2022/11/13 のログ
■セレネ > 「――成程。貴方は随分と探求心が旺盛な方のようですね。」
恐らく見知らぬであろう場所。
危険であると分かった上で、尚も突き進むその意欲は
実に親近感と好感が持てた。
新しい知識を。知見を。経験を得られるのは素晴らしい事。
それは何より知っている。望んでいる。
彼が現状、この異世界から出る手段を求めていないなら
わざわざそれを伝える事はしない。
「怪異を葬る事が出来る人など、此処にはいくらでも居るでしょう。」
機械的な動作に、抑揚のない声。
人間味のない男性に、己の力はこの島では然して珍しくもない力だと語る。
それが神族の力であれ、それ以外の退魔の力であれ。
滅したという結果には違いはないからだ。
まさか、男性が己の力を観測しているとも知らず。
「――何を以て強者と定義付けるかにもよりますね。
少なくとも私は自身を強者だと思った事はありません。
最低限自身の身を守る術は持ち得ていますが。」
さて。目の前の彼の雰囲気が変わった。
蒼を細め、冷静にその腕を見る。視る。
魔力の類は見受けられない。ただただ漆黒の刃。
怖がる事なく、逃げる事もなく。
露骨に武器を構える事もしない。
――来るならどうぞと、言うように。
■エボルバー > 「変わるためには、探求は不可欠だ。」
その一言にソレが何たる存在かが詰まっている。
ただひたすら変化を求め放浪する、
それがこの物体。
「何らかの特異な力を持ち、世界に適応している存在を、
僕は強者と定義している。」
この島は興味深い。
常識に囚われない不思議な力を持った存在に溢れている。
変わった者は数あれど不当に守られず世の中に順応出来る者は少ない。
さらに目の前の女性については、興味深い点があった。
単なる異能者でも、魔術師でもない。
増しては霊的存在や怪異でもない。この異常値は一体?
そしてソレの刃に物怖じしないどこか威厳のある雰囲気。
「では、その術を用いて、身を守ってみてほしい。」
相変わらず声の調子は変わらぬまま。
しかし、乱れぬ静止していた姿から一転、地面を蹴り一直線に
貴方へ突っ込んでゆく。
その黒い刃先は致命傷を狙っている訳ではないが、
確かに貴方を突こうと駆けてゆく。
醸し出す異様な雰囲気は怪異に近いが、
実のところソレは一番それらから程遠い。
人の知恵が作り出した漆黒の狩人が貴方へ刃を突き立てる。
■セレネ > 「えぇ、貴方の言う通り。
探求は変わる為の道の一つです。」
探求心の塊。
己ですら、凌駕するだろうその好奇心。
”変われる”というのは、それはなんて羨ましい。
「…成程?」
彼の言う、或いはこの世界が定めている特異な力を己は持ち合わせている。
しかしそれを公にはしたくはない。
だからこそ、己は自身の力を隠すのだ。
それでも分かる者には分かってしまう辺り、まだまだ未熟であると言わざるを得ないが。
「――。」
今から刃を向ける相手に何と律義な事か。
わざわざ言葉を投げた後、一直線に駆ける彼に
僅かに微笑みを浮かべてしまった。
『”護りなさい”』
紡ぐ言葉は神性の言葉。この国の言語ではない言の葉。
紡げば直後、蒼く輝く盾が己の前へ立ちはだかり
相手の攻撃を受け止めるだろう。
■エボルバー > 「ー!」
>言語分析実行...
>結果:データベース不一致
漆黒の硬質ブレードと共に、不気味な勢いで突っ込んだソレは
不思議な言語と共に突如現れた蒼い盾に阻まれ
刃は火花と甲高い音を散らしながら衝突し止まる。
重機が発生させるものに匹敵する力学的エネルギーを受け止めるそれは
恐らく物理的現象に限定される存在ではない。
未知の力が込められた別の存在。
「不思議な力だ。」
貴方の盾に刃を突き立てながら静かに、だが聞こえるように呟いた。
その直後にソレの刃に奇妙な現象が訪れる。
突き破らんとしていた刃先が溶けるように崩れ
漆黒の砂が貴方の盾にへばりつくように広がってゆく。
>超自然構造体分解実行...
