2020/09/28 のログ
■宇津篠 照 > 言葉は聞こえないが唇を読むことくらいはできる。
……そうだ、少し考えれば彼が耳をふさがないことからわかるじゃないか。今回は味方であるがゆえにそこまで気にすることができていなかった。
「……はい、その名前だけは。想像してた感じじゃなかったので最初は気付かなかったんですけど……。」
知っていたことを誤魔化しながら、気分はすでに終わったつもり。
だからまあ、これが一人だったならここで終わっていたのかもしれない。(そもそもここまでぼこぼこに出来るとは思えないが)
「はい! 銃口はこちらで塞ぐので攻撃に集中してください!」
盾で守られながら、即席の壁の補強を終えれば現れる銃口へと瓦礫を詰めていく。
やはり自身の能力では直接攻撃には役立てないどころかむしろ遮蔽物となって邪魔まである。
それよりかはおとなしく攻撃を防ぐことに専念したほうがいいだろうと思っての行動だ。
まあ、あの異形たちの強度だとかも不明だからどこまで意味があるかはわからないが、飛んでくる弾丸に意識を割かないでもよくなる程度の効果はあるだろうか。
他に攻撃があればそれを逸らそうと転移で邪魔をする。
……はぁ。あとでお礼と謝罪をしなければ。
■『朧車・阿号』 >
ワタシの放った攻撃は、何処からか現れた妙な機械擬きと、次々と壁の様に現れる瓦礫の山に防がれていく。
それどころか、銃口に瓦礫を詰められて次々と暴発していく始末。
此れでは、もう銃撃を行う事も出来ない。忌々しいニンゲンの武器すら、使っているというのにぃ――
ならばせめて、『乗客』であるワタシの中のモノたチを放っテ――
その思考は、完成する事は無かった。
朧車の攻撃は、少女の異能によって尽く無力化された。
そして、小型の怪異を放とうと客車の全ての扉が開かれた時――
異形から放たれた第二射が、朧車を包み込んだ。
爆炎。轟音。引き裂かれる怪異の車体。
無数の砲弾にその躰を引き裂かれ、火焔の業火に焼かれ、吹き飛ばされた怪異は。
何事を為すことも無く、その生を終える事となった。
後に残ったのは、砲撃の余波で彼女の足元へと吹き飛んで来た、怪異の『顔』の成れの果て。
苦悶と驚愕に歪んだ『右目だったもの』が、彼女の足元にごろごろと転がってくるだろう。
■神代理央 >
「………まあ、敵が一体だけならこんなものか。
物理攻撃が通用するというのは助かるな。私の異能で、十二分に対応出来る」
ひょこ、とバリケード代わりの瓦礫から顔を出すと、沈黙した朧車"だったもの"に視線を向けた後。
続いて己をサポートしてくれていた少女に視線を移し、歩みを進める。
「…さて、戦闘に巻き込んでしまって済まなかったな。
怪我は無かったか?何かしらの能力を使わせてしまったが、疲弊はしていないだろうか」
少女に近付きながら、小さく首を傾げる。
漸く落ち着いて彼女と話が出来る、と言いたげな表情と共に小さく吐息を吐き出しながら。
■宇津篠 照 > 足元に転がってきた何かを一目見る。目だ。ただそれだけでもその負の感情のようなものが伝わってくる。
が、まあそれだけだ。この怪異に対してそこまで思うところがあるわけでもなくすぐに視線を外す。
……これが人前でなければ踏みつけたりしたのかもしれないが。
「お陰様で大丈夫ですよ。んー……少し疲れるけどまああれくらいなら大丈夫ですよ。
すみません、ちょっと気が緩んでいました、ありがとうございます。」
返事に答え、そう言って頭を下げる。
というかまあ戦闘には自ら巻き込まれに行ったのだから、彼女的には謝られる理由はないのだ。
■神代理央 >
彼女の足元に転がる目玉を一瞥。
此方としても、別に怪異の残骸だのなんだのに興味がある訳でもなし。
再び彼女に視線を向けると、穏やかな表情で言葉を続ける。
「ん、であれば良かった。
しかし、気が緩むというのは感心せぬな。幾ら久那土会の関係者とはいえ、此の裏常世渋谷とやらは気を緩めていい場所ではあるまい?」
少し小言めいた口調で肩を竦めた後。
その声色も穏やかに。静かに唇を開く。
「…とはいえ、援護は助かった。
