2020/09/09 のログ
神樹椎苗 >  
 少年の言葉を確認すると、意識を外部に『接続』し『拡張』する。
 常世島内の整備された場所には監視カメラが設置されている区画が多い。
 それはこの宗教施設区画も例外でなく、この近辺にも少数だが設置されていた。

「――なるほど、つまり一昨日以降に出入りした思われる男二人が怪しいですね。
 修道院に出入りした可能性があるのは女二人と男二人。
 男の方は黒いキャソックが一人に、大男が一人です」

 そう、この近辺のカメラのデータから映像を抽出。
 鮮明とまでは言えないが、個人を特定するには問題ない程度の解像度だ。
 それを以前から特定していた神代理央の個人端末へと転送する。

「今、お前の端末にその男二人の映像データを送りました。
 どうやら二人組と言うよりは、一人が二組と言ったところでしょうかね。
 掃除した関係者と言うのは、このカソック姿の男でしょうか」

 眉間にしわを寄せながら、左手でこめかみを叩いて言う。
 短時間で情報処理を行った事による、脳神経の炎症で軽い眩暈がしていた。

神代理央 >  
「…女二人、というのは恐らく私に連絡をくれた女性達だ。第一発見者、とでも言うべきだろうか」

という事は、その女性二人の後に出入りしているという男二人が怪しいだろう。とはいえ、黒いキャソック姿という事は、修道院の関係者の可能性も捨てきれないが――

「一人が二組……つまり、別行動だったという事か?
そうなると益々分からないな。私はてっきり、違反組織の構成員が証拠隠滅にでも訪れたのかと思っていたが。
ん、有難う。早速見せてもら--」

其処で、己の言葉は止まる。
止まる、というか、文字通り、絶句。

「………神樹。この、ちょっとだけ背の高い方。年齢が高い方、とでも言い換えようか。こいつ、その、同僚というか風紀委員――」

そう告げようとして、こめかみを叩く少女に気付く。
少し困った様な表情を浮かべて、かがみこむ様に少女に視線を合わせれば。

「………余り無理はするな。沙羅もそうだが、誰かを助ける為に自らの身を削り過ぎるのは、その相手も決して望まない事だろう。
私の小言など聞きたくは無いだろうが、貴様に何かあればきっとマリーが悲しむ。だから、無理は、するな」

神樹椎苗 >  
「――別に、無理だったらそもそもやってねーです。
 ただ、一応、話は聞いておいてやります」

 また不愉快そうに舌打ちをして、少年から目をそらした。

「それより、一方が風紀の同僚ってんですか。
 となれば、このキャソックの男が一番怪しい事になりますね。
 証拠隠滅のために複数回出入りしている、周囲の不信感を減らすための偽装工作をしている――そう考える事も出来ます」

 とはいえ、確証はまるでないのだが。
 少なくともこの修道院に他の聖職者が居るとは聞いた覚えがない。

「しいは、姉から他に手伝いが居るような話は聞いた覚えがねーです。
 怪しいと言えば怪しいですね」

 さて、と顎に手を当てて考える。
 より詳しく調べるなら、中に入って手がかりを探す事も出来るだろうが。

「今もこの男が出入りしているとなれば、下手に接触するのもまずいですね。
 時間をかけて調査する、というのもリスクが高そうです」

 どうしますか、と問うように少年を横目で窺った。

神代理央 >  
「……聞いて貰えるだけ、有難いと受け取っておこう」

舌打ちしながら目線を逸らせる少女に小さく苦笑いを浮かべる。

「…しかし、此の映像を見る限りだと、どうにも親し気というか。仲が良さげというか…。
此のキャソックの男には見覚えが無いのだが…」

とはいえ、此の映像以外に情報も無いので此処から手掛かりを得るしか無いのだが。
うーん、と悩みながら視線を彷徨わせる。

「…確かに、シスターは一人で修道院も施療院も切り盛りしていた筈だな。となれば、やはりこのキャソックの男が、何かしらの情報を得ているか。或いは事件に関係しているのか…」

