2022/10/10 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に言吹 未生さんが現れました。
■言吹 未生 > “その国の事情を知りたくば、先ず市井の声を汲め”
いつだったかに聞かされた先達の言を思い出しつつ、人また人、声また声のうねりを、遁れるように立った歩道脇から眺望し――
「……いや、多過ぎるでしょうよ、これ」
溺死すんじゃねえかなあ、と。嘆息に乗せて呟いた。
むしろ行き交う人がよく溺れずにいるもんだ、なんて感嘆も込めて。
『皇国』首府の目抜き通りでも、ここまでの賑わいはなかった。
■言吹 未生 > 「何かの祝典か催し物でも――」
やってるのかしら、と。
くてりと首を傾げて見上げるうんと先には、ビル外郭に設えられた街頭スクリーン。
液晶の中で、やたら派手な色合いをした蓬髪の男が、握り込んだマイクへと何事か喚いている。
本土のとあるバンドの新作PVであるが、生憎興味の外である上に、環境音によってぶつ切りにされた音から汲み取れる情報など――
「……異国の祓魔式?」
異国を何だと思ってるんだ。
そも何でそんなものを大写しにする必要があると言うのか。
最初から変わらぬ無味乾燥な表情のまま、首を反対側に傾ける。こきりと良い音がした。
■言吹 未生 > こんな事なら、聴覚強化系の呪装を常備して置くべきだったか。
そう思って、かぶりを振る。
ここまで音に溢れていては、却って混乱するだけだろう。
『皇国』であれば、適当にその辺の者をつかまえて、技官権限で何呉と尋ねる事も出来ようが、今の自分は一介の学生である。
そのぐらいの弁えはある。
人々の表情や歩調を見るにつけ、臨戦期の街中ほどの緊張感や不安・悲壮の情も感じられない。
幾らか気忙しくはあるが、平和だ。
それが、“今日も”なのか。
あるいは、“まだ”なのか。
「…………」
漂着者たる自分には分かりようもないけれど。
■言吹 未生 > 来し方の隘路に向け、踵を返す。
平和は真に尊ぶべきものであり――そしてそこは、狂犬の褥と成り得ない。
結構。むざむざと瑕疵なき玉に傷を付けるのは、愚か者のする事だ。
逐うべき賊もいないのに、徒に牙を剥き吠え猛るのも、また愚か。
今はただ、伏し、備えるだけ。
「…………」
誰も顧みない闇路の中で、灰銀の一つ眼が、幽かに――けれども確かに、にいと嗤った。
■言吹 未生 > そんな僅かな冥い気配など、表の喧騒は須臾も置かずに呑み込んでしまうだろう――。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から言吹 未生さんが去りました。