2021/01/17 のログ
■リタ・ラルケ >
お礼をされると、なんだかくすぐったい感覚。
「あんまりそう感謝されると……なんだかくすぐったい、な。私は何もしてないし」
自分がやったことといえば話を聞いただけで、何か特別なことをしたということもない。
畢竟二人の関係がこうなったのは、紛れもなく二人の絆の賜物といったものだろうと思っている。
「ん。それじゃあ料理、遠慮なくいただきます。ジュースもどうぞ」
そう言って鞄から取り出すのは、少し大きめの紙箱。
それを開けてみれば、中からは鮮やかな液体の入った瓶が、計三本。サイズはそれなりに大きめである。
「これがりんごで、これがオレンジ。それからこれが、洋梨だね。どれも味は保証するよ。まああまり保つものじゃないけど……まあ、心配しなくても大丈夫かな」
ちらりと、隣で肩を寄せる親友の姿を見ながら。距離は近いように思えるけれど、そう満更でもなく、嫌がる様子なく受け入れる。
「どれもあまり見かけない料理だから……えっと、おすすめは何?」
と。二人にそう聞いてみる。
■サヤ > 「話を聞くだけでも人は助けられるものです、思いを言葉に出すことで自分を知ることも出来る。抱えるばかりでは解決されませんからね。
だから、やっぱりリタさんは私達を助けてくださったのです。」
助言するばかりが手助けではない。相談出来る相手であるだけで十分な時もある。今回はそうだったのだろう。
「では迦具楽さん、お好きなものをどうぞ。」
とジュース選びはまず迦具楽に任せる。どれが残っても自分は飲めるし、サヤにとって最優先は迦具楽の好みである。
そして、おすすめを聞かれると、徐にソファの上から降りて、わざわざリタの反対側、迦具楽の隣に詰めてきて。
「そうですね、あまり気にしなくても良いのですが、お寿司を食べるのでしたら、まずは白身魚と言われています。
こちらのブリは丁度旬ですし、おすすめです。わさびはネタの上に適量付けてお食べください。」
醤油を二人の前の小皿に垂らし、自分の席から持ってきた箸でブリの握りに、迦具楽の好みの、結構な量のわさびを乗せて。
「はい、迦具楽さん、どうぞ。」
両手が塞がっているのを見逃さず、口元へ運んでいく。
■迦具楽 >
「そうだよ、リタが話を聞いてくれたから、自分の気持ちとか整理出来たりしたしさ。
サヤとのことなんか特にそうだけど、プレゼントは私だけだったらギリギリまで悩んでたと思うし。
リタが一緒に選びに行ってくれたから、ちゃんとプレゼントできたんだよ」
そう、実際に話を聞くのもそうだが、行動でも助けてもらっているのだ。
感謝はいくらしても足りないところがある。
「ん、それじゃー、オレンジをもらおうかな――お?」
隣にやってきたサヤに顔を向ける。
二人の間にぴったりと挟まれていた。
サヤもまた、距離が近い。
「ん、あーん」
小皿と箸を手に持ったままなのもあって、差し出されたブリの握りにそのまま食いつく。
すっかり、こうして食べさせてもらうのにも慣れてしまったものだ。
■リタ・ラルケ >
ほーお、と。ある種感心したような心地にはなった。
なるほど嫉妬深いとは聞いていたけれども。わざわざ席を立って迦具楽の隣に来た辺り――なるほどこういうことかあ。
「それじゃあ改めて、いただきます」
サヤが迦具楽にお寿司を食べさせてもらってるのを横目で見ながら。邪魔しないように。
「――っ。……ん、美味しい」
わさびの辛みが来て、少しだけ涙が浮かぶけれど――お勧めしてくれただけあって、美味しい。
生魚は初めて食べたときこそ少し抵抗はあったけれど、その美味しさに気づいてからは好きな食べ物の一つである。
「……初めて見たけど、聞いた通り仲がいいんだねえ」
からかうように言う。
そうは言えど内の心は、一番の親友が、少しだけどこか遠くに行ってしまったような――少しだけ、だけれど。
■サヤ > 見透かされているとは気付かず、必要なのでこちらに来ましたと言わんばかりに清まし顔。
「では、リンゴをいただきます、ありがとうございます、リタさん。」
迦具楽の分と自分の分を受け取って。自分の湯呑にリンゴジュースを注ぐ。
