2020/12/26 のログ
ご案内:「常世渋谷 大通り」に迦具楽さんが現れました。
迦具楽 >  
『おかげでプレゼント大成功だったよ!
 お礼に、常渋でデートしようよ。
 ケーキとか、ごちそうしちゃうよー」

 そんな文言で親友を誘い出した迦具楽は、ツリーの下でぼんやりとしていた。
 クリスマスの色に染まった街は、25日を過ぎても賑わいが衰えない。
 むしろ週末のここからが本番とばかりに、クリスマスイベントが賑わいだしているようだ。

 大切な人達からのプレゼントを身に着けて、きらびやかなイルミネーションの下で、親友を待つ。
 周りを見て見ると、同じように誰かを待っていたり、合流したのか、早速歯の浮くような会話をし始めるカップルばかりだ。

 ツリーの下で待ち合わせ、は、わかりやすいと思ったけれども。
 こんな恋人たちの空間では、親友は近づきづらくないだろうか。
 時折端末をのぞき込みながら、今日の親友はどんな姿で現れるだろうかと、待ちわびていた。
 

ご案内:「常世渋谷 大通り」にリタ・ラルケさんが現れました。
リタ・ラルケ >  
 自分が調べた中では、クリスマスという日は25日で一旦終了し。それからこと日本という国においては年末に向けての準備が始まる――と、いうことではあるが。
 常世渋谷はそんな話などないかのように賑わいを見せ――むしろ土曜日ということもあるせいか、いつも以上に人でごった返していた。右を見ればカップル、左を見れば親子連れ。とにかくたくさんの人がこの地に集まっている。

 人波に揉まれ、入って抜けるだけでもひどく疲れてしまいそうなこの街に自分が訪れたのは、もちろん理由があり。

 ツリーの下で、待ち合わせ。
 先日選んだプレゼントは、どうやら成功したようで。あまり自信はなかったけれど、喜んでもらえたのなら幸いだった。
 そして今日はそのお礼ということで、ここ常世渋谷でデート、ということらしいけれど。
 要するに親友二人でクリスマスの街に繰り出そうということである。

「……っはぁ。疲れる……」

 街の中にそびえ立つ巨大な樹は、遠くからでもなかなか目立つ。大きさだけならいざ知らず、そこにカラフルな電飾を纏っているから、余計に。
 おかげで迷わずには来れたけれど。とはいえ人の多さもあり、来るだけで中々の体力を消費してしまった。
 飛んでけば良かったかなあ。……いやでも目立ちそうだし、やっぱ歩いていくほうが無難かな。

「――さて、迦具楽はどこかな」

 ここで待ち合わせ、ということはこのあたりにいるはずだけれど、と。辺りを見回して――いた。あの時といくらか装いは変わっているけれど、間違いなく迦具楽だ。

「ごめん、お待たせ。来たよ」

 と、ツリーの下で佇む親友のもとに歩き、そう言葉を投げる。

迦具楽 >  
 ヒトの壁の向こうから、ほのかに漂う、甘い香り。
 間違えるはずもない親友の匂いに顔を上げれば、思った通り彼女の姿。

「平気平気、全然待ってないよ」

 定番の台詞を口にしながら、親友の姿をじっと眺めて。
 嬉しそうに笑いながら、自分のヘアピンに触れる。

「ヘアピン、付けてくれたんだ?
 うん、やっぱり似合ってて、可愛いよ」

 思った通り、今の親友にもよく似合う。
 こうして身に着けてくれると、やはり嬉しさも一入だ。
 

リタ・ラルケ >  
 さて、いつぞやと似たやり取りである。違うところといえば、待たせていたのは自分の方、というところだけれど。
 なんとか見つけられたという安心感と、これからどうしようかという緊張がない交ぜになって。
 そしてそんな中、自分が着けていたツリーのヘアピンに話は行って。

