2020/12/27 のログ
迦具楽 >  
「いいねー、じゃ、一先ずそれで。
 タイミングはお任せしまーす」

 店員は二人の注文を聞き会釈――首はないけれど、どこか弾んだ調子で下がっていった。

「はい、お疲れ様。
 大丈夫?
 具合悪かったりはしない?」

 と、コップを前に差し出しながら、その様子を見て気遣う。
 たとえ楽しくても、慣れない環境では疲れるものなのだ。

「――だねえ。
 今日はトナカイだったけど、あのヒトもそうだし、デュラハンのヒトもそうだし。
 こうなると、厨房がどうなってるのかも興味あるねえ」

 一体、どんな姿、どんな存在が調理してくれているのか、非常に興味があるところだ。

「と、それじゃあ、とりあえず。
 一日遅れだけど、メリークリスマス、って事で」

 置かれたコップを手に持って、軽く持ち上げた。
 

リタ・ラルケ >  
「体調は平気。まあでも、疲れはしたかな」

 コップを受け取りながら答える。一息ついたところで、街歩きの疲れがどっと来た。むしろ楽しさのあまり、疲れも忘れていたというのが正しいところだろうか。

「私には想像もつかないなあ。どんな感じなんだろう」

 異能を持つとはいえ、魔術を使うとはいえ、精霊という存在に近いとはいえ。自分は、一応純粋な人間である。
 あのようにひとならざるものがどのように料理をしているのかなど、とてもじゃないがわからない。例えば、人間には不可能な調理工程だって当たり前のようにやっている可能性だってある。
 実際に出てくるものは普通に人間の口にも合うものだから、まあその辺りは大丈夫なんだろうけど。

「ん。メリー、クリスマス。今日は誘ってくれてありがとね」

 呼応して、コップを持ち上げて。お互いのそれを近づけ、軽く打ち鳴らす。
 チン、と。小気味よい音が、個室の中に響いた。

迦具楽 >  
「こちらこそ、来てくれてありがとう。
 リタのおかげで、クリスマスは大成功だったんだ」

 親友がプレゼントのヒントをくれたので、良いプレゼントを用意できたのだ。
 まあ、その後はちょっとばかり、大変な事になってしまったが。

「んふふ、じつはさ、お互いに選んだのが髪飾りでさー。
 お互いにこう、相性ばっちりなのかなーって」

 そう話し出すと、すぐに表情がでれっとしただらしないモノになる。

「いつもは見れないような顔がたくさん見れてさー。
 もう、ほんっと、私の同居人可愛すぎかーって。
 一緒にこう、食べさせ合ったりとかしてさ、ほんと楽しかったんだぁ」

 と、そのにやけた表情でデレデレと話し続けて。
 楽しく幸せなクリスマスになったのは間違いなく親友のおかげなのだが。
 その結果を、惚気たっぷりに聞かされるのはいかがなものだろう。

 

リタ・ラルケ >  
「それならよかった」

 クリスマスもプレゼント選びも経験はゼロだったから、正直何か一つでも役に立てただろうかという心配はあった。だから、そう言ってくれるのは素直に嬉しい。やっぱり、ロマンチストのきらいがある"光"を呼んだのは正解だっただろうか。

「うん、うん……楽しかったんだねえ」

 しかしてそれからは親友の惚気話である。クリスマス当日のことを思い出しているのだろう、饒舌に語る迦具楽の顔は――なんというか、そう、とにかく幸せそうというか。聞いているだけでも、それがどんなものだったかは明白だった。
 同居人のことが余程かわいいようで、まあとにかくどこが可愛いだとか、何が楽しかったとか、そんな話にじっと耳を傾けていた。

 ……。

 ちょっと――ほんのちょっとだけ、胸がざわつくのを感じたけれど。さほど気に留めるほどのことでもなかったから、そっと置いておいた。

「そんなに言うなら、私も会ってみたいなあ。どういう人なんだろ」

 親友にここまで語らせる人がいったいどんな人なのかは、結構興味がある。もし会えたのなら、まあ仲良くしたいな、とは思う。
 ちょくちょく話には出てきたけれど、今のところ自分はその人のことをまるで知らないのだ。

迦具楽 >  
 そんなしょうもない惚気話だって、親友はちゃんと聞いてくれるのだ。
 だからついつい、話過ぎてしまう。

「そうそう、ほんと楽しかったの。
 までもちょっと、夜中は、うん。
 初めてだったから少しだけ大変だったけど」

 なんて話は、流石に頬が赤くなっていたが。

「どういう人、かー。
 異邦人の、ちょっと変わった女の子だよ。
 あとはーそう、胸が大きい」

 と、そんな情報を強調するように、自分の胸の前でジェスチャ―して見せる。
 ジェスチャーだから大げさにやっているのはそうだが、それでも中々の大きさのようだと伝わるだろう。

