2022/11/02 のログ
ご案内:「カフェ:テシューグ」に白梟さんが現れました。
白梟 >  
隠伏者は暗がりを好むという。
人目を避け、陽の光に晒されない裏道を誰の目にもつかないようにこそこそと歩く。それが世間一般的に潜伏するというイメージであることは確かかもしれない。
実際の所意外とそうでもないらしく、目につかないように生活するよりは堂々と人目をはばからず行動している方がかえって誰にも気づかれない。関連する論文による考察ではこそこそとしていれば人はその秘密が気になるもの。そうでなければ思うほど他人に注意なんて払っていないということらしい。それを知ってか知らずか懸賞金までかかっているソレは堂々とオープンテラスでくつろいでいた。

「……」

我が家もかくやというほど寛いでいるソレは椅子に浅く腰掛けテーブルの上に足を投げ出し、目を瞑っている姿は眠っているように見えるかもしれない。……が被ったパーカーに隠れたヘッドフォンからは爆音で音楽が流れているようで漏れ聞こえる重低音に合わせて足先がわずかに動いていることにそれを観察していた人物がいたなら気が付くだろう。
その振動に合わせて揺れるマグカップと、その中で波立つ濃褐色の液体は最近急に寒くなった島の空気に晒されすっかり冷めてしまっている。

「~♪」

パーカーから覗く白髪がその僅かな振動ではらりと零れ、それが合図であったかのように鼻歌まで零れるところを見ると珍しくそれは上機嫌なようだった。

白梟 >  
例の一件以前からではあるがソレには幾つかの”御団体様”から懸賞金をかけられている。その何れも非合法組織に類する組織だがその分彼らは遠慮が無い。もっとも芸もないとソレは思っているが……とにかくはした金と下らないコネの為に頑張る輩というのは何処にでもいるもので、そんなしつこいだけの奴らと遊んでも仕方がないので暫く”お行儀よく”していたわけだが……

「……いやぁ、やっぱ変わってるわこの島」

漏れ聞こえる音楽がやみ、僅かな静寂の後ゆっくりと瞳を開きながらそれは嘯く。ここに来るのはずいぶんと久しぶりだけれど、特異点とまで呼ばれるこの島はやはり別格。欲と狂騒の渦巻くこの島程刺激的と言える場所は他にはそう多くない。以前にも口にしたことがあるが、この煮凝りのような島は奇跡的なまでにぶっ飛んだ其々がかみ合った結果何故かバランスが取れている。そんな場所だ。この世界において同様のレベルまで達している場所というのは他にないと言ってもいいだろう。正確にはそれほどの余裕がある場所が少ないとも言えるが。

「しかし残念」

とはいえすこーしタイミングを逸してしまったなとソレは誰に言うとでもなく呟く。なんだか楽しそうな事が少し前に起きていたらしい。先程聞いていた音源もその中で奏でられたものの一つ。狂気じみていて、騒がしく、そして実に皮肉が効いていて中々のお気に入りになった。

白梟 >  
「良いじゃんブラックマーケットにライブテロ。いいねぇ。芸術的だ。やっぱり芸術の本質は犯罪だね。あー、ちゃんと見たかったなぁ。くっそぅ」

お陰で何やらいろいろ活発になって、またやりやすくはなっているようだけれど、旬は逃してしまったなぁとソレは残念がっていた。参加出来ていたら探していたものとかそれ以外の面白いモノとか見つかったかもしれない。

「ライブとか好きなんだよなぁ……。
 色々買い漁ったりしたかったし、おっしいことしたなぁ」

星すら見えるようになった空を仰ぎながらソレは静かに悔しがる。
最近のふるまいから勘違いされがちだが、別に破壊と混乱を信条としている訳ではない。舞台に上がり踊る事もためらわないが、舞台で踊る誰かを煽る観客で居ること自体も大好きなのだ。場所と、そして状況に合っていたから手段としてそう振舞ったが別の状況ならまたそれに合わせるように振舞う。それこそ此処にくる直前に潜んでいた組織では機械だとか感情が無いだとか言われていた。”白梟”という存在の情報攪乱の手段の一種でもあるが、同一人物だと言われれば本当かと疑う人物が大半だった。もっともこの島が一番楽であったことも確かではあったけれども。

「今回は観客として楽しめたのに。」

現場の熱気は肌で感じてこそなのでその場を逃したことがやはり惜しまれてならない。
情報収集は勿論するとして、ソレで集まった情報や物資を見てニヤニヤするのは参加者だけの特権なのだから。

白梟 >  
「ちょうどいいしデータ保存しとこーっと」

つま先で机の上に置かれた眼鏡を器用に引っ掛け、宙に放る。
僅かに光を放ちながら放物線を描き、僅かに顔から逸れて落ちてくるそれを片手で掴むと首元から取り出したコードを繋ぎ、かけるや否や空中に現れたホログラムのキーボードを先程聞いたメロディーを口ずさみながら手早く叩きはじめた。
そうして始めた作業の傍ら、ふと出てきた一つのデータ群に目を止めると数秒考えた後それらを展開していく。

「……なんだか聞き覚えあるんだよこれぇ
 なんだっけかな?思い出せないのモヤモヤするし悔し……あー」

ひとしきり悔しがったあと目の前のデータに思考を切り替える。
今気になっているのはあの時の自分達とは違った形の破壊者のデータ群だ。
片手間に集めたデータ達から浮かんでくるのは一途で切実、そんな頑固者だった。

