってコーヒー店へ足を向ける。
彼からの誘いの言葉に、軽い調子で笑って。

「まさか夜更かしとはな。
それはそれは、この炎天下は余計につらかろう。

眠れないほど忙しかったのか?」

山本 英治 >  
「そうですね、確かに……」
「清く、正しく、高潔に。あとついでに健康でなくては」
「ありがてぇや、それじゃ早速」

コーヒー店に入ると、冷たい空気が体に染み込んでくる。
生き返る、と呟いてメニューを手に取る。

「トールバニラノンファットアドリストレットショット…」
「チョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフニャペチーノで」

甘いのは盛るけど。飲むのは無脂肪ミルクがいい。
そんなこだわりを見せて。

「そうなんですよ、しんどくてしんどくて」
「いえね……227って番号で管理されてた子が友達にいまして」
「その子が大時計塔に登って降りられなくなっていたので、助けました」

次の注文どうぞ、とヨキ先生に振る。

「その後、家に送り届けたんですが結構、夜更けになっちゃって…」

ヨキ > 「反対だよ。
清らかも正しさも高潔も、まずは健康から来るものさ。
健康でないと、己の矜持まで気が回らなくなるからな」

英治の隣で、店内の空調に息を吐く。
帽子を脱いで、額の汗をひと拭き。

「ほう。フニャペチーノ。それならヨキも彼と同じものを」

あ。注文を省略したぞ。

それから、英治が語る昨晩の顛末には途端に目を丸くして。

「227? あの、白髪に青い目をした少女のことか?
彼女が学園に、時計塔にやって来ていたと?」

大変な吉報を耳にしたかのように、一気に顔じゅうが明るんだ。

「そうか……。彼女は表通りへ出て来られるようになったのか。

いやはや、偶然だ。一夜限りだが、ヨキも彼女に会ったことがあってね。
それはそれは疲れたろう、お疲れ様だったな」

すかさず、店員へ追加の注文を投げる。

「この焼き菓子を、自分と彼に」

バターたっぷりのマドレーヌを、ヨキと英治に一つずつ。

山本 英治 >  
「なるほど……健全な肉体に健全な意思が宿ると」

思えば、インフルエンザに罹患した際は厭世的な気分になった。
そういうものなのかも知れない。
そしてそれは、今も不善を成す全ての者に対する心構えを考える一助となる。

「あ、はい。ヨキ先生もニーナをご存知で?」

テーブルに着席。二人の身長から考えるとどんな椅子だってやや小さく感じる。

「みたいですね……いや、俺も一安心しましたよ」
「今はユーリさんとこに身を寄せてるみたいで…」
「落第街にいた頃に俺が押し付けた赤い靴も履いてて…俺ぁ泣きそうになりましたよ」

マドレーヌあざます、と笑顔で頷いて。
出てきたフニャペチーノを口にする。
冷たくて、甘くて。それだけで体の疲労が吹っ飛んでいく。

「助けられたはずの子猫を死なせるようなことはもうしないって…決めましたんで」

破顔してマドレーヌを口にする。

ヨキ > 「そう。だからヨキは、君ら委員には……ひいては生徒の皆には健康で居て欲しいと思っておる。
自分と、自分の身の回りについて考えられるようになるためにね」

向かい合って座る。

「ふふ、君は彼女をニーナと呼んでおるのか。可愛い名だな。
ヨキはついつい、226だとか、サンマルいくつだとか、彼女の他にもああした身の上の子が居るのではないかと、そればかり心配してしまってな。

