2020/08/17 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に高坂 綾さんが現れました。
高坂 綾 >  
影分身が無数に敵を取り囲み、一撃一撃と浴びせながら旋回していく。
奥義、絶影陣。

倒れ込んだ裏渋七人ミサキたちが黒ずんだ粒子を大気に放出して消滅する。

なかなかの強敵だった。
これくらいの深度になると、敵も手強い。
奥義を使わされるとは思わなかった。

近場にアイテムはなさそう。
とりあえず、まだ余裕があるし進もう。
影分身たちを自分の影に戻して影の濃さを正常化させる。

高坂 綾 >  
拾った乾燥ラベンダーのポプリを嗅ぐ。
香りが幾分か“裏”にいる居心地の悪さを和らげる。
やはりこれは当たりだ。

“裏”での探索時間を一時的に伸ばすアイテムと言えるだろう。
もちろん、久那土会の専用アイテムほどの効果はなさそうだ。

鑑定が楽しみだ。
そう考えて口布の中で微笑むと、目の前に広がる景色を見た。

極彩色に彩られた常世渋谷の街並み。
ビビッドなカラーリング、それでも正常なデザインの街。
人はおらず、怪異が蔓延るその場所を。

高坂 綾 >  
ふと、広い場所に足を踏み入れると。
遥か前方に謎のシルエットを見た。
女性的な体つき。そして、長い髪。

あれは……私に似ている。
顔つきと体つきなら瓜二つの範疇と言える。

ただ、実際は彼女は───白のドレスを着て蝶の羽根のようなオブジェを背負っている。
奇妙な嫌悪感に苛まれながら一歩を踏み出していく。

“彼女”に近づいていくのだ。

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
肩を揺らして笑って。

「知ってる? 聞いてる? あの子の噂」
「ウワサよ? ウワサよ? 持ち切りよ」

黒い髪。同じ背の高さ。
しかしその瞳は金色に染まっている。

高坂 綾 >  
随分とくだらない化生もいたものだ。
私に化けて言うことがこれとは。

「……生憎と人の噂に興味はない」

忍刀を構えて戦闘姿勢を取る。

「私の姿を真似て何がしたい? 返答次第で命脈を断つ」

私そっくりの声、全く違う喋り方に妙に苛立つ。
構えを取ったまま切っ先を揺らした。

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
「いいえ、あなたは聞きたいはずよ」
「いいえ、あなたは知りたいはずよ」

両手を広げて極彩色の世界に僅かに鱗粉を撒く。

「全部全部があなたの噂!」
「何もかもがあなたの話!」

「知りたいわ、私知りたい……自分のことが」

かくん、と首を横に倒した。
それは人間の首の稼働限界でもある。

高坂 綾 >  
自分の姿。自分の声。それが、こんなにも。
生理的嫌悪感を煽られる。

「……っ! もう喋るな、化生が!!」

首を切り裂かんと忍刀を振るう。

ご案内:「裏常世渋谷」にツァラさんが現れました。
ツァラ >  
斬りつけた箇所から溢れ出すのは、青く光る蝶の群れ。

『おんなじ、おんなじなのに、きらいきらい』

少女の背後から、くすくすと笑う声が聞こえる。


ころころと喉を転がすように、
それは歌うように、楽し気にリズムに乗って。

さぁ、後ろの正面だぁれ?

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
首を切り裂かれて、青く光る蝶の群れを放出して後方に倒れる。

「あなたは知ってる覚えてる」
「その顔汚した返り血を!!」

倒れたままゲタゲタと笑い始める。

高坂 綾 >  
背後に気配を感じて振り返る。

そこにいたのは、奇妙な和装の少年。
白い狐を思わせるそのシルエットに、喉が乾いた。

「化生は二体いるのか!? 厄介な……!」

息を呑んで両者にクナイの切っ先と忍刀を向ける。

覚えている? 返り血? そんなことはない。
だってさっき首から出たのは、青く光る蝶の群れ。

ふと、自分の顔が赤黒い血で濡れていることに気付いた。

あの時と……友達を助けるために怪異がいる森に入り込んだ時と同じ。
怪異を斬り倒して顔にべったりと返り血がついた私を。

友達は。
化け物と。
叫んで、拒絶して………

震えた。そんなはずはない。これは幻術に過ぎない。

ツァラ >  
「キミはどうしてここにいる?」

刃を向けられても少年は平然とそこに立っている。
高い声を鈴のように響かせて。
笑みを浮かべたままに、隻手を掲げ、青く光る蝶がそこへ留まる。

「迷い子、惑い子、キミは何を覚えてる?」

震える少女に少年は問う。


白い三尾が揺れる。

長い白い耳が揺れる。

少女よりもうんと小さな少年は、笑っている。

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
「あなたは本当はわかってる!」
「怪異から友達を助けた時に友達から化け物と拒絶されたこと!」
 

