2020/11/01 のログ
■焔誼迦具楽 >
「――リタ」
いつもの友人に戻る。
その言葉一つ一つが、胸にチクり、チクり、と刺さるようで。
『迦具楽だから』こそだと、その言葉は、泣きたくなるくらいに嬉しいのに。
「そんなこと、言わないでよ――」
声が震える。
息が苦しくて、喉の奥がひりひりとした。
「だって、ダメだよ。
ダメなの」
そう繰り返す。
それは自分に言い聞かすようでもあった。
「私、リタに嫉妬したの。
初めてたった少しの間で、それもちょっと遊ぶくらいの感覚で。
あんな風に、普通に泳げるようになったリタに。
リタは、違うっていうかもしれないけど、さ。
リタには、間違いなく才能があるよ、空を飛ぶ能力とかじゃなくて、純粋に、エアースイムのね。
それこそ、トップ選手を目指せるくらいの才能があるよ、私よりもずっと」
その声は誇張でも冗談のニュアンスもなく、本気でそう思っている声音で。
「エアースイムを続けてれば、ずっと、リタに嫉妬し続ける。
練習してても、試合してても、うまく行っても行かなくても――事あるたびにリタなら、って思う。
リタなら出来た、勝てた、そうやって思い続けちゃう」
そんな嫉妬を抱いてたら、楽しくも、面白くもやれない。
そんな気持ちで続けられるのかどうかも疑問が浮かぶ。
「続けたら、私、リタと友達でいられないよ」
そう、苦悶するように吐き出した。
■リタ・ラルケ >
「――そっか」
そっか、と。なぜだかすっと、その言葉が胸に落ちた。
ただ飛んでいるだけ。そういうつもりだった。だけれどそれは、迦具楽にとっては嫉妬に値することだった。それを、今に至るまで、自分は気付くことはなかった。
ようやく自分は。
本当の意味で、迦具楽の心を知れたのかもしれない。
「そっかあ……それは……予想外だなあ……」
だって、自分にとっては、迦具楽こそが憧れだったから。
エアースイムをするときの迦具楽は、楽しそうだった。ああ人は、こんなにも何かに夢中になれることがあるのかと。そして、それはひどく人の心を惹きつけるのだと。そう思わせてくれたから。
何もかも、リタにはないものだったから。
畢竟、何もかも真逆だったのだ。
才能があっても、移り気で本気になれなかった少女。
才能がなくても、ただただ只管に本気になれた少女。
正反対の二人は、いつしか互いに惹かれていて、そしていつしかどこかですれ違っていたのだろう。
「――私は、楽しそうにエアースイムをしてる迦具楽を知ってる。そんな迦具楽に、私は憧れてたし、今でも憧れてる。私はきっと、同じことはできなかったから」
でも。
そのことが、迦具楽を苦しめてるのだろうか。
「……迦具楽」
友人の名前を、呼ぶ。
次ぐ言葉は、ひどくか細く。
「私と出会って、後悔してる……?」
■焔誼迦具楽 >
「――後悔は、してない」
それは強く、言葉にした。
「リタと会えてよかった、友達になれてよかった。
『こっち側』で普通のヒトみたいに触れ合える友達なんて、リタが初めてだったから」
自分の能力も、性質も関係なく、ただ好きな事で繋がれた、そんな友達。
そんな相手は初めてだったのだ。
だからこそ。
「これから先、スイムを続けるなら、私はもっと我武者羅になって、必死にならなくちゃいけない。
きっと、それは楽しくないし、面白くもない。
でも、今やめようとして――やめたくないって思ってる私もいるの。
けど、やめなかったら、私は、いつかリタを傷つけるかもしれない。
勝手に妬んで、それこそ殺してしまうかもしれない。
私は、そんなの嫌だよ」
弱弱しい言葉は震えて、俯いた顔から、雫がテーブルに落ちる。
「どうして、私は、こんな弱いのかなあ」
苦しそうに、涙声が零れだす。
■リタ・ラルケ >
「……ふふ、そっかあ。私も迦具楽に会えて、良かった」
ここだけは。
きっと二人とも、絶対に変わらないこと。
「じゃあさ、迦具楽。迦具楽に約束」
そう言って静かに誓う。
「私は死なない。迦具楽のために、死なない。迦具楽が私を殺そうとしたって、いくら恨んだって、妬んだって、死んであげない」
実際、迦具楽と戦ったことはないし、これからも戦いたくはない。だから、実際に迦具楽が自分を殺そうとしたときに、どれほど強いのかは知るよしもない。
だけど本当に殺されてしまったら、迦具楽はきっと自分を責め続けてしまうだろう。
だから、死なない。
「――だからさ、迦具楽も約束して。これからのこと、どうしたっていい。辞めたかったら辞めても、辞めたくなかったら辞めなくても。辞めて、もう一度やりたくなったらしれっとまた始めたっていい」
自分は、そうやって生きてきた。だから、誰がそうしたっていいんだと思う。
だけど、本気で楽しんでいた過去を否定するのは――それは、違うんじゃないかと。
「だけど、本気で嫌いにはならないで。エアースイムも、それを楽しんでた自分も。ここに、迦具楽の泳ぎに惹かれた人がいるんだ」
呪いかもしれない。縛りつけてしまうかもしれない。