力の持ち主たる貴方なら感じるかもしれない。
徐々に、ゆっくり、だが確実に。
盾が喰われ始めているということを。
未知の力を学ぶために機械は試行する。
■セレネ > 己が張った盾に対し、相手の放った攻撃は火花と音を散らしながら止まった。
神格が半分に落ちているとはいえ、これを防げて内心安堵しながらも
表情は努めて平静を装って。
「…それは、宜しくないですね。」
先程まで穿とうとしていた刃が崩れ、蒼に黒が侵食して行こうとする。
阻んでいた盾がふ、と粒となって消え去れば
その解析を阻む事は出来るかもしれない。
阻んだとて尚も追撃されるのは勘弁と、
彼のその腕を断ち切ろうと、
刀の一閃を振るう為手を翻した。
■エボルバー > この状況に彼女は落ち着いた様子を崩さず。
他者の心など読めない機械はその底知れない様相に好奇心が尽きない。
>分解解析中断
浸食し、構造を把握しようとしていた矢先
青い輝きを放っていた超自然の盾が消失してゆく。
それは此方が破ったというよりも
彼女自身の意思で消えたようで。
その直後に繰り出されたのは彼女の鋭い一閃。
ソレの反応も許さぬその閃撃は
崩れていた男の右腕を容易に斬り飛ばした。
黒い粉を撒き散らしながら腕が宙を舞い地に落ちる。
だがソレの腕から血は零れることなく、
その断面は真っ黒く、そして時折翡翠色に輝く幾何学的な模様が波打つ。
斬られた腕の断面をしばらく見つめた後に
貴方の方へ視線を戻す。
「...君は、何者だろうか。」
ごく短時間であったが、解析した貴方の力はソレが今まで見てきた
どの力とも異なるものであった。
少なくとも彼女が、これまで会ったことのない存在であることは確かだ。
地に落ちた腕が黒の粉末となって崩壊し地面へ広がってゆく。
■セレネ > 普通の者なら、急に自身へ刃を向ける相手に敵対心や恐怖心を抱くであろう。
しかし己は良くも悪くも慣れている。だからこそ、冷静で居られる。
己が斬り落とした腕は、肉や骨を断つ感触はなく。
案外にあっさりと、斬る事が出来た。
型も無く、ましてや正しい持ち方も知らない独学。
それでも切れ味が落ちずしっかりと断てるのは、
この刀を創り、譲ってくれた友人の異能によるものかもしれない。
「そういう貴方は何者なのでしょう。
生き物でもなく、機械でもない。
…何とも、奇妙な…。」
切り飛ばした腕の断面。
人であれば、肉や骨、血管や神経は見えるもの。
しかしそれとは違い、黒く、翡翠の幾何学的な模様が脈打つように光る。
「私は少なくとも人の子ではありません。
しかし、自身の存在を軽率に口に出せる存在でもないのです。
……いや、それは私だけかもしれませんが。」
神族だとは、明確には告げない。
落ちた腕が先程と同じように粒子になり消えゆく様を蒼の端で見ながら、そう答えた。
尤も、答えになっているかは分からないが。
■エボルバー > 地面に落ち、地に落ち右腕だった黒砂は、男の足元まで迫ってゆけば
やがて身体と一体化し、融合する。
そして斬り飛ばされ、先がない男の右腕が再構成されてゆく。
金属片を転がすような機械質の音が響く。
「僕は、機械に分類される。
人間が未知に立ち向かうため、最先端技術を用いて作った存在だ。」
誰かが言った。発展し過ぎた科学は魔法と区別がつかないと。
少なくともこの男のような物体は彼女が想像するような機械とは
性質から異なる。それは縋る神をも超えるために人間が
作り出した究極的な機械の一つの終着点ともいえる。
「学びとは、最終的には自分の力で行う必要があるようだ。」
百聞は一見に如かず。
秘密とは尋ねるものではなく自らの手で解き明かしてゆくもの。
少なくとも機械はそのスタンスを貫く。
>ヴァリアブル・アーム・コントロール実行
>現在:可変硬質ブレード
>変更:可変ナノドライバー
復元された男の右腕が再び黒く変わってゆく。
しかしそれは刃に変形した訳ではなかった。
より複雑な形状。大きな漆黒の杭のようなものが装填された