「本当はそんなことに傷ついてないって」

 
「あなたは本当は周りの無関心な関心に一番傷ついたの」
「勝手な噂に! 勝手な慰めに!!」
「大人になれば折り合いがつくよ、という言葉に!!」

「深く傷ついた………」

逆再生のように起き上がり、二本の足で立つ。

「周りの眼が気になる……」
「みっともない姿なんてしたくない……」
「ファッションに気を使って、友達と程々に仲良くして」

「無個性の中で埋没したい……」

ゲタゲタと再び笑い出す。

「それがあなたのノ・ゾ・ミ!!」

人のシルエットが影に溶けて異形へと成り果てる。
無数の眼が開いた蛹の姿へと。

高坂 綾 >  
少年の言葉に視線が揺れる。
何を知っている。こいつらは、何を。

「覚えて………?」

震える声で答える。
迷い子。惑い子。私が?

笑っている彼に続いて、私の写し身は語りだす。
私の本当の弱さを。

「やめろ…………」

やめろ、やめてくれ。
それ以上言わないで。
誰にも秘密にしてきたのに!! 言わないでよ!!

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

人のモノと思しき眼が開いた巨大な蛹。
それが私なのか。私の罪なのか……?

ツァラ >  
ああ、正に惑い子。哀れかな。哀しきかな。


「ひふみ」「よいむなや」


コロン、と、下駄が音を立てる。
刃を向けられていることなど、まるで気にせず。
その口は紡ぐ、遠い遠い、古く子供たちに語り継がれる遊び歌。

少女の傍を通り、巨大な蛹に手を伸ばす。
少女の前に立ち、その尾が揺れて。

蛹は何をしてくるだろう?


手を差し出すように、共に躍るか、それとも牙を剥くか?


「こともちろらね」


 

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
少年が蛹に触れてしばらくして。
中から笑い声が聞こえる。
ゲタゲタ。ゲタゲタ。
気色悪い声で。ゲタゲタと。
しかし。

「私に触れるなああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

突如、豹変したかのように怒声を張り上げ。

蜂型の子機を無数に放出した。
それらは弾丸のように少年とオリジナルに突っ込んでくる。

高坂 綾 >  
「!?」

二体でひとつの化生かと思えば。
少年のほうに攻撃を始めた!?

後方に飛びながら影分身、三体に分身して。
向かってくる蜂を手裏剣を幾重にも放って迎撃した。

着地、そして。

「奥義ッ!! 鬼影拳!!」

影を拳の形に歪め、巨拳を蛹の怪物に向けて放った。

ツァラ >  
おや、怯えているだけの子供では無いようだ。

「しきる」「ゆゐつわぬ」

「そをたはくめか」

差し出した手に迫る蜂の群れに飲まれる。
少年にぎちぎちと蜂の群れが張り付き、その姿は白から黒へと。
しかし、高らかな声は響く。

「うおゑ」「にさりへて」

青い蝶が隙間から――いいや、それは青い火。
蜂を焼き尽くす、火にいる虫は焼け落ちる。


  「のますあせえほれけ」


蜂を焼き、少女の影拳と共に、その火は蛹へと迫る!

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
蒼の焔と影の拳は。
強く蛹を打ち据える。

燃やし、傷つけ、被害を受けた蛹は。

「蛹を破り、我は舞う」

羽化した。

巨大な人型の胴体。宝石が散りばめられた豪奢なドレス。
肋骨部分から下は空っぽの腹が広がっている。
背中には毒蛾を思わせる毒々しい色の翅。
そして。

黒く塗りつぶされた顔は、極彩色の世界に“映える”。

「みんな嫌いだ………みんな死んじゃえばいいんだぁぁぁ!!!」

鱗粉を撒き散らすと、ドレスの宝石から放出されたレーザーが乱反射して二人に襲いかかる。

高坂 綾 >  
「ぐっ……!!」

足元の影を捲って身に纏うように体を覆い、防御する。
しかしその影を貫いて光線は体を焼く。

「……無個性の中の個性、空っぽの自分か………」

確かにこいつは私だ。
私の中の闇そのものだ。

それでも。認めたとしても。屈するわけにはいかない。
影を広げて相手の足元を覆い。
相手の影と同化させて。

「影技(シャドウスキル)ッ! 落影門!!」

相手の巨大な影と一体化した闇から生える黒い棘が。
私の影に向けて放たれた。

ツァラ >  
レーザーが少年を貫くかのように思えれば、
その姿はパッと青い光の蝶の群れとなって散る。

『蛾は蝶にはなれない』

どこからともなく声がする。


蛾の上方、散っていった一匹の蝶がぽーんと少年の姿に成りて。
背に翼のように蝶を纏いながら、風を受けて落ちる。


「でもね、蝶よりも美しい蛾だって、いるんだよ?」


その白をはためかせ、空中でくるりと一回転して、本当の三尾の白狐の姿になると、
少女の影と交差するように、青い光と共に貫くように蛾へと駆け抜けた!