「乾杯、ですね。」
こつん、と控えめに湯呑を合わせて。
「お口に合ったようで、良かったです。同じ異邦人、といっても文化は様々ですからね。この世界の中でも色々と違いますし。」
生魚を食べるのはサヤとこの島、日本の文化圏では当然のことだが、国を巡っていくうちにそれが少数派なのだと知って驚いたものだ。
持ってきていた取皿に、迦具楽の作った真っ赤な麻婆豆腐をすくって、箸で食べ始める。
「うん、美味しい…。迦具楽さん、また腕を上げましたね。」
舌が痺れるような辛味がたまらない。普通の人間なら水分を求めて湯呑を飲み干すだろうが、サヤは平然としている。
「……ちょ、ちょっと、迦具楽さん、私のことどんな風に伝えたんですか…っ。」
取皿と箸を置いて、赤くなりはじめた頬を押さえて、恥ずかしそうに。
リタの何気ない一言は激辛料理よりも効いたようだ。
■迦具楽 >
「ん、乾杯」
こつんと応えて、自分はオレンジジュースを飲む。
柑橘の爽やかな酸味と、特有の甘みを感じる。
ちょっと高級な果実ジュースを飲んだのと似たような気分だ。
「んー、これ美味しいよリタ!」
良いジュースだった。
親友にこんなスキルがあったとは、と感心する。
「んー、そうかな? サヤが上手だから、色々参考にしたりはしたけど。
――え、別に変な事は言ってないよ?
サヤが可愛くていい子なんだよって話はよくした気がするけど」
特に、サヤの悪評に繋がるような事は言った覚えはない。
なので、サヤの反応に首を傾げた。
が、リタがさっと自分で食べてしまえば、「あーっ」と声を上げた。
「もー取ってあげるって言ったのにー。
あ、じゃあほら、これこれ、ヒラメとかどう?
ほらほら」
そう言って、ひらめの刺身を箸で取って、小皿の醤油を少しつける。
それから、楽しそうにリタの口元へと運んでいった。
■リタ・ラルケ >
「乾杯」
呼応して、カップを当てる。そうして自分のカップに注いだ洋梨のジュースを頂いて……うん、美味しい。自然のままじっくりと精霊の恵みを富ませたものならば、これ以上によくなるのだろうけど。ひとまず安心。
迦具楽からもお墨付きを貰ったし。
「うんまあ、そんな感じだね。というより、迦具楽がそこまで言うのはどういう子なんだろうな、っていうから会ってみたくなったわけなんだけど」
はたしてサヤのことを迦具楽がどう言っていたかについては――惚気話ばかり、ということに留めておく。
とにかく確かなのは、迦具楽が本当にサヤのことを大事に思ってるのだと。
故に、親友にそうまで言わせるひとが、どういうひとなのかというのが、今日ここに来た発端ともいえる。
結果は、まあご覧の通り。
「いや、二人が仲よさそうだからつい? まあでもそれじゃあ、あー」
口元に運ばれるヒラメの刺身。さほど抵抗も躊躇いもせずに、口を開けて受け入れる。
……サヤ、こういうとこ見て大丈夫かな、と。そういう危機感は、少しだけあるけれど。
■サヤ > 少し遅れて湯呑に口をつける。甘酸っぱい中に芳醇な香り。自分で作った、と言っていたが下手な既製品よりずっと質が良い。
「美味しい……すごいですね、これをご自分で作られたんですか……。」
静かに感心する。素人でもわかるこれだけのものをごく自然に出してくるその態度にも。
「は、恥ずかしい……迦具楽さん、他の方には言いふらしてませんよねっ?」
迦具楽はわざとからかうこともあるが、それと同じぐらい自然にサヤを恥ずかしがらせる。
もし既に迦具楽の交友関係にサヤとの惚気話が回っていたら、穴を掘って入っていたくなる。
ぺちぺちと自分の頬を叩いて赤く熱くなっていくのを感じる。
「そ、そんなつもりは、ただ、その、迦具楽さんの両手が塞がっているから、私が代わりに食べさせてあげただけです。」
取り繕った言い訳も、やたら早口で明らかに嘘だとわかるだろう。
そして、リタがヒラメの刺し身を口にすれば
「あ、ずるい…っ」
本心がこぼれ出て、すぐに自分も大トロの握りにわさびをたっぷり乗せて醤油皿へ。
「ささ、迦具楽さんどうぞ。」
本来なら一番良いところは客人へ出すつもりだったが、なりふり構わなくなってきた。
■迦具楽 >
「ねー!