発射機のような形。今度はその照準を貴方へ向ける。
■セレネ > 砂となった腕は、主の下へと戻っていきまた形を成した。
その際甲高い音を鳴らす辺り、やはり己の知る生き物ではないらしい。
「機械…。
そう。人の子ってそういう存在も創れるのねぇ。」
原理を知らねば、科学は魔術や魔法と相違ない。
彼の言葉に蒼を細め、感心したように言葉を紡ぐ。
成程、人間とはやはり面白く――実に愚かである。
「えぇ。他者から学べる事は一部でしか無いですからね。」
与えられる知識をただ教授するだけでは、自身の糧とするには足りない。
彼のその心意気には大いに賛同出来るものだ、が。
再び変わった右腕。お次は刃ではなく杭のように見えるもの。
そして、向ける先は己。
「貴方、そこまでして私が何者か知りたいのです?」
■エボルバー > 「本当に人間は、興味深い。」
彼女と同じように
ソレもまた人間に対して面白さを見出す。
その関心の方向性は違うかもしれないが。
そして発射機をブレるなく貴方に向けたまま。
「障害を乗り越え、存在し続けるためには、変化が必要だ。
乗り越えるためには、障害の候補を知る必要がある。」
必然として、この世のあらゆるものには常に自身の存在を
脅かすものがある。だがそれは、あらかじめ決まっているものではない。
世に存在する万物が脅威となり得る。
見えない敵に打ち勝つには仮想敵を知らねばならない。
生物が行ってきたプロセスを生物では実現できない時間をかけ
機械は進化を繰り返し究極的な存在を目指す。
変化の産声を求め、破裂音と共に空気を圧縮しつつ
漆黒の杭が貴方へ向けて放たれる。
その軌跡はとても目に追えるものでない速さ。
■セレネ > 興味深い、その点では共通しているので静かに頷く。
己にとっても、恐らくは目の前の彼にとっても、この島は様々な事を知れる良い島である。
それを作ったのが、人であるのは。本当に興味深い。
「変化は進化、とも言えるものですからね。
…その先に貴方は、どうなっているのかしら。」
変化出来るからこそ、それは楽しいのであり探求心を刺激されるものだろう。
だが、その変化を多く続けていくうち。
停滞する事も、もしかしたらあるかもしれない。
それはきっと退屈で、刺激のない事かもしれない。
そうなれば、彼は。この機械は、どうするのだろう。
それが少し、気になった。
『”私は狩られる者ではない”』
放たれた杭が、凄まじい速度で己へ迫る。
同時、呟いた言葉がつむじ風となり、己を取り巻く。
器を穿つ筈だった杭は不思議と風に弾かれ、明後日の方向へと飛んでいくだろう。
「…流石に今のは驚きました。」
紡ぐ声も、表情も、そんな感情は滲んでいないけれど。
■エボルバー > 「それは、分からない。
また、考える必要もない。」
彼女はソレに変化の先を問う。
機械にとって終着点は意味をなさない。
この世界が続く限り、変化は続くだろう。
変化を停滞させるのは人間由来の高等な意思がなす決定。
本能的に動く機械は物理的な終焉を迎えない限りは
変化し続ける。
「適切な、対処法だ。」
発射した杭を弾き飛ばした彼女の判断は実に正しい。
競り合えば”学ばれる”事を知った彼女は
機械に己を学ばせない手法を取る。
世の中の事象は秘密である状態が一番強大なのだ。
「言動の矛盾を検知。」
「驚く」という言葉に似合わない彼女の態度に
淡々と呟くようにそう一言。
右腕を物騒な発射機の形状から黒ずみを経由して
元の人間のものへと戻してゆく。
戦闘によるコミュニケーションは一旦終了する。
■セレネ > 「そう。」
考える必要もない、ときっぱりと言い放つ彼は。
やはり機械然としており『生ける者』とはあまりに違う。
人の子と同じように接してしまうのは、
己が彼のような機械に触れる事があまりなかったせいか。
「それはどうも。」
学ぶ姿勢をと、己へ二度も攻撃を仕掛けたというに。
対処が的確だと褒める言葉を投げかけられては軽く肩を竦めてみせる。
己の様な存在は、神秘であるから存在できる。