「……ん、せっかくもらったし、ね」

 親友の言葉を受けて、真似るように自分のヘアピンに触れる。

 正直、着けるかどうかは結構迷ったところはある。というのも、何かの拍子に失くしてしまいやしないかだとか、そういう心配があったのだ。特に自分の場合は、性格が変わる故に後の行動が保証できないというのもあるし。
 それでも、最終的には着ける選択をした。そんなにはっきりとした理由はない。しいて言うならば、『着けたかった』くらいのものである。だけどどうしてか、そう思ってから、着けないという選択肢は自分の中から消えていた。

 閑話休題。

「迦具楽も、それ。着けてくれたんだ」

 同じように、彼女の着けるヘアピンを指して。自分が選んだプレゼントを身に着けてくれていることが、なんだか嬉しくて。

迦具楽 >  
「そりゃあそうだよ。
 折角、可愛い親友が選んでくれたんだもん。
 着けるに決まってるじゃん」

 そう、少しにやけた顔で笑いながら。

「そうそう、大丈夫だった?
 あんまりヒトが多いから、疲れたりしてない?
 こういう人混みは、あまり得意じゃないでしょ」

 そう言いながら、もう半歩近づいて、親友の手に触れるように、自分の手を伸ばす。
 

リタ・ラルケ >  
「正直疲れたは疲れた」

 人混みというものは、やはり未だ慣れない。思いっきり体を動かしたりだとか、何時間も集中して勉強したりだとかいう疲れとはまた別次元の疲れである。
 むしろここにいる人たちはどうして当たり前のようにこの人の多さを受け入れられるんだろう。

「でも、うん。大丈夫」

 しかし休むほどかと言われれば、それほど体力を消耗してるわけではない。これから街を回る分には全然問題ないだろう。
 それに、合流して早々に休憩だなんて、出端をくじかれるというか、なんだか時間が勿体ない気がしてならないし。

「……それで、どうするの? ……その、友達とクリスマスって、どうやって過ごせばいいのかわからないから」

 図書館で、予めクリスマスのことについては調べてきたとはいえ。その知識のほとんどは『伝統的なクリスマスの過ごし方』である。現代日本において、友達同士がどう過ごしているのかについては、自分は未だ何もわかっていないのだった。

迦具楽 >  
「そっか、だいじょうぶならよかった」

 ハロウィンの時は人格が変わっていたから大丈夫そうだったけれど、少し心配だったのだ。
 ――そう考えると、今の親友と二人で歩くのは初めてかもしれない。

「――んへへ」

 そう思ったら、嬉しくて変な笑いがでた。
 てっきり光の子で来るんじゃないかと思っていたのもあったのだ。
 もちろん、どの彼女も好きなのだが、迦具楽にとって親友と言えば、今の姿が一番しっくりくる。

「その辺は私もよくわかんないけど。
 まあ、街を歩いてショッピングしたり、映画見たりとか、普段とあまり変わらないんじゃないかな。
 なにをする、というよりは、雰囲気を楽しむモノなんだと思うよ、たぶん」

 迦具楽もなにぶん、友人が少ないために詳しくはないのだが。
 おそらくハロウィンと違って、なにをするというよりは、特別感を楽しむ日なのだろうと思う。
 ただ、人の多さが得意でない彼女を、あまり連れまわすというのも得策じゃなさそうだ。

「少し街を見ながら歩いてさ、落ち着ける場所にでも行こうよ。
 それで、クリスマスケーキとか食べたりしてさ」

 言いながら、親友の手を取って、優しく握る。
 はぐれない様に、少しだけ自分の方へと引き寄せるように。
 

リタ・ラルケ >  
「どうして笑ってるのさ」

 突然笑い出した親友に、どうしたのかと一瞬目を向けるが。
 まあ、なんだか幸せそうだったから、良しとしようか。

「……そういうもの? どこでも大々的に宣伝したりしてたから、ハロウィンみたいに特別なこと、するのかと思ったけど」

 季節のイベントというものに初めてまともに触れたのがハロウィンであるからか、どうしてもそのイメージが付きまとって、何か決まったことをするのだろうかとも思ったけれど。
 しかしそう言われて見てみれば、確かに時折サンタクロースとかトナカイとかの格好をしている人がいたりするものの、何か変わったことをしている人は目立って見当たらない。