取り敢えず、此の映像の男を風紀委員会のデータベースから探してみるところからだろうか。

「……今更中を調べたところで、出て来るものは少ないだろう。
それよりも、今得た情報を整理して次の一手を考えたい。

『シスターは二日間戻ってきていない』
『研究の為に拉致を繰り返す違反組織が、最近活動を始めている』
『シスターがいなくなってから修道院に出入りした男が二人。一人は風紀委員。もう一人は情報無し』

現場でこれ以上我々が動き回るより、御互いに此の情報を持ち帰って精査した方が良いと考えるものだが」

端末を操作して、恋人から送られて来たメールを少女に見せながら。
現場での行動は一度終えるべきではないかと、少女に提案するだろう。

神樹椎苗 >  
「――同感ですね。
 これだけわかれば十分でしょう。
 大丈夫です、『姉』は簡単にどうにかなるようなヒトじゃねーですから」

 そう自分に言い聞かせるかのように呟く。
 しかし、あのヒトはどこか、その時になったら仕方がないと諦めてしまうような、そんな潔さがある。
 だから少しでも足を動かして情報を集めに行きたいところなのだが。

「違反組織が動いてる、ですか。
 となると、しいはあまり動き回るわけにはいかねーですね。
 残念ながら自衛する程度の能力だって、しいにはねーですから」

 悔しいが、姉や『娘』に心配をかけるわけにはいかない。
 ミイラ取りがミイラ取りになるような展開になっては、目の前の少年にも迷惑をかける事になるだろう。
 たかが『道具』の非力さに唇をかみしめる。

「クズやろー、しいは今回、直接的に動くのは難しいのです。
 ですが、情報を扱う事に関しては、お前が書類やデータを漁るより数億倍役に立ちます」

 そう左手の拳を少年の胸に押し付ける。

「風紀委員(おまえたち)がしいを使う分には、学園も文句をいわねーでしょう。
 しいは情報の収集と処理、出力と入力を司る『演算装置』です。
 学園の『備品』ですからね、上手く使いやがれ、ですよ」

 そして椎苗の連絡先や、同時に椎苗のデータへのリンクが少年の端末に送られる。

神代理央 >  
「…そうだな。シスターは、マリーは簡単に屈する様な人じゃない。
彼女を信じて、今は唯出来る限りの事をすればいいのだから」

恋人は、目の前の少女の事を『母』と呼ぶ。
きっとそれは、精神的な面に起因する事なのだろう。実際に会って話をしても、此の少女は芯が強く、大事な人の為に行動出来るのだと実感する。
だがしかし。自分に言い聞かせる様に呟く少女の姿は――少なくとも己には、年相応の少女にしか、見えない。

「その違反組織が、マリーが行方不明になった事に関わっているとの確証はない。未だ、誘拐されたと断定する情報も無い。
だが、もし本当にそうだとしたら。貴様の言う通り、出来ればこの件に深く関わって欲しくはない」

"そういう仕事"は、己の様な汚れ仕事に慣れた者のする事だ。
危険な場所に立つ事を是とする、己の様な者の仕事だ。
『戦う道具』である、己の仕事なのだ。

「……そう判断してくれるだけで、何より有難いよ。
そして、情報面での援護は何よりも有難い。沙羅も頑張ってくれてはいるが、どうしても人手が足りない。お前の力があれば、きっと沙羅の苦労も減る」

とん、と押し付けられた少女の左手。
少女の言葉と行動に、穏やかに笑みを浮かべるだろうが。

「……学園の備品、か。なら、私は。『神代理央』は有難くお前を使わせて貰おう。お前を使って、きっとシスターとの日常を取り戻してみせよう」

「…だから。備品であるのは、私の前だけで良い。沙羅や、お前を大事に想う人々の前では、そんな事は言わないで欲しい」

「私が言う程の事でも無いし、お前自身も理解している事ではあるかもしれんが。……まあ、『クズ』からの細やかな御願いだと思って、聞き流してくれればいいさ」

『貴様』から『お前』へと。それは少女への信頼の在り方か。それとも、単なる気紛れか。
端末へ送られた少女の『情報』を確認しながら、穏やかに微笑んだ。

神樹椎苗 >  
「ふん、偉そうなクズやろーです。
 さすがに紙の資料までは手が回りませんが、ネットワークに繋がる情報なら何とかします。
 調べられるだけの項目が見つかれば、連絡しやがれです」

