2022/01/16 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」にアリスさんが現れました。
アリス >  
あれ。私、学園にいたはずなのに。
またか………常世渋谷の『裏』にいる。

ポケットを探ると、ビビッドカラーの切符が入っている。
文字化けした漢字にも見える不可思議な印字がされたそれは。
朧車を退治した後から時々、ポケットの中に紛れ込んでいる。

それから時々、こういう場所に迷い込むのだ。

今日も帰りは遅くなりそう。
不安を誤魔化すために大仰に溜息をつく。
狂った色彩の街並み。
歪んだ空に、黒ずんだ雲。

凡そ、現行科学の0と1では理解の及ばない世界。
裏常世渋谷。

アリス >  
周囲には無数の気配がある。
多分、怪異。
嫌なことに私はこの異分子に慣れてしまっていた。

ここ、表で知ってるところだ。
有名ショコラティエの看板がある。
だが、そこには新作スイーツの紹介ではなく不可解な文字が書いてあった。

巨頭オ。

え、これってあの……インターネットで有名な…?

周囲の気配が一斉に物陰から飛び出してくる。
頭の大きな人間。
腕をぴったり足にくっつけて体をぐねらせながら私を追ってくる!!

「いーーーーーーやーーーーーーーーーー!!!」

キモい!! キモい!! キモい!!
頭の大きな全裸の怪異から猛然と逃げる!!

アリス >  
異分子に慣れた?
裏世界によく迷い込む?
そんなわけがない!! ただの強がり!!

こんなのに慣れるわけないでしょー!!

後ろからは無数の巨大な頭の気持ち悪い怪異が
何人、何十人と波濤のように私を追ってくる!!

息が苦しい!! 肺が破れそう!!
でも……でも………あいつらに追いつかれたら私はどうなるの!?

「空論の獣(ジャバウォック)!!」

右手の中に拳銃を錬成する。
振り返りながら2発、3発と銃弾を撃ち込む。
だけど倒れ伏した巨頭の怪人はほんの2体程度。

焼け石に水だぁぁぁぁぁ!!
拳銃を握ったまま半泣きで逃げる!!
 

例題です。
箱の中に猫がいたとします。
箱の中でその猫は巨大な頭の怪異に襲われてしまいます。

この半分は生きて半分は死んでいる哀れな猫の存在を証明しなさい。

「いやーーーーーーーーーーーー!!!」

誰も居ない街に私の絶叫だけが響いた。

アリス >  
ちょっと狭い路地に入る。見通しはいい、ここだったら!!

「空論の獣(ジャバウォック)!!」

路地の端から端を結ぶように一本で1200kgを支える登山用ロープを錬成する。
これを連続で行う!!
これなら直線的に追ってくるあいつらは絡まらざるを得ないでしょう!!

ロープの結界作戦だー!!

前から来る巨頭の怪異を二挺拳銃で撃ち倒しながら走る。
あとは出口……出口、どこ!?

以前、迷い込んだ時には違和感のある部分が私達の世界に繋がる脱出口だった!!
この歪んだ街の違和感を探さなきゃ!!

ご案内:「裏常世渋谷」にめらん子ちゃんさんが現れました。
めらん子ちゃん >  
荒波の如く湧いては寄せる怪異の群れ。
少女が上げる悲鳴は宛ら海猫の鳴き声か。
今の状況を思えば寧ろ思考実験の匣入りの猫、
生死も知れぬ袋の鼠と呼ぶべきか。

 "にゃあ"

そんな中、聞こえたのは本物の猫の鳴き声。
怪異の波など何処吹く風、波間を縫って渡る
魚の如く、黒猫がするりと貴女の前を横切った。

曰く、黒猫は幸運の象徴であるのだとか。
故に目の前を横切れば、幸運に逃げられたと
見做されて不幸の象徴に変わるそうな。

黒猫が入り込んだのは、貴女がぎりぎり身体を
差し込めそうな狭い路地。当然図体の大きな
怪異など通れる余地もなく。

『幸運』を追いかければ活路が開けるやもしれない。

アリス >  
逃げながら違和感を探す、その時───
目の前を横切る、黒猫!!