「……ん。じゃあ、行こっか。エスコート……でいいのかなこれ。よろしくね」

 握られた手を、こちらからも離さないよう握り返して。
 されるがままに、だけど自分からもそうしたいと思いながら、親友の方へとその身を寄せる。

迦具楽 >  
「特別な事かー。
 特別と言えば、クリスマスは恋人の時間らしいよ。
 なんだっけー、イブの9時から3時の六時間がどうとか」

 常世島にほど近い日本という国では、恋人たちが最もいちゃつく時間だとか。
 もれなく、迦具楽もその例に当てはまりお楽しみされていたのだが。

「ふふ、じゃあエスコートしちゃおっかな?」

 そんなふうに言われれば、冗談交じりに緩く肘を曲げて腕を差し出す。
 先日よりも少し近い距離。
 周りを見ればそうして腕を組んでいるカップルの多い事。
 親友はどんな風に反応してくれるだろうか。
 

リタ・ラルケ >  
「ふうん……?」

 知らない話である。まあもちろんクリスマスなど初めてだから、自分の見た本には載っていない知識も多くあるだろう。
 特に文化や風習というものは、その国々によって様々であり、特に常世島に集まる文化というものは世界すら異なることだって珍しくないのだ。本という媒体に著されていない文化が根付いていたとしても不思議ではあるまい。

 ――もちろん、その六時間云々の真実など、リタには知るべくもない――

「それじゃあ――」

 と言いかけ、親友の方を見てみれば。そこに差し出された腕。
 それがどういうことなのかは、一瞬わからなかった。だけれど周りには同じようにしている人たちが多く見えた。それに従って腕を組む。
 近い、とは思った。だけれど、それが嫌というわけではなく。どころかむしろ、だからこそ安心するというか。
 自分よりいくらか背の高い親友の腕に、ちょっとばかり顔を寄せるようにして。

「……ん、よろしく」

 そう、呟く。
 冗談交じりに笑う親友のことを、どこか姉のようにも思いながら。

迦具楽 >  
 素直に組まれる腕。
 これには迦具楽の方が驚き!

(――うわ、私の親友、可愛いか?)

 ちょっと、思わず抱きしめたくなる気持ちを抑えつつ。
 だらしなく緩みそうな口元を、反対の手で隠した。

「ん、ん、そうだね、じゃあいこっか」

 普段よりも――友達同士にしては少し近すぎる距離で歩き出す。
 いつもよりも、親友に合わせて少しゆっくりとした歩みと、歩幅で、ヒトの波から親友をかばいつつ。
 すれ違うのは、やはりほとんどがカップルのようだ。

「ふふ、こうして歩いてたらカップルみたいに見えちゃうかもねー。
 お、あのお店、イルミネーション凝ってるなあ。
 ほら、電飾でトナカイとサンタを作ってる!」

 街の景色を見ながら、ハロウィンとはすっかり趣が変わったストリートを歩く。
 イベント一つ、季節一つで同じ道がここまで姿を変えるのだから、やはり人間の文化は面白い。

 周囲の人々は、異性同性問わず、友人同士というには距離の近い二人組が多い事。
 これもまた、ハロウィンの時とは少々、異なった光景といったところか。
 

リタ・ラルケ >  
 ところで、自分は常々、この常世渋谷という街を面白いと思っている。
 立ち並ぶビルの森、コンクリートの大地。人工物に囲まれ、自然のそれは時折かすかに覗くくらいしかないこの世界は、しかし人間の手によってその景色を如何様にも変える。