凄いよね、リタってまた小さいくらいなのに、いろんなこと出来るんだよなあ」
ジュースの出来もそうだが、それ以外にも年齢のわりに身に着けているスキルが多いような気がしている。
一体どんな暮らしをして来たんだろうか。
今度また、二人で遊びに行ったときにでも聞いてみようかと思い。
「そんな、言いふらすような事はしないよー。
話してたことだって、そうだなぁ。
私が、サヤにリタの事を話してたのと同じくらい、じゃないかなあ?」
つまり、客観的に言えばかなり惚気ていた、という事になる。
親友には恋人の惚気を、恋人には親友との惚気を聞かせていたわけだ。
「どうどう?
美味しい――んえ、あーん」
リタに感想を聞こうとしているうちに、サヤから次の握りを差し出される。
ぱくり、と食べると、ワサビのツンとする刺激が鼻に抜けて少しだけ目が潤んだ。
しかし、しっかりと脂ののったネタは旨味が強い。
「んんー、これも美味しいなあ。
サヤってば捌くのまた上手くなったんじゃない?
ほらほら、リタもどう?」
そして今度は大トロをとって、リタに差し出していく。
当たり前のように繰り広げられるあーんの応酬だった。
■リタ・ラルケ >
精霊は――こちらで一般に言われている"精霊"とはまた違うものだが――基本的には自然物である。
そしてそれを取り込むというのは、自らも自然物と一体となるといえなくもない。
しかしてそれを応用すれば、このように自然に生まれる植物などは――そしてそれをそのまま使ったものならば、労力と魔力をかけさえすれば作り出すことも難しくないのだ。
「自然に関わることなら、ね。ちゃんと時間をかけられればもうちょっといいんだろうけど」
裏を返せば、それ以外のこと――つまり、加工など人の手を加えることについてはあまり得意でなかったり、わかりやすいのは機械の扱いがてんでダメだとか、人工物にはすこぶる弱い。それに、自分の中で経験のないことだってたくさんある。
それに、例えばこのジュースだって"ちゃんと"作るならば、それはやはり能力とは別に時間と設備がいる。寮で暮らしている限りは難しいだろう。
本来ならこだわりたいところだが、妥協せざるを得ない。難儀な話であった。
躊躇いなくヒラメを食べた自分の姿に慌てるサヤを見て、うんうんと頷きつつ。
「そっかあ」
おっもしろいなあ、この子。見たところ年上だとしても、そう思ってしまう。嘘が吐けないタイプというか。自分に正直なところというか。なんというか、ついからかいたくなってしまうというか。
「あー……んっ。……美味しい。サヤ、料理上手なんだね」
しかしてそのすぐ後に迦具楽から差し出された大トロを頂いて、一言。見た時からそう思ってはいたのだが、実際に味わって強く思う。
ところでこれ、いつまで続くのだろう。サヤは大丈夫なんだろうか。色々な意味で。
■サヤ > 「自然に関わる……となると、素材の果物が上質なんですね。じゃあ野菜の育成もお得意なんでしょうか。」
最近の、というより島に戻って来たら迦具楽はすっかり畑作りが趣味になっていた、その縁で友人になったのだろうか?
