2022/01/09 のログ
■『調香師』 > 「ぁぇ...?」
香りをそこに失っても尚、まさしく心ここに非ずという風にぽやけた返事
人間のそれよりも長い定着。それは酩酊の時間の長さにも表れよう
言われた言葉の意図を読み取る前に、元より備わる信頼からか何度も頷く
その瞳の色に意識が取り戻されるまで、貴女達のやり取りをぼーっと眺めて...
「さっき、オススメされたの、なに?」
明らかに態度の違う仕草に言葉が漏れる
普段から幼い様子を見せる彼女でも、こうして首を傾けながら問う仕草
そこに自覚のないあざとさを含んでしまった事をどう受け取られるのか
■黛 薫 >
「……だいじょぶ?香りに敏感な所為で普通より
強く効ぃちまったのかな。次のお店に行く前に
休憩入れよっか」
植物に限らず、薬効は効きに個人差がある。
匂いの確認は真贋の証明、用途に合うかどうかの
見極めが主な目的だが、万が一効き過ぎる場合に
備えた安全確認の側面もある。
「直接嗅いであの反応だと香として焚いたヤツは
吸わなぃ方がイィと思ぅ。いちお、他の商品も
確認しといて。ただ、吸い過ぎなぃよーにな」
店員の監督の下、他のハーブ類の中から精神に
影響を及ぼす可能性のある2種類を選び取って。
軽く匂いが感じ取れる程度に袋を開けてもらった。
さっき嗅いだハーブの香りを『意識が揺れる』と
表現するなら、次のハーブは『意識が浮遊する』。
身体的感覚とは別にふわりと拠り所を失うような
頼りない感覚、それが醒める瞬間は夢から覚めた
直後の落下したような感覚に近い。
もうひとつのハーブは『混ざり溶け合う感覚』。
特別な例を除けば自我はひとつしか無いのだが、
実はそれが複数に分裂していたのではという錯覚。
その境界が混ざり合い、曖昧になって。ひとつの
確固たる形ではなく、境界だけ色の混ざった液体
染みたゆるい繋がりに変わっていく。
いずれもそれは『香り』の印象から抱く感覚。
実際に精神がおかしくなりはしないはずだが、
鮮烈な印象を受けるのは間違いない。
「……オススメされたヤツは、なぁ。
あーたにゃ無縁ってか、効きっこねーだろって
思ってたんだけぉ、今の様子見てっとそーとも
言ぇなくなってきたな。尚更買わねーけぉ」
あざとく首を傾げる仕草。普段なら目を奪われていた
ところだが、黛薫は微妙に気まずそうに目を逸らした。
■『調香師』 > 揺らいだ意識に相次いで、店員は彼女に香りを与える
常人ならば既に影響は切れただろうとの識者であったが故に、
彼女が常人ではない場合に出てくる影響の程を考慮してはいなかったのだろう
この状況に含む、この場全員の想定の事態とすれば
この調香師という機械は、香りを生成するのみではなく、
『保管する事』にも長けていたという点か
揺らぐ意識は、攪拌するまま空に薄れていく様な感覚
彼女達は意図せず、提示した麻薬を麻薬を『調合』させていた
だが、感覚だけは与えながらも。同時に強烈に意識付けられる物
『私』はこの体の所有物。枷が嵌められた様に、超越的な快への発展だけは、許されない
「 」
振るえる指先が、貴女の姿を探した直後。その姿勢は固定され
乱れた意識の処理を内側で続ける、続ける
■黛 薫 >
黛薫も、店員も。貴女の中で起きた事態を完全に
推察出来たとは言い難い。けれど狼狽えるだけの
店員とは異なり、黛薫はすぐに動き始めていて。
貴女の指先が彼女の姿を探したとき。
固く唇を結んで手を伸ばす黛薫の顔が見えた。
……
…………
……………………
数分後、2人は人気のない路地裏にいた。
地理的には異邦人街の中だが、此処には多種多様な
言語で喚く喧騒も馴染み薄い異界の香りも届かない。
自分の膝を枕代わりに、長らく使う者のいなかった
ベンチで貴女を休ませる。
ひとまず貴女をあの場から、香りから遠ざけるのを
最優先に動いたけれど……果たして自力で再起動が
出来るのだろうか。
■黛 薫 >
安全な空間とはいえ屋外。しかもよりによって
今日は冷え込みが激しく……目覚めを待つ間に
雪が降り始めてしまった。
「……あぁ、もぅ」
苦々しく呟いて猛省する。人ならざる被造物の
彼女なら精神的な影響は受けにくいだろうという
思い込み。万が一があっても『香り』に関する
プロなら自力で引き際を見極めるはずという甘え。
詳しかろうと何だろうと『未知』は『未知』。
初めて触れるモノにはどれだけ慎重になっても
やり過ぎではなかったのに。
黛薫は貴女を膝に乗せて店へと運ぶ。
今後について話し合ったあの日もそうだった。
思えばあの日の停止も不自然なタイミングで。
もし……不具合などが出ていたらどうしよう。
機嫌良く帰った先日とは違い、鬱々とした表情で。
また、店に泊まり込みで貴女の目覚めを待っていた。
ご案内:「異邦人街」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」にルミ・イルマリネンさんが現れました。
■ルミ・イルマリネン > 異邦人街。
雪が積もるこの町の人々の多くはコートを着てマフラーを巻き、
寒そうに手を擦って転ばないように歩いている。
しかしそんな街に白煙を上げる工房が一つ。
勢いよく鉄を打ち付ける音が響く作業場には、
外の人たちとは違って額に玉のような汗を浮かべる女が作業をしていた。
『次、この鉄精錬しておけ』
「……わかりました」
店の奥から黒い石がたくさん入った木箱を持って出てきた一つ目の大男がそういうと、静かに返事をしてまた鉄を打つ。
ここは異邦人街に店を構える鍛冶屋。
包丁のような刃物から鍋、機械の部品まで作る工房である。
そして私はいま、修行としてここで働いている。
■ルミ・イルマリネン > 『ごめんくださーい、頼んでたやつ、できてる?』
工房の扉がカランカランとベルを鳴らしながら開いた。
入ってきたのは自分よりも二回りくらい人生を経験してそうな女性。
「ああ、新しい包丁を注文していた……。
いま師匠をお呼びしますので、お待ちください」
そういって工房の奥に行けば、一つ目の大男を呼ぶ。
いわゆるサイクロプスと呼ばれるこの男が私の師。
『ああ、こりゃどうも。ええ、できてますよ』
そういって客人の対応を師が替わる。
こんな具合で、この工房には客が直接来る。
人と話すのは苦手だがここに来る人たちは皆、
鍛冶屋に用事があってくる人たちばかり。
仕事の話以外しなくていいこの場所は、とても居心地がいい。
■ルミ・イルマリネン > 「よし、と」
師匠が客人の相手をしているうちに、こちらの作業も落ち着いた。
出来上がった作品を次の工程の箱に収めれば、ぐっと背伸びをして一息。
精錬待ちの鉄鉱石をしり目に、ポケットから煙草を取り出して裏に向かう。が。
『おい、なに勝手に休憩しようとしてんだ』
裏に向かおうとしたら、師匠に呼び止められた。
「え、だめですか?」
『……5分で戻れ』
「わかりました」
師匠は怖いが、なんだかんだ私に甘い。
というか、私が普通に仕事をこなしているから文句を言いづらいのだろう。
顔には出さないがウキウキ気分で煙草に火をつければ、
工房の奥で回る換気扇の下で息を吐いた。
ご案内:「異邦人街」からルミ・イルマリネンさんが去りました。