こんなところに普通の黒猫がいるわけがない!!
見つけた、違和感!!

するりと狭い路地に入り込んでいくその黒猫を追っていく!!

「あっ………」

そうか、あいつらはこの路地には入ってこれないんだ!
体を横にしながら狭い路地を抜けていく。

「待って、猫ちゃん……!」

不思議の国のアリスは。
白兎を追ってどこまでも。

めらん子ちゃん >  
もしも白兎を追いかけていたならば、きっと今頃は
穴の中へ真っ逆さま。夢から覚めるような浮遊感が
此処が夢ではないと笑っていたのかも。

けれど貴女を迎えたのは不思議の国へ繋がる穴でも、
まして期待していた現実世界への出口でもなかった。
前に広がる景色を確認する間もなく絆創膏だらけの
白い手が伸びてきて。

果実に誘う悪い蛇のように、口を塞いで羽交締め。

「しー」「静かに、ですよ?」

悪戯っぽく耳元で囁く女の子の声が無ければ、
怪異の罠に嵌ったと絶望してもおかしくない所。

貴女を追いかけていたはずの重い足音は、
狭い路地の入口に気付きすらせず遠ざかる。

怪異の気配が消え去ると、貴女を拘束していた
華奢な腕はするりと離れるのでした。

アリス >  
ここはどこだろう。
確認する間もなく、絆創膏が見えた。
正確には、絆創膏が貼られまくっている白い手が。

私の口を塞いでしまう。
耳元にはティーンの女の子と思しき声。

鼓動が高鳴る。
この状況は何。遠ざかっていく緊張感。

拘束が離れると、はぁ、と息を吐いて。
必死に酸素を取り込んで肺を宥めさせながら。

「あ、ありがとう………あなたは?」

そう聞くのが精一杯。

めらん子ちゃん >  
「おはようございます」「はじめまして」
「めらん子ちゃん、とお呼びくださいな」

ごくごく簡単な質問に、舌足らずな声が答える。

こてん、と首を倒す仕草には可愛らしさよりも
草臥れて首がぐらぐらした人形じみた雰囲気が
感じられた。

「この街で人に会うのは」
「珍しいかもしれませんね」

2人の間を縫うようにさっきの黒猫が割り込んで、
息を切らした貴女を見上げた……の、だが。

「折角ですので、お聞きさせて頂きますけれど」
「顔出しは、NGですか?」

見上げた黒猫は、頭の代わりに今時骨董品と
呼べそうな旧式のビデオカメラが付いていた。

アリス >  
「めらん子………ちゃん!?」

大きな声が出そうになって慌てて口を閉じる。
噂の“実存が疑われてる”配信者だ。
私も興味本位で何度か配信を見たことがある。

ほ、本物!?

「は、はじめまして……アリス・アンダーソンです…」
「珍しいっていうか、私は初めてかも…」

紛れもない異界なので。
そこで追いかけていた黒猫は。
顔が古い型のビデオカメラ……だった。

「!!?!?!?!?!!!??!?!」

びっくりしながらも必死に声を堪えて。
とりあえずなんか返事、返事しなきゃ。

「だ、大丈夫です……SNSも顔出してるし、プレ娘もほぼ素顔でやっている、ので…」

思わず下手な敬語が出てしまう。
ああ、こんな時に気にするのはそこか!
アリス・アンダーソン、お前に人生は重荷ッ!!