改めて自己紹介…の必要もあるまいが。
私は神代理央。風紀委員会の二年生だ。
良ければ、君の名前を伺っても大丈夫かな?」
と、再び首を傾げて彼女の名を尋ねるだろうか。
■宇津篠 照 > 「あはは……そうですね。言い訳させてもらうと、砲撃が凄くてつい。ほんとに助かりました。」
ただまあそれにしても気を抜きすぎたとは思っている。
「……はい。私は同じく二年生の宇津篠 照です。久那土会は部員じゃなくて登録者ですけどね。
異能は先ほど言ってたようにものを転移できます。」
ここで名乗らないのは不自然だろうし、何より久那土会に登録したのは表のほうだから問題ないだろう。
何より同学年なのだから今後出会うことがないとは限らない。であれば謎の女子生徒より名前を知っている相手になってしまったほうが楽だろう。
「それにしても、風紀委員も動いているんですね、今回の件。」
■神代理央 >
「……それを言われると、此方も強くは出れぬな。
他者を巻き込む可能性の高い異能だ。
驚かせてしまったのなら、謝ろう」
再度、謝罪の言葉を告げると。
名を告げた彼女の顔を暫し見つめた後、頬、と言わんばかりの視線を向ける。
「成程。関係者かと思っていたが、そういう訳でも無い、という事か。
ふむ……宇津篠、か。此処で出会ったのも何かの縁なのだろう。
宜しく頼む」
特に学生証を求めたり、その名前の真偽を確認しようとする様子は無い。
どのみち、帰還してから本庁に戻れば幾らでもデータベースは洗い出せるのだ。
今ここで確認したところで、大した事が出来る訳でも無し。
「…まあ、これほどの怪異がうろついている現状を放置する訳にもいかぬからな。
風紀委員会だけではないさ。関係する委員会は全て動いているといっても過言ではない。
見られてしまったから隠し立てもせぬが、『表』には出さぬ情報だ。
君も、秘匿義務については十分理解して欲しいところではあるが…」
要するに『ここで見た事を外に漏らすな』と念を押しておく。
表の生徒達に不要な心配をかけるのは、委員会の意向でもあるし、己としても望むところではない。
自分より少しだけ背の高い少女にコツリ、と一歩歩み寄ると、その瞳を静かに見つめながら答えを待つだろうか。
■宇津篠 照 > 「こちらこそ、宜しくお願いしますね。最近は潜ることも多いのでまた会うこともあるかもしれないですし。」
この状態がいつまで続くかはわからないが、これを機に委員会の方でここの探索が活発になるなんてこともあり得るだろうか。
……うーん、裏でミスった時の一時避難場所に使えるかと思っていたが少し話が変わるかもしれない。
「そのことはもちろん。そもそもあまりこっちのことは人に話してないですし。
……あ、この目玉は久那土会の方に提供して大丈夫ですか?」
さて、ひとまず話さないといけないことはこんなものだろうか。
……ああ、そういや目玉、よく考えたら情報にはなるのだろうか……?そう思って拾い上げようとする。
「それで、とりあえず今日のところはここらで帰ろうと思うのですが……神代くんの方はどうしますか?」
■神代理央 >
「ああ。此の怪異については必ず討伐する様にとの任務が与えられている。
複数個体も確認されているから、此処に来るなとは言わぬが十分気を付ける様に」
風紀委員として、告げるべき事を。
此の場所を訪れる事を推奨は出来ないが――訪れる時は今の様に気を抜かない様にm、と幾分重々しい口調で告げるだろうか。
「目玉?…ああ、それか。好きにすると良い。
私の方は、端末で既に戦闘記録を収めているから証拠物件等いらぬしな」
目玉を久那土会へ、と告げる彼女に小さく頷いて肯定の返事。
彼女が屈んで拾い上げるより先にひょい、と拾うと、其の侭彼女に手渡そうとするだろうか。
さて、此の場所は余り長居して良い場所では無いと聞く。
彼女の言葉にコクリと頷くと、異形達が重々しい駆動音と共に動き始める。
「私も報告の為に一度戻るつもりだ。
良ければ安全な場所まで御送りするが…いかがかな?」
■宇津篠 照 > 「ありがとうございます。それはもう、今回の件で充分身に染みたので気をつけることにします。」