「け、結構、その、言ってるじゃないですか…っあんまり、ええと……でも、褒めてくれるのは嬉しいですけど……ほ、ほどほどに、してください。」
自分より10近く年下の少女にまでからかいたくなる、なんて感想を抱かれているとはつゆ知らず。
怒りながら照れるという器用な顔をしながら、迦具楽が運ぶのに負けるまいと、雛鳥に餌を運ぶ親鳥のようにせっせと迦具楽に寿司やおせち料理を与え続ける。
「その、幼い頃、道場で門下生や師範の食事の用意をしていましたから、いつの間にか身についたまでですよ。
それに…ええと、迦具楽さんが美味しいって言ってくださるので……やっぱり、気合が……入って………。」
箸が止まる、自分も随分恥ずかしい事を言っているのと気づき、顔を更に赤くしてうつむいてしまう。
■迦具楽 >
「そっかー、それなら後で、うちの畑とかも見てもらおっかなー。
――っと、そうそう、コレ今年採れたカブを、サヤが漬けてくれたんだけど、どうかな?」
なんて言っていたら、次々とサヤから料理を運ばれて、喋るどころじゃなくなってしまう。
もぐもぐ、としっかり味わいつつ、とりあえず手は空いてるので、皿に料理をいくつか取って、リタに渡した。
「――んぐ、ちょ、ちょっとまって。
そんな休みなしに差し出されても、そんな食べられないって」
などと、普段ならありえないような言葉をぽろりとこぼした。
■リタ・ラルケ >
「野菜よりは花の方が得意だけど、まあできると思うよ。畑も……見せてくれるなら、ちょっと見てみるけど」
乱暴に言ってしまえば、野菜と花の違いなど実を人間が食べるかどうかの違いである。元気な植物を育てるという意味では、どちらもそうやることはそう変わらない。
そして畑はといえば、庭にある畑のことであろう。しっかりとは見てないからわからないけれど、親友が丹念に育てている畑を見るのも少しだけ楽しみである。
「……食べられない?」
しかし食べさせ合いをしているその最中、迦具楽から料理を受け取り――つと迦具楽のこぼした言葉が引っかかった。迦具楽はといえば、それこそ底なしともいえるような胃袋の持ち主である。
そんな彼女が、「食べられない」という言葉をこぼすのは――それはもはや、一つの事件ではないか。
■サヤ > 「野菜作りは私もやっていましたけど、違う世界のものなので、あまり迦具楽さんをお助け出来ないんですよ。」
名前や姿が似ている野菜があっても生態が違っていたり、あるいは全く知らないものがあったり。
ある程度慣れてきたが、今も迦具楽の指示がなければあまり畑を触れない状態だ。
「……えっと……え、食べられ……。」
取り落しそうになった栗きんとんを、なんとか自分の取皿に置いて。
「それは………えっと、どういう………?」
咄嗟に思いつく可能性は2つ、迦具楽の体がまた何か変化していることと、考えたくないが、サヤの料理が食べ続けるに耐えない、ということ。
「あの……ま、ま、さ、か……っ…私の…料理………。」
考えたくない、考えたくない、そう思えば思うほど、悪い方へ悪い方へと思考が向かってしまう。
口元を抑え、自分を押さえ込むように、ひどくゆっくりと深呼吸を繰り返している。
■迦具楽 >
「サヤも色々手伝ってくれるんだけどね、やっぱり細かいところで違うみたいで」
それでも、少し手伝ってくれるおかげで随分助かるし、なにより同じことを一緒に出来るのは楽しいからよいのだが。
それはそれとして、よりいい畑にしたいから意見が欲しいというのはあるのだ。
「――んえ、あれ、言ってなかったっけ?
最近さ、あんまり食欲がないっていうか、お腹がすかないんだよねー」
驚いている様子の二人に気づくと、うーん、と首を傾げながら言う。
とはいえ、見た目に体調が悪い様子も見えないだろう。
「とりあえず、サヤの料理は美味しいし、大好きだから安心してね?」
このちょっと過剰な反応にも慣れたもので、安心させるように頭を撫でた。
「んー、調子はむしろいいんだけどね。
それに食べるだけなら、多分、量はこれまで通り食べられるんだけど。
ただこう、気分的にお腹いっぱいになっちゃうっていうか」
自分でも不思議なのか、二人の間に挟まれて、腕を組んだまま、「なんだろうね?」と気楽そうに言った。
■リタ・ラルケ >
「まあ私もちゃんとした畑はあまり弄ったことはないから、あまり口を出すのもどうかと思うけど」
具体的な野菜の育て方というよりは、土壌だとかそういった方面で意見を出すことになるだろう。基本的に、環境を整えて、人の手を加えるのは最低限に留めるというのが自分のやり方である。
もちろん、雑草なんかはちゃんと取り除いてはいるが。
「……ふうん?」
迦具楽の身体構造に変化が生じたか、あるいは本人に自覚がない体の異常か。
後者であれば問題なのだが――少なくとも見た目、体調が悪そうには見えない。むしろ愛するひとの言葉に取り乱しかけているサヤの方が問題のように見えた。ヤバいようならどうにかすべきかと思うが、大丈夫だろうか。
「……調子がいいなら、あまり言うこともないかな」
体の構造とか、それこそ医学なんかについては、畢竟素人である。まして人とは少し違う迦具楽の身体を、己がこうだと言えるわけもない。
