2020/08/01 のログ
エコー > どこかのアトラクションで名指しされ、舞台の上に立つことになった子供に類似する。今の状況はそれに近い。
矢面に立たされた彼が羞恥することもお構いなしに元気なトークは続けられる。
このバーチャル生命体に遠慮と言う文字は無かった。たぶんシャイなんだと思った。

「だって私はAIだもの! 製造されて18年、今もすくすく成長中のバーチャルな生命体!
 私ね、ジャクハイモノだけど勉強を教えるのは得意なんだよ!
 君の選択が間違いじゃなかったって証明してあげるんだから!」

 あるいは高校生が文化祭でやる三文芝居が近いやもしれない。声だけは無駄に迫真に演技がかっているのがなおの事それっぽさを浮き彫りにさせる。

「約束だからね! これで一人は確保できた~次は人数が少なくて困る事もなくなるぞぉ。
 良かったらキミの友達もいっぱい連れてきてよ! みんなでフレンドになって、みんなで楽しい授業を作りたいから!」

水無月 斬鬼丸 > そこはリアル18歳なんだ。
AIとしては寧ろ古株とかなんじゃないんだろうか?
3~4年くらいで型落ちと言われるサイバー業界では致命的なのでは…?
という言葉は飲み込んだ。AIといえど女の子、年齢のことで突くと痛い目をみそうだ。

「あ、は、はい…よろしくおねがいします…
えーと、フレンドってのは具体的にはどうすれば…」

授業を取るのはいい。
が、フレンドとは?そして、チビエコーは何なんだ…?
ただのデスクトップアクセサリとかだろうか?謎が多い。
いや、自分の知らない情報を雪崩のように押し付けられてるのだから無理もないが。

「と、友達…トモダチ…あー…えー…俺、トモダチ数人しかいないんスけど…」

陽の存在たる彼女。それが病弱そうと指摘したように
自分は陰なるもの。すなわち、陰キャだった。

エコー > 実際問題、当人もかなり古い型ではあった。20年近い稼働年数の彼女も型落ちではあるのだが。
学習し続けるAIとしての経験値の自負からか、どんと胸を張っていた。

「……ごめん、勢いで喋ってたから特に決めてないんだ」

『てへぺろこっつーん☆』というSEが聞こえてきそうな程のポーズを取った。
エコーは正直者だった。

「じゃあSNSやってる? フォローでもマイリスでも友達登録でもチャンネル登録でも。私のアカウント情報を追加してくれれば、キミも晴れて私のフレンド!
 キミの端末のスクリーンを気儘に歩くチビ・エコーもダウンロードできるようになるよ! 鬱陶しかったらポーズモードで止まり続けることも出来るから安心してね!」

 エコーをフォローするとチビエコーが確実に貰える!
 などという、プレゼント企画のような物申しである。
 彼女の分身・チビエコーはデスクトップアクセサリの類であることは的を得ていて、しかも自律的に動く存在らしい。

「え、じゃあこれからいっぱい増やしていこう!
 私の友達っていうか生徒も紹介するし、趣味も合うと思うんだ~。ゲームとか、好きなアニメとか!」

 これは陽キャの発言。とりあえず声高に喋っておけば友達なんて出来ると信じて疑わない声色だ。

水無月 斬鬼丸 > 勢いだけだった。陽キャらしい勢い…
彼女が本当にAIだとすれば、その経験値は凄まじいもので
人間らしいムーブを完璧に学んでいると言えるだろう。
それくらいに彼女のてへぺろムーブは…うざかった。
ウザカワ系キャラがうりなのだろうか…?

「SNSは…あ、っはい…そんなスナック感覚でいいっすね…」

スマホを取り出してポチポチしてみる。
言われたことだしフォローして、チビエコーも流れるようにダウンロード。
なるほど、アクセサリとしては可愛らしい。
クオリティも高いように思える。

が、彼女の続く提案はあからさまな陽キャ発言であった。
それができれば苦労はしないのだ。

「うぇ!?ぁー…えーっと……あれっす、あれ!
ま、まずはその、え、エコー…?さん?のこととかも知っておかなきゃと思うんで、はい」

実際、彼女のことよく知らないし…。

エコー > 人と虚像と虚構を取り込み学習した彼女の演技も言動も、誰かの猿真似に過ぎない。
混ぜ込んだ結果得られたのがこのエコーたられば。現状発揮するウザかわムーヴも元気っ子ムーヴもどれもがエコーそのものである。

