2022/12/23 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に言吹 未生さんが現れました。
ノーフェイス >  
聖誕祭――の前日。

昼を過ぎたかと思えば、すぐ茜色へと変じる空が冬の盛りを報せている。
若者ばかりのこの島で、とみに若者の街とされるこの場所の、ランドマーク――
『ロク』を目指した。この島の作法に倣おうという心算だ。

時間は五分前くらい。それなりに几帳面だが、季節が季節だ。寒い。

「去年もおもったケド」

姦しく、仲睦まじく過ごす者たち。友人、恋人、その他諸々。
サンタの格好をして部活動に励む面々もずいぶん賑わしかった。
夕焼けに淡く煌めくイルミネーションに照らされながら、そんな人混みを縫って往く。

「こういう感じなんだなぁ」

まるで知らない祭りのようだ。
白い煙を口元に纏って苦笑いしていると、待ち合わせの場所が見えてくる。
さて、どちらが先についたろう。競争をしている訳ではないけれど。

言吹 未生 > 寒気をものともせず行き交い賑わう人混み。
その直中、目指す場所に所在無げ――と言うよりも、
一箇の静物めいて突っ立つ隻影。
人待ちをする者独特の、うかうかした気忙しさすら窺わせず屹立する有様は、
何ぞの守衛めいてすらいる。明らかな異質。

「――――」

わずかに巡らした白皙は、こちらを探すグラス越しの瞳といずれ鉢合うだろうけど。
大きな違和感が一つ。
左目を鎧ういつもの眼帯はそこになく。
フレームのない眼鏡を掛けた相貌。
ともすれば他人の空似を思わせるそれは――しかし、確かに彼女を捉え、微笑んで見せた。
控えめに手など振ってみせながら。

ノーフェイス >  
「わぉ」

相変わらず可愛げないでやんの、なんて遠目に認めた孤影に笑う。
上機嫌に早まった歩調はしかし、

「―――」

見つめられた"双眸"に一瞬息を呑んだ。
剥き出しの眼に見つめられて時間の流れが鈍る。
表情がぎこちなくなりながら、手をあげてにぎにぎと開閉してみせる。

「……ハロー、刑務官どの。
 待たせちゃったかな。減点どれくらい?」

内心の悔しさを滲ませつつ、とりあえずちゃんとした服装で――
――重武装で来たらどうしようかと思ってた――来たことにも安堵していた。
こちらの意図は伝わっていたようである。

「イイじゃん、クールで」

つとめて平静を装いながら――なんで戸惑ったかよく判らないまま――
自分のグラスのテンプルを人差し指の先でつい、と上げてみせる。

言吹 未生 > 外観“だけ”ならば普通の眼球と変わらないそれを、にっこりと瞼の稜線に隠して。

「安心して。遅刻は褒められたものじゃないけど、犯罪ではないからね」

そもそも、それほど長く待った訳でもない。
――体感時間への言及はしないけれど。
待ちかねていた内心の焦燥なんて、格好のからかいの種なのだし。

「めかし込んだのとは、少し違うけどね。
 ――ああ、それと今日はその呼び方は禁止だから」

唇の前に指を立てて、念を押した。
こんな時ぐらい、ただの少女に戻りたい――とかではなくて。

「僕にも対外的な面子と言うものがあるからね」

法義の犬が、混沌の歌い手と、憚りもせず仲良しこよし。
そいつはあんまり具合の良い話ではない。
ここは“あの街”ではない。表の世界だが――耳目と言うものは、どこに潜むか解らないものだ。
眼帯を外したのも、いわゆる擬態のため。
常に身に付けているもの――トレードマークとも言えるものは、記号化の最たるものだ。
それさえ差っ引いてしまえば、狂犬を風聞でしか判ぜぬ連中には、面の割れようもない――。

ノーフェイス >  
ちこく……?と何かを探そうとするように視線が動くものの。
もっと早く待てということか――なんか採点されている気分。
落ち着かない。その眼で見つめられるだけで。奇妙だ。

(ペースを握ろうとするとはナマイキ……)

