2022/07/20 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に北上 芹香さんが現れました。
北上 芹香 >  
ストリートの許可証を首から下げる。
自分の音楽を知ってもらうには。
ときにはこうして路上で弾き語りをするのも必要。

迷走中だけど。

北上 芹香 >  
ピックを持ってギターを鳴らす。
周囲の人はふと、顔を上げてこっちを見る。
けど、それきり。

はっきり言ってこの常世渋谷で路上ミュージシャンなんて珍しくもない。
だから、何かしら足を止めて聴いてくれる人がいたなら。

それを期待して、今はロンリー弾き語り。
さて、それでは一曲目。
『シアワセを』でいってみよう。

「永久に永久にこの想い 続け続け世の果てへ」
「いつかいつかアナタへと 届かなくても歌おうか」

ギターは調律OK、喉もベストコンディション。
ただ……なんていうか…

「アナタの彼女とアナタとの シアワセ続け永遠に」
「いつかいつか 私が消えて 愛した事実も消して欲しい」

…………ダメだ…
暗い。

これじゃ足を止める人が陰鬱な気持ちになるだけ。
でもこれが新曲なんだよね……

北上 芹香 >  
曲!! 曲を変えよう!!
立ちっぱなしで朗らかに歌えるやつ!!

ええと………確か…………
ああ、そうだ。そういえば前に作った曲があった!!

慌ててピックを手に呼吸を整える。

北上 芹香 >  
ギターをじゃん、と鳴らして次の曲に入りましたよアピール。
これはストリートでは絶対するべきと本にも書いてあった。

「咲き誇る命ぃ……幾度散らしても~~~~~っ」

高らかに歌う。
そう、この歌は#迷走中でも反響が多かった歌。
『花二色(はなふたいろ)』です。

「捧げた誓い、またも裏切られてもぉ~!」
「なみーだのー痕ーをかーくーしつつぅ~!」

「あなたとー 咲かせまーしょうー 花ぁぁぁぁぁ、二色ぉぉぉぉぉぉ~」

うん。
うん!!

ムード歌謡じゃねーか!!!!
朗らかっていうかむしろ湿っぽいほうだよ!!
梅雨時期にふさわしい湿度だよ!!
もしメジャーデビューしてこれが有線に乗ったら百貨店が水没する湿度だよ!!

でもちょっと周りがこっちを見ている。
欲しい反響って本当にこうだったかな………

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
常世渋谷の街路、俯くように通りすがる女子生徒。

陰鬱な長い前髪、耳を飾るピアス。常世渋谷では
比較的大人しいがやや不良然としたファッション、
それに不似合いな耳付きのパーカー。

復学支援を受けて更生中とはいえ、自己認識は
未だ脛に傷を持つ不良学生。良く言えば自由、
悪く言えば混沌としたこの街は学生街より幾分
息がしやすい。

そんな後ろ向きな理由で街に繰り出す彼女だから、
普段なら珍しくもない路上演奏のためにわざわざ
足を止めるなんてことはしなかったはずだが。

人の波……正確には人の波に付随する『視線』に
怖気付いて、少しの間足を止めてしまった。

「……」

興味がないのなら無視して立ち去れば良いという
主張もあろう。だがしかし、街路でギターを手に
声を届けんとする彼女は聴衆が増えるのを期待して
いまいか。足を止めたのに演奏の終わりを待たずに
立ち去る客を見たら、内心肩を落としたりしまいか。

うっかり足を止めただけで、こうも余計な方向に
思考を巡らせる少女の内心は、場違いなくらいに
湿っぽい歌謡に負けず劣らず。

結局、一曲歌い終えるまでじぃと突っ立っていた。
熱心な聴客ではないが、数の足しにはなるだろう。

北上 芹香 >  
ふと、小柄な少女が足を止めたのが見えた。
黒髪のボブカット。同世代だろうか? それとも年下?
わからないけど、ああいう子も聴いてくれるのなら……
私は!! 気合を入れ直す。

コホン、と咳払いしてギターをじゃんと鳴らす。
比較的人の目は集まっている気がする。
次だ。次の曲行こう。

「聴いてください、ネクストナンバー『ブルーバード・ヘル』」

すぅ、と息を吸い込んで。
次の曲で見てくれる人を魅了してみせる!!

「誰も彼もが知らんぷり」
「燃え盛るヒトは見ないフリ」

「あなたは燃やす側の人? ならばヨシヨシ踊りましょ」
「あなたは燃える側の人? ならば哀れだ黙祷を」

「140字の地獄へようこそ!」

ギターをかき鳴らし、現代社会を歌い上げろ!!

「廃人! 廃人! 青い鳥の後塵!!」
「聖者の行進、時代遅れのサーカス開演だ」

「狂信! 狂信! 燃やせ狂人!!」
「見事な足の引っ張り合い、拍手喝采、笑えや笑え」

「welcome to This Hell!! 唱えっ青い鳥っ」

ジャーン。
…………いや闇深いよ!!
足を止めていたオーディエンスも微妙な表情をしている。

ああ、散るように去っていく!!
そりゃそうだよ、誰もこんな路上シンガーに関わりたくはない!!