そういって、目玉を受け取ってポケットにしまう。
「ああ、大丈夫ですよ。表に飛ぶので。……よければ一緒に運びましょうか?」
異界ではあるが、表と裏が対応している以上コツさえつかめば直接異能で飛べるようになった。
……完全に理解しきれているわけではないので他の同じような能力者がどうなのかは知らないが。
もっというと、今後も使い続けるとの確証もないのだが。
■神代理央 >
「表に飛ぶ…?ふむ、転移能力とは、便利なものだな。
であれば、一つ頼んでみようかな。中々得難い機会でもあることだし」
へえ、と興味深そうな表情で彼女を見つめた後。
にこり、と笑みを浮かべて彼女の提案に同意するだろう。
異形など、どうせ異能で直ぐに消してしまえる。
帰りが楽になるのなら、その方が良いだろうくらいの考えでしか無いのだが。
■宇津篠 照 > 「まあ、同じような能力でも同じことができるかはわからないですけどね。
っと、すみません、少し腕掴みますね。あと、少しの間ちょっと変な感じすると思いますが、できるだけ動かないで。」
そういって、彼の腕を軽くつかむ。……筋肉は少なそうだ。もし戦うことがあれば接近戦の方がマシかもしれない。
おとなしくしていると、体全体で浮遊感のようなものを感じ、視界が軽くぼやけるだろう。
数十秒すれば、ひときわ大きな一瞬の浮遊感と共に直後視界が鮮明になる。
……ちょっとだけ実力を低めに見せている。
常世渋谷の表通りからは少し離れた場所だが、喧騒が聞こえる事だろう。
「はい、無事につきましたよ。じゃあ、私はこれで。ありがとうございました。」
そういって、一足先にその場から立ち去るだろう。
ご案内:「裏常世渋谷」から宇津篠 照さんが去りました。
■神代理央 >
腕を掴まれれば、素直に指示に従って大人しくしているだろう。
――筋肉が少ない、などと思われているとは露知らず。
そうして、彼女の能力に身を任せれば。
数十秒エレベーターに乗った後の様な浮遊感。
幾分ふらついた視線の先には――何時も通りの、常世渋谷の喧騒があった。
「……不思議な感覚だな。とはいえ、やはり便利なものだ。
ああ、助かったよ。次会う事があれば、お茶でも奢らせてくれ。
それじゃあな、宇津篠」
立ち去る彼女をひらひらと手を振って見送って。
己も報告の為に、常世渋谷の分署へと足を向けるのだろう。
――先ずは、一体撃破。特務広報部の、最初の戦果。
ご案内:「裏常世渋谷」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > 「―――道に迷った…と、いう訳でも無さそうだな。」
常世渋谷――いや、よく似た”別の街”の一角に佇みながら少年は呟く。
周囲はまるで夜のように暗いが…それ以外は常世渋谷の街並みと然程変わらないようだ。
――だが、明かりが一つも無い…先ほど、常世渋谷を訪れた際には明かりが至る所にあったのに、だ。そもそも…。
「――さっきまで昼間だった筈なんだが…どういう事だ…?」
さて、これはどういう異常事態なのだろう?『裏常世渋谷』の事は殆ど知らない故に、自分がそこに”迷い込んだ”…街に呑まれた事には気付いていない。
それでも、これがただならぬ事態なのは流石に少年でも分かるもので。
「……まさか、仕事納めの日にこうなるとはな…。」
ちらり、と己の格好を見遣る。修繕部隊専用の特殊な黒い作業着…数少ない少年の手持ちの服の一つだ。
作業着のあちこちには金属製のアタッチメントがあり、色々な補助装備を装備する事も可能だ。
靴底も特殊な仕様で、落下時の衝撃を和らげる衝撃吸収素材や、悪路でもグリップ力抜群の特殊スパイクが用いられている。
…まぁ、この服に袖を通すのは今日が最後だったのだけれど。
…取り敢えず、こんな所で突っ立っていてもしょうがない。一先ずは周囲の探索だ。
……
………
…………
「…やっぱり妙だな…まるで別の世界みたいだ」
ぽつり、と呟いたのは黙々と1時間程街を歩いた頃。携帯を取り出してみるが、電波が届いていない。
時刻は14時を差しているが、それに反してこの暗さは何だろうか…?