だけれど、そうしてほしいと。心から願って。
「それが、約束。ね」
最後はそう言って、ふっと微笑みかけるのだ。
■焔誼迦具楽 >
――約束。
それは優しい呪縛だった。
友人の、心根の優しさが現れている。
守れるかどうかでなく、気持ちを伝えてくれる、そんな約束。
「なんで、そんな優しいの」
友人の優しさに触れれば触れるほど、自分の醜い感情が浮き彫りになって、嫌になる。
それでも、その友人に憧れた、惹かれたと言われて、泳ぎを捨てられるほど、割り切る事もできない。
中途半端な自分が、恥ずかしくてたまらない。
「――なら、私からも」
これは約束ではなく、ただの我儘。
辞めるか、辞めないかはまだ、揺らいでいる。
けれど、どっちにしても、必要な事。
「今は、ちょっとした趣味、でいい。
けど、もし。
いつか――少しでも、気が向いたなら。
本気で、やって欲しい。
きっとリタなら、いつ始めてもトップレベルに食い込める。
だから、その時は本気で目指してほしい、楽しんでほしい」
迦具楽のこの昏い気持ちを晴らす事は。
辞めた後、彼女が見込んだ通りの才能を発揮してくれるか。
本気になった彼女に、打ち勝つ事でしかできないだろうから。
「勝手なお願いだけど。
リタの言葉を借りるなら――私は、リタの泳ぎに嫉妬したんだから」
笑う事は出来ない。
どこか影のある暗い顔で、けれど、友人をしっかりと見て。
■リタ・ラルケ >
「……」
今は、まだ答えは出さない。出せそうにない。
だけれど、きっといつか。本気で向き合わなきゃいけない時が来るのだと、そう思っている。
「何度だって。言うよ。今は――少なくとも今は、やるつもりはないけど。でも、そうだなあ……もしそうなったら、その時は――」
言うだけならタダだ。そんな日が来るのかも、今はわからない。
だからこそ、言ってやる。
「――『空駆ける稲妻』がライバルだって。戦って、勝つって。そう言ってやるから」
才能があっても、自由に飛べても、今の自分には迦具楽には勝てない。
経験も、技術も、熱意もずっと違う。
そして何より、エアースイムの楽しさを、魅力を、迦具楽は自分よりもずっとよく知っているはずだから。
■焔誼迦具楽 >
「――ありがと」
その答えで、今はまだ十分。
そうすればきっと、迦具楽はどっちを選んでも、後悔しても、友人を憎まずにいられる。
何度だって、嫉妬はするだろうけれど。
「――はは、ごめんね、せっかく遊びに来たのに。
こんな話、するつもりじゃなかったのにな」
頭を上げて、背もたれに寄りかかりながら頭を掻く。
本当に情けなさそうに、苦笑を浮かべた。
「あーあ、料理も冷めちゃう。
折角美味しいのにもったいない!」
そう言って、またフォークを手に取って料理に手を伸ばした。
■リタ・ラルケ >
「ふふ、なんだかんだ色々話しちゃったからねえ」
自分だって、まさかこんな話をすることになるとは思わなかったけれど。
だけれど、無駄じゃなかった。間違いなく。
きっと、本当の意味で。ようやく二人は向き合えるようになったのだから。
「これから、どうする? 時間は……まあ、そろそろいい時間だけど」
自分の分のカボチャパイをフォークで取りながら、言う。店に入ってから時間は結構経っていて、恐らく外ではすっかり日が沈んでいることだろう。
■焔誼迦具楽 >
「そりゃあ、しっかり食べたら、後半戦でしょ!」
と、切り替えるように明るく言う。
「知ってた?
今日って満月なんだってさ」
ハロウィンの当日に満月が訪れるのは珍しいという。
そんな偶然が重なった特別な日なのだ。
じめじめとした話をしたままで終わるわけにはいかない。
「だからさ、今日は夜までとことん遊ぼうよ。
それに、いまの『リタ』と遊ぶのは、これからなんだからさ!」
店に入るまでとは違う、きっと一番ニュートラルな友達。
そんな友人ともっとよく遊びたい、この日を楽しみたい。
ちょっとだけ思い切った話をしてから改めて、そう思ったのだった。
■リタ・ラルケ >
「後半戦かあ。――やっぱり、そうするよね?」
まだまだ遊び足りないのは、こっちだって同じ。ここで帰るなんて、不完全燃焼にもほどがある。
「満月……へえ。そうなんだ」
――例え、偶然だとしても。
どことなく運命的なものを感じてしまうのは、今日が自分にとって特別な日だったから。
「そうだね。今日は――目一杯遊ぼっか。それじゃあ――」
そう言って、集中して――、
■リタ・ラルケ >
――もう一度、"リタ"に意識が渡された。
「それじゃあ、もっともっと遊ぼうね、迦具楽ちゃんっ! 夜はこれからだーっ!」
そうして大切なお友達と一緒に、夜が更けるまで楽しく遊んでいくのです……!
ご案内:「常世渋谷 ハロウィンストリート」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 ハロウィンストリート」からリタ・ラルケさんが去りました。