「いいよいいよ、会いに来なよー。
 きっとサヤも喜ぶと思うし」

 自分に親しく出来る友人がいると知れば、きっと喜んでくれるだろう。
 ちょっとだけ妬かれるかもしれないけれど、それはそれでよし。

「年内――はさすがに無理だろうけど、年が明けたら会いにおいでよー。
 なんだったら、一緒に新年会とかしてもいいしね」

 なんて、迦具楽は気軽に誘う。
 

リタ・ラルケ >  
「……そっかあ」

 夜中がどうと言われて、まあ『そういうこと』をしたんだろうなと。というか『同居人』という表現から察するに、まだ付き合ってないのか。そこまでしておいて。
 色々と折り合いをつけたかったり、慎重になるような心持もまあわからないでもないが、そろそろ関係性をはっきりさせてあげたほうがいいんじゃないだろうかと、常々自分は思っている。決めるのは迦具楽なのだから、外野がどうこう言っても仕方ないのだけれど。

「年明けねー、まあ私はとりあえず予定もないからいいんだけど」

 年越しを一緒に過ごすような身内もいないから、その辺りは結構暇だったりする。
 誰かと一緒に新しい年を迎えられるのを羨ましく思う気持ちはあるけど、願ってもどうしようもないことである。その辺りは、自分の中で仕方ないことだと割り切っている。

「新年会かあ。行っていいのかなあ、突然私が」

 迦具楽はいいと思っていても――その人がはたしてどう言うか。実際仲睦まじい二人を邪魔したくはないし、時折聞く話によれば結構嫉妬深そうな人っぽいし。

迦具楽 >  
「ダメなんてことないって。
 リタが遊びに来てくれたら、嬉しいなあ」

 親友と同居人、彼女たちもまた親しくしてくれたのなら、迦具楽にとってこれ以上の事はない。
 そしてそれは、叶わない事じゃないと思うのだ。

「だからさ、いつでもおいでよ。
 私もサヤも、歓迎するからさ」

 と、無邪気に誘って。
 ふと、ずっと自分が惚気話ばかりしているのに気が付いた。

「ああ、違うちがう。
 今日はそうじゃなくて、リタに渡したい物があったんだ」

 コートの中を探って、一つ、小さな箱を取り出す。

「料理が来たら食べるのに楽しくなっちゃうからさ。
 先に渡しちゃうね。
 この前のお礼と、クリスマスプレゼント」

 小さな箱は、手の平に乗るくらいの大きさ。
 それをそっと、親友の前に差し出す。

「初めて作ったから、ちょーっと職人さんには及ばないかもだけど。
 たぶん、身に着けても恥ずかしくないくらいにはできてると思うんだー」

 なんて迦具楽の軽い口調から、それが手作りのなにかであることは想像に難くないだろう。
 しかし、小箱の中身までは想像できるだろうか。

 中に納まっているのは、銀の台座に納まった、十個の宝石。
 ダイヤモンド、ガーネット、タンザナイト、エメラルド、ペリドット、アンバー、アメジスト、サファイア、イエロートパーズ、ブラックスピネル。
 その十個の石が、それぞれ羽のような形に加工され、それが合わさり、翼の形となって台座に収められていた。
 台座にはチェーンが付いていて、首から提げられるようになっている。

 迦具楽は、これを一から手作りするために、月初めから悪戦苦闘していた。
 それがようやく、クリスマス直前になって納得のいくものが作れたのである。
 

リタ・ラルケ >  
「……え?」

 目の前の親友から、小箱が差し出された。
 クリスマスプレゼント、といった。そして中身はどうやら、その口ぶりからして手作りのアクセサリー、だろうか。

「……あ、えっと……そっか……」

 放心したように、そう返す。
 正直――期待してなかったとは言わない。だけれど実際に貰えるとなると、どう言葉にしていいかわからなくて。
 だけど、そればかりでもいられない。だって、ただ貰うだけでは終われないのだ。

「……えっと。私も、ある。クリスマスプレゼント。こういうのでいいのか、わかんないけど……」

 そう言って隣の席に置いた鞄から取り出すのは、紺色のラッピングバック。縦は25センチほどで中身は見えていないが――シルエットから、縦に長いものと想像はつくだろうか。