「だけど何か、おかしいことがあればすぐ言って?」
かといって何もしなくていいか、何もする気はないかと言われれば、それはまた別の話である。
自分にできることは、最大限すると。そういう意を込めて。
■サヤ > 「は、初耳ですよ。そんな大変なことが起きてるのに……何で言って…っ。」
言われてみればどんぶりご飯をお代わりする回数がここ最近減っていたような気がする。
それでもサヤよりも食べる量は遥かに多いし、間食でもしていたのだろうかと気にしていなかったのだが。
何も言ってくれない迦具楽へのどうして、という気持ちと、気付けなかった自分を恥じる気持ちが同時に湧き上がってくるが、それも頭を撫でる温かい手と慰めの言葉に和らげられれて。
「体調がいいなら、すぐに問題はないでしょうけど……心配です。でも、どうしたらいいんでしょう…。」
迦具楽が普通の人間人なら病院へ行けば良い、だがそうではない上に身分の問題もある。
不法入島者で殺人歴もある迦具楽を島の公的機関に任せるわけには行かない。
かといってサヤも医学は素人だ。結局結論はリタと同じ。
「私にも言って下さい。というかそもそも、そんな変化があったならなんで一番に私に言ってくれないんですか。
一緒に暮らしてる家族じゃないか、それを…黙ったままでいるなんて……酷いです…。」
組んだ腕の、こちらに向いている手を両手で握る。それはまるで病人の手に縋るようで。
迦具楽の体と精神の変化は4年前と比べて著しい。
路地裏の怪異であった頃ならこんな風に穏やかに暮らすことは出来なかっただろう、だが喜ばしいものばかりではない。
不死性は薄れ、人間に近づいている。それはつまり、ふとしたことで命を失う可能性を示唆している。
それがサヤには何よりも恐ろしい。
■迦具楽 >
「え、う、ごめん」
サヤに弱られると、どうしていいかわからず、頭を掻いた。
少し食欲が減っただけで、困っていないからとあまり気にしていなかったのだ。
「年末くらいからかなぁ?
なんだろ、昔沢山、人間を食べた時と同じ感じっていうか。
満足するまで食べた後、って感じだから、心配いらないと思うよ、うん」
サヤの手を握り返して、平気だよと笑い。
「でも、また何かあったらすぐに言うね。
いつも心配してくれて、ありがと」
迦具楽は変なところで鈍感だ。
とりあえず困っていなければ、後回しにするような癖もある。
だから、こうして気に掛けてくれる相手が近くに居てくれるのは、とても心強い。
「リタもありがとね、大丈夫だとは思うけど――困ったらすぐ連絡するからさ。
その時はうん、頼りにさせてね」
そうして、リタの方にも感謝しつつ、笑い返しながら。
さて、今うっかり、人間を食べたとか言ったような気がしたが。
彼女にはどこまで話していただろうか。
■リタ・ラルケ >
「……体のことは、何ができるかわからないけど、ね」
そういうところで、自分は無力だ。やるせない気持ちをどこか感じられずにはいられない。
さて、それはともかく。
「ところで、迦具楽。昔人を食べてた、とか言ってたけど」
まあ、それを聞いて一瞬身構えてしまったことは否定しない。いくら親友といえど、流石に食人とかそういうのは、あまり聞いていて気持ちのいいものではない。
だけれど、本人が昔というからには。そして現在、人と同じ食べ物を食べて満足している姿を見ているからには、そういう意味で心配はしていない。
だけど一つ、聞きたいことがある。
「ということは、さ。前に何度か言ってた、『美味しそう』だとかなんだとか。あれ、何かの例えとかじゃなくて食欲的な意味での話だったの?」
もしそうだとしたら、その言葉をどう受け止めたものか、もう一度考え直さなくてはいけなくなるが。
■サヤ > 「熱量が十分に貯蔵できていて、それでお腹いっぱい、ってこと、なんでしょうか……。
消耗も少なくなるように体が変わってきて、それで……?」
それなら生物として自然な反応だ。今までずっとお腹が空いていて、それが満たされたというだけ。
そして使う用途がなければ―サヤの知る限りではそう大量に熱量を吐き出すような行動を最近はしていない―浪費を抑えようとする。
そして、聞き捨てならない言葉。
「"美味しそう"……?それは、迦具楽さん、そんなことリタさんに言ってたんですか…?どういう意味なのか、私も聞きたいんですが……?」
握りしめる手に力が籠もる。サヤは見た目にそぐわない筋力を持っている、答え次第ではそれが発揮されるだろう。
じっとりとした視線が迦具楽に突き刺さる。
■迦具楽 >
「多分なにかでお腹いっぱいになったんだろうけど、なんでだろうね?」
そこに関しては、迦具楽も不思議で仕方なかったのだ。
原因が分かれば。
今後の生活が随分と楽になるかもしれないのだが。
「え、あー――それは、その」
そして、双方から、別の意味で視線を向けられ、狼狽えたように目を泳がせる。
「うん、その、そのままの意味というか、はい、会った時から甘くて美味しそうだなーって思ってました。
ああでも、今は表側のヒトには手を出してないし、リタを食べようとか思ってないよ!
