2021/12/12 のログ
ご案内:「異邦人街」に暁 名無さんが現れました。
暁 名無 > 「んん、……ん~~っ。
 流石に徹夜で部屋弄りは今後は止しとくか。」

日も沈んで間も無く、西の空に朱さが残る時刻。
寝起きの俺は本来なら昼の内にやっておきたかった買い出しをするため外に出ていた。
昨夜は時計塔から校内へと戻った後、自分に宛がわれて居る幻想生物学授業準備室の改装……改造を朝までやっていた。
……いや、別に進んで朝まで居たわけじゃ無い、気付いたら明るくなってたってだけだ。本当だぞ。

「とは言え、10年振りに歩くと懐かしさが半端無いな、この辺も。」

独特な街並みを眺めながら、石畳の道をゆったりと進んでいく。
買い出しが主目的ではあるものの、もう日も暮れたし夕飯前の散歩の方が意味合いは大きい。
行き交う人々、商店から流れてくる匂い、居並ぶ建造物。
それら全てが懐かしく、歩いていて一向に飽きる気配もない。

暁 名無 > 一昨日くらいのこと。
一度未来へ帰った所為で賃貸関係の記録も真っ新になってしまっていた。
そのため住居の確保も新たにしなければと思っていたが、以前住んでいたアパートの大家とたまたま異邦人街で鉢合わせした。
突然部屋の貸与記録が真っ白になっていた事について大層驚いた事を伝えられたのち、
『異能の暴走事故とかかねえ。巻き込まれちゃって、先生も大変だね』と同情の上でまた部屋を貸してくれることになった。
契約の為の資金が無い事を理由に断ろうとしたけど、『家賃の滞納なんて今更!』と一笑に付されてしまった。

「……まあ、越してすぐは溜め込んだりしてたけどさあ。」

思い出して、自然と苦笑が漏れる。
ともあれ、住む場所の確保も出来た。あとは急を要する事は今のところ、無いはずだ。

「仕事に追われてるときは時間が欲しい欲しいと思ってたけど……
 いざこうして自由な時間が増えると持て余すなあ。」

明日は平日だが授業の予定は無い。
俺の後任としてやって来た先生が講義をするらしい。
資料も持参したものを使うらしいので、俺が出張る必要は無いので非番、という事になる。懐かしい非常勤対応だ。

暁 名無 > 「結局、学校行っちゃうんだろうけど。」

授業用とは別に研究用の資料作成もしておきたい。
とはいえこれまでの研究は全て白紙に戻っているか、あるいは別人の功績として修正が働いているはずだ。
であればまた一から始めないとならず、その為の準備も必要で―――

「……ま、その辺も込みで明日考えよ。」

考え事しながら歩くのは注意が散漫になって良くない。
刻々と下がってきている気温は足を止める気にはさせてくれないので、考え事は全部明日か帰宅してからに回そう。

………


「というわけで。」

たまたま目に留まったクレープ屋でクレープを買って来た。
食べ歩きをするのも久し振り。少しだけ楽しくなってきたぞ。

暁 名無 > クレープを齧りながら石畳の上を歩く。
未来に帰った後、世界のあちこちを放浪していた時もここまでのんびりと過ごした事は無かったように思う。
というか、のんびり過ごすことからなるべく離れていた気さえする。

「出来なかった訳じゃないけど……まあ、したくなかったんだよな。」

少しでも暇があれば、忙しくも楽しかった此処での事を思い出すからか。
過酷な環境に自ら向かうのは、思い返してみれば自殺行為にも等しかったと思う。
そんな事をしていた所為か、またこうしてこの島に戻って来てしまったのかも。

「……いかんいかん、何か気分がブルーになってくる。」

冬だからかなあ。軽く頭を振って陰鬱な気分を追い払う。
折角こうして戻って来たのだから、今度は以前以上に楽しくやれれば良いだけだ。
前と違って、この時間に居る明確な目的も無いわけだし。

暁 名無 > 「そういや……もうすぐクリスマスだっけ。」

目抜き通りから路地に入り、クレープを頬張りつつ別の通りへと出る。
この辺りは確か商業エリアだ。先の通りよりも商店、露店が多く軒を連ねている。
色取り取りの電飾で飾られた通りを見るに、この世界でのクリスマスに対応しているのだろう。

「しばらく収支は支出に偏るから無駄遣いは避けたいとこだけど……」

装飾品の並べられた露店の前で足を止める。
ふむ、ふむむむ……。

……まあ、直近で世話になった相手くらいには何か贈り物をしてみるのもアリか。
思えばそういうイベント事にはあまり積極的に参加しなかったし。
俺が未来に帰る際、残された贈り物に付随する思い出も消えてしまうと、そう思っていたから。
人に何かを贈ったり贈られたりといった事はなるべく避けてたっけ。

暁 名無 > 「ま、こういうのは無駄じゃないから無駄遣いではない、っと。」

並べられたアクセサリ類を眺めながら、さてどうしようかと思案する。
商品に零れたら一大事、と手に持っていたクレープは全て口の中へと収めて。

むむ、むむむ。
贈ったら喜ばれる様な物が、いまいち思い当たらない。
あまり嵩張らず、邪魔にならない物にしようとは思うが、さてそれで本当に喜んで貰えるだろうか。
……既に色んな物を贈って貰ってるようだし。



「あの、これを。
 ……ああうん、そう。包装込みで幾らくらい――?」

10分、20分と露店の前で立ち竦んだまま経過していき。
痺れを切らした店主が口を開こうとした瞬間、俺は商品の一つを指差した。

……思ったよりも値が張ったが、俺にとっては必要経費。
それにまあ、年内の夕飯が多少質素になるくらいで収まりそうだし。

暁 名無 > 「ああ、ありがとう。」

代金を支払ってから丁寧にラッピングされた商品を受け取り、懐に仕舞う。
悩んだだけの甲斐があれば良いんだが。どうだろう。この辺のセンスは自分でも良くない自覚はある。
しかしまあ、贈り物一つでこんなに悩めたんだな、俺。

「さて、あとは万一の来客用のジンジャークッキーでも買って、それから……」

一つ買い物をしたところで気持ちは買い出しに向いて来た。
お誂え向きに現在地は商業エリア。ここである程度済ませて帰路につくとしよう。

再び歩き出した俺の足は、心なしかさっきよりも幾分か軽く思えたのだった。

ご案内:「異邦人街」から暁 名無さんが去りました。