(それに、息苦しいというか…体が変に重いな。肉体的にはほぼ完治した筈なんだが…。)
ご案内:「裏常世渋谷」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > 「……一つ、確かな事は――…。」
この”街”に長居してはどうやらマズいという事。体の微妙な不調もそうだが…。
この暗さや街全体の空気が”おかしい”。怪異や異世界とは縁遠い少年ですら分かる不自然さと違和感。
――不意に聞こえたのは、列車の走行音。…確かこの辺りには線路は通っていない筈だが。
そもそも、周りは建築物ばかりで、高架線もあるが、ここからはかなり距離がある筈だ…なのに、何で”間近”から列車の走行音が聞こえるのだろう?
「……列車…誰かまだ人が居るのか?いや、だが――…。」
轟音、破砕音、破裂音。轟々と響く唸りのようなソレが、少年の前方、100メートルも無い先の建造物を”突き破って”現れたのはそんな矢先だ。
「――――…!?」
突然の事態に目を丸くするも、それどころではない――ソレは真っ直ぐこちらに爆進してきているのだ。
……見た感じは普通の列車だ。少年も偶に利用しているので見覚えはあるフォルム。
――ただし、間違っても列車の正面に異形の顔みたいなのは付いていなかった筈だ。
(…ちょっと待ってくれ、急展開過ぎて状況が掴めな――…!?)
反射的に思い切り身を左に投げ出すように転がれば、ギリギリで回避成功――かと思いきや、その凄まじい風圧で吹っ飛ばされる。
「―――がはっ…!?」
近くの店舗らしき建物の窓にまるでダイビングするように激突死、窓ガラスを砕きながら店舗の中を転がる。
ご案内:「裏常世渋谷」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
■不凋花 ひぐれ > 通常の委員の体制では朧車を抑えることは困難であるとし、特別攻撃課に仕事が回って来た。
風紀委員の実働部隊の中でも最も戦闘に特化した部隊として、鎮圧・制圧の為の前衛組織『挺身隊』が各々任務に当たっている。
黒塗りで固められた決戦兵装の武装にプロテクター。風紀委員指定の意匠の服飾を盛り込んだ赤い制服。
視覚情報を完全にシャットアウトすることで運動神経を増強させる黒布で眼を完全に隠した己は、まるで祈祷師か何かに見間違われているのやもしれない。
白杖がなくとも肌や耳で音の反響から物体を把握できるように体に直接働きかけるという、少々疲れる武装を持ち込むことになるのだが、こうでもしなければ弱者は追いつくことが出来ない。
気付けばそこかしこで轟音と警笛が鳴り響いていた。列車のライトは目くらましのように輝き、熱を帯びて煌いている。
また近くで粉砕音が聞こえた。そしてガラスの割れる音。
誰かが轢かれたか吹き飛ばされたか。
急いで現場へと駆け付けると、件の列車らしきもの、そして不自然に何かがぶつかって出来た割れた痕。
轟音とともに走り抜けるそれを見るのは今回が初めてだが、例の討伐対象で相違ない。
「――誰もいない」
幸い、と彼女は閃光弾を上へ投射しながら店舗の中を駆ける。
「大丈夫ですか……生きていますか? 無事なら声を上げて下さい」
そう声をかけて、吹き飛んだ者を探す。
■角鹿建悟 > 「…ゲホッ、けほっ…誰か…居るのか…?」
派手に吹っ飛ばされた上に、窓ガラスを突き破って店舗の中に飛び込むように叩き付けられた。
それでも、咄嗟に受身は取れたのか思ったほどにダメージは無い。