その、落第街では時々、食べたりもしてたけど」
と、ここで誤魔化すこともなく正直に言ってしまうのである。
怖がられたりしないだろうか、と、不安な気持ちがないわけではないが。
そして、それはそれとして、反対からの視線の圧力も、ちょっと怖い。
「えっと、うん、美味しそうって言いました。
そのー、甘い匂いがするし、正直、最初は食べちゃいたいって思ってました。
でも最初だけ、最初だけだからね?」
そんな、まるで言い訳をするかのように、サヤへ向けて言葉を並べた。
■リタ・ラルケ >
「……んー」
思うところが、ないわけではないけど。
それが迦具楽という存在であり、そうでしか存在を維持できなかったとしたならば、それもまた自然の節理の一部である。
人間だって、他の生き物を喰らって生きている。なれば人間を喰らって生きる存在だって、おかしなことではない。自然というものに生きる以上、人間だけが特別ではないのだ。
もちろん、だからといって食べられるのは御免だが。
「……まあ、そうだね。迦具楽やサヤと会えなくなるのは、嫌だし。できればそのままでいてほしいかな」
ところで、"木"を纏繞したとき、精霊の影響で自分は花の甘い香りを漂わせることになるのだが。
もしそうなった場合、どうなるのだろう。怖いもの見たさにも似たものがある。もちろん食べられそうになったら全力で抵抗するが。
「――だからサヤも、あまり手荒なことをされると、その、困る。それで迦具楽に何かあったらやだよ私」
主に罪悪感が。
いやに圧力の籠った視線が迦具楽に向けられているのを感じて、そっと付け足すように言う。
■サヤ > 迦具楽の食人癖については、もうそういう生き物なのだと知っている。
戦国の世、武力、権力、そういった力が全てを支配する世で生まれ育ったサヤにとっては、食べられる側が悪いとまではいかなくても、逃げられない、抗えない存在が殺されるのは当然のことだ。
しかし……。
「できれば私の料理だけで満足していただきたいのですが……。」
正直な気持ちを呟く、それは被害者が可哀想というものもあるが、何より迦具楽の食事を全て自分が担いたいという独占欲。
そして落第街での風紀委員の派手な動き、それは異邦人街で暮らしていても漏れ聞こえてくるほど。
それに迦具楽が遅れをとるとは思えないが、日々の食事が命懸けというのは止めて欲しい。
「そういうことなら、大丈夫です。」
握る、を一歩通り越して握り潰すになりかけていた手の力を緩め、いたわるように撫で擦る。
食事としてではなく、婉曲表現として美味しそうという意味を危惧していたが、そうでないのならば迦具楽を痛めつけるような真似をする必要はない。
「でも困りました、迦具楽さんの食欲を今までの基準で作ったので、お腹いっぱいとなると余ってしまいますね。」
今までの迦具楽で満腹になるように考えて作った量を、食欲が減退した迦具楽では無理をして食べさせることになるだろう。
「包みますから、リタさん、お帰りの時にいくらか持っていっていただけますか?お寿司は足が早いのですぐ食べていただく必要がありますけど、おせち料理は日持ちしますので。」
■迦具楽 >
「――よかったぁ」
どっちの反応に対してか、ほぅ、と息を吐いて呟く。
「最近はちょっとだけ、ね。
古巣が荒らされてるから、余計なんか、気に入らなくて。
気を付けるね」
サヤの言葉に含まれた意味。
独占欲についてはともかく、元々裏側に居た住人同士の勘で伝わる事もある。
気をつけはするが――それはそれとして、気に入らないものは気に入らないものなのだった。
危うく握りつぶされそうだった手が無事なのに安堵しつつ。
「それもそっか、作ってるときに気づけばよかった――バカだなぁ」
自分の食事量が人間基準では異常であったりとか、自分の体調変化とか、意識しなさすぎたおバカさんであった。
「あ、そうだね。
寮の友達とかと一緒に分けてもらってもいいし、良かったら持って行ってよ。
誰かと一緒にご飯食べるって、楽しいしさ」
ね、とリタに笑いかけつつ。
「で、それはそれとして、少しずつ食べながら色々話しとかしようよ。
中途半端なのも、なんだか不安にさせそうだし、私の事とかちゃんと知って貰おうかなーとか。