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
「いぎゃああああああああぁぁぁ!!!」

絶叫。悲痛の叫び。
漆黒の棘に貫かれ、三尾の白狐に蒼い光と共に射抜かれ。

身を捩って黒い体液を周囲に撒き散らした。

「赦さないッ!!」

両手を広げる。歪んだ色彩の鱗粉が周囲に散った。

「私を傷つける奴は!! 誰であろうとッ!! 赦さない!!」

周囲に広がった鱗粉が薄紅に染まる。
次の瞬間、変異して連鎖爆発を起こした。

眼前の爆炎にようやく嘲笑の声をあげる異形。
オリジナルが死ねば。オリジナルが死ねば。オリジナルが、死ねば。

高坂 綾 >  
爆炎を両腕を顔の前で組んで、耐えきる。
痛い。けど、この痛みは。

私そのものだ。

「蝶も、蛾も。人が区別をつけるもの」
「その分類は曖昧だ……」

「そして……私とお前の境界もまた」
「曖昧なんだな………?」

認めよう。
こいつは私だ。
それでも、私の全てじゃない。

だから。

「影技(シャドウスキル)ッ!!」

影に忍刀を浸す。
切っ先に纏わりつく己が闇が、今……刃となる。

「影牙斬・落鳳ッ!!」

黒く飛来する斬撃を。
無数に放った。

ツァラ >  
熱い炎が辺りを焼き尽くす。
薄暗い裏の渋谷を、家屋を、空を、そして少女と狐を。

逃げられるわけが無い。

焼き尽くされる、焦げた死体が二つ出来上がる。


オリジナルは消え去った。

忌々しい狐は消えた。



  いいや 違う



「……生憎とさ、炎は僕も得意なんだよね?」

死体はぱっと蝶に消えて散る。それは妖の術。

少女の腕は少し焼けてしまったけれど、
全身を焼くのは少年が退けた。

いつの間にか、再び少年は少女の傍らに居た。

「ヒトはいろんな姿を持ってる。
 だから、アレもきっとキミなのかもしれないね。
 けれど……恐れてはいけない。」

蛾へと飛んでいく斬撃の道を、炎を縫うように、蝶が纏わりついて開いてくれる。

「恐怖は分離を産む。
 惑い子、キミがそれを呑み込んで歩くなら、……道を開いてあげよう。」

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
蝶が切り開いた道を漆黒の斬撃が飛ぶ。
体を切り刻まれ、轟音を立てて地面に落ちる。

見る間に体がしゅるしゅると縮んでいく。

先程の白い洋装をした金色の眼の高坂綾の姿へと。

戻っていく。

「ア、ア………」
「どうしてこの世界になんか………」
「この世界を解明して、迷い込んだ人を守っても」

「どうせお前は、私は………傷つくだけじゃないか……」

這いずるようにオリジナルへと手を伸ばす。

高坂 綾 >  
どうやら、少年に守られたようだ。
化生かと思ったけど、違う……のだろうか。

「私の、恐怖が」

少年に寂しげな視線を向けて。

「彼女を創ってしまったのね……?」

分離。そう、彼女は私の分け身だ。
道を開いてくれたお礼は後。

這いずる私の影身に近づいて。

「……傷つくのは、怖い」

口布を下ろして、表情を歪めた。

「それでも、傷つくのを恐れて何者にもなれないのは、もっと怖いわ」

這いずる彼女の……私の影身の手を取って、跪く。

「怖がりには、怖がりなりの信念がある」
「あなたも私なら………わかってよね」

そう言って、微笑みかけた。

ツァラ >  
少年はにっこりと微笑んだ。
最初の時の面白いモノを見るような笑みとは違う、優しさを湛えて。

彼は彼女の言葉を何一つ否定しない。



少女が己の影身と話すのを、見守っている。
その決心を、見守っている。


ひふみ歌。それは厄を幸へと転ずる祈り。
子供に語り継がれ、言葉を教え、世界を教える歌のひとつ。

強い浄化の力を持つ祝詞。

高坂綾・ドッペルゲンガー >  
「ア、ア、ア……」

輪郭が崩れていく。

「あなたが本当に傷つく勇気を持てたなら……」

「もう一度、私のことを呼びなさい」

「約束したからね……もう一人の私」

一握りの光になり、彼女の手から体に入り込んだ。

高坂 綾 >  
光が体に入る。
それは体の奥底から湧き上がる力に変わる。

はっきりとわかる。
今までの私の異能はファーストステージで。
今、セカンドステージに到達したのだと。

「約束よ……もう一人の私」

私は今、自分の闇を受け入れた。

立ち上がって、少年に向き直る。

「ありがとう、助けられたわ……あなたは?」

消耗が激しいながらも。
しっかりとした足取りで彼に一歩近づき、話しかける。