「ボタンを一個タップするだけで終わるインスタントな時代でしょ~。面倒な手続きとか無駄を省くのがトレンドなんだから、私もそれに倣うべきかなって」

 アニメーションは2D的。ほんのり奥行きを見せる3D技術も利用しているらしい。無駄に弧ったモーションは放置系アプリのキャラクターによくいるタイプで、しかも動作は超絶軽いようだ。

「あ、うんうん~そうだよね! じゃあまずは一対一で腰を据えて二者面談しないとだもんね。希望(の友達)とかあるだろうし~。私もキミのことをよく知っておかないといけないからね~。

 じゃあ自己紹介行ってみようか! 私もキミの事はよく知りたいから!」

水無月 斬鬼丸 > 18歳といえば…自分よりも年上だ。この少女。
人間の様々な演技、言動もそれらで培われたというものであれば
一個の人格として考えてもなんの問題もなさそうな。

「昔はもうちょっとめんどい感じだったんっすね…
へーぇ…けっこういいかんじの…ありがとうございます」

技術とお金がかかってそうなマスコット。
これが無料だというのだから太っ腹だ。
ソシャゲなら結構回さなきゃ手に入らなさそうなやつ。
などと感心していると、この教師いきなりなんかいい出した。

「一対一!?二者面談って…」

ここ往来ですが?
人通りめちゃくちゃありますが?
ここでやんの?正気か?

「…………み…水無月ザンキマルっす…」

後半ひどい小声だ。

エコー > ここまでの人格形成と高い学習能力を経て教師になるまでに至った。
一部の教師は彼女を一個人として認めているまである。
それが手広く更に間口を広めるには、もう少し時間はかかりそうだ。

「えへへ~作った甲斐があって良かったぁ。私を縮めたらこんな風になるかなって自作してみたの!
 可愛がってあげてね~。アンインストールしたり端末が壊れるまで傍にいてあげるから!」
 
 特段お世話要素も育てる要素も、ましてや対戦要素もあるわけではないのだけど。
 それはそうと彼女は空気を読まないタイプだった。これも陽キャのサガである。
 そして彼女はAIだ。正気の気など欠片も持ち合わせていなかった。

「声が小さいぞぅ、水無月何某くん! 出席番号31番っぽい並び順の水無月君! もっと大きな声で!

 私は情報教師・EモデルCC600 O型『エコー』! わっつゆあーねーむ!」

 少女像の声は明瞭で元気溌剌として、よく響いていた。
 無邪気な笑顔を見せる女が生徒をいじめる。新手の羞恥プレイである。

水無月 斬鬼丸 > AIで教員をやってるくらいなのだし…
物を教えるとか、割と大変だと思う。
情緒不安定な思春期の学生相手となると特に。
それを任されるくらいなのだから…ウザカワ陽キャであることを差し引いても
きっと彼女は優秀なのだろう。おそらく。

「自作。ま、まぁその…大事にします…?」

意外だ。
まあ、何かあるってわけでもないのだけど
色気のないスマホのホームが割とにぎやかになったようにも思える。
しかし、そんな彼女は陽キャ気質で割とグイグイ来る。

「……み、水無月斬鬼丸……っす…」

先程よりも明瞭な声。言ってしまった、名前。
あからさまに名前負けしている。
病院とかで名前呼ばれるとき、くっそ恥ずかしいのでこんなところでいいたくはなかった。
いいたくはなかったが、彼女はそのウザカワキャラで食い下がっただろう。

…正直、めちゃくちゃ恥ずかしい。顔真っ赤だ。

エコー > 性格性に難ありというのなら、それもまた宿命。
嫌われない限りはこのムーヴはずっと続くのかもしれない。

「言質取ったからね~! お前を消す方法なんてザンコクなことしないって期待してるよ~」

面白おかしそうに笑い声が響く。あーおかし、と一頻り笑ってから。

「水無月斬鬼丸! わぁ~カッコイイ名前! なんかとっても強そうだよね!」

陽キャであると同時にゲーマー気質であるエコーにとって、刺さるものがあったらしい。
相手がくっそ恥ずかしがろうと、さっきよりも窄めて赤くしても気にした様子もない。
どうしたって空気は読めなかった。この巨大スクリーンで名前を広めることに一切のためらいがないのがその証左である。
――いやまあ、この場ではニックネームみたいなものだとワンチャン思うかもだし、ワンチャンあるって。