肩を落として。ギターをチューニング、微調整した。

黛 薫 >  
(あー……)

オブラートに包んで言えば、攻めた選曲だなあと
いった印象。常世渋谷は流行り廃りの街、多少は
刺激的なくらいが丁度良い。そういう意味では
今の曲も一概に否定されるものでもないと思う。

……が、問題はその繋ぎ。

ムーディな歌謡曲の物珍しさに足を止めた人たちが
ガラッと変わった曲に出鼻を挫かれて去っていく。
そして去っていく人の群れに空気を持っていかれて
新しく足を止めようとした客も去っていく。

(やっぱ凹んでんじゃん……)

黛薫、他者の視線を触覚で受け取る異能持ち。
だからミュージシャンのやらかしに頭を抱える
内心も不本意ながら読めてしまって。

お陰で立ち去るに立ち去れなくなってしまった。
だって、長く留まってるの自分だけなんだもん。

北上 芹香 >  
「あ………」

その場に留まったさっきの女の子。
顔を上げたら視線が合ったので、話しかけてしまう。

「ども、絶賛迷走中です」

苦笑いを浮かべたまま彼女に向けて肩を竦める。

「不慣れなのもあるけど、結構難しくて……」

初対面の、足を止めただけの人に苦労話。
ああ、ダメダメ!! こんなの全ッ然ダメ!!

「あー……なんかリクエストある? 最近の曲ちょっとわかるよ」

黛 薫 >  
「ぇ」

声をかけられて思わず背後を振り返るという
あまりにもベタな反応。当然自分の後ろにいる
誰かに声をかけた、なんて笑い話はなく。
というか近くに足を止めてる人が他にいない。

「えー、ぁー……いぁ、あーしそーゆーの全然
 詳しくなく、て……だからー……物珍しくて
 足止めちまった、的な? カンジで……」

ごめんなさい嘘です。うっかり聴客っぽい位置で
止まってしまって去るに去れなかっただけです。

とはいえ、だ。苦労を隠せないなりに内心で己を
叱咤しつつ孤独に演奏する彼女に声をかけられて、
詳しくないからと逃げるのも気が引ける。

考えているフリをして──周囲の『視線』を読む。

周りにいる人はどんな気分か。漠然とした空気感を
どちらに誘導すれば、どう変わるかを推測して。

「……ノリ良さげ、ってか。楽しげなカンジの……
 んん、1週間の講義終わった後の自由な時間に
 聞きたくなるよーな曲、あります?」

音楽には明るくない。だから恐らく共有できる
学生の感性に頼って声を届けてみた。

北上 芹香 >  
「物珍しさでも聴いてくれたらオーディエンス!」
「それも……私にとっては数少ないオーディエンスだ」

自虐しながらギターをじゃん、と鳴らす。

「いいよ、あるある。そういうの、全然オッケー」

ノリ良さげで楽しげな、か。
そういうのなら全然歌える。

「いきます………『Rulala』」

ギターを柔らかく、楽しく演奏し始める。

「ルララ この街を軽やかに歩いて行く」
「僕が踏んで僕が踏まれた金曜日の街角で」

思えば、常世学園に来た時は期待に胸を膨らませたもので。
そういう気持ちで作った歌。
初心の歌だ。

「道路は渋滞、バスは遅延の有様で」
「隣の席のキミと板切れで黙ったままおしゃべり、幸せ」

「調べた店は店休日、空は生憎曇り模様」
「またドジしちゃったね、キミの笑顔は楽しそう」

「サンキューマイフレンド」
「この埋め合わせ絶対するからって」
「二人であの時のあの時のって ルララおしゃべりは続く」

歌い終えると、不思議と人が周囲に増えてきてる……?
まばらだけど、初めてストリートで拍手ももらった。

「え? え?」

困惑。とりあえずリクエストした彼女の顔を見る。

黛 薫 >  
日付はちょうど週半ば、疲れは溜まってくるが
休みにはまだ少し遠い。羽目を外すには早くて、
しかし気分を明るくする程度の気晴らしは欲しい。
鬱屈というには軽い気怠さ。それが周囲の印象。

だから、前向きな曲をリクエストしてみた。

手近な店に入るのは物足りず、しかし遠くまで
足を伸ばす気力がなくて退屈していた男子学生が
ふと歩みを止めた。

そろそろ帰らなければならないが、まだ息抜きが
足りずにやきもきしていた女子生徒がイヤホンを
外して振り返った。

疎に足を止め始めた人々の雰囲気に興味を惹かれ、
さしたる目的もなく日々の文句を言い合っていた
学生グループが寄ってきた。

曲の後の拍手はぽつぽつと。多いとは言い難く、
偶然上手くハマったストリートミュージシャンの
範疇を出ることはなく、しかし兎角埋もれがちな
常世渋谷の演奏にしては、拍手が貰えること自体
珍しいのではなかろうか。

最初に足を止めた少女は、背の低さも相まって
聴衆に埋もれるように。人混みが苦手なのだろう、
僅かな居心地の悪さを感じさせてはいたけれど。

『よかったよ』

拍手にかき消されるような、小さな声だった。
しかし口の動きは鮮明に控えめな感想を伝えて。

減っていく聴衆と共に、少女は去っていった。

彼女に限らず去っていく皆々の印象も今までとは
多少異なり、手を振ったり、申し訳程度の感想を
添えたり。小さいながらも『反響』と呼べる物を
残していったのだった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から黛 薫さんが去りました。
北上 芹香 >  
反応がもらえること自体がなんかレアで。
思わずキョドってしまう。

「あ、はい! こういうバンドやってます」
「シャープは読まないんです、#迷走中です、はい」

「あー……歌えます! そういうのも得意です」

「それじゃ……」

チラ、と視線を向けた先には。
よかったよ、という幻聴のような小さな声?
そして少女はもういない。

妖精さんだったりして。
自分の発想に苦笑して。

「次も心を込めて歌います、聴いてください」
「ネクストナンバーは……『ワン・モア・チャンス』」

また会えるかな?

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から北上 芹香さんが去りました。