「うわぁ……凄い……」

 特に自分の目を引いたのは、イルミネーションである。
 赤、白、緑、青といった様々な色で作られた人口の光は、街中に数多く散りばめられていて。中にはこうして、絵を描いているように光るものも珍しくない。“光”に言わせれば、「まるで星空をそのまま街に持ってきているみたい」といったところだろうか。
 自然そのままの風景とどちらが好きか、と言われれば、迷いなく原風景とは答えるであろうが。
 それはそれとして、こういう光に満ちた街の景色も、迷いなく綺麗と言えるだろう。

「……」

 人の波の間に見える、人が作り出した光。
 クリスマス以外ではあまり見ることもないそれが、なんだかとても珍しくて、しばらくの間はそればかりに目を奪われていた。

迦具楽 >  
 親友は言葉少なに街の風景に吐息を漏らす。
 店や建物によって色を変えるイルミネーション。
 ちょっとした飾りつけにも個性があって、ハロウィンのような統一感はない。
 けれど、その統一感のなさもまた、街の色を生み出している一つの要素なのだろう。

「――綺麗だね」

 そんな街の姿に目を奪われる気持ちはよくわかる。
 迦具楽もまた、まるで別世界のような街の姿に心を奪われた事があるのだから。

「まるで、星空の中を歩いてるみたいだよね」

 華やかな人口の光。
 点滅したり、色を変えたりする中を歩いていると、とても幻想的な雰囲気に引き込まれる。
 普段生きている現実から、一歩踏みはずしてしまったようだ。
 

リタ・ラルケ >  
 親友の発した言葉が、耳によく残った。
 それは奇しくも自分の思っていた――とはちょっと違うが――ことと同じことで。
 そういうロマンチックな言葉が彼女から出てきたというのが、なんだか意外で面白くなってしまう。

「……ふふっ。迦具楽もそういうこと、言うんだ」

 笑う。普段じゃ言わなさそうなことだから、つい。

「そうだね。これが現実のことだなんて思えないくらい」

 自然ではありえない景色。
 自然とはかけ離れた景色。
 そう、それこそ星空を街に作り出したかのような、色とりどりの光に包まれる。
 まるで想像すらできなかったような、夢のような景色だった。
 そしてそれは、夢ではなく現実にある景色だった。

迦具楽 >  
「ええ、私だってそれくらい思ったりするよ?
 だって、どちらかと言えば、多分ロマンチストだと思うし?」

 曲がりなりにもスポーツの世界で生きているのだ。
 それはきっと、ロマンチストでもなければ追いかけられない夢だろう。
 リアリストなら、もっと堅実な世界で生きようとするに違いない。

「うん、夢みたいな光景だよね――と」

 街に見とれて歩いていたら、前から歩いてきたカップルとぶつかりそうになった。
 そっと親友を抱くように引き寄せる。
 カップルとは互いに軽く頭を下げあってすれ違った。

「あんまり見惚れすぎてると、ちょっと危ないかもね」

 腕の中に抱いた親友に、笑いかけながら。
 こうしてみると、普段よりもずっと小さく感じて、まだ子供なんだなあと感じた。
 普段は幼さをあまり感じないだけに、小さな体がとても愛らしい。
 ちょっとだけ、腕に力を込めて、そんな親友の抱き心地を堪能する。
 ――同居人に見つかったら、きっと拗ねられるんだろうなあ、と思いつつ。
 

リタ・ラルケ >  
「……そっか。なんかそういうイメージなかったから」

 まだまだ親友のことは、知らないことが多いらしい。畢竟他人のことではあるから全てを知るなんていうことは不可能なのだし、すべて知ってやろうとも思わないけれど。
 年も過ぎようというころ、来年はもっと彼女のことを知れたらいいな、なんて思いつつ、再び街の景色に視線を戻し、

「わ」

 そうしていると、つと身体が引き寄せられる。何かあったかとそちらの方を見れば、前から歩いてきたカップルがすぐそこまで来ていた。
 どうやらもう少しでぶつかるところだったらしい。