めらん子ちゃん >  
「ありがとうございます」「といっても」
「映っているかは、分からないのですが」

カメラ猫の脇を抱え、よいしょっと持ち上げる。
お餅の如くびろんと伸びた猫は地面に後ろ足を
くっつけたまま、貴女の目線の高さまで。

瞳の代わりに貴女を見つめる曇ったレンズは
ガラス玉の瞳より輪をかけて心情が読めない。

「ところで」「貴女はどうして此方に?」
「迷い人でしょうか」「忘れ物でしょうか」
「それとも穴の下に会いたいお人でも?」

手を離した猫は何事もなかったかのように
香箱座り。欠伸をするような仕草を見せる。

「出来ることでしたら」「お手伝い致します」
「これでも、探し物は得意ですので?」

アリス >  
「そう? とにかく、現実世界に戻れるなら細かいことには拘泥しないから」

握ったままだった拳銃を放り出すと、
地面に落ちる前に無害な大気成分になって分解された。

カメラ猫は動きに愛嬌がある。動きだけなら、確かに猫だ。

「迷い人、かな」
「以前、ここで朧車を破壊してから呪われててさ」
「時々……ああ、また入ってきてる」

ポケットから異次元の色彩で着色された、
文字化けした漢字のようなものが印字された切符が出てくる。

「…時々、これに導かれてこの世界に迷い込むの」

とにかく早く帰りたいことを告げる。
ここは私の居場所じゃない。むしろ、巨頭の怪異たちの住処なのだ。

めらん子ちゃん >  
「現実」「此処に迷い込んできた人は」
「何故だか、皆同じことを言うのです」

こてん、こてんと首を傾げながら。
不思議がるような声音で宣った。

「現実の反対は」「夢」「仮想」「虚構」
「それとも、理想でしょうか?」

「此処は夢ではなく」「仮想ではなく」
「虚構ではなく」「まして理想でもなく」

「貴女が帰りたい『現実』とは、何処ですか?」

紫色の瞳が瞬いて、ツートンカラーの長い髪が
さらりさらりと揺れている。

「ふふ、意地悪を言いました」
「貴女の言う『現実』は、ちゃんと知っています」

「折角切符があるのですから」
「駅に向かうことにしましょうか」

アリス >  
めらん子ちゃんは人形のように首を傾げながら。
私に問答をかけてきた。

確かに現実じゃないというここもまた現実。
夢でも仮想でもないここを、現実の対極のように言うのも不自然。

紫色の瞳を覗き込むように見つめながら。
私は返答に窮してしまった。

「それは………」

不思議の国のアリスは、マッド・ティーパーティーでの会話に困るものなのです。

「駅? う、うん……わかった」
「猿夢以外だったらなんでもいいわ」

めらん子ちゃん >  
「答えのないなぞなぞは、お嫌いでしたか?」

めらん子ちゃんはくすりと笑み、包帯が巻かれた
鉄パイプを拾い上げた。改めて周囲を見渡すと、
何故だか狭い路地を抜けた先とは思えないような
広い道のど真ん中にいた。

くねくねと折れ曲がった横断歩道、地面に散らばる
チラシの束。赤青黄色に加えて紫の加わった4色の
信号機が瞬きしながら涙を流している。

「白いところだけ踏んで付いてきてください」
「マンホールの上なら、セーフです」

くるり、不規則なステップで貴女を振り返りつつ
めらん子ちゃんは先導を買って出た。横断歩道の
白いところだけを踏んで、書店の前へ。

書店の看板には貴女が所持する切符に酷似した
存在しない文字が刻まれている。

「こっちです」

開かないガラスの自動ドアを鉄パイプで叩き割り、
めらん子ちゃんは店の中から貴女を手招きする。

アリス >  
「戸惑っただけ、なぞなぞには答えがあるものと思っていたから」

広い道の真ん中で周囲を見渡す。
こんなところ、普段だったら立ち止まったりはしない。
車の往来だってあるし、人の動きだって激しいから。

「白いところ?」

思えば、小学生はよく創作の中でこういうゲームをしている。
言われた通り横断歩道の白いところを踏んで進む。
私は小学生だった頃にはいじめられていたから。
こんなことをした記憶はない。