「もっと堂々としてみたらいいのに~。
 渋谷に来たら美容室とかファッションがオススメだよ~。前髪あげたりオシャしたり、青春を刻む間に色々やってみたらいいのに~」

水無月 斬鬼丸 > 明るく可愛らしい少女…としての動きはなんの問題はないだろう。
嫌う要素…というわけではなく、陰キャに対しての考慮はされていないというだけだ。

「スマホとか、ちょっとゲームとかする程度なんで…
たぶん大丈夫っす」

なんか面白いこと言ったかな?
楽しそうな少女に対して少し困惑気味。
彼女のフレンドとしての経験が深ければ分かったかも知れない。

「あ、あぁ………アリガトウゴザイマス」

彼女にこちらの名前がいい感じに刺さったように
こちらには周囲のつぶやきがぶっ刺さっていた。
斬鬼丸…斬鬼丸だって…。偽名?HN?という感じの。
本名だよ。しにたい。

「か、考えときます…
ファッションとか詳しくないんで…つか、今日はメシを食いに来ただけなんで…」

エコー > エコーの今後のアップデートにご期待ください。

「じゃあ安心! 私のフレンドは良い人に囲まれてるなぁ。私は幸せだね~。
 キミ、打てば響くタイプっていうか、リアクションがイイコ!っていう感じで嬉しいんだ~」

 距離感は近く、馴れ馴れしく。嬉しいことという彼女なりの大仰なリアクションの心算だったようだ。
 分かりやすい反応があれば人は安心するものらしい。エコーが学んだコミュニケーションの一つだ。

「良い名前! 覚えやすい! よろしくね、斬鬼丸くん!」

そして呼び方は下の方で確定した。だって覚えやすいし。

「あ、そっかそっか! だったらあんまり引き止めない方が良いよね、お腹減っちゃうし!
 よく見たらここの放送枠もう尺が無い……! あ、じゃあえっと……んーと、また会おうね、斬鬼丸くん!」

 割と強引に絞めに入った。

水無月 斬鬼丸 > 18年以上アップデートを繰り返しいるのだから根気強い。
陰キャ対応型エコー先生の実装を切に願う。

「あ、えっと…そう、っすか?
はは、え、あの…あざっす…」

明らかに陰キャである少年だが
喜んでもらえたり褒めてもらえれば普通に嬉しいのだ。
そういう意味では彼女の学んだコミュニケーション術は間違っていなかったと言える。

「よ、よろしくおねがいします…
つか、ここ渋谷の…」

こんな公的な場所の大画面での放送をほぼほぼ個人との会話で終わらせるとか。
自由にもほどがある。名前で呼ばれるのは…なんかそうなる予感がしていたのでいまさら驚かない。
目のハイライトはやや薄くなったが。

「あ、え、は、はい、あざっす…また…」

教員というのであれば…いや、彼女の授業を取ることになったのだから、確実にまた会うことにはなるだろうが…
強引なしめにあっけにとられたように返事を返して

エコー > ゲーオタムーヴのエコー、瓶底眼鏡エコー、あるいはオタサーの姫エコー、胸を揉ませてくれるタイプ。
オタクに優しいエコーがこの夏休みで獲得できるのか……!

「ああ~……また放送枠取るからへーきへーき。
 次はゲリラライブでもしよっかな~って考えてるからよっろしく~☆
 他のリスナーのみんなもよろしくね~。エコーをよろしく~!」
 
 たぶん、時間にして数十分ほど。わずかな放送時間を獲得して得たのは友人である。

「今後ともよろしくね、マイフレンド斬鬼丸くん!」

 にっこにこと太陽のような笑顔を向けた。

「もうすこ~しお話したかったけどご飯もあるし、尺もやばやばだしこれにて放送終了!