 肝心の中身はといえば、リボンが巻かれ、透明な液体で満たされた細長いクリスタルガラスのボトル。さらにその中では、色とりどりの花たち――ごく正確に書き表すならば、ピンクのスターチス、赤色のゼラニウム、そしてピンクのカランコエ――が漂っている。

 クリスマスプレゼントというものを知って。それから、せっかくだから一番の親友に、何かの機会に渡したいと思って。
 色々と調べてみたところ、ハーバリウムというものがあるというのを知ったのが――ほんの数日前のこと。
 簡単に言えば、保存用の特殊オイルにドライフラワーなんかを浸したもの、らしい。
 本当は全部自分の手で作りたかったのだけれど、どうも調べてみたら、特にドライフラワーを作るのにはそれなりに時間がいるらしく。仕方なく、材料は既製品を用いたが。
 それでも慣れないなりに、何を入れたらいいかというのを調べて、考えて――そうしてできたものである。

「……その、趣味に合うかわからないけど。もし部屋にでも飾ってくれたら、嬉しい、かな」

 そう言って、それが入った袋を、親友の前に。

迦具楽 >  
「えっ、リタからも貰えるの?
 やった、すごく嬉しい!」

 縦長の包みを差し出されれば、満面の笑みで受け取って、大事そうに抱える。
 早速開けて良い物なのかどうか、そわそわしながら。

「飾る飾る!
 大事に飾るよー、えへへ。
 ねえねえ、中、見てもいい?」

 と、惚気話をしていた時くらい、緩んだ顔になって、待ちきれないとばかりに聞いた。
 

リタ・ラルケ >  
「ん、大丈夫。お店の人に聞いて、見よう見まねで作ったからあまり自信はないけど」

 とはいえ、目も当てられないような酷い惨状になっていることはないはずだ。
 なんて言ったって、親友に贈るプレゼント。半端なものは作りたくないと決めていた。

 どうやら、親友から貰ったプレゼントを早く見てみたいというのは、お互い同じのようで。

「……私も、開けていい?」

 だけれど念のため、そう聞いておく。
 迦具楽が、自分のために作ってくれたもの。それがどういうものなのか、とても楽しみだった。

迦具楽 >  
「なになに、リタが作ってくれたの!?
 なにそれ、めちゃくちゃ嬉しい!」

 飛び上がりそうな調子で、大喜びをして。
 許しをもらえたなら、早速、丁寧にラッピングを開けていく。
 当然、自分のプレゼントを見てもらえるならそれだって嬉しい。

「うん、もちろん!
 多分、間違ってないと思うんだけど――期待外れだったらごめんね?」

 色々と調べて、考えて、用意したプレゼントだったが。
 大事な『親友たち』へ、という魂胆が外れてしまってないかだけが心配だった。
 事前に聞くのもずるい気がして聞けなかったのだが、答え合わせはどうなる事か。

 なんて、すこしハラハラとしつつもラッピングを開ければ。
 出てきたのは、綺麗で、それでいて可愛らしい、花の泳ぐボトル。
 ハーバリウムという物を始めてみる迦具楽だったが、そのどこか幻想的な美しさ、愛らしさは心惹かれるものがある。

「うわぁ、なにこれ、かわいい!
 うそ、リタこんなの作れたの?
 すっごい!」

 まじまじとボトルを見つめて、それから幸せそうに頬ずりまでして。

「こんなに素敵なの、飾らないわけないよ!
 えへへ、サヤにも自慢しちゃお!」

 どこに飾ろうかなぁ、なんて言いながら、もうすでに飾った部屋の光景を思い浮かべている。
 

リタ・ラルケ >  
「ん、それじゃあ、開けるね」

 ラッピングを解く親友の姿をよそに、自分の前の小箱を開ける。さてどういったものが出てくるのかと期待を膨らませ――

「――……」

 その、瞬間。言葉が消えた。
 羽のような形をした、色とりどりの宝石をあしらった台座。台座にはチェーンがついている。おそらくネックレスにできるものだろう。
 だけれど問題は、そこではない。
 宝石。
 十個ある。