 そう言って、少年に背を向ける。
 表情は相変わらず、本当に不愉快そうだった。

「とりあえず、娘が帰っても来ないで働いてますから、適度に帰しやがれです。
 娘の体調管理と、複雑な情報処理があればしいがやりますが。
 後の上手い使い方はお前が考えろです」

 入力される情報か、出力される条件がなければ、椎苗は役立たずだ。
 腹立たしいが、この少年に『使われてやる』しかないだろう。

「お前の頭なら、それなりの使い方くらい思いつくでしょう。
 期待はしてませんが――それくらいの能力はあると評価してますから。
 余計な情は抜きにして、お互いに『利用』し合うとしましょう」

 ふん、と鼻を鳴らして歩き去っていこうとする。
 これ以上ここで話す事はないとでも言うように。

神代理央 >  
「………沙羅には、後で連絡しておく」

帰って来ないで働いている、とは流石に思わなかった。
深く溜息を吐き出して、僅かに項垂れるだろう。

「……分かった。此方で得た情報は、随時お前に送るとしよう。
どのみち、他に動いている者とも一度情報共有をしなければと思っていたところだ。散らばった情報の統合と精査は、お前に任せようと思う」

「……『クズやろー』に対して、過分な評価を頂けて光栄の限りだよ。では、その評価に答えられる様に、御互い利用し合うとしよう。
互いに『道具』として、最善の効果を出せる様に努力しようじゃないか」

歩き去る少女を見送りながら、その言葉に応えよう。
恋人の『母親』に認められるのは、まだまだ遠そうだ。
それに、此方も捜査を進めたいところではあるし――先ずは恋人に『余り根を詰め過ぎない様に』とメールを入れておこうか。

そうして少女を見送った後。
此方もまた、信徒を失い、座する神が掻き消える様な修道院を後にするのだろうか。

ご案内:「宗教施設群-修道院」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」にリタ・ラルケさんが現れました。
リタ・ラルケ >  
 ここ最近、妙な噂がある。
 異邦人街の一角、修道院。そこに住むシスターが行方不明であると。

 曰く、違反部活動による誘拐。曰く、ただの外出。曰く、自らの意志による失踪。
 噂話好きの人間にとって、この手の話はやはり興味をそそられるらしく、様々な憶測や勝手な推理――勿論証拠や根拠となるものは一切ない――が飛び交っていた。

 しかしリタがその話を聞いたところで――それほど大きな心の動きはなかった。
 顔も知らない他人である。話したこともなければ、行き会ったこともない。件のシスターと自分に、繋がりなど一切ない。
 故に、そのシスターが行方不明だからといって、困るわけでも心配するわけでもない。

 ではなぜ、放浪の末に自分がここにいるのか。
 あけすけに言ってしまえば――偏に、単純な興味だった。
 もとより、異邦人街に興味はあった。近いうち、機会があれば訪れてみようかと、そう思っていた。
 そこに、例の噂話である。
 修道院のシスターが失踪。様々な憶測が飛び交う中――その話の中心となる修道院。異邦人街に行く"ついでに"――渦中の修道院を"ちょっと覗いてみる"くらいの心持ちであった。噂話など、畢竟自分が異邦人街に行く言い訳に過ぎなかった。

リタ・ラルケ >  
「……」

 ――自分が修道院にたどり着くと、そこには何もなかった。
 正確には、綺麗に整った修道院の設備――恐らくはここにもともとあったものだろう――以外には、人の気配も、ここ最近、この施設が使われた形跡も、何もありはしなかった。
 ドールハウスを手入れして、そのまま飾っておくように。
 外観が整っている――それ以外に、この修道院には何もない。