「……気をつけないとね」

 街の光に惹かれるのはいいけれど、それで怪我でもしたら台無しである。
 いけない、と改めて進む先の方を見て。

「……くしゅっ」

 一つくしゃみをして、身震い。やっぱり日が沈んだ冬の街は、少しばかり寒く感じる。

「……迦具楽、寒くない?」

 親友はどうだろう、と、そんなことを聞いてみる。
 もっとも、寒さ対策は万全といったふうな装いをした彼女が、そうそう堪えられないということはなかろうが――それでも気遣うに越したことはないだろう。

迦具楽 >  
「あら」

 小さなくしゃみ。
 少し冷えてしまったのだろうか。
 たしかに、周囲の気温はすっかり冷え込んで、一桁と言ったところだ。
 南の島なだけ、随分マシとはいえるが――それでも夏の暑さを体験すれば、冷え込みは堪えるだろう。

「私は平気――でもないけど、大丈夫だよ。
 リタは、ちょっと寒そうだね」

 見れば、耳や鼻の頭が赤くなっている。
 自分のイヤーマフを外して、そんな親友の頭に載せつつ。
 体温を衣服越しでもわかるくらいに高めて、改めて両手で抱きしめた。

「――どう?
 これなら寒くない?」

 なんて笑いながら、しっかりと腕の中に収めて。
 少しの間、親友の身体を温めようとするだろう。

「んー、そろそろどこか入ろっか。
 リタはどこか、食べたい物とか、入りたいお店ある?」

 腕の中に親友を抱きながら、どうしようかとたずねた。
 

リタ・ラルケ >  
 迦具楽の着けていたイヤーマフが、自分に着けられて。それから抱きしめられる。密着した親友の身体からは、熱を感じた。
 多分、異能か魔術か。自然に上がったにしては急すぎる体温の上昇に、そう結論付ける。

「ん、あったかい……これなら大丈夫かも」

 暖かくなった親友の身体に包まれる。身体から力が抜けるような、そんな感じがした。

 自分自身の寒さ対策ならば"氷"を纏繞するのが手っ取り早いのだが、流石に親友の隣でそれをするのは憚られた。
 何せ、寒気に対する耐性を上げるのはいいが、それと同時に体温が一気に引き下がる。それこそ氷が人の形をとったかのように。いくら防寒対策をしていても、そんなのが隣にいるのはきついだろう。

「んー」

 食べたいものと問われ、少し考える間があった。
 もちろん、食べたいものはある。しかしながら、特定の何かというわけではない。
 早い話、クリスマスならではの料理というものを食べてみたいのである。

「難しいなあ。せっかくだからクリスマスっぽいものが食べたいんだけど、色々あるみたいでどうしたらいいのか」

 七面鳥、ローストビーフ、後はフランスだと兎肉を食べるらしいけれど――この辺りで兎を出している店は知らない。
 甘いものに目を向ければ、やはりケーキ。シュトーレンやミンスパイなるものも有名らしいが。

迦具楽 >  
「ふふん、そうでしょ。
 私ね、自分の体温なら結構自由に変えられるんだ」

 その分、燃費も悪かったりするのだが。
 とある事情で、今の迦具楽は非常にエネルギーが有り余っているのである。

「んー、でもやっぱり、リタはいい匂いするなー。
 甘くて、すごく美味しそう」

 抱きしめたまま、髪に顔を近づけて、ゆっくり息を吸う。
 ふんわりと漂う、甘い匂い。
 それが迦具楽の感じ取る、親友の魂の匂いだった。

「――そっかー、クリスマスは確かに色々あるもんね。
 私はねー、ケーキとチキン、あとシャケを食べたよ」

 そんな事を話しながら、さてどうしよう、と考える。
 特に下調べをして来たわけでもないので、迦具楽もこの後はノープランなのだ。
 適当に歩いて、よさそうなお店見つけたら入って、という程度のもので。

