2020/09/30 のログ
■レオ >
「(――――死の気配が強まった――――!)」
跳躍をしてからの察知。それは石炭の雨よりも察知する事自体は早かった。
が―――――――
ここは空中。飛行手段を持たないレオでは”察知”は出来ても”対処”が限られる。
死の気配を感じようとも、それを回避する方法は―――少ない。
「――――ッ」
即座に剣で燃え盛る石炭を弾く。
剣先が赤熱し、石炭の勢いで体が吹き飛ぶ。
体制が、崩れる――――
■燈上 蛍 >
じわりじわりと自分の体力を食んで咲く彼岸花。
不吉の象徴、死人の花。
車の通らない道路の一面を覆いつくすように、真っ赤な絨毯を作る。
──もう少し、もう少しで、量が足りる。
そう思った、矢先だった。
「…………ッ!!」
本を読むことに集中するように、雑音を入れない"つもり"だった。
澄んだ戦闘の音だけであったから、そうできるはずだった。
彼岸の青年もまた、"死"を司るように、それには敏感で──。
瞳の焔が、チリと揺れた。
■燈上 蛍 >
次の瞬間、自分の周囲と朧車の眼前に向かって、数本の彼岸花が生成される。
青年は手元の紅い装丁の頁を一枚……捲った。
火に一気に酸素を注ぎ込んだ時のように、
青年の周りにある数本と、朧車の眼前にあった彼岸花が一挙に燃え上がった!
それは、間違いなく、二つの事象を結び付け、
『今やったのは自分だぞ』と、相手に知らせるモノだった。
■燈上 蛍 >
──そして、バランスを崩したレオの目の前には、"黄色い彼岸花"が、はらりと咲いた。
■レオ >
「―――ッ!? 燈上先輩…ッ!?」
崩れた体制の中で見えた”黄色い彼岸花”に、咄嗟に蛍の方を見る。
早い。
早すぎる。
彼の異能の事を詳しく知っている訳ではない。
だが”準備に時間がいる”と言った人間が、その準備を終えるにしてはその合図は”早すぎる”のは直ぐに分かった。
つまり…
”準備が出来ていないのに合図を送った”という事。
予定外の行動。
作戦の放棄。
「―――――――ッくそ!」
普段なら戦闘中絶対に見せる事のない、動揺と焦り。
どうする?
完全に想定から大きく外れた戦況。
即座に、且つ、的確に行動しなければならない。
「(落ち着け……ッ
今、焦ったら余計に状況が悪くなる……)」
なら。
戦いに身を投じているからこそ、一瞬の判断を常に求められてきたからこそ。
1度だけ…
息を深く吸い、吐いた。
■レオ >
「(――――今やるべき事は……)」
息を吸い込み、脳の稼働を高める。
体制を崩した体。
空中で回転する体。
先ずは、これをどうにかしなければならない。
そして即座に、燈上先輩のフォローに入らなければならない。
「(落下の衝撃を和らげて、そのまま一瞬、朧車の動きを止める…
―――――それしかない)」
判断と同時に、回転する視界の中で地面を確認する。
もう既に眼前に迫っている地面。
このまま落ちれば運が悪くて即死、良くても全身が少しの間動かなくなる。
自分の”感覚”は…‥‥悪い方を予見している。
ならば―――――――
剣を握る力を強め、剣に魔力を込める。
そしてそれを、自分の体が地面に触れる前に、振りぬく。
「――――――――ッ!!!!!」
込めた魔力が刃を強化し、剣速で魔力を引き延ばす。
鉈蛇の型『大蛇薙ぎ』と呼ばれる技。その…不完全系。
十分な”溜め”はない、速度は足りず、本来の威力も射程距離もない。
だが剣から多少伸びた”魔力の斬撃”は、地面に身が触れるよりも先に地面へと突き刺さり、幾分かの衝撃緩和をもたらす。
――――残りは、多少強引でも体を強化して耐えるしかない。
自分の技で衝撃を受け止め、受け身を取り、駆ける。
体は軋む。
だが……耐えられない程じゃない。
■朧車『ロ号』 >
『――――――』
爆発した彼岸花の先を、見やる。
そこには、先ほどの”獲物”とは別の”獲物”
二人目の”餌”
『――――次は、轢殺。轢殺。』
標的を変え、蛍の方へ。
魔の車両は炎を纏いながら、その質量を以て迫りくる―――――――
■燈上 蛍 >
──黄色の彼岸花の花言葉は、『 』
相手の焔がこちらに向いた時、
背中にざらりと悪寒が這いあがった。
あぁ、自分もまだ、『死が怖い』などと、人並みの精神があったのか。
なんて、一瞬呑気なことを考えてしまった。
朧車が迫り来るまでに、少しでも多く彼岸花を増やす。
一気に覆うことは出来ずとも、
今の量なら、もう僅かにだが、相手を上回ることが可能ではある。
足りないには違いない。
自分が"死ぬシナリオ"は避けれるとは思っていない。…別にそれでも構わない。
『……貴方の本は、燃えてしまう。』
──頁が捲られる。
──敷き詰められた彼岸花が、"火事花"と化す。
同時に自分の周りにも彼岸花と炎を展開させて、朧車へと炎が襲い掛かる!