ゆっくりと身を起こすと、ガラスの破片がパラパラと零れ落ちた。
(やっぱり俺以外にも誰か居たのか…?いや、待てこの声は聞き覚えが――…)
そう思っていた矢先、覚えの或る姿…いや、何か重武装にも見えるが…に目が止まり動きが止まる。
「――…まさか…ひぐれ師匠…か?」
突然の再会に、流石に無表情も若干ではあるが崩れる。…風紀委員の彼女が何故こんな所に?
正直、裏常世渋谷の事も彼の”怪異”の事も少年は蚊帳の外…さっぱり分からないのだけれど。
それでも、先ほどの異形の列車に、風紀委員らしからぬ重装備の彼女…ぼんやりとだが推測は出来る。
「――…よく分からんが、これは…風紀委員会の作戦か何か…なのか?」
■不凋花 ひぐれ > 己の名を呼び、己を師匠と呼ぶ人物。
目が見えなくともそれは理解の範疇にあった。
「その声は建悟ですか。なぜこんなところに……いえ、迷い込んだのでしょうか。
そんなことより、怪我はありませんか? 立てますか?」
身を起こす彼を案じながら、許すならば立ち上がる手助けをするだろう。
急な再開、急な出来事。何もかもが意味が分からない状況だろう。
それでも彼は聡く、予測の範疇だのによく気付きを得たものだと感心する。
「はい。我々はあの走り回っている怪異の討伐に来ました。
平たく言えばここは常世島とは違う場所、常世から迷い込んだものが来る裏常世渋谷という場所で……建悟は今、神隠しにあっているようなものです。
それで、この内部にいる怪異があの電車……『朧車』というモノです。
今、救援を呼んで朧車を相手にしてもらっています。あなたは今のうちに逃げて……」
ごう、という風切り音と共に、店舗の壁に人が叩きつけられた。ひぐれと同じようなカラーリングの制服を着た生徒が大の字で壁にめり込んでいた。
見れば件の怪異――朧車によって同じく吹き飛ばされたのだろう。あらゆる障害を突破して突き進む列車は暴れ牛のように疾走している。
■角鹿建悟 > 「…ああ…いや、”迷い込んだ”?……薄々感じてはいたが、ここはやっぱり常世渋谷とは違うのか…。」
昼の筈なのに暗い、人の波で溢れていたのに無人の街、そして異形の列車。
そして、風紀委員会所属の彼女がここに居る、という事はおそらくあの異形の列車の討伐の作戦か何かなのだろう。
状況を完全に飲み込めている訳ではないのだが、それくらいの推測が出来る程度には頭は何とか回る。
立ち上がる際に若干ふらついたが、師匠の助けも借りて何とか立ち上がろうか。
「…裏常世渋谷…神隠し……そして朧車、か」
ぼんやりしている時間は無いのだが、流石に事態の把握を少しはしておきたい。
彼女の簡潔な説明に、一先ず分からない事は後で聞くとして…目下の問題は、その朧車というあの異形の列車か。
「……それが懸命なんだろうが…”アレ”は放置していてはマズいだろう。
…正直、足手まといにしかならないかもしれないが…俺も協力したい」
決して利口な判断ではない事は分かっている。そもそもこれは風紀の作戦で、今はただの一般生活委員になった自分は部外者だろう。
(正義感ではない…義務感でもない…蛮勇でもない…ただ――)
自分の歪みを覗き込む。…分かっている。アレはただ”破壊するもの”だ。それが”許せない”。
「――!!」
不意に店舗の外の壁、何影激突するような音を聞けば反射的に店舗の外へと割れた窓から身を躍らせて外に出る。
…店舗のすぐ傍の壁。一人の風紀の男が壁に半ばめり込んでいた。咄嗟に自分のように吹っ飛ばされて叩き付けられたであろうその風紀の元へと駆け寄る。