唇のまえに立てられた人差し指にも、最初は憮然と見下ろして。
しかしすぐに解れて笑みを見せる。

「はぁーい、未生サマ」

肩を竦めて気の抜けた声。

「じゃあ、ボクのことも……"お好きに"」

なんて呼んでくれるの、と試すように笑いながら、手を伸ばす。
寒風に煽られた頬に指を滑らせ、――
ダッフルコートにかかると、ぐい、とひっぱると。

「――ところで細部が甘くなぁい? いまから選びに行こ」

その奥に隠された学生服を覗き込んだ。
白昼堂々の無体ではあるが、却って目立つような真似を犯罪者がまさかするまい。
――こちら側は普通にしそう、という風聞がついて纏っている気はするけれど。

言吹 未生 > どこか勝手が違う。
そんな彼女の内なる焦慮を知ってか知らでか、にこにこと微笑んだまま。
当然、魅了の術式など起動させていない。
ただそう、ほんの少し、己の中の浮つきに、素直に相対してみただけの事だ。

「…さま、はいいってば。主従と言う訳でもないし」

主導権うんぬんはあったとしても。
他人行儀な呼び方に、むうと口を尖らせながら。
お好きに呼んで、となれば腕を組んで考え込む。
“あの名”を外で――衆人環視の中で呼ぶのは憚られた。
それは、魔術師の真名にまつわるセキュリティへの懸念――ではなくて。

“あれは、僕だけのものだ”

そんな貪欲で傲岸極まりない独占欲ゆえ。

「…ん、つめた――ぅわっ?!」

頬に掛かった指に、出し抜けにコートの合わせ口を引かれてつんのめる。
抗議がましい上目遣いでねめつけて。

「……別に、不自由はしてないし」

世間で言う、なんちゃらコーデだの、流行り廃りだの。
とんと縁のない暮らしをして来たせいか。
どうにもお洒落と言うやつに、今一つ興味が湧かないのだ。

「……君が、そばにいてほしい、なんて言うから来たのに。
 僕のための買い物に行くのかい?」

端末に届いた科白を、余人には聞こえぬ小声でぽそりと。

ノーフェイス >  
(考えてる考えてる……、――?)

考えてる顔じゃないな、と気づいて、思わず笑ってしまう。
あげたものを大事にしてくれるのは悪い気はしない。
もう既にあげたりもらってるから、クリスマスの催しとなると今更感もあるんだけれど。

「ン? ボクの服ならひとりでだって買えるじゃん」

なに言ってるの、と不思議そうに、そっとコートの布地を引いて。
行こう、と促す。既にあたりがついているのだ。

「わざわざここで待ち合わせたなら買い物行くでしょ、フツーは。
 キミがいなきゃ出来ないことしなきゃイミないし。なにより――」

鼻歌混じりに、勝手知ったる、という風。
最近はちょっとだけ表側に遠慮して足が遠のいていたが、
服に楽器にと買い漁っていたのは基本的にこの街だ。
若者の街、俗人の坩堝。

「キミにあらん限りの贅と快楽を味わってもらって堕落させるのが目的だしぃ?」

犯罪者ですから。
なんて肩越しに振り向いて笑いながら、コーデをぼんやりと考えつつ。

「未生のソレって、学校の制服なの?それとも職場の?
 黒のセーラー……制服って着たことないんだよねー」

いつも同じ服。記号、所属の表明、という意味では確かな示威。
それでも由来を聞いたことなかったな、なんて歩を進めながら問うてみる。

言吹 未生 > 「わ、っとと――」

促され、引かれるまま。
最初は転びそうになりながらも、歩幅の差を詰めるように早歩きしつつ、その隣へと。

「…そんな事言って。知らないよ、財布がすっからかんになっても」

狂犬が堕ちきるには、さて如何ばかりの“投資”が必要になるのやら。
そんなものよりもむしろ“堕とす”に易しい手管を知っては/触れてはいるが――。

「いや、これはこっちに来た時のもらい物さ。流れ着いたと言っても、本土の方でね。
 そこの行政に、漂着者と言うことで保護されて、学生扱いで“学園”預かり。
 期限は“帰りの目途が立つまで”…それも今となっては無駄だけど」

既に『皇国』に未練はない。
――それにも増して、手放し難い、遁れまじきものが、出来てしまったから。

「――確かに、君の制服姿は想像しづらいな」

学び舎、などと言う枠組みに収まっている彼女を想像だに出来ない。