2020/10/03 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
渋谷の裏側、多くの高層ビルが並ぶ摩天楼。
満天の夜空に輝く朧月。
ねじ曲がった高層ビルの数々は、さながら根の国常世彼岸。
輝く紫紺のネオンライトはこの世を彷徨う霊魂の輝きか。
なれば、この生ぬるい風が運ぶ群像。
軋む車輪、おどろおどろしく歪んだ牛車。
簾の全面を覆いつくす醜く歪んだ異形、まさしく『朧車』の群れ。
怨嗟の如く、地を這ううめき声を見下ろすは、少年の影一つ。

「……あれか……結構いるな」

此処に至るは風紀の刃が一本、芥子風 菖蒲。
怪異の暴走たれば、この少年が動かぬはずもなく
武力を持って対処にあたる。冷徹な鉄仮面が、今宵は珍しく顰められた。

「……気持ち悪いなぁ」

芥子風 菖蒲 >  
人ならざる怪異の悍ましさ。
身を捩るほどの寒気に包まれようとも、菖蒲は不快感以外表に出さない。
恐怖に呑まれる程、戦場では未熟に非ず。
さて、この摩天楼から見下ろすだけでは障子に穴さえあけれはしない。

「……車両に憑依する怪異じゃないのか?まぁいいか……」

車両と言うより、あの姿ではまさに『朧車』そのもの。
腐りかけた木が、怨嗟と共に悲鳴を上げる。
だが、些細な事だ。何よりやりやすい。
担いだ打刀を薙いだ。朧月下、月明りに銀の乱反射が闇を照らす。
黒い風が、一直線に吹き降ろす─────。

百鬼夜行『朧車』 >  
所変わりて百鬼夜行の群れ。
現代のアスファルトを踏み鳴らす車輪の行軍。
般若の如き群れの一匹が、黒い風に貫かれた。
般若面が砕けるように銀の刃が額を穿ち、宍色の血液を撒き散らした。
あわや、銀の弧月に両断され、たちまち燃え尽き絶命する朧車。
群れがやられて逃げかえる獣に非ず。
此処に群れるは慄く怪異の群れ。般若が怒りの雄たけびを上げ
摩天楼は紫紺の炎に包まれる。

芥子風 菖蒲 >  
紫紺の炎光に照らされ一人、怪異の群れで刀を払う。
足元で燃え尽きる残骸を蹴り払い、宍色の血を薙げば
空より青き、瞳を見開く。

「……煩いな」

耳障りだ。その威嚇をものともせず
また一刀、手近の白面が両断された。

百鬼夜行『朧車』 >  
一刀振れば、修羅道也。
たちまち両断された瓦礫の有象無象。
紫紺の炎を踏み鳴らし、一足飛び込み銀の一閃が炎断つ。
般若の面を瞬く間に両断されたが、怪異も黙っているはずも無い。
ひしゃげた口から吐き出される怨恨の炎。
アスファルトを溶かし、大気を焦がす怨嗟の熱量。
その見た目とは裏腹に、さながら鎌鼬の如き疾速で迫る般若の面。
轟音が四方八方、菖蒲へと襲い掛かるが──────。

芥子風 菖蒲 >  
「……!」

交差。すれ違いざまに、腐れ木を断つ銀の刃。
黒衣の銅をその牙すれすれですれ違い、疾風を以て鎌鼬を断つ。
全身を僅かに覆う、空の青。紫紺を遮る青を纏い、修羅は舞う。
紫紺の大地を蹴り上げ、逆袈裟に一閃。黒い風が、摩天楼を吹き抜ける。
飛び散る破片を蹴り上げ、視界を断ち、無数の宍色に染まる体。
腐臭に包まれようと、止まりはしない。
一つ、二つ、三つ─────。
布を縫うかの如く、銀の朧が作り出す瓦礫の山。
瞬く間にそこに残るは、残り火と破片のみ。

「……終わりか」

風が再び、高層ビルの一角で止んだ。
残り火を一瞥する一方で、体を陰る巨影一つ。

「まだいる……」

否、終わりではない。空が見上げる朧月の先には────。

鉄鳥『朧飛車』 >  
鉄鳥が、夜空を遮る。
恐らく見慣れた人間が多いだろう、この地球において知らぬ者はいないはず。
それは、"飛行機"と呼ばれる鉄塊である。
特徴的な轟音は、空気と鼓膜を揺らす不協和音。
翼は拉げ、胴体は朽ち、前頭に歪む般若の面。
アスファルトを焦がす紫紺の炎を吸い上げ、瞬く間にそれは鳳凰へと生まれ変わった。

芥子風 菖蒲 >  
「……デカいなぁ」

感心の声が漏れた。
だが、其れ以上もそれ以下も無い。
己に課せられたただ一つ。
握り直し、刃を構え、一呼吸。

「まぁ、何とかするか」

──────斬る。

芥子風 菖蒲 >  
さて、巨体と言えど"斬れば同じ"。
怪異だろうと人だろうと、塵芥に還るは同じ道理。
灯篭の如く淡く光青空の光。構えた銀に、滴り始める。

「いい的だよ」

巨躯故の、大雑把さ。
夜空を遮る鉄鳥目掛けて、夜風を切り抜く銀の疾駆。
その先端から飛ぶ青の三日月。
有体に言ってしまえば飛ぶ斬撃。
夜空を塗り替える青を以て、その翼をもぎ取る─────!

鉄鳥『朧飛車』 >  
斯様、巨象は蟻を脅かす事が出来るだろうか。
夜空を支配する鉄の怪鳥。夜空を駆けるあわや空色は
その翼に僅かに傷をつけるだけ。以前、悠々煌々燃え飛び立つ朧怪異。

『──────』

金切り声が虚空を揺らす。獅子博兎。
如何なる相手であろうと、自らに刃を向けた以上夜空の支配者は牙を向く。
金切り声の正体は、紫紺包む鉄が変形する音。
無数の四肢が歪に伸びる。黒光りする鉄の四肢。
空を抱くそれは、ただの四肢に非ず。鉄くずに返す、砲身。
怒号と共に、地を這う者達へと無差別に死の鉄が降り注ぐ。

芥子風 菖蒲 >  
「……!」

通じない。それは、侮りが生んだ慢心。
雑兵程度斬り伏せれば、あれも容易く断つ事が出来る。
事実、己の異能は鉄さえ斬った。若さゆえの慢心が、暗がりを鉄が埋め尽くす。

「チ……ッ!」

己の、相手への苛立ち。
舌打ち一つ共にアスファルトを蹴り、ビルからビルへ、黒衣を翻す。
爆炎と轟音が摩天楼を塗り潰し、青空の光さえ、紫紺の炎光が塗り潰す。
鼓膜を打ち鳴らし、鉄の破片とアスファルトが飛び散る。
僅かな瓦礫さえ蹴り飛ばし、それこそ黒兎の如くビルの頭頂を踏み飛んでいく。

「この……!」

出鱈目な質量だ。行く先にも行く先にも"死"は降り注ぐ。
まさに隙間を縫う黒風だが、限界だ。
真正面に飛びこむ、黒の砲弾。まともに受ければ────!
反射的に、銀の弧が空を切り、少年の姿は爆炎へと包まれる。