…プロテクター?のようなそれのお陰か、ぐったり気を失っているが息はちゃんとあるようだ…良かった。
……今の俺は足手まといで、余計な事をすればただでは済まないのだろう。だけど。
「……ひぐれ師匠。叱責や罰は後で受ける。逃げも隠れもしない。…”借りるぞ”」
幸い、その風紀の体格は自分と同じくらいだ。何を思ったか、壁にめり込んだ彼を引っ張り出したかと思えば…。
まず、そのプロテクターを引き剥がし…装着する。
次に、自分が使えそうな装備を確認…駄目だ、使えそうな武器が見当たらない。
仕方ないので、気絶した風紀が腰元に下げていた閃光手榴弾を1つ拝借する。
…最後に、黒塗りの無骨なハンマーらしき物を手に取る。軽く振れば…うん、これは使えそうだ。
「――で、師匠達が派遣されたっていう事は…アレは倒せるって事でいいんだよな?」
勝手に特別攻撃課の隊員の装備を拝借…この時点で生活委員もクビだろうな、という覚悟はしている。
黒塗りの1メートル程のハンマーを担ぎつつ、ひぐれ師匠を見る目は本気であり。
■不凋花 ひぐれ > 「カクリヨとも異世界とも言えましょう。まだ何も分からない場所ですが、人が行き来できてしまう場所です。
あなたのようにあなたの意志とは無関係に来れてしまう場所です」
彼が己の手助けなしで動こうとするのなら何も言うまい。無茶はしないでほしいものだが、それよりも。
特別攻撃課は朧車の討伐。民間人の救助などではない。
風紀委委員の範疇の業務に、ノコノコと手を差し伸べてはロスになる。だからバレないように彼らに相手をしてもらっていたが。
「勿論、危険です。あれはただ動くだけで人々に危害を与える存在です。ここで除霊・討伐・鎮定するのが我々の仕事です。
……なので、あなたには避難して貰いたいのですが……」
それは勇み足か、それとも――。
彼なりの矜持から、彼なりに思う所があったのは間違いない。それを知ることは出来ないが、かつて彼が言っていた。
戦闘向きではない、戦うことはしないというような事を言っていたのに。
「あとでオシオキですからね。師匠直々に鍛錬してあげます」
どういう心境の変化があったにせよ、状況が変わったにせよ、その『目』見て止めるのは聊か躊躇われた。
店舗から這い出て朧車の様子に警戒しながら、プロテクターを剥がし、武装を手に取る彼に危害が加えられないように注意する。
やらんとしていることは理解できたから、出来てしまったから。
風紀委員の武装を勝手に拝借、並びに使用。咎めれば一発でアウトの案件だ。
それでもその眼を――その雰囲気をないがしろにすることは出来なかった。
「あります。朧車の特性はいくつかありますが、あれはただの電車ではなく霊的な何が取り憑いた存在であること。あの異形の顔が取り憑いたナニカでしょう。
これを調伏するのが手っ取り早いですが、我々にそんな武装は望めません。
よって第二の手段「破壊」になります。物理的な破壊でもアレを倒せることは実証済みです。
列車内部に乗り込んで内側から破壊、あるいは外殻――そうですね、分かりやすく車輪や『顔』を狙えば止まる可能性は高いです。とはいえ建悟に暴走する列車の内部へ乗り込ませることを期待するほど鬼な師匠ではありません」
ふ、と笑みを浮かべながら黒塗りの刀を構える。
「徹底的に外殻をへこませなさい。手段も規模も問いません」