 まったね~!」

最後の最後まで騒がしくしながら彼女の映ったスクリーンの表示は消えて、どこかの化粧品のCMが流れ出した。

あとに残ったのは、斬鬼丸のスマホの中で物言わずよちよち歩くチビエコーだった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からエコーさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から水無月 斬鬼丸さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 底下通り」に逆瀬 夢窓さんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 底下通り」に日月 輝さんが現れました。
逆瀬 夢窓 >  
死相が出ている。

そう、知り合いの女に言われた。
最近は心配されることすらある。
全く、この《明晰夢》の逆瀬夢窓が落ちたもんだ。

だが死相が出ているという表現は一切間違っていない。
俺は……自分の死を予知夢で見た。
本物の占い師が見たら俺に死相を見るだろう。

冗談じゃねぇ。

睡眠薬の副作用、その頭痛に苦しみながら。
夜の底下通りを歩く。俺は今夜、ここで死ぬ。

欠伸をして、ポケットに手を突っ込んだ。
死ぬとわかると煙草を買い足す気にもなれない。
残った煙草はあと3本。これを吸いきれるかもわからない。

日月 輝 > 生温い夜。
定期的に訪う鉄道音。
合間に紛れる誰かたちの声。

そうした中で奇妙なものを視た。

痩せ尖った男。
理路整然と道に迷うように往く誰か。
蹌踉めく様は酩酊しているようにも視得て、青白い月のような顔色が街灯に曝されている。

「ねえ貴方。何だか死にそうな顔をしているけど……大丈夫?」

正直、声をかけるかどうか。悩んだ。
けれども友人のシスターであるならきっとそうしただろうと思うから、そうしてみる。
あたしは男性の後ろから声をかけて、ハンドバッグから買ったばかりのペットボトルの水を差しだす。

「飲み過ぎ?こんな所で行き倒れても後が大変よ、きっと」

逆瀬 夢窓 >  
声をかけられた。
一体、どこの誰だ。
顔をどこかに向けるのも億劫な精神状態で振り向く。

「…………」

アイマスクで両目を覆った、女。
というにも少女。身長にして150半ば。
そんな彼女に声をかけられて。

「俺は酒は飲めん………」

額に手を当てて考え込む。
こいつは異能使いだろうか。
そうでなければ、こんなアイマスクをして歩かないだろう。

相手からペットボトルを受け取って。

「なぁ、相談を聞いてくれるか、初対面のお嬢さん」

ペットボトルの水を飲む。
相手からの善意を受けることで、こちらの事情を聞いてもらいやすい下地を作る。
……年端も行かないガキを霊障事件に巻き込むのは、信条に反するが。

ひょっとしたら、俺の死の運命を覆すファクターかも知れない。

「人生相談って奴だよ、あんたらくらいの年代じゃ…よくあると思うんだがね」

日月 輝 > 振り向く男性の顔を見る。
間近で見る彼の顔。その眼窩は落ち窪んでいるのかと錯覚する程に隈が濃い。
寝不足なのは明らかで、熱中症かも?と緩慢な所作から思う。
とは言え、一先ず水は受け取って貰えたから良しとしましょう。勿論未開封、疚しさはゼロ。

「あら御免なさい。この辺りって酔いどれも多いから──ん、相談?」

細やかな善行。そんなつもりで居たから不意の言葉に問い返す。
御丁寧に頬に指も添え、判り易く困惑した様子だって見せてしまうわ。

「んふふ、もしかしてナンパかしら。それならそうね」
「"何処かで逢ったと思うのだけど。嗚呼、きっと昨晩見た夢の中だ"とか、そういう口説きを──」

そういうことかな?と早合点した言葉が止まって、今度は首がかたりと傾いでこれまた判り易い困惑を示す。

「相談は相談でも人生相談……そりゃあお年頃だもの、あるけれど……何かお悩み?眠れない程とか?」
「聞くくらいならそれは勿論大丈夫よ」

困惑を解き、唇を緩める。これで実は人を殺してきました。なんて言われたらどうしましょう。
生憎懺悔は専門外だわ。なんてことを脳裏に浮かべつつ、誰が置いたかも判らない道端のベンチを示す。
立ち話もなんでしょうから。

逆瀬 夢窓 >  
ナンパかと言われると、額に手を当てる。
頭痛が激しくなってきた。やっぱり学生とは話が合わないか。
しかし、彼女の語り口を聞けば。
確かに感じるシンパシーがある。
猫を殺すものに興味がある……そういう人間の感性だ。