「……思ったより、寂しいんだ」

 そう呟く声も、静謐に溶けていく。
 紛れもなく――今ここにいるのは、自分だけ。

リタ・ラルケ >  
 もとより、修道院という場所は、歓楽街のように喧騒に包まれるような場所ではない。どちらかと言えば静かで、心を落ち着けるような場所だと――そう思っていた。
 だというのにこの静かさは、もはや限度を超えている。

「……ん」

 つと、気づく。辺りに漂う精霊たちの雰囲気に、なんだか違和感を感じる。
 どうしてだろうかと。少し考えれば、答えが出た。

「……まさか、寂しがってるの?」

 修道院に限らず宗教施設というものは、人が作り出したとはいえ紛れもない『聖域』の一つである。清浄無垢である聖域には、"光"の精霊がよく集まってくる。実際、この辺りに集まる精霊たちは、光の精霊が大多数を占めている。
 そんな光の精霊たちが、なんだか元気がないように見えた。
 寂しい。悲しい。言葉こそ聞こえないものの、なんとなく自分はそんな雰囲気を感じ取っていた。

リタ・ラルケ >  
 前提として、精霊は気ままなものである。自然という世界のシステムそのものに存在する彼らは、人ひとりがいなくなったとて、何かあからさまに態度を変えるようなことをしない。
 そんな精霊たちが、落ち込んでいる。多分それは、この修道院の主――即ちシスターが、いなくなってしまったから。
 それは、ただ単純にこの聖域が維持される可能性が低くなったからか、もしくは――。

「……」

 ふう、と溜息を吐いた。
 シスターがどうなっていようと、自分は何もするつもりはなかった。関わりのない他人だから。どうしようとも思わないし、思ったところでどうしようもない。
 その気持ちに、変化はない。が。

「……集中――纏繞」

 ――せめて、この精霊たちが祈る場くらいは、作ってやろうかと。

リタ・ラルケ >  
「……」

 修道院の前で、手を組み、目を閉じる。

 中に入ろうとは、思わない。
 祈りの仕方を、私は知らない。ここがどんなところであるのかも、詳しくは知らない。畢竟部外者である私が、みだりに踏み入っていいものではないと――そう、感じていた。

 所詮、格好だけである。大体こうではなかったかと、半ばうろ覚えの形を模倣するのみ。祈りを捧げるとはいっても、神の御許にこの祈りなど届いてはいないかもしれない。
 だけど、それでも私は。
 彼のシスターの無事を――祈らずにはいられなかった。

「……どうか、無事でいてください……」

 願いを、祈りを。拙い言葉で、神に捧げる。
 願わくば、これが。
 何事もなく、終わるようにと。

ご案内:「宗教施設群-修道院」からリタ・ラルケさんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」にオダ・エルネストさんが現れました。
オダ・エルネスト >  
この修道院の管理者が不在で数日になる。
買い出しに行ったりなんなりしてる間に、誰かが来たような様子はあったが……。
運悪くすれ違っているらしい。
マリーが帰ってきていれば、まあ、なんか置き手紙とかあるだろうし。
彼女の布団を借りて寝泊まりした身としては夜に誰かが来れば分かるかなぁと待ってもいたのだが。


「……施療院の方に寝泊まりしてるのかも知れんが、一度は帰ってきてもいいような気はする」


鍵をかけに来るくらいはした方がいい。
魔術を使えばかけれないこともないだろうし、居住区を探せば合鍵くらいはあるかも知れん。

そんな風に黒い祭服をまだ来たまま青年が唸る。

しかし、そうして彼女を捕らえて"得する"ことはあるのだろうか。
個人的に思考してみてもない。

彼女は異邦人だとしても、正規学生の一年だ。
いくら放浪癖があり、あっちこっちなんでも手を伸ばすような損な性格をしてようと……あーなんかやっぱ単純に面倒事に捕まって帰ってきてない、そんな予測になる。

「どうしたものか……」

ここでボーッとするのも割と暇なところではある。

ご案内:「宗教施設群-修道院」に日月 輝さんが現れました。
日月 輝 > 跳んで、飛んで、足を棒にするまでも無く異能を十全に用いて数日。
もしかしたら、ひょっこりと戻ってきているんじゃあないかと、期待をしなかったと言えば嘘になる。