サヤには、私とリタの事とか、知ってもらったりとか。
サヤとの事は――なんかもう、大体話しちゃってる気がするなぁ」
なんて言いながら、手を伸ばしてエビを口の中に放り込み。
「まあ、私も自分の事ってあんまりよくわかってないんだけどね。
それでもさ、リタにはきっと知ってもらってた方がいい事もあると思うし」
万が一、という事はきっとないとは思っているが。
知らないと身を守れない事というのは多々ある。
まあ単純に、また親友と思える相手に出会えたのだから、自分の事を知って欲しいという気持ちが強かったりもしたが。
■リタ・ラルケ >
「いいの? だったらありがたくいただく」
願ってもない申し出だった。サヤの作った料理はどれも非常に美味しくて、すっかり自分も胃袋を掴まされてしまった。
そんなサヤの料理を持って帰れるというのは、それだけでも魅力的な提案である。
「代わり、ってわけじゃないけど。ジュースは置いておくから、二人で好きに飲んじゃっていいよ。あまり保たないから、早めに飲まなきゃだけど」
もとより二人のために作ったものであり、余れば置いていくつもりではあったけど。
「……そうだね。まだ、帰りたくないし。もっと二人のことは知りたいから」
迦具楽のこともそうだけれど――それと同じくらい、サヤのことも。
もう「顔も知らない、親友の大切な人」ではなく。自分にとっては「大切な友達の一人」なのだから。
――自分の過去についてだけは、まだ少しだけ、置いておきたい。あまり話して気持ちの良いものではないし――何より、"未だ自分でもはっきりしないところがある"。
……いつか、それも含めて。ちゃんと話せる機会はくるだろうか。
「――だからまあ、もうちょっとだけ、お邪魔してます」
ただ、今は思う。大切な二人のことを、もっと知れればいいなと。
そして、今ここにいる、自分のことも。もっと二人に知ってほしいと。
■サヤ > 「あなたの家はここです。立ち上がるのはここが荒らされた時にしてください。」
ぴしゃりと言い放つ。
あんなところ、と言うと住民には悪いが、帰属意識を持って欲しくない。
あの薄汚れた、血とアンモニアと腐ったものの臭い漂う路地裏を守ろうなんて思ってほしくない。
「こちらこそ、ジュースありがとうございます。気に入っていただけたなら、時折交換するのもいいかもしれませんね。」
話題が変わったことを示すように、手を迦具楽から離して、微笑みをリタに向ける。
いつの間にか飲み干していたジュースを湯呑に注いだ。
「私達について、ですか。迦具楽さんについてはいくらでも話せますよ。
馴れ初め……というか、初対面となると、その……少し、刺激が強いと言いますか……私が落第街で辻斬りをしていた頃になるんですが…。」
興味の矛先がこちらに向けば、嘘を吐くのも誤魔化しも出来ない性格故に、話し辛そうに。
辻斬りを邪魔されて、迦具楽を両断したのが初対面、その後何度か殺し合ううちに仲良くなって今は恋人で同棲しています。
改めて思い出すと自分でもわけがわからない。
「あ、い、今はもちろんやってませんからね?!というか4年前にもう止めてましたから、それでその後……。」
順序立てて話を続ける、所々迦具楽に確認を取ったり、料理を食べさせたりしながら、二人の過去について思い出しつつ。
思い返せば、随分遠く来たものだ。何もわからないまま、この島の翻訳魔法が上手く働かず、言葉すら覚束なかった学生時代。
様々な人と出会い、ぶつかり合い、そして島を出た4年間、戻ってきて、再び迦具楽と出会い、そして結ばれた。
「……本当に、色々ありましたね…。」
しみじみと呟く。
■迦具楽 >
「――はい」
ピシッと言われてしまうと、何とも云い返せない。
確かに色々と思い入れのある場所ではあるのだが、今一番大事なのは、この家であることに間違いはないのだ。
「んー、そうだねえ。
あの頃は私も今みたいな身体じゃなくて、ほとんど流体だったしなー。
斬られても平気だし、サヤもサヤで、簡単に死ぬ身体じゃなかったし」
そう考えてみると、かなりバイオレンスな出会いだろう。
そこからどうやったら恋人までたどり着くのか――説明するにはなかなか難儀しそうだ。