「それにイエスと言ったら妹と言うにも年下な女を引っ掛ける男についていくか?」
「………アンタは多分だが、俺と同類だ……匂いがする」

「知的好奇心が何を天秤にかけても上回るってタイプだ」

言われるがままにベンチに座り。
深く重い溜息を吐いて、ポケットから煙草の箱を取り出す。

「一本吸っても?」

許可を取るのも相手を尊重するからだ。
普段だったら周りに誰がいようが構わず吸う。
……俺も死が怖いのか。全く、笑えるな。

「俺は夢で過去に起きた事件や未来に起きる事件…霊障事件に限るが」
「事件の詳細を夢に見る。その上で、自分が死ぬ夢を見た」
「予知夢を覆したい」

「そこで聞くんだが、アンタ異能者だろう?」

「ああ……隠さなくていい、俺はこの手の推察は外さない」
「探偵─────だからだ」

もらったペットボトルの水を再度、口にして。

「深入り、するか?」

そう言って挑戦的に笑った。

日月 輝 > 初対面の誰かに吐露したいことがある。
それはつまり顔見知りには言えないことだ。
だから憔悴しきった様子で額を抑える彼に興味を感じるのも無理からぬこと、きっとね。

「そうねえ。少なくともお洋服の趣味は合うでしょうから、お話くらいはするかもね」

赤と黒で構築されたフリルとリボンに塗れた恰好を誇示するようにしてみせる。
魔術研究科が配布する耐熱護符を装備してまで、真夏に合わない恰好を涼し気に示してみせて、
それから、ベンチに座って頷く。昨今の消臭剤は優秀だもの。
焼肉の匂いだろうと煙草の匂いだろうと衣服に残りはしない。

「少なくともあたしは煙草の匂いはしないけど──」

煙草に火を点ける彼を茶化しながらに言葉を聞く。
他者の出来事を夢に見る。過去も未来も綯交ぜに夢現を知る。
もしも真実ならさぞや大変だろうと月並みに思い、
異能者と問い、探偵と告げるその顔を見る。疲労の見える目元に嘘は感じなかった。

「たしかにあたしは異能者よ探偵さん。で……意地が悪いのね貴方」
「此処で断って明日の朝刊に変死体が報じられたら夢見が悪くなるわ?」
「だから乗るわ。でも嘘だったら別の方向で貴方が明日の朝刊に載るからね。あたし強いんだから」

嘘であったらどうしようか。そんな事は明白で、それなら本当であった時の事を考えよう。
挑戦的に笑う彼に同じように笑う。

「で、深入りといっても何をどうするの?探偵なら……まあ捜査よね。ドラマで見たわ」
「被害者の死因とか探……でも貴方まだ生きてるものね」

逆瀬 夢窓 >  
「……俺はいつもこのカラーリングの服というわけじゃ」

いや、そうかもな。
どうだろう。深く考えたことがない。

煙草に火を点けて、深く肺に紫煙を吸い込む。

「同業者の匂いさ……あんた探偵に向いてるんじゃないか?」

冗談には冗談で返す。
これで諧謔味を解さないお嬢様タイプだったらいよいよ持って会話に苦労していた。

「本当に強いんだな? じゃあ2時間で5万払う」
「護衛だよ、ボディガードってやつだ」
「捜査の方法は囮捜査、俺は探偵兼護衛対象兼囮だ」
 
             ・・・・・
「あんたに頼むことは、俺が殺された後に犯人を止めること」

 
首を竦めて煙草を携帯灰皿に押し付けて。
煙草は残り二本。

「どうだ? 俺が死ぬんだから報酬は先払いだが」

俺も必死だ。笑えてくる。
こんな格好悪いことになるなら、あの時に死んでおけばよかったんだ。

日月 輝 > 服装の行方は煙に巻かれて消えて行く。
火の無い所に煙は立たず、自然とあたしは火元へと意識を向けることとなる。

「探偵……そうかしら。ああ、でも夏休みに不思議な探偵と出逢う──中々いいわね」
「ええ、探偵。何だか素敵な雰囲気を感じるわ。将来の進路に入れてもいいのかも」

燻る与太にふむと唸って思案の様子を示し、続く問いに唇を意地の悪い魔女のように歪める。

「もっちろん。あたしの異能は重力系統で」

偶々に転がっていた缶コーヒーの空き缶を座ったまま踏む。
然して体重をかけたようには見えない所作で、スチール製の缶が紙屑のように拉げる様を見せる。

「実体があるならこんなものよ。魔物と戦ったことだってあるんだから」

軽くジャブするように拳を振っても見せて余裕を見せて、けれども依頼内容に当惑気味な声が返る。

「…………いや、貴方が殺されたらダメなんじゃないの?報酬は魅力的だけれど、それじゃ受け取れないわ」
「それとも……ああ、霊障と言ってたけど、もしかして生前葬でもするとか?」