■レオ >
「――――――ッ!!」
死の気配が強まる――――
それは、自分ではない。
視線の先にいる、”先輩”から。
駄目だ。
それは駄目だ。
いや…少し前だったら、駄目とは、言わなかったかもしれない。
でも…
『どうしてあなた達は。』
言われたから―――――
『自分を大切にしてくれないの。』
それを認める事は出来なくなったから――――
■レオ >
今。
やれば、足がダメになる事はすぐに分かった。
だが、そうしなければ、間に合わない。
だから―――――
「―――――ッ、ぐ‥‥…ッ!!」
片足に、魔力を込め、爆発させる。
落下の衝撃で痛んだ足に、その負荷は耐えきれるものではなく……
ダン――――――ッ!!!
コンクリートを砕く音と共に、もう一つ。
”足の骨が折れる”音が、混ざりながら…
その跳躍のまま、”自分ごと彼岸花を爆破しようとする”先輩の方へと跳び――――
体当たりするように、自分と彼をその場から、退避させた。
■燈上 蛍 >
『ここで、死ねたら』
そう思ってしまった。
表の世界で季節外れの彼岸花が咲き続けるより、
きっと裏の世界のここに、枯れた花が落ちていた方が、
『物語』としては、違和感が無いと思えた。
こちら側の世界の方が、自分には合っているのではないかとすら、思った。
死が怖いと一瞬思ったとはいえ、
自分はどうしようもなく、"死"に魅せられている。
それだけは──…。
本を持っていない方の手を、朧車に差し伸べさえしかけて……突き飛ばされた。
「………っぇ、あ、……?」
再び触れた、他人の温度と共に、衝撃で『頁が捲れて』しまい、
体当たりの移動に更に、『彼岸花の起爆』で二人とも更に吹っ飛ぶ。
「っく、ぁ…──!」
二人の眼前で、蛍の炎に包まれながら、朧車が…燃え盛る。
■朧車『ロ号』 >
『次は――――』
言葉を遮る用に、爆発が朧車を包み込む。
炎よりも大きな、爆炎。
それが全身を包み、火が、混ざる。
無論、炎を纏うその怪異が、爆炎に致命傷を受ける事はない、が――――
■レオ >
「ッ‥‥…ぐ、ぅ……燈上、先輩!!」
残った左足と剣で体を支え、すぐに声をかける。
予定外が重なったが、朧車の火力を上回る”炎”で包むこの状況だけは―――――――作戦通り。
だが、この先。
次に出来る一瞬を逃せば、総てが水泡に帰す。
右足は関節とは別の方向に折れ曲がり、骨が筋肉を貫き露出している。
青年は痛みに慣れてはいる、が……それでも神経が通った骨そのものの破損による激しい痛みに顔が歪むだろう。
脂汗が出る。体に力が入りにくくなる。
それでも、まだ作戦は終わってはいない。
作戦が終わるまで――――
朧車を撃破するまで、動くしかない。
剣を持ち、獣のように地面に手をつけ、折れた片足を補いながら爆炎に包まれた朧車へと、駆けた――――
■燈上 蛍 >
死ぬとしても、やることはきちんとやって死ぬつもりだった。
自分はそれでいいと思っていたんだ。
一瞬完全な自分の予想外に、思考が出来なくなった。
──何故?