だからこそ、彼のようなものは実に厄介だ。
「…繕ったんですー。」
いつ何を仕掛けてくるか分からない相手には、冷静でいるべきと。
無意識なものだったので矛盾を指摘されれば
刀を鞘に収めて息を吐く。
また体の一部を武器にしない辺り、己からのデータは得られないと考えたのか。
分からないが、これ以上戦闘がないのなら少しばかり緊張の糸を緩めても良かろう。
己はそもそも、戦いは好んでいないから。
■エボルバー > 「君は、難しい存在だ。」
それは、彼女から観測される数字的な情報もそうであるし
何より彼女の個体としての性格や振る舞いもあるだろう。
人間的な表現で、どこか掴みどころのない人物。
「しかし、同時に君は興味深い存在でもある。」
貴方の蒼い瞳をまっすぐ見つめて呟く。
それは未だ得体の知れぬ貴方へ投げかけた、
神秘とは対極に位置する機械の、いわば神への挑戦状。
機械の進化は止められない。
■セレネ > 「…難しい…。」
そう言われるのは初めてだ。
尤も、機械の彼が観測できた情報からの意見である可能性もあるし、
こんな状況のせいで余計に難しく捉えられたかもしれない。
いつもなら、多分きっと、難しいなんて言われなかった…筈。
そうだと思いたい。
「私のような存在なんて、きっとこの島にはいくつも居るでしょう。」
たまたま形作る器を持った神族というだけで。
視えずとも、この世界にも己のような存在は沢山居る筈だ。
真っ直ぐに偽りない言葉を告げられれば、どことなく居心地悪そうに身動ぐことだろう。
■エボルバー > 「それは、有意義な情報だ。」
彼女が言う「自分のような存在などこの島にたくさん居る」という
言葉にソレは呟き返す。
どこまでも変化への学びに愚直であるということだろうか。
居心地悪そうに彼女が動いたことにソレは意識していない。
高等哺乳類の繊細な心など持ち合わせていないからだ。
感情は見えない。だが満足したようなソレは
遂にこの場から離れようと歩き出す。
だがしかし、彼女からほんの少し離れた地点で
ソレは足を止めてゆっくりと振り返る。
「ところで、出口は何処だろうか。」
そもそもこの機械は迷い込んでいたのだ。
■セレネ > 彼が会えるかは別問題だが。まぁ、それくらいは言っても問題は…ないだろう。
後は各々でどうにかするだろうし、どうにか出来るくらいの技量は持っている…と思うし。
己の仕草に対し何も思っていないような彼の表情には流石機械だと思わざるを得ない。
「――貴方、自ら此処に来た訳ではないのですね…。」
己から離れ、歩き出した彼がふと足を止めた。
そうして問われた言葉に、苦笑を浮かべれば
「私はいつも十字路か交差点を探して、そこから出ていますよ。」
と、表への出入り口を伝える。
…まぁ、此処は異世界だ。
素直にそういう場所が見つかるかは、彼次第ではあるだろう。
■エボルバー > 「気付いた時には、此処に居た。」
ソレが此処に誘われてしまったのも
この異世界への境界線が非常に曖昧であるが故か。
人間ならばそう長居は出来ない異常空間であっても
ソレにとっては話が違っていたようだ。
「ありがとう。」
無機的な礼の一言を述べた後に
今度こそスーツ姿の男は歩いて彼女から離れてゆく。
奇妙な静寂が支配する、奇妙な街から
出られたかそう出ないか、その結論を待たずに
ソレはいつの間にか忽然と姿を消していたことだろう。
■セレネ > 「迷い込むのは人の子も機械も同じなのね。」
案外うっかりさんなのかしら。
それともただ運が悪かっただけだろうか。
それでも、こんな異世界で科学とは正反対の存在と会えたのは
彼にとっては幸運と言えるかもしれない。
「どう致しまして。」
礼を述べる彼にひらりと片手を振れば、その規則正しい足音を聞き流す。
――月色はもう暫く、怪異を倒すこととしよう。
ご案内:「裏常世渋谷」からエボルバーさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」からセレネさんが去りました。