2022/11/18 のログ
ご案内:「異邦人街-メインストリート-」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > 今日も今日とて、生活委員会経由で修復/修繕の依頼が複数舞い込んで来る。
今回は、主に異邦人街での仕事が集中しており、他の場所は同僚に任せて男は異邦人街へ出向いた。
「……メインストリートか…人込みは気が散るから苦手なんだが…。」
ぽつり、と工具箱を右手に提げながら呟くが一度仕事に集中すると、ちょっとやそっとじゃ動じない。
一先ず、既に何箇所かで依頼はこなしており、このメインストリートが一番規模が大きい。
「…店舗の壁面の修復が3つと、土台の修復が4つ、あとは屋根の修復が3つ…どれも場所は近いな。」
改めて、依頼のあった店舗の位置関係などを頭の中で再展開。
…この位置関係なら、中心部で能力を発動すれば”纏めて同時に修復が出来る”。
予め話が生活委員会から通っていたようで、依頼のあった店舗に顔を出して挨拶と手順の説明を。
「…えぇ、道を封鎖しろとは言いませんが、出来るだけ通行を抑えて頂けると。」
そう、説明を丁寧にして一応は納得と許可を頂いた。自主的に手伝ってくれる店舗の方々に頭を下げてから、改めて”中心部”を割り出しに掛かる。
「――ひぃ、ふぅ、みぃ………と、この辺りが丁度中心か。」
メインストリートのど真ん中。特定の場所で足を止めれば周囲を見渡して位置関係を把握する。
(…残りの気力と体力から逆算して――…余力は何とか残せそうだな…。)
よし、と呟いてから懐から古い音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンを接続。
片方だけのそれを右耳に突っ込んでから、音楽スタート…曲は異邦人街から広まった民謡曲。
――あのライブの一件以来、男はこうして音楽を聞きながら集中する事が増えた。
音楽に関しては相変わらずド素人だが、曲にもよるがいい集中の後押しになっているようだ。
そのまま、片膝を付くような姿勢でしゃがみ込めば、右手を地面に当てて…ゆっくり深呼吸。
「――接続開始(リンク・スタート)。」
ご案内:「異邦人街-メインストリート-」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
『―――』
口にしているのは、異界の言語。
カフェテラス、というには雑多でラフな野外の席で、
地球人類に見られぬ身体的特徴の目立つ者たちと談笑していた。
品のなく他愛のない話とともに、湯気を朦々と立てる香辛料の効いた茶を楽しんでいた。
『――、――……あれは?』
さっきから少しだけ通りが静かになった気がする。
椅子を傾けて背後を振り向くと、何やらこの場に似つかわしくない――"普通"の人。
――良く直しに来てくれるんだよ。年季が入ってる建物も多いし、たまに事件や事故も起きるから。
篤い、とまでは行かずとも、確かな信頼を感じられる言葉に、ふぅん、と最初は興味も薄そうに。
しかし、その直後に思案顔を見せると、代価を支払って席を立った。
『それじゃ、また』
女は通りを横断して、そちらに足を進めた。
「………」
背後。
少しだけ離れた場所に、立ち止まる。
まずはその仕事ぶりを観察するつもり。
真紅の髪をキャップに、炎の瞳をレンズの裏に隠してはいる。
肌の色ばかりはどうにもならないが、努めて防御力を上げているのは現段階で出来る"作法"に則ってのこと。
青年からすればあからさまに顔を隠しています、という地球人類が、
異邦人街に居て仕事ぶりを舐め回している、ということになるわけだけども。
■角鹿建悟 > 「――接続完了(リンク・コンプリート)。――範囲指定、半径200メートル…――ポイント1~10を設定。」
詠唱のように呟くのは、自身の集中を高める意味合いも大きく、本来は無言で構わないもの。
地面に付いた右手の甲の辺りに、小さな歯車時計のような紋様がホログラムのように淡く浮かび上がる。
通りの通行はある程度制限して貰いつつ、興味本位の野次馬の数もそれなりに。
異邦人街では比較的珍しい”普通の人間”が、何やら大通りのど真ん中でやろうとしている。
ともなれば、それなりに見物人が沸いて出ても不思議ではないだろう。
(――チェック。…少しズレてるな…もうちょっと精度を上げて――…?)