「……これは」

 一つ一つ、羽の形をした宝石を辿っていく。
 白。紅。青。翠。緑。橙。紫。蒼。黄。黒。
 もはや、考えるまでもない。
 これは、自分の――、

「……」

 大事に、大事に――両手に収める。
 こんなの――こんなの、ずるい。期待外れどころか、大当たりだ。
 この感情を、どう言葉にすればいいのだろう。だって、こんなの、

「……すごい。本当に……すごいね、かぐ、ら」

 言葉が、不自然に途切れる。
 それから、熱い何かが頬を伝うのを感じて。
 泣いているのだと、気づいた。

迦具楽 >  
 無邪気に喜んでいたら、親友が何かを呟いて。
 ふと、そちらを見たら、涙を流していた。

「――え、ええっ!?
 ちょ、ちょっとどうしたの?
 ごめん、なにかやらかした!?」

 慌てて――けれどボトルは落とさないように横にそっと置いて、身を乗り出す。
 何か、泣いてしまうほどショックを与えてしまったんだろうか。

「ああ、えっと、ごめん、ごめんね。
 私、精霊とか詳しくないし、色々調べたり、考えたりしたんだけど――」

 数が合っているか、種類があっているかはほとんど賭けのようなものだったのだ。
 それでも一番可能性が高いだろうと思った形にはしたのだが。
 それで外れていて、その上泣かせてしまったとなったら、もう謝るしかない。

「――ほんと、ごめんね。
 リタにとって、簡単に触れて良い事じゃないのかも、って思ってはいたんだ。
 だけど、そう思うほど、むしろ他には何も思いつかなくてさ」

 親友を泣かせてしまった。
 その事実に、しゅん、と落ち込んで、乗り出した身体も勢いを失って椅子の上に戻る。
 そのまま、肩身が狭そうに小さくなってしまった。
 

リタ・ラルケ >  
「――ぁっ、ぇ、ちがっ」

 突然、泣いてしまったことに。酷く動揺させてしまったらしい。慌てて涙を拭う。
 だけれど、泣いたのは悲しいからじゃなくて。

「ちがう、ちがうの……謝らなくていいんだって……」

 むしろぴったりすぎて、自分でも驚いているくらいだ。
 こんなにも自分に合ったプレゼントがあるだろうか、こんなに凄いものを、自分にくれたのか、と。そう思うと、なんだかとっても嬉しくなってしまった。
 思わず、泣いてしまうほどに。

「……一番の友達から、こんなにすごいの、貰えたんだもん……」

 涙は拭ったはずだけれど――また新しく頬に滴を流しながら、そう言って笑う。

「……ありがとう。絶対……絶対、大事にするね……」

 もう一度、両手にしっかりと握りしめて。
 小さな箱の感触を、確かめる。

迦具楽 >  
「あ、え――そっか、そうなんだ」

 涙を拭う友人は、がっかりしたとか、悲しんだとかじゃなくて。
 心から喜んでくれて、嬉しくて涙を流してくれたのだ。
 それに心底、安堵して。

「――よかったぁー」

 緊張が急にほぐれるように、大きな息が漏れる。
 どうやら、親友へのプレゼントは、とりあえず一つ、成功したようだ。
 安堵の息を漏らしながら、再び身を乗り出して、右手を伸ばす。

「えへへ、ありがと、そんなに喜んでくれるなんて思わなかった。
 ほら、まぁた涙出てるよ」

 親友の頬に手を伸ばして、添えるようにしながら指先で涙を拭う。
 心から浮かべてくれたんだろう笑顔は、花が咲いたように愛らしい。
 そんな笑顔を独り占めしてる事が、勿体ないと感じるくらいだった。

「私も、リタからのプレゼント大事にするよ。
 毎日見るのを楽しみにしちゃうから」

 そう微笑みを返すと、個室の扉がノックされる。
 やってきたのは、トナカイ頭の店員。
 しかし持ってきたのは、大きな紙袋。

「お、来た来た。
 ありがとうございます」

 席から立ち上がって、紙袋を受け取る。
 お礼を告げると、トナカイ頭は両手で親指を立てながら、静かに部屋を出ていく。
 紙袋の中には薄い、大きな長方形の桐箱が入っている。

「えーっと、こまったな、そんなに喜ばれちゃうと、これを渡しずらいっていうか。
 これもプレゼントなんだけど――」

 そう言いながら、紙袋を親友の隣に置いて。

「まあ、うん、これはそう、誕生日の分、っていう事で!
 今年も終わっちゃうのに、誕生日も知らないし、祝ってあげられなかったしさ。
 ちょっと荷物になっちゃうけど、こっちは帰ってから開けてみて」

 そう言いながら、自分の席に戻っていく。
 桐箱に入っているのは、少女らしい明るい色の振袖だ。
 同居人に作ったときに練習で作ったモノのうち、特に上手くできた物を手直ししたのだった。
 