「こういうのは0か100しかないんだよなぁ。
 どっちにも喧嘩売ってるし、見境ないねぇ。あっは。」

白梟 >  
「で、こっちが例のっと。
 ふふ、いいね。好きだよこういうの。」

とある場所で賭けに勝ったと主張する人物が証拠映像として提示していたそれをそのままコピーしているその映像はとても派手な色彩が溢れている見ごたえのあるものだった。その舞台で踊っている両方の人物が目下の所の興味の対象。ある意味この島をそれぞれ違う方向で体現したような二人。両方が確認できるお気に入りの一つだ。

「んー、少し前に流行ってた変身ヒーロー?みたいな感じだなぁこれ。
 ある意味相性は最高にいいけど、滅茶苦茶真面目そうなんだよなぁ……。
 ”正義の反対は正義”って感じ。……くふ、同じレート帯の好敵手が出てくるといいんだけど。」

指先でピンチアウトしてその片方に画面が寄る。まず映し出したのは特撮映画みたいな方。
こちらは向こうにとって敵ではあるが、こちらにとって敵ではないという所が悩ましく、そして面白い所。
ある意味完成されていてその終着点のビジョンがはっきりしている、目的完結型の存在だ。
妥協点はどの道中には存在しない。少なくともかの人物の中には。

「で、こっちは……ふふ、”旋律の魔女”かぁ。
 言いえて妙だね。こっちはアタシ好みだなぁ。
 見た目もだけどこの音が良い。」

そしてスワイプして映し出されたもう一人に目を細める。彼に対峙するこちらは明らかにこちら側の人間。
世間一般的にはイっちゃってるタイプと称される側だけれど、大穴狙いの撮影者の気持ちがよくわかる。
楽しむ事を愛してる。そんな同族に惹かれない訳がない。
それに……

「……あんな情熱的に誘われちゃったらデートしたくなっちゃうじゃない?」

世間一般的に言う好きとは少しズレがあるかもしれない。
けれどこの島にどうしようもなく魅力を感じていたこともまた確か。
だからこそ、そんな場所にある面白いモノ、見逃すなんて馬鹿げてる。

「くふ、ごめん。
 まだまだこの島の事、判ってなかったみたいだね。
 こんなに楽しくてイケないことが沢山あるのに、目を閉じちゃうのは勿体ないよ」

白梟 >  
「とはいえ今のアタシじゃまだデートするには力不足なんだよね。
 ドレスコードも満たしちゃいないんじゃちょっとねぇ……。
 どうせなら素敵な夜にしたいし。
 ”その日、不意に運命の人と出会えるかもしれない。
 その運命の為に、できるだけ魅力的であるべき。”
 ……仰る通りですこと!」

僅かに身を起こして珈琲に手を伸ばしながら吐き出した長嘆息は僅かに白い陰りを残しそしてすぐに消えていく。
口にした珈琲と一緒に苦い感情を飲み込みつつ次の情報に当たりをつける。
今の所、手持ちの駒では少々心許ないと言わざるを得ない。結局のところ今できるのは情報集めだけだったりする。
ありのままでいたら良いなんて言うのは苦心して着飾った相手を口説くときにしか使っちゃいけない言葉。

「乙女が囀るには相応の下準備が必要だから大変なんだよって憲法か何かに付け加えてくんないかな。
 ってアタシがこれを言うのは反則か。あは」

愚痴の様に口にするがそれとは裏腹にその口元は弧を描いていた。
炭鉱の金糸雀達が情熱的に競い囀るこの場所でお気に入りの気を引くほどの声色を持たないことは残念だけれど、だからこそ面白い。持たざる事、弱者であるという歔欷のいかにつまらないことか。
不敵に笑うソレの手元で既に冷え切っていた筈のコーヒーから僅かに湯気が立ち上り始める。

「それとも啼かなくても可愛がってくれるかな。」

そう呟くと珈琲を一気に煽る。
程よく暖かくなったはずのコーヒーは再び香しい香りを漂わせていて

「あっつ」

弾かれたようにソレは身を起こすと同時にカップを机の上に置く。
気分が乗りすぎて熱くしすぎたふぁ○く。

白梟 >  
「はー、こういうとこだからね?全く……」

全く、一つの事に夢中になるとすぐこれだ。
机の上で中身に小さな気泡がいくつも浮かび上がる程に熱を帯びたカップを軽く弾く。
この通り、微調整すら無意識だと失敗するほどに鈍っている。
錆を落とし、火を入れる必要があるのはどうやら手持ちの武器だけではない。

「ダイエットかよ。
 まぁアタシ太った事ないけどさぁ!?
 ……つぅわけで、そこのヒトさぁ記録するならそこだけよろしくぅ」

さてと、と呟きながら飲食代をカップの横に置きながら立ち上がる。
既に物影や近くの路地に何人かの気配がある。ばっちり武器もお持ちの様子。
のんびりしていたら気が付いた鼻が良いのがいるらしい。
やっぱりこの島は他とは違い、感度が良い。

「丁度いいしちょっとだけ付き合ってもらっちゃおうかな?
 イキやすいのはお互い様だからさぁ、
 先に果てない程度にさぁ、テキトーに踊ってよ」

恨みも買っている、理由もある。
けれどそんなのはどうだっていい。
こうして包囲しているのも誰かも知らない。あとで確認すりゃいい。
大事なのは……今を楽しむ事。

「じゃぁドレミの練習から始めましょうかぁ紳士諸君。
 他の寝物語はその後でってことで♪」

ソレは物陰からこちらに向けられた銃口に獰猛に牙をむきだして笑った。