■角鹿建悟 > 「……成程。神隠しとはそういう事か…また、妙な場所と――…妙な化け物騒動に巻き込まれたものだな」
先ほど、異形列車が走り抜けた方角を見遣る。破壊の爪痕…目的も何も無い。ただ獰猛で破壊する”だけ”の化け物。
自分の歪みは未だに根強い…それでも、直す事への狂的な固執からは解放された。
――が、それとこれとは別だ。ああいうのを見ると、自分の中の何かが許せないと憤る。
そう、言ってしまえば手前勝手な感情に過ぎない…それは理解しているけれど。
「――ああ、どう見てもヤバい相手なのは俺でも分かる。だが、個人的に――アレは”駄目”だ」
断言する。角鹿建悟という人間は、あの化け物を野放しにしておけない…”絶対に”だ。
ここが異世界なら、本来の常世渋谷に影響は無いのかもしれない。この世界の物が壊れても”外”に影響はないのかもしれない。それでも、だ。
「――お手柔らかに。…なんて甘ったれた事は無しだな。幾らでも罰は後で受ける。説教込みでな」
自分の立場は今はどうでもいい。黒塗りの鉄槌の柄をグッと一度強く握り締める。
それが、特別攻撃課の隊員個人個人専用の武装――【決戦兵装】の類、というのを彼は知らない。
どのみち、少年がこの鉄槌の真価を引き出す事は無理で――だからこそ、思い切り振るえる。
周囲の警戒は怠らない――あの暴走列車は、いきなり建物などお構い無しで粉砕して飛び出してくる。
ただ、走行音などは聞こえるのでタイミングは大まかにだが判断は可能だ。
「――成程、物理攻撃で破壊しろ、と。…分かった。今は能力は使えないが…形振り構っていられる状況ではないしな。
――壊せばいいだけなら、こちらも手はある」
そう、答えるのとほぼ同時――あの轟音がまるで怨嗟の唸りのように地響きを伴って近づいてくる。そちらを見据えながら一息。ハンマーを両手で構えながら。
「――ヤツの”足”は俺が”止める”。…”顔”は師匠に任せた」
■不凋花 ひぐれ > 憤りを覚える彼に――直す事への執着が強かった姿を想起する。
それと重ねているのだろう。あれからどれほど和らいだかはまだ己は知らないが、少なからずとも、それでも抱く捻じ曲げられない信条があるはずなのだ。
燻る火種のようにふつふつと残り続ける、彼であった根底がまだあるに違いない。
――それでこそ、人らしい。
「そうやって奮い立たせられる何かがあるなら、やりやすくて助かります。
あれを倒すことにのみ集中しなさい。仕置きも説教も後で纏めてやります」
風紀委員としてもそれは同じ意見だ。コレはここで倒さねばならない。
――彼の隊員が持っていたハンマーは、確かに決戦兵装の類だ。ある者は異能の増幅に、ある者は身体能力の向上に使う。
その武器に何が込められていたかは分からないだろう。それでも非常に軽くて頑強な作りで、下手なものよりも振るいやすい。
あなたの手にはさぞ馴染みやすいことだろう。
「そうですか。
――では任せます。そのプロテクターは多少の衝撃なら吸収してくれますが、無茶はしないように」
そう言って、小柄な体は一度後退する。彼が足を狙い、止めるか――さもなくばよろめいた隙を狙うべく。
彼が何かをするにせよ、己は離れておかねばならない。すべてのチカラを無効化する異能の前では、下手な巻き込みをしてしまう。
居合にて構え、呼吸を深く。全身全霊を込める為に。
雷が落ちたかのような轟音が間近で鳴り響く。空間を割るかのように力強く突進して来る鉄の箱。
異形の面は嗤うかのように引き攣った面をしていて、一心不乱に真っ直ぐ彼へと突き進む。