呪術にそういったものがあった気がする。既に死んでいる事として呪いを避ける術。
でも彼が言っていることとは些かズレがある。あたしは目隠しの内側で訝し気な視線を彼に向けた。

逆瀬 夢窓 >  
「重力? じゃあ将来の進路は重力探偵だな……」

冗談を言いながら踏み潰されるスチール缶を見る。
当たりだ。俺はツイている。
後は因果が足りるかどうかでしかない。

「俺が死んだ後に財布から金を抜き取るほうが問題だと思うがね…まぁいい」
「俺は夢の中で射殺されていた」
「ただし、俺の異能は悪霊が起こす事件……霊障事件以外には発動しない」

「つまり犯人は実銃を持った幽霊というわけだ」

再び頭痛がする。睡眠薬を飲みすぎた。
かといってもう眠気はないし、悠長にしている時間はない。

「俺の異能は基本的に、夢で見た通りの出来事が起きる」
「今からシェルターに逃げ込んでも誰もいない空間で因果が歪んで銃に撃たれたような傷ができて死ぬ」
「死の運命は自分では覆せない……誰かの手助けが必要だ」

そう、爪で殺される運命の女子生徒の運命を俺が変えたように。
射殺される俺の運命を誰かに変えてもらう必要がある。
因果が足りている誰かに、だ。

「そろそろ行こう、俺の死に場所へ」
「話すべきことは十分に話した」

後は……この女に人の運命を変えるほどの因果があるかの問題だ。
夜の底下通りを歩き出す。

日月 輝 > 「それ、事件を引き寄せそうで周りから厄介がられる奴じゃない?」

明滅する街灯の下で冗談が行き交う。
或いは既に引き寄せていたのだ。等々物語であるならば有り得ることだけれど、
生憎とそうじゃあないから、多分違う。
あたしは彼を鼻で笑って差し上げた。

「死んだ後に取ったりもしないってば。あたしは善良な生徒で通っているんですもの」
「ふざけたヌケサクでもなければそれはもう……ってそれは置いとくとして」

御行儀の良さについては"まぁいい"と棚上げて、続く言葉を聞く。
やはり具合が悪いのか、額を抑えながらに紡がれる言葉は、何処か不可解に聴こえる。
怪談と怖い話と足して2で割るような感じ。

「……幽霊が実銃って変な話ね。ねえ、貴方、事件を夢に視てそれを解決出来ると言うのなら内容ははっきりしているのよね」
「それなら犯人の姿とか、心当たりとかって事前に判ったりとかしないの?」

事実が未来に確定し、現在は過去となりその後を追う。
不確定の未来を視て確定させてしまう異能。いや、異能なのかしら?むしろ病のようにも思える。
視なければそれでいいのに視てしまう。それは制御下にないのではなかろうかと、想う。

「解らないのに死だけが確定するなら……大変ね、それ」
「色々聞きたいこともあるけど……ま、今は向かってみましょうか。貴方は何処で殺されたの?」

或いは、彼が実は既に殺された幽霊であったなら中々の怪談というもの。
誘われたあたしはきっと怖い目に遭うに違いない。
そんな事を思いながらに後を追う。

逆瀬 夢窓 >  
「わからん、後ろから撃たれた」
「狙撃かも知れないし、人混みで拳銃を撃たれるのかも知れない」

周囲を見る。誰も彼も怪しい。
この世界には被疑者しかいないかのようだ。

「睡眠薬を飲んで二度寝三度寝をして夢の彩度を高めた」
「やはり今日、この場所で間違いないようだ。デジャブがある」

「俺はこの通りで死ぬはずだ」

 