「あ、そうだ。
 ハロウィンの時に入ったお店さ、また行ってみる?
 今度はクリスマス仕様になってるかもよ」

 と、ハロウィンの時偶然に見つけた、異邦人、怪異向けのレストランを思い出す。
 個室もあったのし、落ち着いて食事や話を楽しむにはちょうどいいのではないだろうか、と。
 

リタ・ラルケ >  
「……それを聞いてどうしたらいいのかな、私」

 いい匂いというのはともかく、自分のことを美味しそうだと表現されると、なんというか。素直に褒められている感じがしないというか。
 いややっぱり体質とか文化の違いとかもあるんだろうけども。

 さて、適当に二人でその辺りをさすらう。そういう話をしていたらなんだかんだでお腹も空いてきた。
 そんな中、親友からの提案を聞いて、思い出したように言った。

「そっか。この辺りだったっけ、そのお店」

 ハロウィンの時に偶然見つけたレストラン。地球の人間に向けたお店ではなかったけれど、そのおかげで人が多くても苦労せず入れて、個室があって落ち着けて――まああの時は落ち着きなんて知らないような性格だったけど――しかも料理の味もとても良かったことを覚えている。実際、自分の中では常世渋谷のお店の中でもかなり気に入っている方だ。
 どうしようかという迷いに揺れていた天秤が、一気に傾くのを感じた。

「そうだね、行ってみたい。クリスマスメニュー、あるかな」

 ハロウィンの特別メニューを出していたくらいだ、クリスマスにも特別なメニューを出していたとて、何らおかしくはないだろう。

迦具楽 >  
「えー、素直な褒め言葉なのにー。
 んじゃあ、食べちゃいたいくらいいい匂いで可愛い、って事でひとつ」

 くすくすと笑いながら、再び腕を組んで歩き出す。
 そう、ちょうどこのあたりにあの店はあったはずなのだ。

「クリスマスメニュー、あると思うよ。
 予想だけど――ほら」

 以前のように、周囲の華々しいイルミネーションからむしろ浮くように。
 小さな看板と、扉にリースだけを飾った静かな装飾。
 看板にはケーキはもちろん、チキンやパイと言ったクリスマスメニューが書き出されている。

「あ、ウサギ肉だって!
 私、ウサギってまだ食べたことないなぁ」

 なんて言いながら、扉を押すと、いつかのように、今度はトナカイの被り物をした店員が手招きをしていた。
 首無しのフロアスタッフがいるくらいだから、この店員もなんらかの怪異なのだろうけれど。
 一体なんの怪異なのだろうか。

「二人なんですけど、個室って空いてますかー?」

 迦具楽がたずねると、トナカイ店員はぐっと親指を立てて、両手をスライドさせながら招いてくれるだろう。
 店内も、落ち着いたクリスマス飾りだけで、電飾の類はなく、ハロウィンの時のように静かな雰囲気だ。
 通された個室は、以前とは違う物のやはりささやかな装飾だけで落ち着きがある。

「うん、なんていうか、期待通りって感じ?
 ここならゆっくりできそうだね」

 席に座りながら、マフラーとコートを脱ぐ。
 コートの下はゆったりとしたハイネックのセーターだ。
 

リタ・ラルケ >  
「んー……」

 それはそれでこそばゆいというか。褒められてるのに違いはないんだろうけど。

「――ほんとだ。やっぱりある」

 イルミネーションに満たされた街の中、やはりそんなことなど意に関せずといったように地味な――落ち着く、と言った方がいいだろうけど――店頭に、あの店だという確信。

「ウサギ。一応、食べたことはあるかな」

 自分は出自が少しばかり特殊なせいで、変な経験をしていることがある。もっともここに来てからはまだ食べてはないけれど。
 迦具楽の後に続いて、自分も店の中に入る。前とは違う店員が案内してくれていたが――つと店の奥の方から、またお前らかとも言いたげな視線がしてきたような気がする。私何もしてない。