そうかそうか、今は知り合いのところに……。それなら安心だ。
いつか、彼女と校内で出会うこともあろう。おかげで楽しみが増えたよ」

たっぷりと甘いドリンクを、まるでとっておきのおやつみたいに味わう。
添えられたマドレーヌは、上品ながらもコーヒーの味わいに調和して、いかにも染み入るようだった。

「――子猫を? それは比喩ではなく、実体験か。
何があったか、聞かせてもらっても?」

“死”という語にも関わらず尋ねることが出来たのは、彼が笑っていたから。
片眉を上げて、フニャペチーノを口にする。

山本 英治 >  
「うす……自分も健康には気をつけます」

今のところ、健康なのも。きっと若いからで。
自分の体の維持に気をつけなければ、三十四十でボロボロになるかも知れない。

「はい、ニィニィナナだから、ニーナ」
「た、確かに……! ニーナって兄弟姉妹いるのかなぁ…」

ぼんやりと考える。たくさんいるニーナを。

「そうすね、友達としてできることがあるって信じます」

フニャペチーノ。マドレーヌ。
なんともいえない、バターの香り。

「あ、はい……子猫が………助けようとしたんですが」
「子供のイタズラで車道に飛び出して、轢かれて……」
「ペット霊園に“連れていった”んですよ」

寂しそうに。それでも。

「遠山未来も、あの子猫も。いつか会える日が、楽しみですよ」

遠山未来。犯罪者に殺された山本の親友。
俺は今も信じている。いつか人と人が手を取り合えたら、いなくなった人とまた会えると。

大切な人を失った世界で。塀の中で朝を迎え続けるうちに。
いつか、そんなことを信じるようになった。

ヨキ > 「かく言うヨキも、何かと夜更かしをしがちでな。
人のことを言ってばかりも居られんのだ」

自戒する英治に、悪戯の種明かしのように笑って。

「彼女自身はわからない様子だったがね。
それも含めて、この表通りで何か掴めることがあればいい」

表通りという呼称。表があれば裏もある。
ヨキはそうして落第街の存在を許容する。

喉と腹に冷たさや甘味が染み渡ったところで、テーブルに軽く肘を突く。

「なるほど……そのようなことがあったのか。
君はいつでも懸命だな。だからヨキは、君を高く買っておるんだ」

楽しみだ、と語る英治に微笑み掛ける。
親友が殺されたことを、そのために服役したことも、ヨキは話に聞いていた。

「そのためには、やはり君も健康で居なくては。

健康というのは、己の矜持を保つことの他に、長生きするためでもある。
先立った者たちへ向けて、土産話をうんとたくさん持っていくためにな。

健やかに楽しみ、悪しきを挫くからこそ、友の前でも誇り高く笑えるというものだ」

山本 英治 >  
「えー、本当すか?」
「俄然、親しみが湧いちゃうなぁー」

フフフと笑って背もたれに体を預ける。
こうして笑っていられることが、今は幸せでならない。

「そっすね……彼女、羞恥心とかも全然で…」
「そういうのも、追々学んでくれれば安心なんですが」

落第街を見て見ぬ振りをするのは簡単。
それをしない、この先生を。
俺は尊敬している。

「……ありがとうございます、先生」
「世の中、マドレーヌみたいに甘くはないけど…」
「でも、笑顔のためにまだやれることはあるって…思うんで」

そして、彼は健康でいることの大切さを語った。
そうか、そうだよな。
俺が不健康に、不幸に生きて。未来が喜ぶはずがないのだから。
なんだか嬉しくなって、アフロをつい指先でいじってしまう。

「はい。長生きします……百までとは言いませんが、目標80で」
「帰ったら早めに眠るようにしないとなぁ……朝は太極拳だこれは」

甘露を嚥下して。

「それで、ヨキ先生は長生きのために何を?」

と、口の端を歪めて少しわざとらしく聞いた。

ヨキ > 「学校の仕事は、日中に済ませるだろう。
夕方になると……」

少しだけ声を落とす。

「『裏通り』へ足を運んでな。
“健康で居たくとも居られない”ような教え子たちを、訪ねて回る。
ついつい話し込んでしまうとな、いつの間にか朝になってそのまま出勤……ということもある。
体質柄、仕事柄、種族柄、夜しか会えない、という者も少なくなくてな」

眉を下げて苦笑する。
227番の姿を思い出すように、窓から外を一瞥した。

「あはは、慣れぬことをして生活のバランスを崩してしまうのも、それはそれで良くない。
自然体で良いのだよ。疲れは否応なしに溜まるものだから――その代わり、気分だけでも明るく居られるように、などとね」

長生きのために、と訊かれて、よくぞ訊いてくれました、と改めて身を乗り出す。
わざとらしい聞き方に対して、格好つけたインタビューみたいに。

「長生きの秘訣か。ン?
そうだな。好き嫌いなく、食べたいものを何でもよく食べることだ。
腹はいっぱいになるし、心も満たされる。財布の中身は短命だがのう。

ふふふ。人助けのための夜更かしは、ノーカンということで」

山本 英治 >  
「なんと………」

目の前の教師は。夜廻りをしているのだ。それも落第街で。
こんなの一銭の得にもならない。ただの人助けだ。
何故か泣きそうになる。
自分も信じている正しさに触れるというのは。感動すらする。

「自然体………師父にも同じことを言われましたね…」
「脱力、リラックス、自然体。まずはこれを目指し、最終的にこれにたどり着け、と」

そして長生きの秘訣を聞けば。
可笑しそうに笑って、周囲の客に申し訳無さそうに口を両手で閉じた。

「俺も自炊ばっかじゃアレですし、今夜は食べたいもの食べますかね」
「ナシゴレンが食べたいなぁ……マレーシア料理の店、近場にありまして」

そして時計を見る。
楽しい時間はあっという間だ。
空になった容器を手に立ち上がり。

「今日はありがとうございました。気分一新、警邏に取り組んで参ります」
「それではまた!」

と、トレーを所定の場所に置いてから。
店を出て。外からガラス越しに、左掌に右拳を合わせて一礼し。
去っていった。

ご案内:「異邦人街」から山本 英治さんが去りました。
ヨキ > さながら顔を洗うだとか、散歩をするだとか。
何でもない習慣のように、ウィンクを一つ。

「武術の心得を持つ君なら、リラックスの方法も数あることだろう。
君はもっと、身体も心も強くなれる。ヨキはそう信じているよ」

笑い声を上げる英治の様子に、こちらもくつくつと可笑しげに。

「いいな、ナシゴレン。
ヨキはカオマンガイが食べたいな……」

時計を見遣って、おや、と声を漏らす。

「よい休憩になっていたら良かった。
引き続き、仕事を頑張ってくれたまえよ」

快い挨拶に、ヨキもまた笑顔で応える。
ガラス越しの一礼に、手を振ってみせて。

しばらくしてから、ヨキもすっきりとした顔で店を後にした。

ご案内:「異邦人街」からヨキさんが去りました。