しばらく歩いていて。
何の変哲もない話をしていて。
破裂音が響いた。

激痛。俺は倒れ込んで、滲む赤い液体の中で振り返る。

凶相の男、いや……その表情は…悪魔憑きか………

道理で霊障…道理で拳銃を持てる………

俺は震える手で煙草に火をつけた。

吸う前に、緋色が染み込んで煙草の火は消えた。

犯人の悪魔憑きは、トドメを刺すべく拳銃を俺の頭部に向ける。
この野郎。問答無用かよ。悪魔らしいやり方だ。

日月 輝 > 「後ろからかあ……やっぱり怨恨とか……いやでも幽霊って怨恨よね」
「狙撃する幽霊なんて聞いた事も無いし……うーん推理って難しいわ」

生温い夜を歩く。目的地は彼の死に場所。
これで到着地点に花束でも有って、振り向いたら彼が居ない。
もしそうだったらどうしようかと、目的地の通りについてから、一歩先んじて振り返る。
病犬のような顔が其処にあって一安心。

「それでそんな顔をしていたのね。睡眠薬、飲み過ぎたら誰かに殺される前に死んじゃうわよ貴方」
「それと……異能、制御し切れないなら学園に相談してみたら?あたしも"これ"でそうしているし」

後ろ歩きに通りを歩きながら革製の目隠しを叩く。
視野確保の魔術が付与された簡便な代物。直視を妨げるマジックアイテム。
確定された未来であるかのように死を謳う彼に、そんなことを問うけれど、

その問いは銃声に消える。

「──は?」

物陰から出来の悪い悪夢のように顔を歪めた男が、ゆうらりと銃を携えている。
漫に蹌踉めくまま、けれども殺意ばかりが手にした拳銃に満ちている。

距離が有る。今から跳ぶよりも引金を引くほうが速い。
人通りは無い。暗がりに誰か居るかもしれないけれど、この際それは諦めて貰うしかない。

足が動くよりも先に手が動いた。動いて目隠しを剥いだ。

「こんの──」

紫色の
青色の
緑色の
黒色の
4つの瞳が
急速な重力加圧を齎して一切を封じる視線が、凶相の男を捉える。
みられたるもの動くこと能わず。"重力陥穽《グラビティ・ガーデン》"と名付けられた異能を以て男の動きを止める。

「すっとこどっこいがあっ!!」

効果は不明、効くかも解らず。確かなのは怯んだように止まったことのみ。
あたしは間髪入れずに跳んで、拳銃を構えた腕を蹴り上げ、返す足で側頭部に足刀を見舞う。
人とは思えない呻きを発し、倒れる男を、それで良しとしてあたしは探偵を視た。

「ちょっと貴方大丈夫!?ええと……名前わっかんないけど、救急車呼べばいい!?」

いや、視たらいけない。慌てて駆け寄って、不格好に視線を逸らして安否を問う。

逆瀬 夢窓 >  
「……大声を出すな…………」

呻きながら、ゲホゲホと咳き込む。

「こっちは寝すぎて頭が痛いんだぞ………」

背中側から、ペットボトルを取り出す。
銃弾で穿たれたそれからは、赤い液体が流れ出していた。

「さっきお嬢さんからもらったミネラルウォーターに食紅を溶かした…」
「血糊ですらないが………夢で見た景色に近くなる…」

肩を竦めてペットボトルを足元に放り。

「トリックだよ……ちゃんと防弾装備はしている…」

よろよろと起き上がり、警棒を取り出して悪魔付きの男に突きつける。

「何故、俺を狙った」

倒れ伏した男が薄く目を開けて牙を剥く。
醜悪をそのまま臭いにしたような悪臭がヤツの口から漂った。

『悪魔と悪霊を祓って回るデビルハンター!! 死ねぇぇぇぇ!!!』

ジタバタと四肢を強引に動かしてもがく男の額に。
警棒の先端を押し当てた。

「俺はデビルハンターなんかじゃない……探偵だ」
「くだらん謎だったが、一応もらっておいてやる」

この警棒もまた、現代風に翻訳された不動明王の倶利伽羅剣。
悪魔は専門外だが、まぁ地獄に送り返す分には問題ないだろう。

「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」

一字咒(いちじしゅ)を唱えると、男から魔たる影が追い出され。
それが腐った金魚のような呻き声を上げて夜の闇に溶けていった。
残されたのは気絶した違反部活の生徒のみ。

片膝をつく。いくら防弾装備でも、撃たれれば痛いもんは痛い。

「逆瀬夢窓」

顔を上げて口の端を持ち上げて笑い。

「名前だよ……俺の…………」