ふと、背後から…ある程度の距離は空けられているが、比較的近い位置から視線を感じて。
集中は持続したまま、背後へと緩く顔を傾けて視線だけをそちらへと向ける。
(……見物人か?…別に見て面白いものでもないんだが…。)
何か”違和感”に似た感覚を覚えるが、直ぐに銀色の視線を背後の人物から外した。
何はともあれ、まずは仕事をきっちり確実に果たす――それが最優先。
「――誤差修正(トレランス・アップデート)……完了。――修復開始。」
先程の誤差も修正し、男の能力が発動する。まず、地面に巨大な歯車時計のホログラムのようなものが魔法陣のように展開。
その針が逆時計回りにゆっくりと…そして、少しずつ速度を速めて”巻き戻し始める”。
すると、特定の店舗の壁面、土台、そして屋根――計10箇所から淡い光と同じような歯車時計のホログラフが浮かび上がる。
この位置は中心部なので、全ては見えないだろうが幾つかは周囲や背後の彼女にも気付くだろうか?
(――経年劣化が酷いのが幾つか…構造は今までの仕事で把握済みだから、そこは問題なし)
分析をリアルタイムで展開しながら、針の動きに合わせて10箇所の同時修復がスタート。
まるで時間を巻き戻すかのように――実際、時間遡行系の修復能力に属するが――壁面、屋根、土台が直されていく。
「……9…8…7…。」
呟くようにカウントダウンを口にする。歯車時計は時間を巻き戻す。
あらゆる物体の修復や修繕に特化した――物を直し、人は治せぬ力が展開する。
「……3……2……1……。」
そして、「…ゼロ」の呟きと同時、地面に展開した歯車時計が音を立てて針をストップさせる。
「……修復完了(リペア・コンプリート)……及び、精査完了……停止(フリーズ)」
停止、の合図と共に地面の巨大な歯車、修復箇所に展開していた歯車、そして少年の右手の甲に浮かび上がっていた歯車が全て砕け散るように霧散して。
「……想定より3・8秒修復が遅い……まだまだだな。」
呟けば、ゆっくり緩慢な動作で立ち上がる。流石に、体力に響いたか首や腕を軽く回して大きく一息。
■ノーフェイス >
「おぉ……」
観察している、と思しき沈黙の合間はこちらも静寂を守っていたものの。
魔術的、あるいは人造物を模したが故にどこか未来的に覗けた幾何学模様――の、その作用。
シークバーを左にずらしていく、かのような光景には、赤い唇から、思わず感嘆が零れる。
家屋の修繕、なんて大掛かりな仕事がほんの短時間で締めくくられた事には衝撃を禁じ得ない。
時間に指をかける――なんて女からすれば恐るべき魔術であり、そして禁忌だ。
作業の合間と見てか、一歩を進んで背後に近づいた。
わざと足音を立てたのは、声をかけるぞ、という意思表示。
「Yo-Ho~、お疲れ様。 ……飲み物でも買って渡すべきだったね、ココは」
やけによく通る声で話しかける。
生憎と手ぶらなことを、両手をぶらぶらと振って申し訳無さそうな語調をつくりながらも。
サングラスの下の唇はずいぶんと上機嫌。
「いまのは、魔術……? それとも、キミの異能(オリジナル)か?」
横に並ぶ。彼の"仕事"を見上げながら、あらためてその出来栄えを確かめるのだ。
