2020/08/10 のログ
■簸川旭 >
《大変容》に伴う災異で、自分の家族や知人は皆眠りについた。
親族もおそらく皆死んだのだろう。正確なことはわからなかったが。
自分は家族の、親族の、友人の、恋人の、そのどの死をも看取ることはできなかった。
この世の終わり。自分が信じてきた世界が、あらゆるものが変質し変容していく現象の中で、死を迎えたのだということは知っている。
この島で目覚めた時に、そのように伝えられたからだ。
しかし、最初は信じられなかった。自分にとっては、目覚めた瞬間に全てが終わっていたのだから。
現実感はなく、ただ信じたくないという思いばかりを持っていた。
それでも、しばらくすれば諦めもついた。そう思っていた。
せめて、このようなふざけた世界の中でも、安らかに眠っていてほしいと思っていた。
だが、結局は家族の「死」については極力考えないようにしていた。
ただ、死んだらしいと聞いただけ。それで十分だと思っていたのだ――
つい先程、いままでずっと避けてきた事を行った。
《大変容》にて、自分の住んでいた地域がどうなったのかを確認したのだ。
わずかに残る記録、おそらくは完全ではないだろうが――自分の住んでいた小さな町は、消滅していたことを知った。
犠牲者の名簿を確認すると、幸運にも――《大変容》の犠牲者の全容は不明と聞いていたから――家族の名前があった。
死んだのだ。自分の家族は。
旧き世界の終わりとともに。
それを今になってようやく、確認した。
自分も同じ場にいたのだが、《異能》により九死に一生を得た。
幸運だとは思わなかった。
「……もっと、早く建てるべきだったのかもしれないが」
生活委員会に無理をいって、この墓地に家族の墓を作ってもらった。
無論家族は常世島に住んでいたわけではないのだが――
自分の故郷はすでにない。ならば、せめて今住むこの島で、と思ったのだ。
墓石には家族の名前が彫られている。
最初は自分の名前も彫ろうかとも思ったが、それはやめた。
自分はまだ生きている。
■簸川旭 >
もう戻れない。
自分の世界の全ては崩壊し、変容した。
それは嫌というほどわかっていることだった。
なのに、それでもなお、どこかでこれが夢であってほしいという思いを消せないでいた。
だから、家族の死を直視することは避けていた。
しかし、ようやく決心がついたのだ。
自分と同じ苦しみを持つ異邦の「同胞」との約束がある。
故郷を破壊したのは異界の出現であったと、記録には記されていた。
とはいえ、結局何があったのか、それ自体はわからないままではあったが。
あり得ざる力を持った何かが現れ、小さな町の全てを消滅させたのは、確からしい。
異邦人のことは嫌いだった。
異邦人だけではない。《異能》も《魔術》も、地上に蘇ったという《神々》やそれに類する者たちなど――
自分の世界を覆した何もかもが嫌いであった。
「門」など開かなければよかった――その気持ちを消すことは、今でも難しい。
だから、異邦から来た存在にはひたすらに恐怖を覚えていた。
彼らがまた、世界に牙を向かないと、誰が証明できるのか?
異邦や魔術が世界を正しい方向に導くなど、誰が保証してくれるのか?
