2022/10/21 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に言吹 未生さんが現れました。
言吹 未生 > 破壊者の銃口から伸びた閃きがヘリを捉え。
撃ち手は消えども、その破壊の痕は消えない。
火焔と煤煙を噴血の如く尾曳かせながら、自由落下を始める機体。
その横っ腹へと――

「――――」

地獄の光景を縦に切り取る路地の合間から、少女は無意味としか思えない指鉄砲を差し向ける。
指先から放たれるのは、椎の実型にすぼんだ一塊の闇黒。呪力の弾丸。
怨嗟の声にも似た流音を連れて着弾したそれ――『呪弾』が、霧散するよりも早く、指鉄砲をぎりと拳に固め直す。

「――『呪界(ダンタグラム)』」

悲鳴と怒号にともすれば掻き消されそうな声で口訣を切ると同時、呪弾は海綿動物にも似た動きで、機体を円らに包み込む。
自由落下の速度が、目に見えて鈍って行く――。

言吹 未生 > 呪いとは、一面的な言い方をしてしまえば、マイナスの力だ。
元来精神を根源として在るそれは、通常であれば物質界にさしたる影響を与える事は困難である。

――だが、『呪術』はそれを可能とする。
況や、平穏な日常を無造作に破却された人々の意思――殊に恐怖、混乱、悲哀、憤怒、憎悪――は、
尚更にその呪いをブーストさせるに至った。
無慈悲な落下速度を“その足を引っ張るように”減算する――。

呪いに護られたスクラップ寸前のヘリが、それでも二次災害をもたらす事なく着陸。
同時、呪界は役目を終えて泡のように溶け消える。

「…………」

僅かに汗の浮いた白面で仰げば、空には落下傘の影ふたつ。
乗員はどうにか脱出し終えていたらしい。

「っはあ――」

詰めていた息を、そこで漸く吐いた。
煙くさい空気が喉を嬲り、背を折って咳き込む。

言吹 未生 > 咽び潤んだ一つ眼が、ビル屋上を射殺すように睨む。
そこは、この地獄絵の描き手が消えた場所。
あれと相対していた者――ビルから叩き落とされて以降は行方が掴めないが――がおらんだその名。

「パラ――ドックス…!」

その名のみは、ノーフェイスから耳にしていた。
その時は、雲霞の如く偏在する悪漢の一人か、などと思っていたが。
融通の利く飛耳長目を持たぬ身とは言え、認識があまりに甘過ぎた。
彼女曰く“最高のショウ”の句を添えられる存在が、ただの悪漢であろうはずもない。
否――あれはもう、“悪漢ですらない”。
何呉と論戦していたようだが、あいにく聴覚強化の呪装はない。
如何なる主義主張の下で、こんな事になったのかは知りようもないが――確かな事が一つある。

言吹 未生 > それは、あれが覆しようのない“秩序の破壊者”である事だ。

「お前はこの島を壊そうと言うんだな」

騒がすでもなく、乱すでもなく、徹頭徹尾に壊滅せんとする存在なのだ。

「ここに生きる人々を脅かそうと言うんだな」

まさに“あの日”、自身に降り懸かった厄災が、人の形を取ったかの如き存在――。
一層強く握り固めた拳の隙間から、血の河が流れ出る。

「追い詰めてやるぞパラドックス。
 如何なる『逆説』を以てしても、生き永らえる事など出来ないように――」

烽火のように熱く烈しい吐息に乗せて、狂犬は呪詛を紡ぐ。
歩を進める先は表ではなく、頽れるような闇の中。
迷える人々を癒し、また救うのは、己の本分ではない。
己はただ、我意のままに裁き、罰する者なのだ。

言吹 未生 > 迷いも仮借もない冥き足音は、生き足掻く人々の混迷に呑まれて失せる――。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から言吹 未生さんが去りました。