■角鹿建悟 > 今の修復はそれなりの規模、そして異なる箇所の同時修復だったので負荷は掛かる。
気力はまだまだ保つが、体力的には流石にそろそろ底が見えてきている有様だ。
(…なんていうのは言い訳だな。想定より修復速度が”遅い”のは俺の怠慢だ)
自分の能力を過信せず、そして妥協しない。何百回、何千回、何万回でも足りない。
努力(しゅうねん)だけでは届かない領域も厳然とあるが、限りなく近付く事は出来よう。
ふと、足音が背後から聞こえる…先程、己の後ろで見物していた者だろう。
一先ず、仕事そのものはきっちりとやり遂げたのもあり、背後の人物が声を掛けてきたのを合図に振り向いて。
「……どうも。……あぁ、まぁその気持ちだけ有り難く頂いておくさ…。」
淡々とそっけない口調だが、別に悪気は無いしこれが男の喋り方だ。
やけに声の通りが良いな、と思いながらも申し訳無さそうな語調には気にするな、とばかりに。
ただ、何故だか上機嫌にも見える相手の様子に、内心では不思議そうに首を傾げてはいたが。
「……あぁ、異能の方だ。流石に、魔術で複数同時にきっちりと修復するのは無理だ。」
そう答えて肩を竦めてみせる。勿論、凄腕の魔術師ならこなせるかもしれない。
だが、男にはそこまでの魔術の腕前は生憎と無い。だからこそ、能力で全て直した。
修復された壁面や屋根、少々見難い土台部分も、罅割れや劣化、破損が全く無い状態にきっちり直されている。
まるで、最初からそのような状態だった、と思われるレベルで”不自然さ”すら見えない。
少なくとも…男の能力とそれを使いこなす力量はかなりのものだと、断片的には窺えるだろうか。
■ノーフェイス >
「なるほど……ね? それにしたって見事なもんだな」
そもそもこちらが話しかけた側、青年に愛想を求めてはいない。
機嫌の良いまま踏み込んで、指先でそっと、壁面を撫でる。
見た目をごまかしたわけでもなければ、雑にボンドで補強した、なんてこともなく。
しっかりと"元通り"……破壊を否定する逆再生の在り方に、今度は興味が湧いた。
「たとえば……これ。
建材とかがごっそり抜け落ちる、どこかに持ちされていた場合も。
問題なく"直る"のかい?」
トントン、と今度はノックしてから、一歩を引いた。
材料を用いて元通りにしているのか、なくなったものさえあることにしてしまえるのか。
女は妙に興味深そうに青年の仕事ぶりをみつめていた――あるいはそれを通して青年そのものをか。
■角鹿建悟 > 「……いいや、”まだまだ”だ。修復する速度が想定より遅かった。」
見事なものだ、と褒めてくれる謎の女に対してきっぱりと即座にそう否定する。
自己評価が低い、とか自責の類では無い。『直す』事への狂的な執念から来る妥協の無さ。
「…俺の能力は『物体なら』粉々だろうが、一部欠けていようが関係ない。
”在りし頃の状態”まで巻き戻して修復する。勿論、対象の構造や素材を把握していれば効率は上がる。
――極端な話、物体なら俺に直せないものは”無い”」
そう、口にするがややあってから、溜息混じりに補足するように口を開いて。
「…と、断言できればいいんだがな。物体でも、例えば”意志あるもの”…魔導書とかが分かり易いか?