「あの時と変わってないね。ん、落ち着けそう」

 席に腰かけて、コートを脱ぐ。寒かった外とは対照的に店内はある程度空調が効いていて、何とか上着なしでも過ごせそうである。

「さて、どうしようかなあ」

 体面に座る親友にメニューを渡し、自分もメニューを開いてどうしようかと思案。迦具楽は――多分、全部って言いそうな気がする。

迦具楽 >  
「へー、リタも色々食べてるんだ。
 あ、ワニなら食べたよ、三メートルくらいの。
 丸焼きで」

 懐かしの狩猟生活だ。
 青垣山や転移荒野を走り回っていたのが懐かしい。

「そうだなー、ここ美味しかったし、とりあえず全部食べて見てから考えようかな」

 メニューを開く事すらせず、クリスマスメニューを全部頼むつもりのようだった。
 きっと、前回は頼まなかった通常メニューも頼むに違いない。

「最初に言った通り、今日はご馳走するからね。
 リタも遠慮なく、好きなモノ食べてね」

 なんて言いながら、『ちょっとごめんね』と携帯端末を操作する。
 親友がメニューを選んでいる間くらいだろうか、少しの間触って用を済ませた。
 端末をポケットにしまい込みながら、親友は何を頼むのだろうと頬杖をついて眺める。
 

リタ・ラルケ >  
「昔の話だけどね」

 ある程度食べる物が選べる現在、進んで食べたいとは思わない。とはいえ久しぶりにここで食べてみてもいいかもしれない。
 とりあえずウサギはキープ。あとはとりあえずローストチキンとかかなあ、なんて思っていると、迦具楽はメニューを見もせずに全て食べることを決めたらしい。
 ……だよねえ。

「……まあいっか。えっと、ローストチキンとウサギのグリル。それから、えっと。ケーキも食べたい」

 そうメニューを決めていると、迦具楽が一言断りを入れた後、携帯端末を操作する。
 何か急な連絡でも入ったのかな、と。あまり気に留めることはない。

 ――そういえば。あれは大丈夫だろうか――と、テーブルの下、隣の席、鞄の中に手を入れて、中にあるものを確認する。……うん、大丈夫。ある。

「えっと……それじゃあ、店員さん呼ぼっか」

 自分は食べたいものも決まったし、迦具楽は一通り頼むし。これでいいだろう。

迦具楽 >  
「ん、おっけー」

 と、呼び出し用のボタンを押そうとしたら、ちょうどよく以前と同じく首無し店員が扉を開けた。
 今回は首から下はサンタ服だ。

「あ、おひさしぶりでーす」

 迦具楽が手を振ると、店員も片手をあげてから、二人の前にコップを差し出す。
 季節柄か、冷たい水ではなく、あたたかいお茶のようだ。

「それじゃ、注文はとりあえず、メニューにあるのを一品ずつで」

 迦具楽がとりあえず、と注文すると、店員はまるで『またか』と笑ったようだった。
 顔はないけど。

「それでー、あとはローストチキンにウサギのグリル。
 あ、ケーキはどれにする?」

 メニューのケーキのページを開きながら、何種類かあるケーキの内どれにするかと。
 

リタ・ラルケ >  
 言われて見てみれば、ケーキにもいろいろと種類がある。どれも魅力的だけれど、そうだな、

「えーっと……ブッシュ・ド・ノエル、っていうやつ。クリスマスの定番らしいし」

 と、店員さんに伝える。恭しく――表情が見えないからわかんないけど――会釈をして、注文を繰り返して、また個室を出て行った。

「……ふぅ、ようやく一息つける」

 街の景色に目を奪われてはいたものの、人がたくさんいる中を歩いてきたのだ。それなりに疲れもする。

「やっぱりいいところだねえ、ここ。店員さんは、その、ちょっと変わってるけど」

 ハロウィンと同じように、人があまりいないおかげで、店の中はあまり騒がしくなかった。それが今は、とても助かる。