書店の前で看板を見る。
ああ、確かに文字が似ている。

その時、大きな破砕音が響いてピャッと小さく跳んだ。

「え、あ、うん」

戸惑いながら割れたガラスを踏んで店内へ。
本がたくさん並んでいるけど。

『北半球を覆う蔓とそれを食べる犬の話』
『劇的うどんジャーニー~サイコねじまき編~』
『宇宙的恐怖の爪切り横断カカオ含有率200%トーク』

など、よくわからない本がたくさん棚にあった。

めらん子ちゃん >  
「そうですね」「なぞなぞには答えがあります」
「ですので、答えが無ければ『異常』ということ」

「この街に迷い込んだ人は、出口を見つけると
 どうも『違和感』を覚えるのだそうです」

「『異常』なモノには、違和感を覚えませんか?」

雑談なのか、それとも何か意図があるのか。

貴女に言葉をかけながら、めらん子ちゃんは
本棚に手を伸ばす。おかしなタイトルの本には
目もくれず、取り出したのは折り畳まれていた
ラップトップコンピュータ。

デスクトップに表示されていたガムテープを
スカートのポケットに突っ込み、パソコンを
元あった棚に戻す。

そのまま進んで辿り着いたのは書店のトイレ。

「ここから、少しだけ急ぎます」「走れますか?」

アリス >  
「ここでは異常と違和感の定義が違うとか?」
「そうでないなら………この場所で違和感を求める感覚の異常性?」

雑談に答えながらキョロキョロと周囲を見渡しながら歩く。
可愛いガイドさんがいなかったら入ろうとも思わない場所だった。

「急ぐ? 走るの? だ、大丈夫!」
「私、アリスワールドだからね……!」

いや、運動全然得意じゃないけど。
走れますかと言われて走れませんと答えるよりずっと建設的。

書店のトイレから、どこに走るのだろう。

めらん子ちゃん >  
「いいえ?」「今のが『答えのないなぞなぞ』です」
「さっきのなぞなぞには、答えがありましたから」

煙に巻くような答え。冗談とも本気とも付かないが、
どうあれアリスが兎に付いていかないことには話が
進まない。ロップイヤーのように垂れた髪を揺らし、
タイミングを図るように息を殺す。

「では」

めらん子ちゃんが駆け出した。開きっぱなしに
なっていた多目的トイレの扉を力いっぱい閉め、
更にガムテープで取ってと手摺をぐるぐる巻き。
誰もいなかったはずの扉の向こうからばんばんと
音を立てて、人外の力で『何か』が叩いている。

「こっちです」

そのまま貴女の手をとって男子トイレに駆け込む。
清潔な書店から繋がっていたとは思えないほどの
汚臭がする。走れば飛沫が立つほど濡れたタイルは
明らかに掃除されていない。

後から聞こえる音から逃げるように掃除用具入れに
飛び込み、奥にあった場違いな姿見を蹴り破って
その先へと走る。

繋がった先は別のトイレ。さっきと違って清潔で、
姿見の向こうから流れ込んできた悪臭のする液体が
場違いに見えるほど。

アリス >  
「今のは答えのないなぞなぞ………」
「めらん子ちゃんの言うことはちょっと難しい」

恐怖心を殺すために会話をしていると。
何かが扉の向こうから凄まじい力で“ノック”してくる。
今にも破られそうだ!!

「ひいっ」

汚臭のする男子トイレを手を引かれて駆け抜け、
掃除用具入れに駆け込んでいく。
 

たどり着いたのは、清潔でよく管理の行き届いた。
違うトイレ。

「ここはもう私がいた世界? それとも……」

境界は、ないのかも知れない。
そもそも曖昧だから、混ざってしまうのかも。

めらん子ちゃん >  
「言ってませんでしたっけ?」

「折角切符があるのですから」
「駅に向かうことにしましょうか、と」

冷や汗で頰に張り付いた髪を指先で払い、
トイレの外に出るとそこは無人の駅だった。
照明の殆どは壊れていて、薄暗い。

「どうでしょうか」「違和感は、ありますか?」

無人の街。怪異が暮らす世界。
読むことの出来ない看板たち。

そんな街の中、改札の向こうに読める文字がある。

『常世渋谷駅』と。

「帰り道は」「もうお分かりですね?」