ああいうものは、直せはするが相応の手間と負担が圧し掛かるし、構造を把握しようとすると精神汚染も有り得る。」
――だが、裏を返せばそれが物体ならば意志あるモノすら直せるという事だ。
ノックの音に対して返って来るのは、元通りになった箇所のしっかりとした感触。
穴も隙間も、脆い箇所も無く素材そのものも他の健常な箇所と全く”同じ”だ。
「…まぁ、細かい系統は違うだろうが、修復の能力者は別に俺だけじゃない。もっと凄腕もあちこちに居るだろう。」
だからこそ、日々の研鑽や実践は欠かさないし、妥協もしないのだ。自分の唯一の取り得でもあるのだから。
■ノーフェイス >
「能力の練度、もしくは自分のコンディションとかコンセントレーションが足りてないとか?」
彼は戦士、ではない。故に、能力を秘する、ということもないのだろうか。
打てば響く言葉には質実剛健とさえいえる一本気な答えばかりが返ってくる。
もっと早く直せるようになるらしい。――なるほど、とひとつ息をつく。
「つまり、結果だけを求めるならもう完成しているってワケ、か……。
要するにそれに至るまでの過程が――もっと早くなる、の、かな。
でも、体力とかメンタルとか使うんだろ、ソレ?」
手を離す。あまりべたべた触っても店舗の持ち主に妙な顔をされそうだ。
ポケットに両手を突っ込みながらに、彼のほうに向き直る。
個性を隠すような装いが一層、その面立ちの特異性を目立たせるようで――変装目的ならうまくはいっていない。
「一回終わった後に疲れてそうだった――いや、ボクはキミの話をしてるんだよ。
他の凄腕のことは、いまはどうでもいいかなぁ」
腕章をちらり、と見た。
あちら側ではあまり見ないタイプ。
「生活委員会……つまり、これはお仕事なんだ?」
■角鹿建悟 > 「…自画自賛みたいで気に食わないが、練度や場数に関しては、もう十分に積んでいるつもりだ。
だが、これ以上を望むなら…少なくとも真っ当に能力を高めて直すなら、もっと努力するしかない。」
――それでも、絶対に届かない領域は存在し、”本当に直したい”ものは直せない。
そのどうしようもない、壁というものを男はもう何度も痛感している。
「――そうだな、身も蓋も無い言い方をすれば…俺が能力を対象に使った時点で、ソレが”直る”のは確定している。
――速度と精度、あとは優先順位…そこの辺りはまだまだ改善の余地は多いと思ってる。
……あぁ、その通り。俺の能力の代償はシンプルだ。俺の気力と体力を削る。」
場合によっては生命力を削る事もあるが、一度”挫折”してからはそこまで削った事は無い。
視線を彼女に戻す――おそらくは変装でもしている?のだろうが、…あまり隠せていないような。
(…仮に変装だとして、そうしなければならない”理由”でもあるのだろうか?)
と、そこまで考えてから止めた。無粋な詮索をするべきでもないだろう。
ちらり、と依頼人でもある店主に軽く会釈を一つしてから、改めて顔をそちらへと戻す。
「……そういうものか。」
真顔で首を傾げる。自分の話題なんて面白みも無いだろうに…まぁ、能力くらいか。
「…あぁ、生活委員会はインフラ整備などが基本だが、こういう修復・修繕業務も扱っているからな。
俺はあくまで一般の生活委員で特殊な役職や部署に入っている訳じゃないが…。
まぁ、何だ……一応、腕を買ってくれている連中はある程度居るらしい。」
だからこそ、依頼は絶えないし時に”名指し”で指名される事も増えた。
それには感謝しつつも、矢張りどうしても生活委員会が堂々と手出し出来ない場所がある。
「――だが、落第街やスラムは生活委員会の名目では無理だからな。そっちは俺が”個人で”直している。」
勿論、同僚には言っていないし、完全にプライベートなものだ。
報酬も含めた見返りも無い時が多いし、場合によってはトラブルにも巻き込まれる。
もっとも、男は報酬に興味など無いし、巻き込まれてもそれは自己責任というものだ。
■ノーフェイス >
「お、先回りされたな?」
サングラスを僅かに下にずらして、橙に近しい黄金の瞳を晒す。
楽しそうににやりと笑い、彼の顔をレンズ越しでなくじかに見つめた。
「そこを突っ込もうと思ってたんだよ。
やっぱりキミかぁ、あの街を直して回ってるって物好きは。
お噂はかねがね聞いてるよ。 不思議なことするやつもいるもんだってさ」
聞こうと思っていたことを先取りされると、話が早い、と笑う。
食いついた時点でこの女がどちら側に足を突っ込んでいるのかも明白だ。
「なんでって聞くのは無粋かな?