それが頭を埋め尽くしたところで、解答欄に記載なんてなかった。
しかし、まだ事態が終わった訳ではない。
「っぁ、レオさん──!!」
明らかに動きが不自然だ。
なのに、それでも立ち向かっていこうとする。
…蛍の表情が、今まで全然変わらなかった表情が、くしゃりと歪んで…。
尻もちをついたまま、本で朧車の炎が大きく大きくし、
そして……『本を閉じた』
そうすると、熱が急激に奪われる。
まるで最初からそこになかったかのように、炎がどんどん消えゆく。
まるでそういう風には、『描写されていなかった』かのように。
■朧車『ロ号』 >
『次は―――炎熱。炎ねt―――――』
再び朧車が爆炎の中から動き出そうとした瞬間。
身にまとう炎が、消える――――
それと同時に、軌道しかけた車両が、ガタン、と動きを止め停止する。
がたがた、と体を動かそうとするが、その車輪はまるで”動力源を切らした”かのように微動だにしない。
炎が―――消されたから。
そう、この亜種怪異の動力源は、炎。
それが消された事、それは即ち……
一時的な、機能障害を起こす事に他ならない。
■レオ >
■レオ >
右足から血を吹き出しながら、駆ける。
動けなくなっている怪異へ、駆ける。
何故動かなくなったのか?
それは今考える必要はない。
今行うべき事。
それは――――
目の前にいる相手を、この瞬間に葬り去る事。
「――――”孤眼流”」
剣に、力を籠める。
魔力の形を操作する。
眼前まで獣のように駆け、迫る勢いと共に―――――
■レオ >
「猟犬の型――――――『歯牙』」
剣を、振るう。
まるで巨大な獣の上あごのように、振り下ろすそれは―――――――
魔力によって生み出された”地面からの”斬撃と合わさり、敵を”かみ砕く”一撃となる。
魔断つ、牙
それが朧車の、顔面を裂いた――――
■朧車『ロ号』 >
『次は―――――――』
その言葉を最後まで言い切る事はなく、列車の怪異はその先頭車両…”顔”を深々と切り裂かれ、巨大な傷跡を作る。
致命の、一撃――――
鋼の塊である朧車にその言葉が適切であるかは分からないが、もがくように一瞬揺れたそれは、しかし次には動かなくなり……
怪異の気配を、霧散させてゆくだろう。
■レオ >
「――――――」
死の気配が、消える。
目の前の脅威が、消える。
他にある死の気配は、ここには近づいてはこない。
終わった、のだと。
そう、感覚が伝えてくる…
「――――お疲れ様です、燈上先……っ」
息を切らしながら、そう言って振り返ろうとしたとき…
戦闘の中での緊張感が消えた事で、右足の痛みが、増す。
身に雷撃が落ちたような痺れと痛みに顔を歪ませ、そのまま青年は、体勢を崩すだろう……
■燈上 蛍 >
「……ッレオさん!」
怪異から、火の匂いも、歪な気配も、何もかもが消える。
彼が、断ち切ったのだ。
片脚を犠牲にすらして、己を、『救うシナリオ』を選んで。
尻もちをついていた状態から立ち上がり、
レオの元へと駆け寄った。
「…どうして僕を……作戦から逸脱してしまったのは、僕でしょう…?」
彼の所へとしゃがみこみ、足を見れば眉を顰める。
それまでほとんどそう、蛍という青年は表情を変えなかったのに、今は苦い顔をしている。
それはまるで、『どうして死なせてくれなかった』とも言っているように。
風紀委員で習う応急処置の仕方を思い出しながら、
制服の多目的ベルトに引っ掛けてある小さな腰鞄から、包帯を出す。
水のいらない鎮痛薬を相手に渡して、
添え木代わりにと手に持っている紅い本を一緒に脚に巻こうとする。
《カラミティ・カタログ》の本の装丁はしっかりしたハードカバーで、そこそこ強度はあった。
「……痛いですけど、今だけは我慢してくださいよ。
そのままだと、変にくっつきますし…鎮痛薬が効けば、マシにはなりますから…。」
■レオ >
「……、すみません、流石にこうするしかなくって……、…ッ!!」
足に触れられれば、鋭い痛みが走る。
何度も経験した痛みであれど、神経の痛みは想像を絶した。
奥歯が折れそうなほど食いしばりながら、それを耐え……息をなんとか整えようとするだろう。
「…、…”死のうとした”んですよね。
…‥‥僕も、似たような気持ちを抱えてるので…分かります、ので…
否定…、っ…は、できないです。……けど。
今は、それを目の前で…、……看過する事は、出来なかったので……」
痛みに耐えながら、何故、の返事を綴る。
”看過する事は、出来なかった”
それは一種の”我儘”だ。
今彼の自死を止めなかったら……
”自分を大事にして”と言ってくれたあの泣き虫な先輩の言葉を、無下にしてしまう気がしたから。
大事な人を、傷つけてしまう気がしたから。
「……言い訳だけ、付き合ってくださいね?