リタ・ラルケ >  
「ん……ありがと……」

 頬の滴が拭われていく。
 頬に添えられた手の熱が、とても暖かかった。

 しかして涙を止めようとしていると、突如個室の扉がノックされる音。
 そこに来たのは、トナカイの頭をした店員さん。
 料理が来たのか、と思ったけれど。しかし持ってきたのは料理ではなく、謎の紙袋。
 どういうことかと思ったけれど、迦具楽はどういうことかこれを知っているらしい。
 そして、迦具楽が紙袋を受け取って、店員さんが個室を出たところで、迦具楽はもう一度こちらを見てくる。
 そして言われたことといえば、

「……まだ、あるの?」

 こんなに凄いプレゼントをもらったばかりだというのに、これで終わりではないらしい。
 いったい何度、自分を喜ばせれば気が済むというのだろう。

 大きな紙袋が、自分の隣に置かれる。
 中を少し見てみると、木の箱、だろうか。

「誕生日……そっか、誕生日かあ……」

 そういえば自分は迦具楽の誕生日も知らないな、と思った。
 そういうことも含めて――来年はもっと迦具楽のことを知れたらいいな、と改めて思う。

「困ったなあ……こんなにたくさん、貰っちゃって……返しきれないじゃん……」

 ハーバリウムなんかじゃ、と思えるほどに。
 困ったように、だけど嬉しくて仕方がない、といったように、もう一度笑った。

迦具楽 >  
「いいんだよ、お返しなんて!
 私がプレゼントしたくてしてるんだからさ。
 それに、私はこれ、すっごい嬉しいよ!」

 ハーバリウムをまた嬉しそうに手を取って、にへへ、と緩み切った顔で笑う。

「そうそう、それより誕生日!
 リタの誕生日教えてよ。
 今度はちゃんと、祝ってあげたいしさ!」

 そんなふうに話していると、再び扉がノックされて、今度こそ料理が運ばれてくる。
 前回の事をよく覚えてくれていたのだろう、野菜に肉に汁物などと、バランスよく配膳される。
 とはいえ、量が量なので、テーブルの上はあっという間に埋まってしまった。
 

リタ・ラルケ >  
「……ふふ、そう? だったら嬉しいな」

 とはいえ、迦具楽がプレゼントしたくてするのならば、こっちだって何かを返したい気持ちもあるのだ。
 堂々巡りになるから、今ここではやらないけれど――これからもっと、仲良くなって、何かできたらいいなと強く思う。

「あ、えっと。私の誕生日……確か……」

 記憶の奥底を辿る。実のところ、自分がいつ生まれたのかというのは曖昧なところがある。前に言った通り出自が少々特殊なせいか、誕生日というものを気にすることもなかったからである。
 だけれど、覚えているはず。そう、確か、

「……5の月、17日。えっと……こっちの言い方だと5月17日っていうんだっけ。迦具楽はいつなの?」

 ちょうどいい機会だということで、こちらも聞いてみる。
 そう話していると、今度は本当に料理が運ばれてきた。
 店員さんも勝手がわかっているのか、前よりも無秩序な状態にはならなかったが――とはいえ、量が量である。
 テーブルの上は瞬く間に料理で埋め尽くされていた。

迦具楽 >  
「五月かー、おっけ、五月十七日ね、しっかり覚えた。
 私はえっと、んー、そうだなあ。
 ――きっと、六月八日、かな」

 自分がこの世界に『発生』した日。
 あの頃は今みたいな自我もなかったけれど、それでも生まれた日というならきっと。

「さ、って!
 料理も来たし、一日遅れのクリスマスパーティー、始めよっか!」

 と、並んだ料理を前にして、両手を合わせる。
 

リタ・ラルケ >  
「6月8日。6の月、8日か。……うん、私も覚えた」

 今日の様子を見れば、きっと誕生日にも何かまたしてくれるだろうか。
 こっちも負けないようにしないとな、なんて。そんな、ある種変な対抗心を燃やしてみる。

「ん、それじゃあ始めよ。……お腹空いたなあ」

 親友に倣って、手を合わせる。そうするころには、もういつもの自分に戻っていた。

迦具楽 >  
「よーし、それじゃ、いただきまっす!」

 元気よく挨拶をして――そしてまた、他愛のない話を交えながら、大量の料理を楽しむのだろう。
 いつもより明るい笑顔を向けてくれる親友を、嬉しく思いながら。
 

ご案内:「常世渋谷 大通り」から迦具楽さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 大通り」からリタ・ラルケさんが去りました。