あんまりお金もとってないって聞いたケド」
この能力があれば、いくらでもふっかけられるし、ふんだくれる。
黄金の鶏を飼いながらどうしてそういう生き方になるのかと。
燃ゆる好奇が青年を射抜く。
■角鹿建悟 > サングラスを僅かずらした先、見えたのはオレンジにも似た黄金瞳だ。
月光のような男の銀瞳とは全く対照的なそれを真っ直ぐに見返す。
にやり、とした笑顔に対してこちらは先程から仏頂面のままなのも変に対照的だ。
「――物好きも何も、それは俺自身が一番よく分かっているさ。…まぁ、不思議に思われても変ではないな。」
そして、そんな言い回しをするって事は、あちら側の住人なのだろう。
もっとも、こっち側だろうがあっち側だろうが、『直す』事に関係は無い。
表裏を問わず、時に善悪を問わずに『直す』物好きの修復師(リペアラー)。
「…生活するだけなら、委員会の給金で十分だし娯楽に金を使った事も殆ど無いからな…。」
生活費と、あとは工具関係での出費外は殆ど金なんて使わない身の上だ。
むしろ、この年齢の学生にしては貯蓄は結構多いくらいで。そもそも、金銭に執着は無い。
燃える好奇心の黄金瞳はこちらを射抜くように。それを静かに銀瞳で受け止めながら、ややあって口を開く。
「――理由は大まかに3つ程。
―1つ、或る知人と『落第街を直す』という約束をした。約束は破れない。
―2つ、壊れた物をそのまま放置して風化させるのは我慢ならない。単なる俺の我儘だ。
―3つ、――俺が本当に直したいのは物ではなく人だ。でも、それが出来ない。」
そこで言葉を一度切る。3つ目に付いては補足が必要なので、また直ぐに言葉を述べる。
「…俺の能力の制限、というか絶対的な枷が一つ或る。物は直せても生物は絶対に”治せない”という事だ。
俺自身、”人を治す”魔術や道具は何故か一切扱う事が出来ない…ある種の法則じみたものがある。
…諦めきれない、けどどうしようもない。だったらどうするか?
…一つでも多くの物を直して、間接的にでもいいから誰かを助ける礎になりたい。
…ああ、大きなお世話だろうし無意味な時も多いのは分かっているさ。
特に、落第街を直すなんて馬鹿げているのも承知している。……が。」
静かに、今度は月光が射抜くように女を見返しながら。
「”その程度”で俺が俺自身を曲げる理由には成らないだろう。
後ろ指を差されようが、無意味に朽ち果てようが…俺は直す事は諦めない、もう二度と諦めなんて御免だ。」
人を治すのは、諦めきれないが諦めるしかなかった。
だったら、今やっている物を治す行為を尚更に諦め切れない。
ブレーキは既に壊れていて、男は手を抜かず常に直す事に自分なりの全力投球。
無理をして体が悲鳴を上げて、心が悲鳴を上げて、そして一度挫折も経験した。
――”それでも”止まる訳にはいかない。諦観は二度としない。そして。
「――俺が『直す』事を馬鹿にするのも嘲笑するのもそいつの好きにすればいい。
あぁ、いっそ無関心でも構わない。だが、”邪魔”をするなら――…
俺が嫌いなクソッたれな暴力や破壊行為に俺自身が手を染めてでもぶち抜いて俺は直す。」
ご案内:「異邦人街-メインストリート-」に角鹿建悟さんが現れました。
■ノーフェイス >
ダムが決壊したかのよう、饒舌になる青年に対しては、
途中から女も唇から笑みを消して――襟を正したというわけではないが耳を傾ける。
しかし視線はというと真っ直ぐ見つめる、というよりは訝るように眉根を寄せていた。
「……まぁ、待て、待てよ、待てって。
ボクはキミのコト、馬鹿にするつもりも邪魔するつもりもないからサ」
ようやく、というように戯けた笑みをとりもどすと、
ホールドアップの姿勢を作ってから、両手をぱたぱたと動かして。
それを身体の横にぱたん、と再び垂らす。
「ほんの数十年前だったら……キミはカミサマだぜ。
それだけの力をもってしても、本当にほしいものには届いていないって。