「どうしたものかしら……」

あれからマリーは登校していない。
施術院の方にも顔を出していない。
明さんの言葉を疑う訳では無いけれど、いよいよと誰かに誘拐された説が色濃くなろうもの。
あたしには使えるコネが多くない。
当たり前よね。ただの学生で、ただのマリーの一友人だもの。
こうして悩んで、もう一度現場を見ておこうと立ち返って

「………あ?」

その修道院の中に、何処かで見たような誰かを視止めて、アイマスクの裏の視線が尖る。
確か、BBQの時に居た男だ。

「……アンタ、何してんの?」

自然と、声が尖る。

オダ・エルネスト >  
誰かが来たようだ、と黒川装丁の本を手に両腕を広げて歓待すればオダもそちらのことを思い出したのような雰囲気を出す。

「やぁ、確かBBQの時にいたマリーと親しげだった子か。
 覚えてるかな? 星条旗柄の格好をしていたんだが……少し地味だったか?」

ホッとしたような雰囲気で、よかったよかったと笑みを浮かべる。

「あの日はアルコールを入れていたのもあって、
 すまないが、君の名前をちゃんと覚えてないみたいだ。
 紳士としては、失格かな?」

ハッハッハッハ、と軽く笑った後に、一息ついて腕を下へ下げた。

 一転、真剣な顔と声色になる。


「何かと言われれば、家主が鍵もかけずに不在だったので不用心だと思ったのでな。
 留守番というところだ」

日月 輝 > 憶えているわ。アメリカ色の鷹揚な彼。
明さんの言っていたように"落ち着いて歩く人"。
彼女は言っていた。室内に争った痕跡は無いと、つまりは、顔見知りであると。

──こいつか。

「……」

笑う男に一歩、踏み込む。"体重はかけない"
そのまま、"体重をかけて"跳ぼうとして、その直前。
男の一転した様子に踏みとどまる。──とても、案じたように見えたから。

「……そうよね、不用心よね。でも……どうして貴方が留守番を?」

踏み止まって、普通に歩いて、彼に近づき言葉を重ねる。

「自主的に?それとも、誰かに頼まれて?」

アイマスクの裏の視線は、品定めるようなもの。

オダ・エルネスト >  
どうして、そんなの決まっているだろう。

「どうして、か……。
 『あんなバカ/戦友』でも帰ってくる場所が荒れてたら嫌だろう。

 だから、勝手にここを守護ってやろうと思っただけだよ―――」

とそこまで言って不敵な笑みを浮かべて続けた。

「――私は、強いからな」

不遜に言い放つ。 慢心から無防備なのか。
それでも自信に満ち満ちた声を響かせて、瞳を煌めかせる。


「今の私に出来るのは、彼女の帰る場所を守護ることくらいだ」

日月 輝 > 深呼吸をする。
彼ではないな、と思う。
よく、推理小説なんかでは犯人は現場に戻るなんて言われるけれど
そうであるなら、帰ってくる場所云々とは言わないものよね。
彼、確か。ええと、オダ何某さん。その言葉からしてマリーが数日不在な事を知っているみたいだし。

「御人好しね貴方──ええと、オダさん、だったかしら。
 お名前はお気になさらず。あたしもウロ覚えだったから。
 改めましてあたしは日月輝。お日様の日にお月様の月でたちもち、輝くと書いてあきら」

改めての自己紹介をし、もう一度呼気を吐く。
所謂"殺る気"というものはそれでおしまい。
この島において不遜な物言いが出来るというのなら、彼もきっと、一角の異能者であるのだから。
──明さんに曰く、卓越した魔術者か異能者が犯人。ともあるけれど。

「それで、守護ると仰るオダさんはさだめし腕に自信があると思うのだけど
 空間移動系の異能や魔術を得意とされていて?」

視線は彼の持つ黒革装丁の本へと向く。アイマスク越しであるから彼には判らないかもだけど。
違和感を少し感じるけれど……あれは、魔術書かしら?