「もう四年前、私が生まれて五年かー。
あ、年が明けたからもう六年目になるのか。
ほんと、色々あったねえ」
同じようにしみじみとしながら、ふと笑いだして。
「そう言えば聞いてよ、サヤってばあの頃はね――」
なんて、当時のサヤの事を弄りつつ、話題に出しながら。
自分が生まれてから五年の事を振り返る。
ある日突然発生して、生きるために路地裏に住み着いた事。
ヒトを襲いながら、討伐されそうになりながら生きてた事。
いつの間にか人間を真似するようになって、何度か死んで、体が作り変わっていった事。
ここの地主で祭神で破壊神で最初の親友の、風紀委員が居た事や、その手伝いをしていた事。
違反部活と衝突したり、しながら、路地裏を駆けまわって――徐々にこの異邦人街に移り住んでいった事。
そしてサヤと会わなくなってから四年間、この異邦人街でいろんな人と接しながら人間らしく生きてきた事。
そんな話をきっと、すっかり薄暗くなるまで。
サヤと二人思い出しながら、リタという共通の友人に、話して聞かせた事だろう――。
ご案内:「宗教施設群『破壊神の社』」からリタ・ラルケさんが去りました。
ご案内:「宗教施設群『破壊神の社』」から迦具楽さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群『破壊神の社』」からサヤさんが去りました。
ご案内:「常世島共同墓地」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
今夜は、正しい意味で此の場所を訪れていた。
墓参り。こんな目的で訪れるとは、入学した時には思っていなかったが。
「……遅くなってすまない、とは言わぬぞ。
これはお前達の選択の結果だ。来てやっただけ、感謝して欲しいものだな」
特務広報部の隊員は、その任務の性質上殉職者もそれなりにいる。
しかし、彼等は風紀委員としては仮の登録であり、委員会でもその立場というものは微妙である。
また、身元不明の者が多く、死亡後に親族と連絡が取れた者は今のところ一人もいない。
だから、共同墓地に纏めて埋葬される事になったのだが。
「大人しく私の後ろに引っ込んでいれば良かったのだ。
或いは、危険だと思ったならとっとと逃げ出してしまっても良かったのだ。
…いや、それが出来なかったから此処に葬られたのだろうな。訓練をちゃんと受けぬからだ。ばかものめ」
ぼんやりと夜霧が漂う時間。
折り目の無い風紀委員の制服を纏った少年は、悪態をつきながら墓碑の前に佇んでいた。
■神代理央 >
手向けの代わりに墓碑の前に置いたのは大きな紙袋。
中身は大した事は無い。洋酒や煙草。ジュースや菓子やつまみなど。
打ち合わせの帰り道、扶桑で購入したものばかり。
「貴様らが何を好いていたのかなど知らぬ。不満があるなら私の前に化けて出る事だ。
希望もその時に聞いてやろう」
サイトウは大酒飲み。
イーグルは安い煙草を一日中吸っていた。
チャンは酒と一緒に良く焼き鳥を頬張っていた。
ルーシャはちまちまと煎餅だのかりんとうだのといった渋いお菓子を食べていた。
「全く、人材の補充もままならぬ部隊だというのに。
貴様らの葬儀代とて、唯では無かったのだがな」
微妙な立場だからこそ、公費での葬儀も申請から審査迄時間がかかる。
であれば、此方が出した方が手っ取り早い。病院で書類を出して、焼いて、此処に埋めるだけだ。
「……全く、馬鹿者どもが」
小さく溜息を吐き出すと、懐から取り出した煙草に火を付けた。
霧の湿り気のせいか、若干ライターの火の付きが悪い。
何度か、オイルライターを擦る音をさせた後、何時もの甘ったるい紫煙をゆっくりと吐き出した。
■神代理央 >
こんな時間ともなれば、誰かが墓地を訪れる訳でも無し。
煙草を咥えるくらい、見咎められる事も無いだろう。
まあ最悪、見つかったらその時はその時だ。
「……名前くらいしか、覚えてやれなんだが」
本名すらあやふやな者達。身元も知れぬ者達。
そういった者達を、己が弔い墓参りに訪れたところできっと浮かばれぬのだろうと。
自虐的な笑みを浮かべながら、のんびりと吐き出す紫煙が霧に混じる。