まさに神業って奇跡を、疲れるけど頑張る、くらいでやれるのに――ほんとうに望むチカラではなかったときたか。
改めて出くわすと……本当にスゴい時代になったんだなぁ」
ポケットから引っこ抜いた手に握られていたそれの包み紙を外す。
桃色のロリポップをくわえて、ころり、と音を立てた。
視線をそらして、かんがえごと。
「異能が欲しくても手に入れられなかったヤツとか。
人を傷つけることにしか力を使えないヤツもいるなかで。
うん、スゴいんじゃないか。馬鹿にするやつもいるだろうけど、すごく感謝されるだろ?」
屋根に穴があく。たったそれだけで、どれほどの不便に見舞われよう。
まるで果物のバスケットを転がした後のように異能という天稟がばらまかれたこの世界で、
破壊も殺戮も実にインスタントだ――その恍惚の裏にこうした直す者がある。
「……どう?」
甘い味を、ひとくさり舐めた後に。
それを口から離して、視線は再び直された家屋に。
"元通りになった"――その成果にむけられて、そして。
「……楽しんでる?」
青年を視た。
義務感や使命感は感じられた。
娯楽に親しまない青年は、どのようにこれと向き合っているのか。
■角鹿建悟 > 「……む……すまん、悪かった…。」
一息に喋り過ぎたかもしれない。普段はここまで口数は多くないし、むしろ口下手だ。
気づかない内に鬱憤が溜まっていたのかもしれない。初対面の相手に何をやってるんだ、と自己反省。
そもそも、こんな”自分語り”をして何になる?相手にも良い迷惑だろうに。
「……別に俺はただ、我武者羅にやっているだけだ。
欲しいモノに手が届かないなら、今、手に或るモノでどうにか目指すしかないだろう。」
仮にカミサマと呼ばれても、強大な力があっても、そんなの嬉しくも何とも無い。
本当に欲しかったモノはそんな”つまらない”モノなんかではない。
そして、だからこそ本当に欲しいモノは天地がひっくり返ろうが手には出来ない。
何やら、飴を舐め始める女を訝しげに眺めていたが、その口が再び開けば静かに耳を傾けて。
「――感謝されたいからやっている訳じゃないがな…確かに言われる事もある。
けど、突き詰めれば俺のやっている事はただの自己満足か、無い物強請りをこじらせたものだ。」
前に比べれば、感謝の言葉などもある程度自然に受け止められるようにはなった。
なったが、結局自分のやっている事は人を治したい・助けたいという思いの歪に捻じ曲がったものだ。
だが、”それしかない”から色々取り零しながら今日も男はこうやって直している。
「―――…。」
だから、女の問い掛けに”即答できなかった”。
挫折をする前も、その後も、そして今も。楽しく仕事をした事なんて彼には無い。
努力して、試行錯誤して、妥協せず、常に張り詰めたように、そこに”楽しい”と感じる余裕は無かった。
結果、どのように向き合っているのか?楽しいと考えない、自覚しない、押し殺す。そういう事になる。
「……楽しめているとは…おそらく言えないが…だからといって…。」
言葉に詰まる。今も昔も、楽しむなんて考えた事も無かった…けれど。
(…あぁ、でも北上の…迷走中のライブは中々…)
考えが逸れたな、と直ぐに打ち消して。不器用無骨な男の悪い所が出てしまっている。
■ノーフェイス >
「誤解がとけたんならイイよ。
てゆーか、もともとボクがキミの仕事の邪魔をしてるんだしな?」
ふたたびホールドアップ。今度は両手を開閉して、気にしていない、と。
話し慣れていないのもあるだろう。
しかして、そんな彼が言葉をつまらせた時、女の眼では好奇の炎が火力を増した。
「その調子だと、まわりにずいぶん心配されるだろ。
やりたいことならキミの好きにすりゃイイけど、そーだね……。
あっちで直してる時もそんな調子なのは、確かにいただけないな?」
軽く背を曲げて、見上げるようなアングルで。