世界の行く末に希望など持てはしなかった。
何故、学園都市などといって、モデル都市などといって、全てが融和した未来への希望を信じられるというのだろうと。
――それでも。
それでも、かつては憎み、恐れ、嫌悪した異界よりの青年と言葉をかわした。
そして、彼が自分と同じ苦しみを得ていることを知った。
そんな彼と約束したのだ。
この世界を少しでも好きになれるように。
そんな出会いがあれば、彼にも教えると。
だから、決心がついたのだ。
自分の世界はすでに消滅してしまった。最早そこに帰ることは叶わない。
故に――家族の死を認めた。
自分の世界は終わったのだと、はっきりと認識した。
この世界で生きていくというのならば、この世界が現実だと認めなくてはならない。
どれほど信じられないことであったとしても、この世界はかつて自分たちが生きた世界の未来なのだと。
それを認めることに、強い痛みがあったとしても受け入れなければならない。
彼との約束は、自分に前へと進むきっかけをくれたのだ。
異邦の男とも言葉を交わし、同胞となれたのだ。
ならば、この変容した世界で生きる人々とも、きっと。
■簸川旭 >
「ぐ、う、ぅぅ、うう、うううっ……」
しゃがみ込み、墓の前で手を合わせながら、小さく呻く。
家族の死は現実だと――そう強く認識した瞬間に、とめどなく涙が溢れてきた。
止まらない。
止められない。
家族の死に目にもあえず、同じ苦しみを共有することもできなかった。
家族や友人たち、恋人がどのように死んだのかを考えてしまえば、今ここで嘔吐してしまいそうで。
そんな悲しみに何度も何度も打ちのめされていく。
今、自分の顔はひどい有様になっているのだろう。
しかし、そんなことも気にせずにただただ泣き続けた。
こうしなければ、自分は前に進めそうになかった。
この悲しみを乗り越えない限り、この世界のことを少しでも好きになるというようなことはできないとわかっているから。
墓の前に置いた線香の煙が風に乗り、遥か海の彼方へと消えていく。
ただ、今は願うばかりだ。
家族や友人、恋人が安らかに眠りについているということを。
ただ、祈るばかりだった。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から簸川旭さんが去りました。
ご案内:「常世島共同墓地」に霊山 市仁さんが現れました。
■霊山 市仁 > 慰霊祭の時期は終わってもまだまばらに人がいる共同墓地。
慰霊祭の時期に都合が合わず来れなかった者、人が少しでも少ない時期に来たかった者、そんな人達が多い。
「慰霊祭…慰霊祭ね……。」
霊山は慰霊祭の時期が好きではない。
自分の居住である共同墓地の周辺に人が増えるし、普段の幽霊のような恰好で墓地にいると割と本気で怒られてしまうからである。
その際は自分が幽霊である事を説明しても大抵の場合無駄なのでおとなしく頭を下げているしかない。
…知り合いが自分の場所にお供えをしてくれるとこがあるのだけはまあプラスかもしれない。
■霊山 市仁 > 霊山が眠っている区画、共同墓地の右の方の区画には簡素な墓が多い。
そんな中で霊山の墓は少し目立つ、中身がくりぬかれた四角い形状で簡素な扉までついている。
この中に様々なお供え物、そして郵便物なんかも入れられる。
死者への冒涜といわれかねない所業であるが本人が良いというので問題は無い。
自分へのお供えがないかとその扉を開くが中には新しいものはない。
……あるのは写真ばかり。この島を出て行ったり、或いは未だにこの島に残ってたり、この墓地に眠っていたり。
そんな人達との思い出の写真。
「はあ……何もないな。」
パタリ、扉を閉めて自分で買ってきていたスポーツドリンクを自らの墓にお供えする。
■霊山 市仁 > …魂が潤っている感じがある。
直接飲むのとは違う、お供えならではの魂にしみる感覚。
「他の皆も、偶にはお供え欲しいよなやっぱり…。」
お供えの有り無しはともかく…。
忘れられていないという事は死者にとっては嬉しい。
……いや、人によるのかもしれないが。
…霊山としては普段は別に忘れててもいいけど年に1回くらいは思い出してほしい。
…やはり、慰霊祭とはいいイベントなのでは?
■霊山 市仁 > …故郷に戻れなかった、彼らの事を。
不幸にも死んでいった、自分たちの事を。
覚えていると、まだ忘れないでいると……。
一年に一度でも伝えてくれる行事。
「……。」
目を閉じて冥福を祈る。
ここにいる死者たちの、自分自身の。
…霊山は慰霊祭の時期が好きではない。
自分の居住である共同墓地の周辺に人が増えるし、普段の恰好で墓地にいると本気で怒られてしまうからである。
……だが、この優しい行事自体は嫌いではなかった。
ご案内:「常世島共同墓地」から霊山 市仁さんが去りました。