その……あんまり怪我で不安にさせたくない人がいるので。」
汗だくになりながら、ふにゃっと微笑んで、そう言った。
自分だって死にたい。そんな気持ちを抱えている。
でも、それに身を委ねれない。委ねれる目の前の先輩を、羨ましいと思う気持ちもありながら……
「……そろそろ、帰りましょうか。」
■燈上 蛍 >
『死のうとした』という言葉に、焔が瞬く。
そうだ、死のうとした。
風紀委員の業務中の殉職なんて、大して珍しくも無い。
毎年の常世島関係物故者慰霊祭には、それに合わせた内容だって存在する。
だから……自分を、そんなエキストラとして、
『レオ・スプリッグス・ウイットフォード』という、
勇者のお話の中の端役の一人で終わらせて欲しかったのに。
……その登場人物に、まんまと命を救われてしまったのだ。
…看過出来ないなんて言われて、正直、分からなかった。
そういうお話はたくさんあるけれど、自分にそれが当てはまるとは思えなかったからだ。
「──…見透かしたようなことを言わないでくださいよ。」
どうしてこんな状況で笑えるのだろう、この青年は。
勝手なことをしたのは自分で、…全て自分が悪い、はずだというのに。
分からないもやもやを上手く台詞に出来ないまま、相手にくるりと背を向ける。
「…肩を貸して帰るのも辛いでしょう、背負いますよ。」
…細身な彼にそれが出来るかどうかは、別の話だが。
■レオ >
「…‥‥そう、ですね。すみません……
あぁ、いや…片足は無事なので、背負ってもらうまでは……」
背負う、という言葉は一言『大丈夫』とだけ伝える。
とはいえ、足が折れている。背負おうとすれば、無理に抵抗をする事等は出来ないが……
「……まぁ、その。
”あれ”は僕の…”我儘”みたいなものなので。
…前に初めて会った時なら、止めてたかも…わかりませんし。
……なんだかんだ、生きちゃいましたね。僕たち。」
生きてしまった。
死にたいと思う相手を、無理矢理生かした。
それが正しいのかは分からない。本当に……分からない。
だって、自分だって似たような気持ちを抱えているから。
それでも生きようとしている理由は、まだ、自分の為じゃないから。
だから、それ以上は何も言えなかった。
それ以上を言う資格は、何もなかった。
ただ、静かに……肩を借りたか、背負われたか、分からないが。
共に、この”戦地”から立ち去るしか、出来はしなかった。
■燈上 蛍 >
「………僕には、どう言えば良いのか、……今は分かりません。」
『ありがとう』とも、また違う。
『ごめんなさい』とも、また違う。
じゃあ死ねなかったという憤りか何かをぶつければ良いのかと言えば、
それも何かちがうのではと思う自分も居たりする。
…どうしてこういう時、台本に台詞が書いていないのだろう。
以前に、自分が死んだら気に掛けると言った金眼のヒトが居た。
目の前の自分の死を止めてしまった彼もまた、少し濁ってはいるけれど、同じ色で。
「…帰りましょう。長居すると、今度は精神に悪い。
それに、まだ鎮痛薬、効いてないでしょう。」
結局上っ面だけの言葉を並べ立て、相手を強引に背負う。
そうして、恋焦がれるような世界から……帰るしか、今は無かった。
ご案内:「裏常世渋谷」からレオさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」から燈上 蛍さんが去りました。