剛性が人と成したような彼に笑いかける。
「その約束ってのが、奴隷契約ってワケじゃないならなおさら……。
これは詳しく訊くつもりはないぜ、プライベートだし」
さて、と背筋を伸ばした。
腕を組み、片手が細顎にかかる。
じっと、青年の顔を……値踏みするように見つめ始めた。
「ねぇ」
■角鹿建悟 > 「……確かに、人が多いと集中し辛いが、別に邪魔という程でもない。好奇の視線にも慣れてる。」
実際、落第街で直す仕事をやっているとそういう目で見られる事がかなり多い。
人の視線一つで仕事をしくじるようなら、それこそ『直し屋』ではない。
「…そうだな、以前の俺はもっと酷かった…周りの人間にすら”視線が向いていなかった”からな。」
周りを省みず、自分を削って、限界に気付かなかった故に、あっけなく崩された。
”脆いな”というある先輩の言葉は正直、今でも少しトラウマだ。
そして、あれから色々あって、少しは成長してマシになったかと思えば…。
色々な意味で”かたい”男は、先の問い掛けへの返答が詰まった自分に戸惑う。
楽しくなくても仕事は出来るし、実際、今までずっとそうしてきたから。
「……ああ、そんな契約じゃない。約束だ…けど、約束は破れない、守るものだ。」
こちらも、流石にそこを語る氣は無いので静かに首肯してそれ以上は語らず。
不意に、きちんと背筋を伸ばしてこちらを”値踏み”するかのように眺め始めた女。
(………?)
値踏みされるほどの何かが俺にあるか?と、思いながらも呼び掛けに「何だ?」と、静かに答えて。
■ノーフェイス >
「――……」
女は、そう静かに呟いて。
じっと青年のほうを見据えた。
薄ら笑みを浮かべたまま。
返答――ではなくとも。
如何なる反応が返ってくるかを期して。
■角鹿建悟 > 「―――何で…そんな質問、を……。」
明らかに、先程の”楽しい”とは別種の、それでも明らかに動揺した言葉が唇から漏れた。
銀瞳は僅かに見開かれ、まるで”考えないようにしていた”事を引き摺りだされたような。
じっと見据える視線に、我に返れば一度目を閉じてゆっくりと呼吸を落ち着かせる。
動揺は今更取り繕う事すら出来ない程に明らかで、けれど――…。
「……正直に言えば、”ある”…が、個人的にソレには複雑な感情もある。」
絞り出すように、けれど正直な言葉を述べる。そもそも嘘八百や誤魔化しや腹芸など不可能な男だ。
■ノーフェイス >
「くわしいコトはいまはきかない。
っていうか――あんまり長居ができないんだケド。
これでもほら、大手を振って歩けないニンゲンなもので~?
……だから、今日は単刀直入に」
どうやら彼の胸の奥底、どこかに振れることはできたらしい。
「ココはなんて言ってる?」
手の甲で、軽く、トン、と。
ノックした――青年の胸、その奥で脈を打つ心臓に。
■角鹿建悟 > ”人を治したい/救いたい”という、男の根本的な”願い”。
それとは別に、生まれや育ちから、真正面から向かい合う事を今まで意図的に避けてきたそれ。
物作り――”直す”のではなく、何かを”創る”。
胸の奥底、頭の片隅に。埃を被るくらいに封じてきたモノが、”ここに居るぞ”と自己主張するようで。
「……それは――…。」
トンっ、と。軽く叩かれたのは己の胸元――心臓。脈打つそれは些か早鐘を帯びていて。
(だが、今更――それを”思い出して”何になるっていうんだ…?)
だから、また己の奥底に沈めようとした……だが、出来なかった。封を解かれたモノが大人しくそのままにしている訳が無いように。
ドクン、ドクン、と。己の心臓の音が五月蝿いくらいに。
何か、苦悶とも言える表情を浮かべて、改めて己の手で心臓の辺りをぐっと握り締めるようにしながら。
「俺は―――俺の心臓(ここ)は、きっと――…」
その先の言葉は、それこそ小さくて彼女くらいしか聞き取れないくらいのものだったけれど。